第4話 過去最高のピンチ。
私が気絶する瞬間、隣から鈍い音が聞こえた。
そして、私の体の上に隼太の頭が力無く落ちた…
次に目が覚めた時、私達は見慣れた、自分達の教室にいた。2年3組の教室だ。
「さっきまで給食室にいたはず…なんでここに!?」
思わず心の声が外に出た時、奴らにバレると焦り、周りを見渡した。そして、隣にいる隼太の姿に気が付いた。彼は、何故か知らないが寝ている。
「もしかしたら、あの鈍い音って……」
そう、あの鈍い音は、朝日が隼太を鈍器で殴った音だった。
それで、隼太も気絶し、きっと一緒にここへ追い出されて放置されたんだ。
まだ頭や背中が痛むが、いきなり危ない所に連れてこられた恐怖に震えた足に自分で喝を入れて、立ち上がった。
しっかり教室内の様子を見ると、朝までの風景とは打って変わって、終末の世界かという程荒れていた。
……いや、本当に終末なのかもしれないが。
ただ、運の良かったことに、教室のドアはしっかり閉めて朝日は立ち去ったみたいだ。流石に殺人はダメだと恐れを為したのかもしれない。ひとまず奴らが入ってくることはないだろう。
周囲の安全確認は出来た。そしたら……隼太を起こそう。私のせいで彼を巻き込んでいる、と言っても過言では無いほど、迷惑をかけている。
「おーい、隼太〜??起きてよ〜」
教室の外にいるであろう奴らに気付かれないよう、小さな声で耳元で囁く。そして、体を揺らした。
そうこうし始めて軽く30分。ようやく隼太が目を覚ました。
「あぁ、良かった……死んでなかった……」
もう死んでいるかもと気を落とし始めていた私は、無事に目を開けたことに安堵の息を漏らした。
さすがにこの状況で1人は心細かったのだ。
「何、心配してくれてたの?」
彼はサラサラで艶やかな黒髪を掻きあげて、私の方に振り向く。
でも、私はそんな彼の美貌にも、誘惑にも騙されない。だって私には心に決めた人がいるんだもの。
「ふん、当たり前でしょ。」
と、彼の肩を軽く叩いた。
「それよりもさ、意外にこの状況まずいんだよね」
私は彼と、ここから抜け出す作戦を立てることにした。
「……まず状況整理じゃね?」
そう言いながら、隼太は私が座っているボロボロの椅子の隣に、もっとぼろぼろな椅子を引きずってきて、ドスンと座った。
その振動で、私のスカートが揺れた。その瞬間に、チャリンと、金属が揺れる音がした。
たしかに、さっきからポッケに重みを感じるなと感じていたのだ。
私がポッケに手を伸ばそうとした時、隼太が先に私のポッケに手を突っ込んだ。そして、中で何かを掴んだのか拳を作って、私の前に差し出した。
「ん、鍵やん、誰だよーここに入れたのー笑笑」
隼太は何か違和感のある口調でそう言った。そう、何か隠しているように、嘘をついているように。
私はそれに気が付いた瞬間、今まで聞いた事、怒ったことが結び付いた。何故外に追い出され、私のポッケに鍵が入っているのか、そして、何故今隣に隼太が居るのか。
「……ねぇ、わざとなの?」
「っは?な、何が?」
隼太の顔は、引きつっている。それなのに、無理に笑顔を作るから、さらに嘘が浮き彫りだ。
「私達二人だけで外に出て、そして地下の非常用倉庫で生活できるように仕向けたのが、だよ。」
湧き出てくる怒りを抑えた。まだ隼太がやったとは決まっていない。
「何の話だよ。俺だってこうなったのは不本意だ。勝手に決めつけんなよ。」
その一言で溜め込んでいた不安も怒りも全て一緒に心の奥底から湧き出て、爆発した。
「わざと朝日を紹介しようとして、元カノだ。とか言ったんでしょ!?それで朝日が私の事を呼び出すのを待った!!だって隼太は朝日の彼氏だったから、何かあれば朝日は人を呼び出すことを知っていたから!!」
「ちょ、待てよ。そんなのただの憶測でしかねぇだろ!落ち着けよ!」
私はそんな、隼太の言い分も聞かずに続けた。
「違う!それでやっと呼び出されたと思って私のポケットに鍵を入れた!それで、心配したふりをして入って来て、またわざと朝日の怒りを煽ったんでしょ!!??それで追い出された!」
