第27話 おじさん、美少女にプレゼントを買う。

 電車に乗ること30分。俺はとある駅に降り立った。

 その街は電気街と、古書街の間にある街だ。


 昔は、ゴルフやウインタースポーツのアイテムを販売する店が乱立していたが、いまではすっかりダンジョン探索用のアイテムを販売する専門街になっていた。


 さて、どの店にしようか……顔を上げ、周囲を見渡す。


「あの店だな」


 その店の屋上には、ダンジョンの受付に貼っていたポスターと同じ構図の看板が掲げられていた。


 一糸まとわぬ姿の霜月しもつきカノエが、後ろを向き、すまし顔でこちらを振り向いている構図のポスターだ。

 手にはレイピア型の武器を持っていて『無駄なものは限界まで削ぎ落とす』と、商品コピーが踊っている。


 随分と刺激的なポスターだが、霜月しもつきカノエの美しく絞り上げられた肉体は、エロティシズムよりもアーティスティックの方が遥かにまさっていた。

 本格派の探索者を目指すロカが、霜月しもつきカノエに憧れるのも無理はない。


 俺は、霜月しもつきカノエの巨大な看板を掲げた店に入る。


「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」


 茶髪でちゃらついた髪型の青年が愛想良く近寄ってくる。


「表の看板に掲げられていた、霜月しもつきカノエモデルのレイピアが欲しいんだが……」

「かしこまりました。霜月しもつきカノエモデルは、いくつかグレードがありますが……」

「一番いいのを頼む」

「はぁ……プレミアムモデルですね……かしこまりました」


 ちゃらついた髪型の青年は、いかにも事務的な返答をすると、俺を先導する。

(なんだ、ひやかしかよ)


 青年の小さなぼやき声が聞こえてくる。耳がいいのも困り物だ。


「こちらでございます。霜月しもつきカノエプレミアムモデル。本人が使用している武器とほとんど同じ性能です」


 店員は極めて事務的に説明をしてくれる。

 なるほど、結構なお値段だ。

 俺みたいなくたびれたおっさんが手に届く品じゃないと踏んでいるのだろう。


「ちょっと持ってみてもいいですか?」

「はいはいー。いいですよー」


 俺は、プレミアムモデルを手に取ると、思ったことを質問する。


「武器と、カートリッジが分かれているんですね」

「はい。カートリッジは腰にポーチとして装着します。できるだけ武器を小型化したいと言う霜月しもつきカノエさんのリクエストに応えるべく、プレミアムモデルは最新鋭の無線式のマナ転送システムが備わっています。

 本体のレイピアも伸縮型で、縮小時のサイズは20センチ。カートリッジ同様、腰に装着が可能です。

 スタンダードモデルですと有線式で伸縮機能もありませんが、お値段も桁ひとつちがいます。遊戯目的で購入するなら、そちらで十分かと……」


 そう言いながら、店員は隣に飾ってあるスタンダードモデルを指差した。なるほど、随分とリーズナブルだ。が、それでは意味が無い。


「いや、プレミアムモデルにします。探索目的で使うので」

「え? 探索で、ですか?」


 店員は『探索』と言う言葉を聞いて、改めて俺の全身を見る。

 顔には、このおっさんが? 嘘だろ?? と書いてあるようだ。


「使うのは俺じゃないんで。贈り物として購入しようかと……」

「なるほど、なるほど、贈り物ですか!」

「はい。知り合いの女性に。今の量産型のショートソードは、サイズが大きくて扱いづらそうなので」


 店員は、再び俺の全身を見る。

 顔には、このおっさんが? どこにそんな金あるんだよ!! と書いてあるようだ。

 とはいえ、高級品を買う上客と判断されたのだろう。店員は爽やかな笑顔をみせると、素早くプレミアムモデルの箱を抱えて、レジへと案内してくれる。


「消費税込みで95万8800円です」

「現金で」


 俺は、懐に入れてある1万円札の札束から5枚の1万円札と引き抜くと、同じく、懐に入れてあった5千円札1枚、千円札3枚を出し、最後に財布から800円を取り出した。


「ポイントカードはありますか?」

「ありません」

「お作りしますか??」

「結構です」

「ラッピングはいかがいたしましょう?」

「えっと、じゃあ、お願いします」


 俺は丁寧にラッピングされた霜月しもつきカノエ、プレミアムモデルレイピアが入った紙袋を受け取った。


 ロカと未蕾みつぼみミライとのコラボ配信も、そろそろ終わる頃だろう。

 ロカ、気に入ってくれるといいんだがな。


 俺は、ふたたび電車に乗ると、うしとらのダンジョンの最寄駅へと引き返した。

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