第26話 おじさん、シェールストーンを換金する。

 今日は土曜日、時刻は9時50分。ダンジョン解放の10分前だ。

 今日もダンジョンの入り口には、一般客が長い列をつくっている。


 俺はその列を見ながら、受付カウンターへと向かう。


 今日はダンジョン探索は行わない。


 ロカが、未蕾みつぼみミライとのコラボ企画とやらに参加するからだ。

 探索するのは第7層、先週のようなサイクロプス型が出るようなハプニングでもない限り、もはや第7層にロカが手こずるようなモンスターは存在しない。


 そしてなにより、未蕾みつぼみミライのサポートスタッフをしている前衛の大楯使いと中衛の槍使いは、どちらも第12層まで探索ができるイエローライセンスの持ち主。ふたりとも、相当な実力者だ。


 俺が手伝えることなどなにもない。

 

 今日、俺がうしとらのダンジョンに来たのは、『シェールストーン』を換金するためだ。

 『シェールストーン』をダンジョン外に持ち出すのは、法律で固く禁じられている。

 そりゃそうだ。街なかで『マナ』を使ったファイアボールなんぞ撃たれたら、たまったものじゃない。


 探索用の武器の素材は、俺の義手と同じ『マナ』を抽出した『シェールストーン』から作られたシェールカーボン製だ。


 シェールカーボン製の武器は、とても軽く、それ単体の殺傷能力は皆無だ。


 だがシェールカーボン製の武器は『マナ』の伝達効率に非常に優れている。

 武器に備え付けられたカートリッジ『シェールストーン』をセットしさえすれば、誰でも簡単に『マナ』を抽出でき、炎や冷気、雷といった魔法のような攻撃を可能にする。


 俺は、受付にライセンスを提示した。

 するとディスプレーに、現在受付にあずけている『マナ』、略して『貯マナ』が表示された。


 赤:13

 青:22

 緑:18

 白:17

 黄:11


「いくら交換いたしますか?」


 結構溜まっている。ロカは、初めの契約通り、シェールストーンは全て俺に渡してくれていた。取り分としては9対1。ロカが戦闘で使用するために必要な最低限のシェールストーン以外は、全て俺の『貯マナ』になっている。


「とりあえず、全部2つずつ」


 かしこまりました。


 受付の女性はニコニコと笑顔で、純金が入ったブラスチックのケースを14個渡してきた。

 これをダンジョンの近くにある黄色い看板を掲げた買取センターに持って行けば、現金に換金してくれる。


 14個もあれば、2週間くらいはゆうに生活できる。


 俺は、ケースを受け取って、外に出ようとした。

 が、思いとどまった。あるポスターが目に入ったからだ。


「すみません、やっぱり全部換金してください」

「え? あ、はい……少々おまちください!」


 受付の女の人は、ちょっと驚いた表情をするが、すぐに爽やかな作り笑いをつくって対応してくれる。


 俺は、純金が入ったブラスチックケースがぎっしりと詰め込まれた箱と、入りきれなかったケース4個を受け取ると、そのまま受付を後にする。

 そして、歩いて10秒ほどの場所にある、黄色い看板を掲げた買取センターに持っていった。


 黄色い看板を掲げた買取センターの受付は、無言で純金の入ったブラスチックケースを受けとると、無言のまま帯に巻かれた1万円の札束と、5千円札1枚、千円札3枚を出してきた。


 かなりの大金だ。


 俺はその大金を、そそくさと懐に仕舞い込むと、とある場所へと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る