第33話 美少女のモーニングルーティン。

 ピピピピ……ピピピピ……。


 朝5時55分。アタシはスマホのタイマーで目を覚ます。

 JKダンジョン配信者の朝は早い。

 もっとも、早起きをするようになったのは、おじさんと出会ってからだけど。


 学校までの10キロちょっとの道のりを、アタシは毎日走って通学している。

 最初は2時間以上かかっていたけれど、今では50分もあれば楽勝だ。

 まだまだタップリ時間がある。


「おはよう! タラちゃん!」

「ふご?」


 アタシは寝ぼけまなこのペットのパグの『タラオ』のほっぺたにキスをすると、アタシの髪色と同じ、パールホワイトのオーバーサイズのジャージに着替える。


「タラちゃん、お散歩行くよ♪」

「ふご! ふごごごご!」


 〝おさんぽ〟と聞いてタラオは鼻を鳴らしながら、ブンブンとちぎれんばかりに尻尾を左右に振り回した。


 アタシは、タラオを抱っこして1階のダイニングに行くと、コップ一杯の水をのんでから、玄関のクロークに置いてあるお散歩バッグを持って、タラオと一緒に散歩に出かけた。


 タップリ30分の散歩をしたあと、タラオにご飯をあげると、アタシはシャワーを浴びる。

 そうしてバスルームからあがると、あたしはようく身体をふいて、裸のままで自分の部屋にもどる。


 アタシが朝のルーティーンで一番大事にしている、ストレッチだ。

 アタシは、姿見の前に立つと、ゆっくりとストレッチをはじめる。

 足を180度に開いて、そのまま床にゆっくりと胸と頭をつける。

 始めた時にくらべると、とんでもない成長だ。


 アタシの戦闘スタイルは、黄色いマナを吸って、身体能力を極限まで向上させるアクロバットスタイルだ。

 黄色いマナの身体能力向上効果は、ベースとなる身体が鍛えられていれば鍛えられているほど効力を発揮するし、その後にやってくる強力な反動も最小限に抑えることができる。


 ふう。


 あたしは、たっぷりと全身をほぐすと、改めて姿見の前に立つ。

 アタシはおじさんに稽古をつけてもらうようになってから、体重が3キロ増えた。

 でも、クラスの友達からは、「最近痩せたよね」って言われる。筋肉量が増えて、身体が引き締まった証拠だ。


 でも、まだまだだ。アタシは、部屋に飾っているカノエさんのポスターと同じポーズをとる。

 おじさんにプレゼントしてもらった、霜月しもつきカノエモデルのレイピアの販促ポスターだ。

『無駄なものは限界まで削ぎ落とす』というコピーが、これ以上ないくらいの説得力をもつ、カノエさんの女神のように美しい身体に比べると、アタシはまだまだどこかぽっちゃりしていて子供っぽい。


 でも慌てない。おじさんにアドバイスされたからだ。


「ロカ、お前はまだ十代、成長期なんだ。霜月しもつきカノエみたいに身体をしぼるのは、二十歳をこえてからにしろ。

 それより今は土台作り。持久力と柔軟性を鍛えるんだ」


 わかってるよ、おじさん。

 アタシは焦らず、ゆっくり、実力派のダンジョン配信者をめざすんだ。


 ピピピピ……ピピピピ……。


 朝7時15分。そろそろ出かける時間だ。アタシはスマホのアラームを止めると、おろしたてのブラとショーツをつけて、学校指定のジャージを着込むと、リュックに学校で着替える制服と学校で飲む朝ご飯のスムージーを詰め込んでから、玄関に行ってスニーカーを履く。


「タラちゃん、行ってくるね!」


 毎日必ず玄関までお見送りをしてくれるタラオの頭をわしゃわしゃとなでると、アタシは弾けるように家を飛び出した。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る