そういうところ好きだけど...

「吉之助さあ、どうじゃった?」駆け寄った大久保に西郷は答えた。

「心配かけたの。話はうまくまとまった。桂もなかなか理解のある男じゃった。」大久保は固まった。前回と西郷の桂に対する評価が全く違う。もちろん、西郷の柔軟なところは大久保も好きだ。第一印象だけで評価しない西郷はやはり偉大な人だと思う。それでも、それが他の男に向けられた感情だと思うとなんともいえない気持ちになる。

「そうか。長州と話をまとめるなんてさすが西郷さんじゃ」大久保はなるべく平常心を装ってそう言った。しかし幼少期からの付き合いである西郷にはバレてしまう。

「どうした正助どん?おはんが二人の時においのことを「西郷さん」と呼ぶなんて珍しか。なんかあったんか?」

大久保は人前では西郷のことを「西郷さん」と呼ぶ。しかし二人きりの時は幼少期からの呼称である「吉之助さあ」を貫いてきた。なのに今回二人きりにもかかわらず、つい「西郷さん」と呼んでしまった。感情を抑えようと自制機能が働いたのだろう。だが「他の男を評価したことに嫉妬した」など西郷自身に告げられるはずがない。大久保が口ごもっていると

「何か悩みでもあるんか?言いたくなかったら言わんでもいいが、正助どんはあまりにも人に相談しないところがある。もっと頼ってもええんじゃぞ」と西郷が優しく微笑んだ。

「吉之助さあ、ありがとう。さっきは考え事をしとっただけじゃ。問題ない」そういつもの大久保なら言うだろう。しかし、せっかく心配してくれた西郷に嘘を言うのは負い目があったのだろうか。

「吉之助さあ、吉之助さあも、もっとわしのことを、頼ってくれもんそ?」大久保は精一杯の勇気を振り絞って言ってみた。大久保の子犬のような純粋な目に見つめられ、西郷は微笑みながらその大きな手で大久保の髪をかき混ぜた。

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