第31話 美少女、おじさんに言いたいことを押し黙る。
「どうでしたー? ここのパンケーキ?」
「ああ、とっても美味しかったよ」
「えへへー。良かったー気に入ってもらってー」
ミライさんとおじさんの甘党コンビは、生クリームたっぷりのスフレパンケーキをペロリと平らげると、満足そうにうなずきあっている。
「あとあとー、これもおすすめなんですよー。チーズスフレパンケーキ!」
そう言うと、ミライさんはテーブルに立てかけてあるメニューを手に取った。
ええ?? ミライさん、まだ食べるつもりなの!?
「い、いや、俺はもう大丈夫だ」
「うーん。残念ー。リコッタチーズのクリームが最っっっっ高なんだけどなー。
あ、店員さんすみませーん。チーズスフレパンケーキのトリプルで」
「……またトリプルなのか」
「はいー。わたし、この店ではトリプルがマストなんですー」
さすがのおじさんも、ミライさんの底なしの食欲には若干ヒイているみたいだ。
おじさんは、あいそ笑いとも、苦笑いともつかないなんとも微妙は表情で口角を歪めると、はと思い出したように、椅子の横に置いてあるダンジョン探索用ギアのブランドマークが入った紙袋をアタシに渡してきた。
「そういえば忘れないうちに渡しておかないとな。ロカ、お前にプレゼントだ」
「え? 何、突然??」
アタシは、丁寧にラッピングされた、ボックスティッシュくらいの大きさの箱を取り出してみる。
「お前の『弱点』を解消するモノだ。開けてみろ」
「うん」
アタシは、ラッピングされた包装紙を慎重に取り外す。するとそこには、もう、スマホのショッピング画面で何度見たかわからない、あこがれの商品の名前が書かれていた。
「これ、
どうしたの? おじさん??」
「お前が倒したモンスターの『シェールストーン』を換金して購入した」
「えええ!!??」
「ロカ、お前が今使ってるショートソードはスタンダードモデル、つまりは男性用だ。お前の体には少し大きすぎる。
それに、ロカが目指しているスタイルは、近距離回避型だ。店頭でも触ってみたが、これならそのスタイルと相性がいい」
「た、確かにそうだけど……いいの? こんなに高いモノ買ってもらって」
「モンスターは、ほとんどがお前が倒したはずだろう? だったらお前の稼いだ金だ」
あたしが動揺してると、おじさんはさも当たり前のように言ってのける。
たしかにそうだけど……アタシは思ったことをいいあぐねていると、田中さんが口をはさんだ。
「確かに、ロカちゃん、実力の割に入門用のショートソードをつかっているから気になっていたんですよね」
鈴木さんも話に加わってくる。
「そうそう、ロカちゃんの戦闘スタイルなら、
「でも、おじさん、こんな高いダンジョンギア、アタシには早くない?」
アタシは思ったことを半分言った。
すると、おじさんはアタシのことを大真面目にみつめてはなしかけてくる。
「そんなことはない。いいかロカ、ダンジョン探索には危険がつきものだ。少しの判断ミスが命に関わることがある。おまえの戦闘スタイルならなおのことだ。道具は、妥協すべきじゃない」
「でも……」
「でも、なんだ?」
「ううん……なんでもない」
アタシは思ったことの残りの半分をぐっと飲み込んだ。
その質問は、この場で言うのは、特に、おじさんを尊敬している田中さんや鈴木さんがいる前では、言うにはばかれることだったからだ。
(おじさん、ちゃんと老後の貯金してる?)
これはアタシのカンにすぎないんだけど、おじさんはちっとも将来のことを考えてない。
ううん、それどころか、おじさんの時間はずっと前から止まっているんじゃないかって感じがする。
アタシは、おじさんの大昔のモデルのガラケーと、その待ち受け画面の中で控えめに笑う白衣姿の女性が、今のおじさんの生き方に影響を与えているように思えてならなかった。
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