2-2
「お父さんとお母さんが離婚したのは、僕が小学生くらいの頃かな……。小さい時、お父さんは僕に、たくさんのアニメを見せてくれたんだ。僕はお父さんが大好きで、お父さんは僕が大好きだった。
お父さんはよく、僕にバトルアニメを見せてくれたんだ。悪に立ち向かう正義、みたいな感じの、シンプルなストーリーのものが多かったかな。おかげで僕はヒーローに憧れていったんだ。
でも、お母さんはそれに大反対だった。
ある時、リビングでお父さんと一緒にアニメを見てたんだ。離婚する前は、きれいな一軒家に住んでいたな。
そしてアニメの中で、ほら、敵の作戦会議、みたいなやつあるだろ? ボスの部下が戦闘に行って帰ってきて、失敗を伝えた後、ボスはその部下を惨殺した。その時のシーンがあまりにも流血が多かったからなんだろうね、お母さんはそのシーンに過剰に反応したんだ。
お母さんは、グロテスクなものって結構好まなくて。まあ、そこまでならただの好みの話なんだけど、お母さんはそれからそのアニメを見せてくれたお父さんを非難したんだ。
なんてものを見せているんだ、ってね。
僕はそのシーンを見ていて、敵キャラはなんてひどい奴なんだ、としか思わなかった。でも、お母さんはそんなアニメを見せたら僕に悪影響だし、価値観がおかしくなるって言って来たんだ。
その頃ぐらいかな、お父さんとお母さんの仲に、亀裂が生まれたのは。僕は必死に、あのアニメはそんな敵を倒す正義の話、希望の話だって言ったんだ。この話を見ていて、何も悪いことはないって。
……お母さんは、聞き入れてくれなかった。
そして、とうとう離婚が決まってしまった。お父さんがいなくなる前、お父さんは僕に、とある町の名前を言ったんだ。そこにお父さんはいるからねって。お母さんに気づかれないようにね。
お父さんがいなくなって、あの一軒家が広く感じちゃって、僕はそれを受け入れられなかった。僕はリビングで息をついているお母さんに叫んだんだ。
『なんで⁉ お母さんはお父さんのことも、僕のことも何も分かってないよ! お父さんに会わせてよ!』
って。お父さんの見せてくれたDVDは全部持っていかれちゃったし、僕の部屋にあった漫画本は全部処分されちゃったんだ。
お母さんは言ったんだ。
『いいから、もうあんなものは見ないで。あんたは落ち着いて、ちゃんといい子になりなさい』
って。僕はそのお母さんの言ってることの意味が分からなくて、ここら辺から、僕はお母さんとは話が通じないと思ったんだ。
僕は泣きながら二階の自室に走って、部屋の中でしゃがみ込んでずっと泣いてた。
そして今ここにいるアパートに引っ越して、僕はあることを思い出したんだ。お父さんの住んでる町の名前。
僕は休日にお母さんのいない時間を狙って、その町まで電車で行ったんだ。
その町を探し回っていたら、お父さんがその町のマンションに住んでるのが分かって、そこから、僕は定期的にお父さんの住んでるマンションに行くようになったんだ。
そこでヒーローものの映画を見たり、漫画やDVDを借りたりして、今でも自分の部屋に置いてる。お母さんは僕の部屋に入ってくる時間なんてないから、見つからずに済んでる。
僕は多分、お父さんのいる部屋に行かないと、僕を、そしてヒーローを信じる心みたいなものを、保っていられないんだと思う……」
「……」
僕は俯いて、イヤホンマイクから出る画面を床に移す。クワは画面越しで我慢できずに流れている僕の涙を黙って見ていた。
「ありがと、話に付き合ってくれて……。こんなこと、誰にも話せなかったから……」
僕は涙をぬぐいながら言う。今まで虚勢を張ってきた僕の心のどこかにひっそりと棲んでいた孤独感が、クワと話すことでやっと形となって表れた気がして、僕はさらに涙が溢れた。
「ううん。全然。そっか、そういう事情があったんだね……」
さっきとは違う優しい声色で、クワは僕を宥める。画面越しなのに、優しく頭を撫でられている気分だった。
「うん、ありがと、クワ……!」
いつまでも泣いてはいられない! 僕は心の中で自分の頬を引っ叩き、立ち上がった。僕の涙は止まり、僕の中で自信が溢れていく。
「うん、行ってこい! そしてヒーローとしての心を養ってこい!」
明るい笑顔で、クワは言った。クワはきっと、僕が絶対に手放してはいけない戦友だ。
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