第3話:初恋の少女と過ごした小学生時代(後半)
☆
「「「「「ハルの好きな人はな~つみ~♪ ハルが最初に覚えた名前はな~つみ~♪」」」」」
小六のある日の朝、クラス内。クラスメイトの男子達が合唱する。
小五の夏頃、担任の女教師が何故かホームルームで「ハルちゃんが初めに覚えた名前は夏海(なつみ)なんだよね!」とか言い出したせいで、あっという間に俺の想いはクラス中に広まったのだ。結果、男友達だった連中に替え歌を作られて茶化されるようになってしまった。
一方、彼らは俺を応援もしてくれた。「告っちまえよ!」と。
だが告白する気に何てなれなかった。太っている上に勉強もスポーツも平均以下な俺が彼女に告白してもオーケーしているとは思わなかったからだ。レベルが足りなかった。
ある日の朝、夏海(なつみ)が腕にギプスを巻いて登校してきたのを覚えている。バスケの試合で骨折したのだ。
とても痛々しい見た目だった。なのに彼女はクラスメイト達に向かって笑顔で——、
「こんなのへっちゃらだよ! 皆、心配させてごめんね!」
弱音を一切吐かない彼女を、俺は恰好良いと思ってしまった。骨折なんて俺じゃ想像するだけで耐えられない。彼女は、友人達を心配させない為に全く苦しそうに振舞わない。
そんな所が俺との決定的な違いだと思った。
精神的に強い彼女と、弱い俺。
小六最期のマラソン大会で一位を勝ち取った彼女と、最下位だった俺。
細くて可愛い彼女と、太っていて醜い俺。
彼女みたいになりたいと思った。いつか彼女に見合う男になりたいと思った。
彼女みたいにマラソン大会で一位取るような凄い人間に、なりたいと思った。
でも高校を卒業するまでは勉強する時間以外許されない。良い大学行って、良い会社に行って、お金持ちになれないと、好きな人を幸せにできないと親から、塾の教師から言われていたから。
夏海(なつみ)とは別の中学になってしまうけど、将来好きな人を幸せにする為にクラスの皆より勉強して東大行かなくちゃいけないから仕方ない。
今は無理でも、夏海(なつみ)に相応しいくらいスゴイ男になれたら、夏海(なつみ)に「好きだ」って言いに行こう。
あの頃はそう思っていた。そう思って、小学校の卒業日に「将来、彼女にふさわしくなる」事を、自分の胸に誓った。
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