地理的距離と心の距離
使節団一行はドイツにいた。
“吉之助さあは今頃何してんじゃろか”大久保は宿を抜け出して、夜の街を一人ぶらついていた。“今、留守政府は大変じゃろう。なのにわしは外国でぶらついていてええもんなのか”そう物思いにふける大久保の肩を何者かが捕まえた。身構えて振り向くと木戸であった。
「こんな時間に異国の地を一人でぶらついて、危ないだろ」木戸は静まり返った街に遠慮しながら小声で大久保を叱った。
「わざわざ追いかけてきたんか?お前はわしのことを子供扱いしすぎじゃろう?」そう不機嫌な声で抵抗する大久保に木戸は
「気づいたらあんたがいなかったから、また西郷さんのことでも思って、どっかほっつき歩いてるのかと思って。大久保は考え事をすると周りを気にしないから不安になった」と隠さず告げた。
「はっきり言って俺も日本が心配だ。だが、ここにきてしまった今となっては、しっかり学ぶしかないだろ?日本に帰ったら西郷さんに思う存分報告して、俺らが見てきたことを活かすしかない」そう続ける木戸の顔には迷いがなかった。
「お前は、いつも芯が通っているな」そう告げる大久保は少し悲しそうだった。
「確かにお前の言う通りじゃ。やることはしっかりやろう。じゃがわしはお前のようにはなれない。やっぱり日本が心配じゃ。」
そして、大久保の不安は当たってしまう。岩倉使節団一行が欧米で学んでいる頃、日本では士族たちの不満が大きくなっていた。
「西郷さん、最近あちらこちらで幕府が倒れたのに生活が良くならないと不満の声があがっています。特に特権を奪われた士族たちは爆発寸前です。彼らに戦の機会を与えるべきではないでしょうか?」西郷のもとにやってきた板垣退助がそう告げた。
「それは、無理に戦いを起こすち言うことか?」西郷の大きな目がもの言いたげに板垣を見つめる。「いえ」板垣は軽く否定した後に続けた。
「今、朝鮮と少し問題になっていることがあって,,,それを理由に出兵してみたらどうでしょう?そうしたら士族たちも活躍する場が与えられるかもしれませんし,,,」
板垣が言い終わらないうちに西郷が遮った。
「板垣、戦は最終手段じゃ。じゃが朝鮮との問題も解決せねばならん。おいが話し合いにいこう。万が一、おいが殺されたら、それを理由に出兵すればよか」
この話が、のちに騒動へと発展することになる。
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