幕府とともに滅ぼしてくれるわ‼

大久保が思いを巡らせているころ、桂と西郷は岩倉の家にいた。

「つまりあんさんたちは、幕府を滅ぼしたいが大義名分がない。そこでわいのところに来たと、そういうことでおますな?」事情を聴いた岩倉はゆっくりと問うた。

「ああ」そう短く肯定する西郷に岩倉は告げた。

「大義名分がないならこちらで作ってしまえばいい」

「しかし、いったいどのような,,,」そう驚いて聞いた桂に岩倉は

「天子様から直接、幕府を倒せと、命令してもらえばいいんや。わいに任せとき」と言ってにやりと笑った。

大久保が岩倉亭についたのはそれから5分後のことだった。

「西郷さんなら先ほど帰られましたよ。なんや大きい人でしたなぁ。桂さんならまだいらっしゃりはりますが」そう岩倉が告げるのが遅いか早いか奥から桂が出てきた。

「大久保さんじゃないか。いったいどうして?」そう驚く桂に大久保は”あんたが吉之助さあを連れて行くからじゃ‼"と思いつつ、

「いや、西郷さんに用事があってお宅を訪れたんだが、今こちらに出かけていると聞いて」と、いたって冷静に答えた。

「わざわざこちらに来るということは急用がおありだったんでしょう。なんかすんませんなあ。でも、さっき出ていきはったばかりやから、どこかですれ違うたりしてもええはずやけど,,,」そう不思議がる岩倉に大久保は

「いえ、きっと私があまり周りを見ていなかったので、すれ違っていても気づかなかったのでしょう」と答えた。確かに、岩倉が指摘するよう、本来ならば大久保と西郷がすれ違っていてもおかしくはないはずである。仮に、大久保が気付かなかったとしても、西郷が声をかけてくれるはずだ。しかし、大久保はここに来るまであまりにも物思いにふけっていた。大久保には思いつめるあまり、周りの状況に気づかない瞬間が幾度もあった。

「それでは、わしは失礼します。お邪魔してしまってすみませんでした」そう岩倉に告げ、帰ろうとする大久保に桂が言った。

「送っていこう。西郷さんにも気づかなかったなんて心配だからな」

「いや、子供でもあるまいし、一人で帰れます」そう必死で抵抗する大久保に岩倉も

「こっちの話はもう終わったし、一緒に帰りはったらええやないですか」と勧めた。

「岩倉さん、じゃあそう言うことなんで俺も帰らせてもらいます。今日はありがとうございました。例の件、お願いします。また来ます」そう告げる桂の横顔が大久保にとっては少し憎々しかった。


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