第69話 execute/実行
「オラァ!」
感史の爆発が都心に響き渡った。
「いっちょ上がりだな」
俺たちは感史のもとに歩いてきた。
「おう!」
すると感史は俺たちの方を見てガッツポーズをした。表情もとても明るく嬉しそうだ。
「今日も上出来だったな」
俺たちはこうやって化ケ物退治をすることがもはや当たり前になっていた。
テストから約1ヶ月。俺たちは先生が指定した化ケ物を狩り続けていた。主には新田が動きを指示して、結界を張る。その後、俺と政宗、そして感史が指示に合わせて化ケ物を倒すという流れだ。
「そんじゃ、先生に報告しに行くか」
そして、倒し終われば先生に報告しに行く。そうして一日3〜4体の化ケ物を倒していく。これの繰り返しだ。
「これでお金も入るんだから、いいもんだよな」
実際にもらうまで知らなかったが、倒した化ケ物によってお金がもらえる。通常の守護者よりは少し劣るが、学生の俺たちにとっては十分な金額をもらえた。
「報告終わったら、またあれやるか」
「だな!」
こうして俺たちは意気揚々と帰路に着くのだった。
「おらさぁ!」
「なんの!」
俺や新田、感史に政宗は4人でテレビの前に座り、コントローラーを握っていた。
「だぁ〜負けた〜」
ここは守護者学校の寮である。ここでは新田と政宗が同室で暮らしていて、俺と感史はそこにお邪魔させてもらったというわけだ。
「ま、大事なのは戦略だよ、戦略」
今俺たちが遊んでいるのは「ガンディア スペースバトル」というゲームで、今現在凄まじく流行っている国民的ゲームだ。
「や〜、一旦休憩するか」
俺たちは稼いだ金を出し合って、このゲームを買い、基本的にはこの部屋に入り浸っている。することと言ったら、ゲームや雑談だが、そんな素朴な時間が非常に楽しかった。
「なぁ、感史。ちょっと試したいもんがあるんだけど、いいか?」
そんな時、俺は感史にとあるお願いをした。
「? なんだかわからんけど、いいぞ!」
それというのも俺はその頃から入ってきた収益を使って発明品を作り始めていた。そしてその実験台……もとい、テストプレイとして感史に少し使ってもらっていたのだ。
「そんじゃ、屋上に行こうか」
俺は感史たちを引き連れて屋上へと向かった。
「それで、こんなところで一体何するってんだよ」
感史は屋上に着くと、俺に問うた。
「まあ、簡単な実験だよ」
俺はそう言って、地面に手をついた。
「『空間転移』!」
そして、俺が呼び出したのが、巨大な発射台。全長は1mほどで、大きさも1mほどとちょうど立方体のような形をしている。しかし、その前方には大きな穴が空いており、例えるならドラム式洗濯機の見た目に近い。
「うおでっけ!」
それを見た感史は感嘆の声を上げた。
「なんだこの珍妙な箱は!」
政宗も驚いている。
「こいつは巨大レーザー発射台だ。ま、見ての通りだがな。今日はこいつの発射テストをしたくてだな。お前に魔力を流し込んで貰いたいんだよ」
「俺の魔力か?」
「ああ、お前が一番魔力量多そうだしな」
「いや、それならお前が一番多いんじゃねぇの?」
「俺は発射の様子を遠巻きに見たいんだよ」
「……ならしゃーないか」
感史はまあ納得したようで、発射台の後ろに立った。
「準備いいぞー」
「それじゃあ流し込みをしてくれ」
感史は発射台に手を置き、魔力を流し始めた。徐々に発射台にエネルギーが溜まる。
「……なあ玄武。これって下手するとエネルギーが噴射した時の反作用で後ろに吹っ飛ばないかい?」
チャージをしていると新田が俺に聞いてきた。
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと固定すれば吹っ飛ばない」
「なら大丈夫か」
その時、少し考えて俺はあることを思い出した。
「ヤッベ、固定してないわ」
「「「え?」」」
瞬間、発射台から出たレーザーは発射台と感史は後ろ向きに吹っ飛ばした。
「あっちゃ〜、次は気をつけないと」
十分な威力があることは確認できたが、これでは安全性に欠ける。
「ま、失敗は成功の元ってやつだな!」
「……玄武、後でこれ怒られる未来しか見えないよ」
俺たちはその後、こっぴどく叱られた。
「こうやって俺は感史にいっぱい実験に協力してもらったわけだったんだな」
「これは爆戸さん怒ってもしゃーないわ」
「人間性を疑う」
「ちなみにだが、この発射台があのディザウィッシュの時の巨大レーザー砲の原型になってるんだ」
「へ〜、そんな歴史のあるものだったんだあれ」
「いつかは作りたかったんだがな、魔力消費が激しすぎて全然使えなかったんだよ」
「へ〜。そんな裏話があったとは」
「「「「ピロン」」」」
ある日のこと。普段通り、タイプの女論争に花を咲かせていた。そんな折、4人のスマフォに一斉に連絡が来た。
「なんだぁ?」
感史はそう言って真っ先にスマフォを見た。
「先生からだ」
