第30話 美少女、スフレパンケーキを食べるおじさんにほっこりする。
アタシは、ミライさんたちと一緒にダンジョンから脱出すると、入り口で待っているというおじさんを探す。
「あ、いたいた、おじさーん♪」
ダンジョンの入り口には、ダンジョンギアを多数発売しているブランドの紙袋をぶらさげたおじさんが無表情で立っていた。
「配信はうまくいったか?」
「もっちろん、大盛況だったよ! てゆーか、ライブ配信、見てくれてなかったの??」
「ガラケーじゃ見たくても見れないだろう。家にパソコンもないしな」
「そういえばそうだった……ってか、おじさん、いいかげん、スマホ買いなよ!
アタシ、結構がんばって修行してモンスター倒しまくったんだからさ。シェールストーンを換金すればスマホのひとつやふたつ、簡単に買えると思うけど……」
「俺には必要ない」
「もー、今時ガラケー使ってる人なんていないよ? アタシのおじいちゃんだってスマホ使ってるのに!
って、そんなことは今はどうでもいっか!」
ヤバいヤバい、今日はミライさんたちと一緒にいるんだった。
アタシはおじさんに、改めてミライさんたちを紹介する。
「この人が、大人気ダンジョン配信者の
「
ミライさんは、不愛想に手を差し出したおじさんの右腕を、両腕でやさしく包み込むと、人懐っこい笑顔で微笑む。
「よ、よろしく……」
あ、おじさん、顔が赤くなってる。ミライさん、すっごく美人だし、緊張してるのかな? カワイイw
アタシはおもわず噴き出してしまいそうなのを必死でこらえると、サポートスタッフのふたりを紹介する。
「こちらが、ミライさんのサポートスタッフの、田中さんと鈴木さん」
「は、はじめまして! 田中です。
田中さんは、カチコチになりながらおじさんに手を差し出すと、おじさんはちょっと笑顔になった。
「ほう、あの
鈴木さんもカチカチになりながら、おじさんに手を差し出す。
「田中のもとで働いている鈴木です。よ、よろしくおねがいします」
「よろしく、ロカは足を引っ張りませんでしたか?」
「そ、そんなとんでもない! ロカちゃんのおかげで、配信は大盛況でしたよ」
ひととうり挨拶が終わったところで、ミライさんが声を出す。
「それじゃあー、さっそく打ち上げに行きましょー。お店予約したからー。こっちこっちー」
アタシたちは、ミライさんを先頭に、予約してくれた店へと向かっていった。
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店員さんがカラフルなパンケーキをふたつもってアタシたちのテーブルにやってくる。
ミライさんが打ち上げに予約したお店は、スフレタイプのパンケーキが女子に大人気のとってもカワイイ内装のお店だった。
「ベリーたっぷりのスフレパンケーキトリプルのお客様ー」
「はいはいー」
笑顔で返事をするミライさんの前に、ミライさんの顔くらいあるんじゃないかっていう巨大なパンケーキが置かれる。
「シングルのお客様ー」
「はい」
「え? あ、はい……」
そしてもうひとつのパンケーキが、おじさんのテーブルの前に置かれる。
なんともシュールな絵柄だ。店員さんの顔には「え? この人が食べるの??」って書いてある。
店員さんは、ちょっと気まずそうにパンケーキを置き終えると、一緒に持ってきた紅茶を人数分おいて、そそくさと去っていった。
「んー。ふわふわでおいしー♪」
ミライさんが、目をキラキラさせながらスフレパンケーキをほうばる。
「す、すごい食欲ですね……」
あたしは、失礼ながらも思ったことを聞く。だってミライさんは、ダンジョンで、前菜とメイン、それからデザートのプリンもしっかり食べているんだもの。しかも2人前。
「えへへー。つくってもらう料理は別腹なのでーす♪」
そう言うと、ミライさんはもくもくとスフレケーキを食べている。
そして、もうひとり意外な人がいる、おじさんだ。
おじさんは、フォークで上品にスフレパンケーキを切ると、クリームをたっぷりつけて、口に運ぶ。
「うん、うまいな」
「ですよね! ですよね!! ここのパンケーキだったら、いくらでも食べられちゃいますよね!!」
「ああ」
おじさんは目をとじると、静かにうなずいた。
おじさん、甘党だったんだ。
そういえば前にもらった、プロテインドリンクもあまーいイチゴミルク味だったな……。
あたしは無糖のアールグレイを飲みながら、目をとじてゆっくりとスフレパンケーキを味わうおじさんを、なんだかほっこりとする気分でみつめていた。
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