第3話

   

 そして金曜日の夜。

 私が乗り込んだ夜行バスには、耳栓やアイマスク、使い捨てのスリッパが用意されていた。

 スリッパは持ってきていないのでそれを使うとして、耳栓とアイマスクはせっかくなのでバスの装備品でなく持参してきたものを使った。

 車内の明るさや物音、他の乗客などを煩わしく感じることもなく、朝までぐっすり眠って……。

 大阪駅前に着いたのが、翌朝の6時頃だった。


 バスから降りてまず感じたのが、周囲の暗さだ。

「早朝とはいえ、とっくに夜は明けてるはずなのに……」

 思わず口から独り言が飛び出した。

 とはいえ、真っ暗というわけではない。歩くのに支障が出るほどでもないし、他の乗客たちは何も気にせず普通に動き出していた。

 妙な違和感を覚えてその場に立ち止まっているのは、私一人だけだ。


 改めて周囲を見回すと、全体的に青黒く見えていた。子供の頃、赤い透明の下敷きを通して景色を眺めると視界が真っ赤に染まって面白かったものだが、それの青色版みたいな感じだ。

 ふと頭に浮かんだのは、安っぽいテレビドラマの夜のシーンだった。夜の場面なのに夜間撮影が出来ず、昼間の映像に濃い青色のフィルターを被せて夜っぽくしているケース。ちょうどそんな見え方だったのだ。

 あるいは、青系統のサングラス越しに見ても、こんな感じになるだろうか。確認のため自分の目をごしごしこすってみたが、もちろんサングラスなどに触れることはなく、正真正銘の裸眼だった。

「じゃあ、一体これは何なんだ……?」


 とっくに朝の時間帯が終わっても、私の視界は濃い青色に染まったままだった。

 だから鏡を見ても自分では気づかなかったが、その日が初対面だった人から、おかしなことを言われてしまう。

「失礼ですが、外国人とのハーフですか?」

 いつのまにか私は、漫画やアニメのキャラみたいな碧眼になっていたらしい。

 その日以降、昔からの知り合いには「カラコン使い始めた?」とよく聞かれるし、見え方の異常は今でも続いている……。

   

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