スマフォの通知を見れば、緊急呼び出しと書いてある。
「呼び出し?」
見れば、いつもの教室に今すぐきて欲しいそうだ。
「珍しいなこんなこと」
今まで1ヶ月退治を続けてきたが、こんなことは初めてだ。
「ま、とりあえず行ってみるか」
俺たちは支度をして、教室へと向かった。
「やっぱ遠いな」
そんなことを言いながら、廊下と階段を進み続け、教室までやってきた。
「やあ、すまないね」
そこではすでに先生が待っていた。緊急と言っていた割には平然としている。
「早速座ってくれ」
俺たちは席に座ると、先生はある映像を黒板に写した。それは都心の映像だった。
「うわなんだこれ」
そこに映る都心には大きなコウモリが映っていた。
「こいつは今都心を跋扈している巨大コウモリの化ケ物だ」
「なるほど。僕たちにこれを退治してこいってことですか?」
新田は先生の話を聞いて、先生に言った。
「察しが、いいな。そういうことだ」
先生はやはり俺たちに退治を任せるつもりだったようだ。
「にしても先生、俺たち以外の守護者は一体何やってるんですか?」
「一応、退治には、行っているのだが、君たちが、規格外に強くて、よく呼び出しをくらうんだよ。手っ取り早くやってくれるから、人気らしい」
学生に仕事を取られて、守護者業界は大丈夫なのだろうか。
「兎にも角にも、急いで行ってくれ。被害が拡大しないうちにな」
「「「「了解!」」」」
こうして、俺たちのコウモリ退治が始まった。
「うわでけ〜」
感史は空を飛ぶコウモリを見上げて、そう言った。
「なんであいつら昼なのに行動できてんだ?」
「わからない。まだ不明な点が多いんだ」
この頃は今以上に化ケ物に対してわからないことが多く、研究もあまり進んでいなかった。そのため、フィーリングで化ケ物も倒すしかなかったのだ。
「あんなに飛ばれちゃ、政宗も俺も攻撃がとどかねぇな」
感史はそう言って頭をかいた。コウモリは上空20mほどを飛んでおり、近接型の政宗や感史では到底届かないことが目に見えて分かった。
「なら、俺の出番だな」
こういう時こそ、俺の出番というやつだ。
「とりあえず、撃ってみるか」
後先考えず、まずは撃ってみることにした。
「うおら」
撃った弾丸はコウモリに当たるかと思いきや、コウモリの羽の風圧で簡単に落っこちて行ってしまった。
「ありゃーダメだなこりゃ」
俺の弾丸もダメ、政宗たちも射程的にダメ、一見手詰まりのように思える。
「……なあ玄武。一つ聞きたいんだが」
そんな折、新田が俺に聞いてきた。
「なんだ?」
「その銃弾に込める魔力ってどこまで強化できる?」
「フルチャージは10分くらいだな。威力としてはビル2つくらいなら貫通できる。まあ、その間は空間転移が使えないんだがな」
この頃の俺はまだ未熟で、フルチャージ弾を使うと、コントロールができずに空間転移が使用できなかった。
「……なら十分か」
新田は何かを思いついたようで、俺たちの前に立った。
「いいことを思いついた」
こうして、俺たちは新田の作戦に耳を傾けた。
「……それ行けるか?」
「やってみる価値はあると思うよ」
「……やってみようじゃねぇか」
「ま、他に打つ手がないみたいだしね」
「なら、やってみるか」
こうして、俺たちはその作戦を実行へと移すのだった。
『準備いいぞ』
俺はスマフォで新田たちと連絡を取っていた。
「OK。じゃあ2人とも、頼んだよ」
「「おう!」」
そして2人はコウモリに向かって走り出した。
「うおおおおお!」
感史は腕に魔力を貯める。それに気づいたコウモリはこちらに向かってくる。
「ふん!」
しかし、目的はそっちではない。
「吹っ飛べ!」
感史は政宗の足に爆発を当てると、政宗を吹っ飛ばした。
「……」
刀を握り、片目を瞑り、政宗はコウモリへと向かっていく。
「ぎえええええ!!!」
コウモリは何か風のようなものを飛ばしてきた。さらには口から血の光線も飛ばしてきた。
「『独眼竜:一刀両断』!」
しかし、政宗はそれをも切り裂く。
「いまだ! 玄武!」
政宗は俺のほうへと合図を送った。
「待ってたぜ、このときをよぉ!」
その時、俺は少し離れたビルの屋上からその様子を見ていた。そしてその手には拳銃を握っていた。
「こいつで、お前は丸裸だ!」
新田の作戦というのが、感史の能力で上空に行き、政宗が上空で空気をすべて切り裂き、隙を作る。そこに俺が最大の一発をぶち込むということだった。
「いくぜ! これで終わりじゃい!」
拳銃からまばゆい青い光があふれだす。
「『
瞬間、空気中に青い閃光が走る。それは一直線にコウモリへと走り、その頭を打ちぬいた。
「きええええええ!!!」
コウモリは地上へと落下して行く。
「ミッション・コンプリートだ」
俺は風の吹くビルの上を悠々と立ち去ったのだった。
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