はじめまして恋敵
「桂さんから薩長芸の三藩で盟約を結びたいとの連絡が来たんじゃが、正助どんも一緒に来てくれんか?」西郷にそう言われた大久保は食い気味に「もちろんじゃ」と返事をした。
桂小五郎、大久保はずっと頭の中でどうなやつかイメージしていた。あの池田屋事件の時はたまたま難を逃れ、後に「逃げの小五郎」とも呼ばれている。どうせ大したやつではないと思いながらも西郷が認めた人を完全否定することもできず、葛藤の間に大久保はいた。
「あなたが大久保さんか」突然声をかけられた大久保の前には顔立ちの整った男が立っていた。「ああ」大久保が軽く肯定すると男が言った。
「はじめまして。桂小五郎と申す」これが大久保と桂の出会いだった。
“こいつが桂小五郎!!!”大久保は動揺しまくる心臓をなんとか沈めることに努めた。だが運がいいのか悪いのか、西郷は先ほど厠にたち今この場にいない。残念ながら大久保は、初対面の人と会話するすべを持ち合わせていなかった。気まずい空気が流れるなか、沈黙を破ったのは桂だった。
「西郷さんから話は聞いていたが、大久保さんは本当に無口じゃの」そうはにかむ桂に大久保は驚いて問うた。
「西郷さんがわしのことを話しておったのか?」
「ああ。おいより冷静でよっぽど出来る男だからいつか紹介すると言ってくれた。西郷さんは本当に立派な方だ。こうやって約束を守ってくれた」そう西郷を褒める桂に大久保は気をよくした。何より西郷が大久保を評価したということが嬉しかった。調子に乗って大久保は
「桂さんのことを西郷さんは理解があると言っておった」と告げてしまった。それがいけなかった。一瞬驚いた表情を見せた桂は
「いやいや」と軽く謙遜し、こう言った。
「俺なんか西郷さんの足元にも及びやしない。西郷さんが遠くのことまで見据えていると知った時、男の俺でも惚れ惚れした。」そうきっぱり告げられた大久保はしばらく固まった。それから先のことは覚えていない。どうやら交渉は滞りなく進み、気付いた時には帰路についていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます