第15話 美少女、おじさんのガラケーをチラ見する。

 おじさんは、背負っていたリュックから白い粉を取り出すと、白い液体をそそぎ、シャカシャカとシェイクする。


「プロテインだ。飲め。俺の昼メシのつもりで持って来たんだが、ロカ、お前が飲んだ方が良い。今、お前の筋繊維はズタズタに壊れているからな、超回復が期待できる」

「ありがとう」


 アタシはおじさんが作ってくれたプロテインドリンクをこくりと飲む。


「甘くて美味しい」


 おじさんが作ってくれたプロテインドリンクはいちごミルク味で、疲れた身体に染み渡るような味わいだった。

 こんな甘いものをお昼ごはんにするだなんて、おじさんけっこうカワイイとこあるんだな♪


「なにを笑っているんだ?」

「ううん、なんでもない♪」

「へんなやつだな……」


 おじさんは、首をかしげると、話題をかえた。


「そういえばロカ、自宅から学校まではどれくらいだ?」

「バスを使って30分くらい」

「となると、距離にして約10キロちょっとといったところか。ロカ、これからは毎日学校には走っていけ」

「えええ!!」

「10キロを疲れることなく走れるようになれば、『マナ』の反動もそれなりに抑えられるようになるはずだ」

「わかった……」

「今日の戦闘をみたかぎり、お前はかなりスジがいい。1ヶ月もすれば、黄色い『シェールストーン』を使わずとも、恐竜型を自力で倒せるようになるはずだ」

「え? 本当に!?」

「ああ。だから、第8層以降に行くのはその後にしろ」

「わかった! アタシがんばるね!!」

「その意気だ。いつか霜月しもつきカノエといっしょに探索ができるようになるといいな」

「うん!!」


 アタシは、笑顔でうなずくと、甘いいちごミルク味のプロテインを飲み干した。

 そして、今までの自分の甘い考えを改めることにした。


 ダンジョン配信はしばらくやめにしよう。


 昨日の動画がバズりまくってチャンネル登録者もいっきに数倍になったから、ちょっともったいないけれど……でも、アタシはもっともっと上を目指したい。

 JKブランドとお色気を武器にするんじゃなくって、身体を鍛えて正統派ダンジョン配信者として世間から認めてもらいたい。


 それまでは、配信は我慢だ。


 それにしてもおじさん、随分と紳士的だったな。動けなくなったアタシにイタズラするんじゃないかって、一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。


 アタシは、おじさんを見た。

 おじさんは、ガラケーをぱかりと開けて、時間を確認している。


「ロカ、今日はもう引き返すとしよう。出口までおぶってやるから、帰りはタクシーでも使うんだな」

「……え? あ、う、うん!! わかった!! ありがとう」

「ん? どうかしたか?」

「な、なんでもないよ!!」

「へんなヤツだな……まあいい。それじゃあ帰るぞ。ロカ、背中につかまれ」


 あたしはおじさんにおんぶされながら、おじさんのガラケーの待ち受けに映っていた写真のことを考えていた。

 長い黒髪で、メガネをかけたとっても綺麗なおんなのひと。髪型とメイクの雰囲気からして、10年以上まえの写真だと思う。

 そのひとは、白衣を着て控えめな笑みを見せていた。左手の薬指に、白銀にかがやく指輪をはめて。

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