西郷の決断

「岩倉はどれだけ天子様に迷惑をかければ気が済むんじゃ」朝鮮行きが却下されたその日、西郷は憤慨していた。

「今回の件、どうやら大久保さんもかかわっているみたいですね」つぶやくように板垣が言った。

「正助どんが,,,?」西郷はしばらく沈黙した。”正助どんにとって、おいも慶喜と同じように排除するだけの存在になってしもうたんじゃろうか?”西郷の中に暗い気持ちが芽生えていた。幼少期からずっとそばにいた大久保が、今はもうとても遠いところにいるような感覚がした。西郷は黙り込んだのちにゆっくりと言い放った。

「もう、おいに居場所はないかもしれん。おいは政府をやめる」

西郷が辞表を提出したのはそれからすぐのことだった。

「西郷さんが辞める?」知らせを受け取った大久保は困惑した。

「今回の朝鮮行きがらみで板垣さんや江藤さんたちもやめると言い出したようで」そんな説明など耳に入らない。

”吉之助さあ、なんで,,,わしはただ吉之助さあに死んでほしくなかっただけじゃ。朝鮮行きを反対したんじゃって、もっと吉之助さあと一緒にいたかったからじゃ。なのに、辞めるなんてそげんこと,,,”大久保は絶望していた。そんな時、外から怒鳴り声が聞こえてきた。

「大久保!!!!」声の主は木戸であった。

「西郷の家に行くぞ」そう言って木戸は強引に大久保の手を引っ張った。

「待ってくれ」そう抵抗する大久保に木戸は

「このまま西郷が辞めてくのを黙ってみているのか?あんた、そろそろ正直になったらどうなんだ?」と叱責した。

「わしは,,,」それでもまだ踏ん切りのつかぬ大久保を木戸は無理やり西郷の家へ連れて行った。

「西郷と話してこい」西郷の家に着いた木戸は大久保に言い放った。

「えっ?」大久保は驚いた。そして恐る恐る問うた。

「木戸はいかないのか」

「ああ」木戸は短く答えていった。

「ちゃんと二人だけで話したほうがいい。俺はたぶん感情的になりすぎてしまう。それに,,,俺に入る余地はない」そう告げる木戸の顔は少し悲しそうだった。

「大久保。後悔だけはするなよ」そう言って木戸は帰っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る