「お、おい……」
「何!?それで今に至るんでしょ!?あなたは朝日よりも私の方に好意を寄せてくれていた。それは嬉しいけど、朝日の気持ちを踏みにじって、亜里沙ちゃん達の生きる綱も貴方は切ったの!分かる!?」
私はそこまで言いきった途端、感情的になりすぎてしまったことに気が付いて後悔した。
そして、隼太の顔をチラッと見た。悲しい顔をすると思っていたが、悔しそうに唇を噛んでいた。
「……図星だよ。茜の言う通りだ。2人になりたかった。でも、傷付けるつもりはなかったんだ…」
私は、自分も隼太を傷つけてしまったことについて謝った。でも、謝るならみんなに謝って欲しい。という事を伝えた。その時だった。
『ガタガタガタガタ……』
急に、教室のドアが叩かれ始めた。何事かと思い、隼太が様子を見に行った。隼太はそっとドアの上の窓から顔をのぞかせ、廊下の様子を見ていた。
そして、呟いた。
「なぁ、茜……ドア両方とも、奴らに塞がれちまったようだぞ……??」
私は、隼太の深刻そうな顔を見て、ようやく事の重大さに気がついた。そして、私がやってしまった事の重大さも。
「ごめん、私が大声で怒ったせいで……!!」
今まで何とか恐怖で押し殺されてきた涙も、本音も、ポロポロと溢れ出た。
「ホントは不安だった…この先死ぬかも、もう親に会えないかもって……」
「大丈夫だって、大丈夫。俺がさっき迷惑かけちまったんだ、今度こそ助けるよ。」
「……ごめんね…ありがとう……」
私は腰から崩れ落ち、そのまま立てずに顔を手で隠し、声を押し殺して泣いた。
隼太は、何とかならないかと呟きながらウロウロ歩いている。
段々扉が外れそうな程にガタガタと音がなっていく。
「隼太……どうするの、ほんとにっ、死んじゃうかも……!」
ひっくひっくと、しゃくりあげながら何とか声を出す。
「待った、思いついた。力を貸してくれ。」
「……何、どうやって?」
隼太は私を無視して、教室の後ろで飼っていた大量のカブトムシを、虫かごから取りだした。
「え、ちょっと待って、何するつもり……?」
私は、隼太が虫を掴んでそろそろと近付いてくるから、後ずさった。
「俺がこれを前のドアから放すから、奴らがカブトムシに気を取られて動いた瞬間に後ろのドアから出てくれ。俺も一緒に出る。」
「わかったけど、そのあとはどうするの……成り行きでどうにかなるものじゃないよ。」
私は真剣な顔で隼太に聞く。
「……朝日に謝りに行く。んで、他のみんなも連れて地下の倉庫まで行くぞ。」
「分かった。隼太なら、そう言ってくれると信じてた。」
「おう、当たり前だろ?w」
隼太は私の真剣な顔をほぐそうとしてくれたのか、冗談交じりの声で話した。
こんな奴でも、いい所はあるのかもしれない。
そう考えていると、「じゃあやるぞ。」と、隼太は片手にカブトムシを3匹乗せ、片手でドアを開けた。
ゾンビが今だ!と手を隙間から伸ばしてくる。
隼太は「うわっ……」と言いながら、カブトムシが乗った手を廊下にだし、直ぐに引っ込めた。
「……成功して……!」
私は手を握って祈った。
一瞬だけ目を瞑り、ゆっくり片目を開けると、奴らが一斉に前のドアの方へ歩き出した。
「今だ!行くぞ!」
と隼太が勢いよく後ろのドアを開けた。
私も慌ててそれに着いていく。
私たちに気がついたのか、奴らは、カブトムシへの興味を無くして、追いかけてくる。
「隼太……!こっから給食室まで階段を登らないと……!東側の階段から行こう!!」
「そうだな……そうしよう、じゃあ今から東側の階段に行くぞ!」
私は早く走る隼太に着いていくのが精一杯で、返事もできなかった。が、隼太の背中はこんなに頼もしかったのかと、少し感心した。
しばらく走っていると、東階段が見えてきた。遠くから見る限りは、奴らはいなさそうだ。
私がホッとしていると、隼太が声を上げた。
「ダメだ!奴らが居すぎる、登れない!」
もうあの頃には。 懋助零 @momnsuke109
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