第18章 ○○○○ ○○○○○○○○○○

第116話 Modify/修正

「うお、寒……」


 季節は冬に入り11月。最近は朝目覚めると、寒々しく、冷え込んでいる。やはり、異世界でも冬は寒いものだ。


「それなら私を抱きしめて暖をとってみない?」


「あ、結構です」


 そしてこんな風に凛がバカみたいな提案をするのももはや日常化してきた。

 凛は最近、私が起きるのと同時に廊下を滑り、私の部屋のドアの前で器用に止まり、私が部屋を出るよりも先にドアを開けるのだ。


「いや、肌と肌で温め合うのは人類の祖先たちもよくしていたこと。つまりなんら恥ずかしいことではない! さあ、そうなれば今すぐ……」


「……なんか、凛って気持ち悪くなったよね」


「ぅぐ」


 声にならない声をあげて、膝から崩れ落ちる凛。


「今の凛が嫌いってわけじゃないんだけど、なんかこう、昔の方がよかったなって」


 黙り込んだ彼女を尻目に、私は朝食を食べに行くのだった。




「なにぃ? 田切さんの当たりが強くなったぁ?」


 その日の昼休み。凛は淀んだ顔で昼食を食べていた。そんな中で、彼女はいつもの3人に今朝のことを話した。


「うーん、何かしたんですか?」


「寝てる間に布団に入るとか、朝起きた時に一緒に抱き合って暖をとろうとか、後下着」


「なんで当たりが強くならないと思ったんですかね?」


「当然ですね」


 ルリの反応に弁当を頬張りながら緒方が同調した。


「まああれだ。まずは日頃の行動を改善するんだな」


 ルリの言葉を聞き、凛は考え込んだ。


「うーん……、背に腹はかえられない。なんとかするか!」


 こうして、凛の好感度回復大作戦が始まった。




 ー作戦1、手伝いをしようー


 家に帰ってきた凛は行動に移った。自分の好感度を上げるため、事務所の手伝いにかって出たのだ。


「レイさーん、なんか手伝うことありませんか?」


 早速レイに声をかけると、少し悩んだ後、何かのメモを渡した。


「なんですかこれ」


「はい、買い物メモです。買うお店と買うものを書いておきました」


 そこには買うもの、そして買う店、買う個数までもが事細かに書かれていた。


「お手伝いがしたいようだったので、そちらをお願いしたいです」


「わかりました。んじゃ行ってきますね」


 凛は快く了承し、足早に買いに出かけた。


「さて、見た感じ五店舗くらい回れば買って来れそう。楽勝楽勝!」


 彼女は鼻歌を歌いながら、足を進めるのだった。



「た、ただいま……」


「おかえり、遅かったじゃん……って何その袋」


 午後10時。息を切らしながら、袋を床においた凛に導華が声をかけた。


「み、三つ先の隣町まで買い物に行ってきたよ……」


「え、なんでそんなことしてるの?」


「いや、レイさんに手伝えることないかと思って聞いたら、メモ渡されて買いに行ったら、三つ先の県外まで行かされた……」


 レイが組んだメモというのは、普段レイが行くルート。アンドロイドであるレイは高速移動やら、馬鹿力。飛行などがあるため、容易に買いに行ける。

 しかし、人間が行くとなると話が変わる。途中で山が挟まったり、買う量も膨大。少しでも出費を抑えるために作られたルートは隣県までにも及ぶのだ。


「何やってんの全く……」


 導華は呆れたように自室へと帰って行った。


(も、もう2度と行かない……)


 作戦1、失敗。




 ー作戦2、かっこいいところを見せようー


 やることは単純。化ケ物を退治してる時に活躍をするのだ。


「グオオオオオオ!!!」


 ちょうど良くドラゴン型の化ケ物が出てきて、私たちに呼び出しがかかった。


「相変わらず暴れてるな……」


 廃ビル群の西側。そこではドラゴンが暴れ回っていた。


「いよーし、張り切って行くか!」


 私は背後に氷柱を出現させ、撃ち放とうとした。


「よし、『炎刃』」


 しかし、導華は最も簡単にドラゴンの首を切り落とし、ドラゴンは地面に落下して行ってしまった。


「はえー……」


 まさに早業。凛が入る隙もない。それもそのはず、Under groundやアメリカでの亞人。その他もろもろ、導華が戦ってきたのは、一般的な化ケ物とは一線を画す存在ばかり。そんな導華によって、こんな木っ葉のドラゴンなど、赤子同然なのだ。


