それぞれの覚悟

薩摩に戻った西郷は私学校を開いていた。薩摩で不満を抱えた武士たちの面倒を見たり、若い人材を育成することが目的であった。しかし、西郷自体はこの時、気の抜けたようになっていた。もしかしたら、朝鮮出兵の時の大久保の件が心に引っかかっていたのかもしれない。そんな西郷の様子を私学校の者たちは見ていた。そして、こちらの意見など全く耳を傾けてくれない政府や、どんどん独裁的になっていく大久保に彼らは不満を感じていた。一方、政府側も西郷が作った私学校を警戒していた。

「あそこには、政府に不満を持っていつ輩がたくさんいます」いつも、大久保に西郷のことを報告してくれる部下がそう言った。

「そうか」大久保は短く答えた。

「いつ反乱を起こしてもおかしくないでしょう」そう続ける部下に大久保は

「西郷さんが統制しているから大丈夫だろう」とそっけなく答えた。しかし、大久保も内心心配だった。朝鮮出兵の件で西郷が政府をやめた後、同じく政府をやめた江藤新平が佐賀の乱を起こしたことがあった。最終的に反乱は抑えられ、江藤はさらし首になった。その時、どうやら乱に加わるよう西郷も誘われていたが、きっぱりと断ったらしい。だが、もし西郷の周りのものがもう一度乱をおこし、西郷に戦をするよう乞うたなら、今度こそ西郷が敵となってしまう日が来るのではないか。大久保は何よりもそれを恐れていた。だからこそ部下を使って薩摩の様子を頻繁に報告させているのである。そんな大久保の悩みを知ってであろうか、部下が恐る恐る提案した。

「私学校が持っている武器をこっそり奪ってしまえばどうでしょうか」大久保はいたって冷静に、だが、語尾を強めて却下した。

「そんなことをすれば余計政府への不満がたまる」

「でも」部下は引き下がらなかった。そして言った。

「ばれないように盗めばいいだけです」その目に大久保は見覚えがあった。何か歴史が変わる予兆のような、たくらみを含んだ目立った。大久保は一縷の望みをかけて

「絶対ばれないようにできるか?」と部下に問うた。

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