第119話 oracle/神のお告げ
「みーちゃん、もう入って大丈夫だよー!」
私がボーッと立っていると、扉の向こうから声が聞こえた。グレーテさんだ。
「ママにも言い聞かせたし、それっぽいものも片付けてきたから」
「ああ、ありがとうございます」
片付けてもらって心底良かったと思った。
「失礼しまーす」
もう一度家の中に入り、中に進む。進んだ先にあったリビングは、どれも木製のもので、温かみを感じた。
一部戸棚の部分が不自然に空いていた。おそらくあそこに見せられない何かがあったのだろうと察する。
「ああ君がグレーテのお友達の……」
黒縁のメガネをかけ、新聞を読んでいる男がリビングに座っていた。
「もしかして、グレーテさんのお父様ですか?」
「そうだよ。というか、そんなに畏まらなくていいよ」
彼はそう言ってハハハと笑った。
「私の名前はメンブーレ。まあ、なんと呼んでくれても大丈夫だよ」
「ちなみに私はランプルツよ!」
グレーテさんのテンションの高さは母親譲りなのだと悟った。そんな折、メンブーレことグレーテさんのお父さんが私に耳打ちする。
「(ちなみに、グレーテとはどういったご関係で?)」
「(ああ、同僚です。日本で同じ団として化ケ物の退治してるんです)」
「(そうか……。やっとグレーテにまともなお友達が……)」
そう言って、彼は涙を拭った。
「(グレーテは妻があんなだから、幼少期にまともな友達ができなくてね。やっとちゃんとした人に巡り会えたのか……!)」
この人、きっと苦労したんだろうなぁ。なんというか、前の世界にいた、既婚の会社員たちと同じ雰囲気を纏っている。
「(これからもグレーテのこと、よろしくな!)」
そう言ってメンブーレは笑った。
「ああ、はい……」
グレーテさんの家は絶対にへんてこりんだとは覚悟していたが、まさかこんなに変だとは。
「もう少ししたら熊鍋できるけど、どうする? ここで待つ?」
すると、料理をしているグレーテさんのお母さんが話しかけてきた。エプロン以外何も着ていないように見えるのは錯覚だろう。
「あー……それじゃあ一緒に来た友人を連れてきてもいいですか? 今素材を買いに行ってるらしくって」
流石に星奏さんをほっぱらかしにして鍋をつまむのは流石に忍びない。
「いいわよ! それじゃあ準備して待ってるわね!」
こういうレンスポンスだけ聞いていると、まともで優しそうな母親に聞こえる。
「さて。とは言ったものの、どこに行けば良いのやら」
素材を買うと言っても、一体全体どこに買いに行ったのか見当もつかない。
「んー……。そこら辺にいる妖精にでも聞いてみるか」
広大な森の中で自力で見つけるなど、相当難しいだろう。というわけで、こういう時には現地民に聞くのが一番だ。
「あの、すみません」
そんなわけで、近くの切り株に座っていた、小さな老婆の妖精に話しかけた。
「なんだい?」
「ここら辺で鉄とかの素材が売ってるお店ってどこにありますか?」
「そうだねぇ……。この近くだと、ゴメリとかかな?」
……ん?
