因縁の出会い

「坂本くんの頼みだから来たが、おいはまだおはんのことを信用しておらん」そう告げる西郷に桂は言い返した。

「お言葉だが西郷さん、こっちだってあんたを信用してるわけじゃない。なんせ薩摩には長州の仲間を沢山殺されたからの」

薩長同盟が1866年。そして、その数年前、長州と薩摩の間ではとある事件が起きていた。禁門の変である。前年の八月十八日の政変で京都に入ることを禁止されていた長州藩士だが、池田屋事件で仲間が殺されたことをきっかけに京都に乱入した。そしてその長州藩士を退治したのが薩摩藩である。長州が薩摩に恨みを持つのも当然といえば当然であった。

「坂本くんに長州と薩摩がいつまでもいがみ合っている場合じゃない。協力するべきだと言われて俺も賛成した。だが、こっちだってプライドがある。すんなりと仲良くしましょうと言うわけにはいかないだろう」桂は告げた。そして席を立とうとした桂に西郷は言った。

「桂さん。そちらの事情はわかる。だが長州も他の藩と孤立して困ってる。そうじゃろ?そこで提案がある。薩摩が長州に武器を支援するっちゅうのはどうじゃ?」仲間が殺され、意地を張っている長州に対し、薩摩が譲歩する形で交渉する。それが坂本が考え、西郷に提案した策だった。

「確かに長州は今、孤立している。武器を支援してもらえるのはありがたいが、それじゃ薩摩に利点はないんじゃないか?」不思議がる桂に西郷は答えた。

「時代を変えるためには目先以外の利益も大事じゃ」

その時の西郷の笑顔は桂の胸に一生刻まれることになる。

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