第11話 おじさん、美少女の師匠になる。

「……本当は、霜月しもつきカノエさんみたいな、実力派探索者になりたいの!」

霜月しもつきカノエ? 誰だそれ??」

「ええ!? 女性実況探索者のなかでも、実力人気ともにNo.1のカノエさんを知らないの??」

「ああ、まったく」


 ロカは信じられないと言った顔でスマホを取り出す。


「ほら、この人だよ! チャンネル登録者100万人越えの大人気実況探索者だよ!!」


 ロカのスマホには、二十代前半らしき、金髪ショートの女性が映っていた。シャンパンゴールドのジャージ素材のトップスに、同じ素材のショートパンツと9部丈スパッツ。今日のロカそっくり……いや、ロカの方が彼女のファッションを真似ているのだろう。


 その女性は、ゆうに10メートルはある、ひとつ目で筋骨隆々のモンスターと戦っている。サイクロプス型だ。


「ん? この子、どこかで観たことあるな? 確かテレビCMで……」

「エナジードリンクのCMでしょ?」

「ああ、この子がエナジードリンクを飲んで、パルクールで都内を走りまわるCMを見たことがある」

「そう! それがこの霜月しもつきカノエさん。他にもスポンサー契約を15社と結んでいるカリスマ配信探索者だよ!」

「そうなのか? ものすごい美人だし、俺はてっきり女優さんかと」

「はぁ……おじさん、探索者やってるのに、ほんっとうに業界オンチなんだから!

 今観てるのはカノエさんの最新動画! 三日前、このうしとらのダンジョンを探索した時の動画だよ」


 ロカはあきれた顔をして、スマホの画面を一緒に見ている。小さいスマホ画面だから、肩がふれあう至近距離だ。お風呂に入ってきたのだろう、ほのかに石鹸の良い香りがだだよってくる。


 スマホの画面に映っている霜月しもつきカノエは、巨大な棍棒を振り回すサイクロプス型の攻撃を紙一重のバク宙で華麗に避けると、そのまま振り下ろされた棍棒の上にふわりと着地をする。

 そしてサイクロプス型の腕をつたって一気に頭部まで駆け上がり、緑色の雷撃をまとったレイビアを構えると、弱点のひとつ目に高速の連続突きをお見舞いした。


「なるほど、確かにこれは、相当な実力者だな」

「そう! まるで重力が無いと錯覚しちゃうくらいの見事な体術! 蝶のように舞い、蜂のように刺す!! ああ、あこがれちゃう♪」


 ロカはスマホの画面を見ながらうっとりとつぶやくと、話を続ける。


「アタシ、カノエさんの配信を初めて見た時「なんてカッコいいんだろう!」って衝撃が走ったもん。

 だから決めたの! アタシは、配信探索者として有名になって、将来カノエさんと一緒にコンビを組むって! だからさ、おじさん! アタシが一人前の探索者になれるように稽古をつけて。お願い!!」


 そう言うと、ロカはスマホを置いて再び俺に向かって手を合わせる。

 その手は「ぐぐぐっ」とものすごい力がこめられていて、今にも俺の顔面に突き刺さりそうだ。


「わかったよ。だが、俺の探索術は完全に我流だ。人に教わったこともなければ、教えたこともない。それでも構わないか?」

「やったぁ! さすがおじさん!! 話が分かる♪ じゃあ、早速探索に行きましょう♪♪」


 ロカは大喜びで俺の腕に自分の両腕をからめると、俺の腕をぐいぐいと引っ張って、探索者用ダンジョンの受付へと進んでいく。


「おいおい、なんだあれ?」

「年の差探索者カップル??」

「にしても年の差ありすぎだろ」

「パパ活ダンジョン探索??」


 俺は『ダンション狩り』の一般客のひそひそ話に胸を痛めながら受付を済ませ、ロカと一緒に魔法陣に入り、ダンジョンへと潜っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る