第10話 おじさん、美少女におねだりされる。

 日曜日、朝9時50分。俺はうしとらのダンジョンの前にいた。

 今日も『ダンジョン狩り』目当ての客が行列をつくっている。気のせいか、いつもよりも気持ち行列が長くなったような気がする。


 俺がダンジョンにいるのは、ロカとの待ち合わせのため。

 昨日の探索とライブ配信とやらを行って1日しか経っていないが、ロカに「どうしても明日も探索に行きたい」とせがまれたからだ。


 第7層の最強モンスターである恐竜型を倒したロカは、ダンジョンからの帰還後、無事レッドライセンスを手に入れた。きっと、すぐにでも第8層に行きたいと言い出すはずだ。

 だが、正直俺は気が乗らないでいた。


 ロカの基礎体力は、昨日、部分破壊の限りを尽くした恐竜型を倒したことによって、随分と向上したはずだ。

 とはいえ、まだまだ実力不足。ひとりで恐竜型を倒せるかどうか怪しい。


 できればもうしばらくは、第7層で基礎体力向上に努めた方がいい。

 配信とやらでバズって浮かれているようだが、ここはズバッと言った方がいい。


「おまたせ、おじさん♪ 待った?」


 聞き慣れた声と共に、俺は肩をポンとたたかれた。ロカだ。


「いや、俺も今きたとこ……ん?」


 振り向くと、ロカは普段とは随分とかわったいでたちをしていた。

 いや、むしろというべきか。


 髪色と同じ、パールホワイトのジャージ素材のオーバーサイズトップスに、同じ素材のショートパンツ。そしてそこから生える足は、いつもの生足ではなく、9部丈のスパッツにおおわれている。

 髪も普段のサイドテールではなく、首の後ろでひっつめにした地味な髪型だ。


 可愛らしいいでたちではあるが、普段のへそだしミニスカのスタイルからすると随分とおとなしい。

 至って普通、ダンジョン探索者にふさわしい、とても常識的な服装だ。


「どうしたんだ? その格好?」

「今日は、撮影は無し! そのかわり、おじさん、アタシに稽古をつけてくれないい?」


 そう言うと、ロカはパンと手を叩いて頭を下げた。


「アタシ、今は自分の可愛らしさとJKブランドを武器にした、お色気路線のダンション配信をしてるけど……本当は、霜月しもつきカノエさんみたいな、実力派探索者になりたいの!」

霜月しもつきカノエ? 誰だそれ??」


 聞いたことがない。初耳だ。


 俺は、まったく知らない女性の名前を持ち出されて、困惑するしかなかった。

 あとついでに、自分のことを可愛いと言い切るロカの図々しさに、困惑するしかなかった。


 ……まあ確かに美少女ではあるけれども。

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