第21話 おじさん、美少女と共にサイクロプス型と戦う。

「他の探索者がサイクロプス型に襲われている! 俺は今から助けに行く。ロカ、お前はそこで待機していろ!」

「え? ちょ、ちょっとおじさん??」


 声の大きさからして、500メートルは先だ。急がないと。


 黄色い『マナ』を吸い込んだ俺は、トップスピードで現場へ向かう。

 すると背中から聞き慣れた声が聞こえて来た。


「おじさん! アタシも手伝うよ!!」

「ロカ!? なぜついて来た?」

「サイクロプス型なら、カノエさんの攻略動画を100回以上見てるもん!

 対策はバッチリだよ!」


 俺に追いついたロカは、自信ありげに親指を立てる。

 ついてくる気満々だ。


「ロカ、悪いことは言わない、お前の今の力量では太刀打ちできる相手じゃ……」

「あ、あそこ! 見えて来た!!」


 俺の説得をガン無視して、ロカは左前方を指差した。


 ロカが指差す方向に、身長はゆうに10メートルを超えているサイクロプス型がゆうゆうと歩いている。

 そしてすぐ手前に、息もたえだえで逃げる男女3人パーティーの探索者がいた。


「た、助けてくれえ!!」

「ひいい! もう、走れない!!」

「はぁはぁ……きゃあ!」


 弓を持った後衛職の女性が倒れる。


「! ミライ!」

「早く立ち上がって!」

「だ、だめ、も、もう限界……」


 サイクロプス型は右手に持った棍棒をふりあげると、倒れた女性にめがけて今にも振り下ろそうとしている。


「クソッ! 間に合わないか……」


 俺が吐き捨てるように呟いたその時だった。


「アップドラフト!!」


 ロカは小さくジャンプして、ショートソードを下から上に振り上げると、緑色の小さな竜巻が発生する。

 ロカはその竜巻に躊躇なく飛び込むと、上昇気流に煽られてきりもみ回転をしながら一気にサイプロクス型の右手まで飛んでいき、そのままショートソードで小指を切りつけた。


「ぐおおおお!」


 指を切られたサイクロプス型はたまらず棍棒を手放すと、棍棒は空中を舞い、大きな地響きを立てて地面に落ちた。

 着地に失敗したロカも、地面をごろごろと転がっていく。


 俺は、ミライと呼ばれた倒れた女性の前に駆け寄った。


「後は俺たちが引き受ける! 早く離れて!!」

「は、はい……」


 女性が仲間に介助されながら安全圏まで逃げていくのを見届けると、俺は、ロカの方を見た。ふらつきながらもなんとか立ち上がっている。


「驚いた。ここまで形状変化を使いこなすとは……いつの間に」


 どうやら俺は、ロカのことを過小評価しすぎていたらしい。

 経験不足を補ってあまりある、素早い判断力と行動力。なかなかできることじゃあない。


 だが、このままじゃあまずい。不意打ちで傷をつけられたサイクロプス型は、標的をロカに切り替えている。


「うひゃあ! 目が回る」

「ロカ、サイクロプス型の攻撃が来るぞ!」

「ええ! ちょ、ちょっとまってよ!」


 サイクロプス型は、落とした棍棒を拾い直し、ロカめがけて振り下ろす。


「うひゃあ!」


 大きな地響きと共に振り下ろされた棍棒を、ロカはすんでのところで回避するも、そのまま尻もちをついた。先ほどの上昇気流の回転で、三半規管がやられてしまっているらしい。


 俺は、ロカの元まで大急ぎで駆け寄る。


「ロカ!! 大丈夫か!? 動けるか!」

「ううう、きーもーちーがーわーるーいー……」


 ロカは座り込んだまま、ピクリとも動かない。

 だがサイクロプス型は待ってくれない、休むことなく次の攻撃をふりかぶってくる。


「仕方がない、をやるか」


 俺は、さっきロカが倒した恐竜型がドロップした『シェールストーン』の中から、白い『シェールストーン』を取り出すと、そのまま左手でパキリと砕く。


「グロウアップ!!」


 俺が叫ぶと同時に、サイクロプス型は棍棒を振り降ろした。


「きゃああ!」


 サイクロプス型のこん棒が、俺の左腕と衝突し「ガキン」と激しい金属音が鳴る。


「ぐ……昔みたいにはいかないか……」


 俺はサイクロプス型の棍棒を、硬化し肥大化をした左腕で受け止めた。

 が、結構ギリギリだ。感じるはずの無い錯覚痛が、造りものの白い左腕からジンジンと伝わってくる。


「ええ! おじさん、その左腕どうしたの!?」

「どうしたもなにも、15年も前から左腕は義手なんだ。シェールカーボン製のな」

「そうだったんだ……」

「白の『マナ』で硬化をしたんだが、ギリギリだったな……昔は楽勝で防げたものなんだが……それより、ロカ、めまいはもう治ったか?」

「え? う、うん、なんとか!」

「だったら、攻撃を頼む! 俺はこのままこの棍棒を掴んでおく! ヤツの弱点はわかるか?」

「モチロン!」


 ロカは力強く頷くと、ヒラリと棍棒の上に乗り、腕づたいにサイクロプス型のひとつ目にめがけて走っていった。

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