第23話 美少女とおじさん、互いに自分のミスを恥じる。

「しまった!!」


 アタシはサイクロプス型に吹き飛ばされて、空中に投げ出された。

 攻撃に夢中になりすぎて、防御をおこたった。完全なる凡ミスだ。


 アタシはサイクロプス型の肩から落下しながら、時間の流れが遅くなっているのを肌で感じていた。

 頭の中に、ちっちゃな頃からの思い出が洪水のように溢れ出してくる。

 あ、コレ、走馬灯ってヤツだ……死ぬ前に観るってヤツ。


 アタシ、やっぱ死ぬんだ。そりゃそうだよね、10メートル以上の高さから落下してるんだもの。

 アタシは、ゆっくりと落下しながら、鮮やかに蘇る記憶を鑑賞しつづけていた。

 あ、コレ、高校の入学式のときの記憶だ。

 でもってコレはお小遣いを貯めてダンジョン探索用のショートソードを買った時の思い出。

 コレは、つい最近、おじさんと初めて出会った時の思い出。おじさんはアタシのお色気配信中に、いきなり割り込んできたんだっけ。そして落下するアタシをお姫様だっこしてくれたんだ……。


「大丈夫か! 怪我はないか!?」


 そうそう、演技だって気づかなかったおじさんは、めっちゃ慌ててたよな……。


「おい、ロカ! 返事をしろ!! ロカ! ロカ!!」


 おじさんはアタシを揺さぶって、必死に声をかけてくる。


 ………………………………あれ? こんなシーンあったっけ? 


「ロカ! ロカ! 大丈夫か?」


 イタッ!! ええ? アタシ、おじさんにほっぺたをビンタされてる??


「ロカ! ロカ! 起きろ!! 起きてくれ!」


 おじさんは、アタシのほっぺたをビンタしつづける。 

 イタイ! わかった! わかったよおじさん。目を覚ますから!!


 アタシはゆっくりと目を開けた。目の前には、おじさんの真っ青な顔がある。


「よかった!! ロカ!! 無事なんだな??」

「え? なに? おじさん!!」

「よかった! 怪我はないか?」

「え? 怪我? なんで??」

「なんでって、ロカ、お前サイクロプス型に弾き飛ばされただろう!!」


 あれ? これって走馬灯じゃあ……ない?

 アタシは、意識が少しずつはっきりとしてきた。

 アタシは、おじさんにお姫様だっこされていた。

 初めて出会った時とおんなじだ。


「おじさん!! アタシを助けてくれたの?」

「ロカ! よかった! 意識を取り戻したんだな!!」


 おじさんは、ほっとした表情をする。

 けれど、すぐに真剣な表情にもどって、アタシをお姫様抱っこしたまま猛スピードで移動する。

 その刹那、アタシたちのいた場所に、サイクロプス型の棍棒が振り降ろされた。


 サイクロプス型は、アタシに攻撃された目玉を押さえて、無茶苦茶に棍棒をふりまわしている。


「ロカ、立てるか?」

「うん」


 アタシがコクリとうなづくと、おじさんはそっとアタシを地面に降ろしてくれた。

 アタシはおじさんに質問をする。


「サイクロプス型、どうして倒せないの? アタシ、カノエさんの動画と同じ、雷を帯びた剣で切りつけたのに」


 アタシの質問に、おじさんはハッとした顔をする。


? そうか! 攻撃が浅すぎたってわけか」

「浅すぎる……ってどういうこと?」

「サイクロプス型の弱点はひとつ目だ。ただ厳密にはひとつ目は弱点じゃあない」

「え? どういうこと??」


 弱点なのに? 弱点じゃない??

 ちょっと何言ってるかわからないんだけど……。


「サイクロプス型は、その巨大ゆえに致命傷を与えるのが難しい。

 だが瞳だけは別だ。瞳が大きすぎるサイクロプスは、瞳と脳漿のうしょうがほとんど隣接しているんだ。

 霜月しもつきカノエは、瞳をレイピアでことで、電撃による衝撃を脳内にぶち当てていたんだ」

「ええ!! そうだったの??」

「すまないロカ。倒し方をしっかりと伝えなかった俺の責任だ」


 おじさんは、アタシに向かって、ぺっこり45度に頭を下げる。


「そ、そんな、おじさんのミスじゃないよ!!」


 そう、これはどう考えてもアタシのミスだ。

 カノエさんの動画を100回以上も観ていたのに、そんな大事なことに気が付かなかったんだもの……。


「とにかくだ、あの状態じゃ、もう正攻法は通用しないな」


 そう言うとおじさんは、瞳を押さえてめちゃくちゃに棍棒をふりまわしているサイクロプス型を睨みつけた。


 ゾクリ……


 背中に冷たいものが伝わるのがわかる。

 怖い。あたしはおじさんが怖かった。

 手負いのサイクロプス型を睨んだおじさんの顔は、いままで見たことのない、とっても怖い大人の顔だった。

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