第12話 おじさん、美少女に妖しい煙を吸わせる。
俺とロカは、受付にライセンスを見せると、魔法陣で第7層へと潜る。
そこには、見慣れた岩肌の土地が広がっていた。
「はぁ、せっかくレッドライセンスが手に入ったんだから、第8層に行きたかったな」
ふくれっつらをしているロカを俺はたしなめる。
「稽古をつけてくれと言ったのはロカ、お前だろう? それにお前はどう考えても実力不足だ。第8層に行くなんて大口は、せめて実力で恐竜型を倒せるようになってからにしてくれないか?」
するとロカは、今度は口をとんがらせた。
「む、おじさん、師匠になったとたん偉そうな口振りをしてくれるじゃない!」
「そういうロカも、師匠に対する口の聞き方じゃないだろう」
「まーまー、別にいーじゃない。それよりおじさん、さっそく稽古をつけてよ!」
「わかった。じゃあ、まず『シェールストーン』についてどれくらい知識があるのか、答えてもらおうか」
「ん、いいわよ!」
そう言ってロカは程よいバストの胸を張る。
「では問題だ。『シェールストーン』の色の種類とそれぞれの効果を説明してくれ」
「なーんだ♪ そんな初歩的な問題? とーぜん答えられるわよ!」
そう言うと、ロカは右手を「ばばっ」と広げた。
「『シェールストーン』は全部で5色。赤、青、緑、白、黄色よね!」
「正解だ。じゃあ、それぞれの効果を教えてくれないか?」
「りょーかい! 赤は炎を生み出して、青は冷気をコントロール。緑は風と雷を生み出せて、白は物質の強度を一定時間上昇させる!」
ロカは、広げた指を一本一本折りながら、淀みなく『シェールストーン』の効果を
説明していく。
「でもって最後に、換金にしか使い道のない黄色よね!」
「正解だ。だが80点だ」
「む、なによそれ! 正解なのに80点ってどうゆうこと?」
「黄色い『シェールストーン』にもちゃんと役割があるってことだ」
「役割? 他の色より高値で換金してもらえるって以外にも??」
「ああ、実践した方が早いな」
俺は、受付に預けておいた黄色い『シェールストーン』を取り出すと、右手でパキンと割った。すると、『シェールストーン』の中に閉じ込められていた『マナ』が煙のように流れ出す。
「ロカ、この『マナ』を吸ってみろ」
「は? なに言ってるの?」
ロカは、ちょっと何言ってるかわかんないと言った顔をして『シェールストーン』から漏れ出した『マナ』と、俺の顔を交互に見ている。
「一応聞いとくけど、ヤバい効能とかじゃないよね? 幻覚がみえちゃうとか……」
「大丈夫だ。いいから、騙されたと思って、吸ってみろ」
「わ、わかった」
ロカは「ふう」と、大きく息を吐くと、おっかなびっくりと目をぱちぱちさせながら『マナ』を口から吸い込んだ。すると……
「え、何これ?? 全身から力がみなぎってくる!!」
「黄色いマナは、身体能力を向上させるんだ。
「そっか、カノエさんがCMで言っている「マナパウダー1000mg配合!」って、黄色いマナのことだったんだ」
「それじゃあ、早速実践だ。ロカ、恐竜型を自力で倒してみろ」
「わかった!!」
ロカは力強くうなづくと、腰に携えたショートソードを抜こうとする。
「おっと、武器は禁止だ」
「ええ?? 丸腰?? 装備なしで大丈夫なの??」
「大丈夫だ、問題ない」
困惑するロカをよそに、俺は30メートルほど離れた場所を歩いていた恐竜型に石を投げつけた。
「ぎゃおおお!」
頭に石をぶつけられた恐竜型は、怒り狂って俺たちの方に向かってくる。
「いいか、ぎりぎりまでひきつけてから、顎を思いっきり蹴っ飛ばせ!!」
「わかった!!」
恐竜型が大きく顎を開いて、ロカに噛みつこうとした刹那、ロカは小さくジャンプして右足で思いっきり恐竜型の顎を蹴り上げた。
バギイ!
ロカのキックをモロに喰らった、恐竜型は呻き声を上げながら、力無くうつ伏せに倒れると『シェールストーン』をドロップして、霧になって消え去った。
「え? え? これほんとーにアタシがやったの??」
「ああ、これが黄色いマナの力だ。赤、青、緑、白は、『物質』に作用するが、黄色いマナだけは『生命』に作用する」
「そうだったんだ……」
「ロカ、あとは実践あるのみだ。マナの効果が効いている間に、恐竜型を倒しまくって経験値を稼ぐんだ。いきなり倒すんじゃあなく、できるだけ部位破壊を意識しながら戦ってみろ!」
俺は、ロカの背中を軽く押した。
「わかったわ、おじさん!! よーし! カノエさんめざして頑張るぞ!!」
ロカは、元気よくうなづくと、恐竜型の群れに突っ込んでいく。
やれやれ、無邪気なものだな。まあ、思い切り暴れ回るがいいさ。
だが、マナの効果が切れてしまうと……。
「ククク……」
俺は無邪気に恐竜型とたわむれるロカを見ながら、ニヤリと口角を上げた。
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