すれ違い

「西郷さんが朝鮮に行くだと!?」欧米から帰ってきた大久保は、留守政府内で上がっていた征韓論について聞き、驚いた。”もし、吉之助が朝鮮なんかに行ってしまったら、現地のやつらに殺されるかもしれない。それはだめじゃ。止めねばならん‼”大久保は西郷の家に走った。

「吉之助さあ!!!」駆け込んできた大久保に、西郷は驚いた。

「正助どん⁈。そんなに慌ててどげんした?欧米から帰ってきたばかりじゃろ?もっとゆっくりしたらどうじゃ」そんな西郷の心配には応えず大久保は切実な目で

「吉之助さあ、朝鮮に行ってしまうんか?」と問うた。

「ああ、そのことか」西郷は納得し、説明した。

「正助どん。どこまで聞いたかわからんが、おいは何も朝鮮と戦いに行くわけじゃない。ただ話し合いに行くだけじゃ。正助どんが前に言ってくれたじゃろ。実力行使は最後に取っておいてくれと。忘れとらんから心配するな。じゃが、万が一おいの身に何かあったら、それを理由に出兵するよう板垣には言うておる」

「吉之助さあ,,,」大久保は泣きたかった。そして「お願いだから行かないでくれ」と言いたかった。ほんの少しでも西郷が死んでしまう可能性など、大久保は想像さえしたくないのだから。しかし、とても本人に言うことなど出来ない。大久保がしばらく閉口していると、入り口から怒鳴り声が聞こえてきた。

「西郷、朝鮮に行くと本気で行っておるのか⁈」それは木戸の声だった。

「木戸さんまで,,,」西郷はもはやあきれていた。

「おはんらはもう少し体を気遣ったらどうじゃ?長旅で疲れているじゃろうに,,,」西郷はぼやいたが、木戸は気にしない。

「ただでさえ俺らは海外に行っていて日本の情勢に取り残されている。これ以上休んでられるか。それと西郷、朝鮮には行くな。今は日本国内を整えることが先だ」

「なっ」西郷と大久保は驚いた。西郷が驚いたのは言うまでもなく朝鮮に行くことを反対されたからである。一方大久保は、木戸が何のためらいもなく思いを伝えていることに度肝を抜かれていた。

「おはんにそんなことを言われても留守政府の中でもう決まったことじゃ」西郷はそっぽを向いた。

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