「あ、凛。後ろ……」


「んあ?」


 凛の後ろから迫ってきていたのは、散歩中の老婆と大型犬。振り向き様に凛に飛びつき、凛はそのまま押し倒された。


「うぎゃー! 舐めるなー!」


「あらごめんなさい」


「大丈夫ですよ、この子丈夫なんで」


 ベロベロと舐められる凛を尻目に、導華は犬を引き剥がした。


「凛、大丈夫?」


「うん、なんとか……」


 作戦2、失敗。




「くそっ、手詰まりだ!」


「作戦の引き出し少ないですね」


 次の日の放課後。凛は帰りの支度をしながら机を叩いた。


「だって、手伝いも戦闘も、対して好感度あげる要因になんないんだもん」


「それはまあ……」


「後一体何すればいいんだよ〜」


 苦悩の声をあげる凛に、隣のクラスからの来た緒方が声をかけた。


「であれば、嫌われたきっかけを直接聞いてみればどうですか?」


「嫌われてないもん!」


「……まあなんでもいいですよ。あの導華さんがそんなに簡単に人を嫌うとは思えませんし、まして凛さんです。何かきっかけがあったのでは?」


「きっかけねぇ……」


「それなら今日聞きに行っちまおうぜ。善は急げだ!」


「……まあそうだね。聞きに行くか」


 そうして、凛はいつもの3人を連れて、事務所へと足を運ぶのだった。




「……てなわけなんだけど、田切さん。なんかあったんですか?」


 事務所にいた導華にアンがかくかくしかじか事情を伝えた。ソファに座った4人は、考え込んだ導華を凝視した。


「……いやまあ、あるっちゃあるんだけど……」


「あるなら教えてよ」


 そんな歯切れの悪い導華を凛が急かす。


「いや、凛の尊厳的に言っていいやら悪いやら……」


「この際、導華に嫌われっぱなしなら尊厳捨てるから、教えて」


 食い気味に聞く凛に、遂に導華が折れた。


「そんなに言うなら……」


 こうして、導華が一週間ほど前のことを語り出した。



 一週間ほど前の夜のこと。ちょうど導華は風呂に入っていた。


「ふんふんふ〜ん」


 上機嫌だった彼女の耳に、何やらガサゴソと物音がした。外からするものではない。どうやら洗面所の方からするようだ。


「んや、誰かがタオルでも取りに来たのかな」


 しかもモヤモヤと誰かが何かを喋っている。人影からして玄武や影人ではない。


「てことは凛かレイさんか」


 デニーさんやグレーテさんが海外に旅行に行っている今、その候補は2人くらいしかいない。


「何してんだろ」


 導華はそのまま風呂の戸を開けた。


「おおお、これが導華の下着……。紫……。ウッヘッヘ、えっちぃだなぁ! ちょっと被ってみよ。わあお日様みたいないい匂いがす……」


 そこにいたのは、導華のパンツを引っ掴んで変態行為に及ぶ凛だった。振り向いた凛と導華の目が合う。


「えっ、凛……」


「わあい、大玉メロンが二つ見える」


 嬉々とした凛は導華にそう告げるのだった。




「……んで、私が凛にげんこつをして凛を追っ払ったんだよ。それでまあ、流石に凛に優しくしすぎたのかなぁって思って、少しそっけない態度とってたんだよね」


 ことの次第を聞いた凛を除く3人は絶句していた。




「いや、あれはタオル取りに行ったらあった導華のパンツが悪い」




「ほらね?」


 それから一週間ほど、アンは凛に敬語を使い、緒方とルリは愛想笑いしかしなくなったのだった。




 それから数日あった日のこと。凛を送り届けた私は、事務所のポストを開けた。そこには見覚えのない消印の押された手書きがあった。


「グレーテさんからだ」


 そこに書かれていた差出人はグレーテだった。里帰りをしている彼女から手紙が来たのだ。


「どうしたんだろ?」


 チョキチョキと丁寧に手紙の上部分を開けて、中身を取り出した。そこにはこう書かれていた。


「みーちゃんへ


 最近会えてなくてごめんね。きっと寂しがってるよね? というわけで、私の故郷、クータルマの森にきませんか? 場所はきっと履歴書やインターネットを使えばわかります。きてくれたら嬉しいな♡ チュ♡

            

              グレーテより」

 熱烈なメッセージだった。しかも下の部分にはキスマークまである。これは行った方がいいのだろうか。


「玄武〜、グレーテさんからお誘いが来たんだけど〜」


「なんの誘いだ?」


「なんかクータルマの森ってところに来ないかってさ」


「クータルマの森? ああ、ならちょうどいい。行ってもいいぞ」


「あ、意外とあっさり……」


「ただ、少し条件がある」


「条件?」


「ちょうどそこに星奏が行きたいって言っててな。俺も同行しようと思ってたんだが、ちょっと忙しくて行けなさそうでな。代わりに一緒に行ってきてくれ」


「了解。また日程とか教えて」


 こうして、私は新たな土地へと向かう準備を始めるのだった。

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