「後はゴウナンなんかもあるよ。あっちの方だから、行ってみなね」
えらく聞き覚えのある名前のホームセンターによく似た名前だ。
「あ、ありがとうございます」
きっと聞き間違いだろう。私は老婆に感謝を言って、その場を後にした。
「えーと、確かこっちって……」
私が左を見ると、そこに広がるだだっ広い駐車場らしき空間。その先にあるのは、ハトかなにかのロゴマーク。赤を基調としたデザインになっている。
「まんまコ○リじゃねぇか!」
本当にどうなっているのか。なぜこんなところに田舎によくあるホームセンターがあるのか。
「ちょっとここの歴史に興味出てきたな……」
後で調べようと思いながらそこを進み、店内へと入る。
「あでも、中は違うんだ」
中はホームセンターという感じではなく、大きな切り株の上に鉄や見たことのない並べられ、それを競り落とす、いわゆる市場のようになっていた。
「お、導華か」
ブラブラと歩いていると、星奏さんとばったり出会った。手に持った袋はパンパンに膨らんでおり、髪の方の手には、大きな石のようなものが握られている。
「結構買いましたね」
「そうじゃの。ここの素材はどれも優秀なものばかりじゃからな。いっぱい買い込んでおきたいのじゃ」
私にはわからないが、ここはわかる人には宝の宝庫なんだろう。
「あそうそう。グレーテさんのお母さんが猪鍋を作ってくれてるんですよ。一緒に食べません?」
「おおそりゃいいのぉ。金も尽きてきたし、そろそろ出ようかの」
そうして、私たちは「ほぼコ○リ」を後にするのだった。
「にしても、なんでこここんなに変なものばっかり……」
先程グレーテさんのお母さんが歌った歌、ほぼコ○リ……。やけに私の元住んでいたあの世界のものが多い気がする。
「ん、なんかあったのか?」
「いえ、ただ少しこの場所気がかりで……」
グレーテさん宅に帰る道中、私はさらなるものをめにする。
「あれこれって……」
「リトルレスト、家族のお店、セブンティーセブン……。それもこれも、コンビニのようじゃが、聞いたことのない名じゃの」
(これってミニス○ップ、ファ○マ、セ○ン……のパクリだよね!?)
星奏さんにはピンときていないようだが、私には聞き覚えしかない。
「その反応……やはり、何か気になるのか?」
「ええ、少し」
どう考えてもおかしい。なんでここに来てこんなに前の世界のような物が溢れているのか。どうにもしっくりくる理由が見つからない。
「そういえば、ここに来る道中で図書館があるとかいう看板があったのじゃ。せっかくだし、見てきてはどうじゃ?」
「図書館……確かにそこなら何かわかるかもですね。ちょっと探してきます!」
こうして、私は図書館へと向かうのだった。
「さて……」
取り残された星奏は1人ポツリとつぶやいた。
「家……どこなんじゃろ」
「ここが図書館……」
そこには大樹がそびえ立っていた。青々と茂るその葉が風でざわざわと揺れていた。その真ん中には扉があり、そこを開くと、ずらっと本が並んでいた。人はほぼいなかった。
「ここの歴史書を探せば」
「これは、先程の旅のお方」
振り向くと、そこには先程私に話しかけてきた老人がいた。
「何かお探しですか? もしかして、この歴史書ですか?」
老人の手に握られていた、茶色い薄汚れた本。そこには歴史書と書いてある。
「ああ、それです!」
「やはりやはり……。さすが、神様のお告げはよくお当たりになる……」
老人はしみじみとそう言った。なんだかよくわからないが、その本を借りることにした。
「あ、ありがとうございました!」
そうお礼を言って、グレーテさん宅の家路を急ぐ。猪鍋を待たせているのだから、急がねば。
「忙しなくどこかに行ってしまうあの感覚……やはり勇者様によく似ている」
残された老人は走りゆく導華の後ろ姿を見て、そう呟いた。そんな折、老人はふと懐から水晶玉を出した。少し白く濁っているそれは、拳より人周りほど大きいくらいだった。
「おや、次のお告げじゃな」
すると、その水晶の中の白の濁りが動き出し、何かを映し出した。
「これは……なかなか厄介そうじゃな」
そこに映っていたのは、赤いドラゴンが飛来してくる様子だった。ドラゴンは街を焼いて回っていた。
「さて、皆に知らせなければ」
老人はどこかへと向かっていった。
「戻りました〜」
「あらみーちゃんおかえり!」
パタパタとグレーテさんが出てきた。奥では煙が立っている。どうやらすでに始めているようだ。
「さっき星奏ちゃんが来たから、先に始めちゃった」
「大丈夫ですよ」
私は借りた本を片手にリビングへと向かった。
「おお導華、来たか」
「あ、星奏さん」
「先に少し食わせてもらったぞ」
「次のお肉準備するから待ってて〜」
鍋の中は少し野菜の残骸が浮いていて、どうやら第一陣が終わったらしい。ちょうどいい頃合いだと、私は借りた本を少し読んでみることにした。
「第1章 勇者と魔王」
それは、とある勇者と魔王の戦いの記録だった。
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