第24話 おじさん、サイクロプス型を「わからせ」る。

*今回から、ふたたびおじさん視点のお話です。


 サイクロプス型は、ロカにひとつ目に度重なる斬撃を受けたのが、よほど辛いんだろう。瞳を押さえ、棍棒をめちゃめちゃに振りまくっている。


 俺は、改めてサイクロプス型がこの低層に迷い込んだ理由を考えていた。


 ダンジョンとは『シェール』、すなわち本のページのように折り重なっている層に、マナが溜まっている地形のことを指す。

 ダンジョンの最深部にある『マナ』の発生源から、少量ずつ漏れ出すマナがモンスターに姿を変えているのだ。

 従って低層階にいくほどマナの供給が薄く、小型のモンスターしか活動ができないというのが定石だ。


 なぜ、10メートル級がこんな低層階に?

 わからない。


 ……まさか、ダンジョンの主が最深部から移動した??

 いや、ありえない! そんなこと、が許すはずがない!!


「……じさん……おじさん」


 ロカが俺の顔を覗き込んでいる。


「ん? なんだ?」

「ごめんね、おじさん。アタシがヘマしたばっかりに……アタシのこと、怒ってる?」

「そんなことはない。少し考え事をしていただけだ」

「考え事?」

「ああ、どうやってサイクロプス型を倒そうかとな」

「そうなんだ」


 俺は、とっさに嘘をついた。

 サイクロプス型の倒し方はとっくに決まっている。

 わからないことを考えてもしかたがない。とりあえずサイクロプス型を始末してしまおう。


「ロカ、竜巻を出してもらえるか? 竜巻の上昇気流をつかってサイクロプス型の上空に行きたい」

「ええ? アップドラフトは、敵に竜巻を当てて吹き飛ばす技だよ? 正しい使い方じゃないよ!」

「ロカ、お前ついさっき、その正しくない使い方で、サイクロプス型に特攻したじゃないか」

「まあ……そうだけど」

「少し準備をするから、合図をしたら竜巻を出してくれ」

「わかった」


 俺は、左手の義手で、黄色い『シェールストーン』を2つ割って、マナを吸い込む。

 そして、右手で義手の手首を180度回転させる。


「え? この義手、中身が空洞になってるの??」


 ロカが驚くのをよそに、俺は義手に備え付けられたカートリッジをパカリと開ける。


「5個……いや念のため6個入れておくか」


 俺は、赤い『シェールストーン』をカートリッジに詰め込むと、ロカに声をかけた。


「準備できたぞ。ロカ、竜巻を頼む。できるだけ高く飛びたいから、空中に出してくれ」

「わかった! アップドラフト!!」


 ロカは軽くジャンプすると、ショートソードを上空に向かって横凪に降る。

 すると、緑の竜巻が上空2メートルくらいの場所に発生した。

 俺は、その竜巻に躊躇なく飛び込むと、たちまち上空に投げ出される。


「悪いな、ここはお前がいていい場所じゃあないんだよ」


 俺は、サイクロプス型の上空にたどりつくと、義手を構えて精神を集中させる。


「アトミックレーザー!」


 直径3メートルの極太レーザーがサイクロプス型に直撃をした。


「ぐおおおおおおぉ!」


 レーザーの直撃を受けたサイクロプス型が、霧になって消え去るのを確認すると、俺は、受け身をとって地上へと降り立った。


 義手がミシミシと悲鳴を上げている。結構ガタがきてるな……あと何発打てるか。


「すごい! おじさん、なに今の???」

「俺の義手は銃口を兼ねているんだ」

「アタシ、あんな極太レーザー初めて見たよ!!」

「俺は不器用だからな、質より量だ。あれだけ太ければ、的を外すこともない」


 興奮するロカに淡々と説明をしていると、背中から声をかけられた。

 サイクロプス型に襲われていた、女性ひとり男ふたりの3人組だ。


「あの……先ほどはありがとうございましたー」


 女性は、俺たちに向かって深々とお礼をする。


 淡い色のバケットハットをかぶり、腰まである茶色い長髪をゆるい三つ編みにしたその女性は、ほんわかとした癒しのオーラを醸し出している。その緊張感のなさは、とてもダンジョン探索者とは思えない。


 ロカは、女性を見て目をパチクリとさせ、大声をあげた。


「ひょっとして、ゆるダン配信者の実蕾みつぼみミライさん??」

「はいー。そうですよー」

「ひゃースゴイ!! 本物だぁ!!」


 興奮するロカをよそに、俺は首を傾げる。


「『ゆるダン?』なんだ、それ??」

「知らないの!? 本格派配信者の霜月しもつきカノエさんと双璧をなす、大人気ダンジョン配信者だよ! ダンジョンの雄大な景色を見ながらの飯テロ動画で有名な!!」


 興奮するロカをよそに、実蕾つぼみミライは、恥ずかしそうに手をブンブンとふっている。


「そんなー。霜月しもつきカノエさんと比べられるなんて恐れ多いですー」

「なに言ってるんですか! ミライさんはチャンネル登録者100万人超えの大人気性配信者じゃないですか!! 先週のホットサンド動画、最高でした♪」

「本当ー? うれしーなー」


 ゆるダン飯テロ配信者……そう言うのもあるのか。

 俺は、興奮して話をつづけるロカと、やさしそうな笑みをみせる実蕾つぼみミライの会話のキャッチボールを、ただただボケっと聞いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る