第68話 mate/仲間

「ちょちょちょ、意味わかんないんですけど!?」

 あまりの展開の速さに俺は動揺の意を示した。

「何がだ?」

「化ケ物退治ってどういうことですか!?」

「少し、口足らずだったか。玄武が、早く喋ってくれって、言ったから、早く、喋ったんだがな」

「そういうことじゃないんですけど!?」

 そして先生はやっと説明を始めた。

「昨日、この学校の新入生全員を、私のスキル『テレパシー』で見た。その時、スキル、身体能力、その他諸々で、判断した。その結果、この4人が選ばれた」

「何にですか?」

「君たちには、先程言ったとおり、化ケ物退治を、してもらいたい。今のこの国には、守護者が、不足している。だから、一部の有望な学生にも、退治に参加してもらう。その選抜メンバーというわけだ」

 有望な学生と聞いて少し心が躍る。しかし、俺には確認しなければならないことがある。

「でも先生、政宗は学生じゃないですよ?」

 あたかも政宗が学生のように話を進めているが、そもそも政宗は学生ではない。

「大丈夫。私が何とかする」

 その質問を先生は一言で片付けた。

「いや、なんとかって……」

「君は、政宗君の問題が解決して、私は有望な学生を、手に入れられる。win-winだろう?」

「……確かに」

「おそらくは、この学校の寮で、暮らすだろうけどね」

 そう言って先生は立ち上がった。

「それではまた月曜日この教室に来てくれ。詳細を説明する」

「……大丈夫かぁ?」

 こうして俺たちは納得いかないまま半ば強制的に解散させられるのだった。



「全く……なんでこんなことに……」

 月曜日。俺たちは先生の言いつけ通り、教室に集まっていた。

「感史はこのこと知ってたのか?」

「いや全く。唐突に土曜日学校に来いって呼び出された」

 そして俺はもう1人の選ばれたメンバーを呼ぶ。

「確か……新田だっけ。お前はどうだった?」

 新田と先生が呼んでいた生徒。彼はメガネに茶髪で明らかにインテリという雰囲気を放っていた。

「知らなかった、けど予測はしていたよ」

「予測?」

「僕のスキル、『知識人』の効果さ。ある程度先の未来を現場にあるものから予測できる。だから突拍子もないことは予測できないんだけどね」

 新田は早口でそんなことを解説した。

「へぇ〜」

 とりあえず返事はしておく。

「さて、揃っているか?」

 しばらくして、先生が入ってきた。メガネに無表情、そしてスーツといったよくいる寡黙な雰囲気を醸し出している。

「それでは、授業を開始する」

「じゅ、授業?」

 俺の疑問を回収することなく、先生は黒板に何かを貼り付けた。

「地図か」

 それはこの辺一帯の地図。学校を中心に大体1km範囲ほどだろうか。そのくらいの地図を黒板に貼り、こちらを見た。

「これは見ての通り、ここ一帯の地図だ。今から君たちには、少し試験を受けてもらう」

「試験!?」

 ちょっと待って欲しい。俺はそんなに頭のいい方ではない。むしろ頭の悪い方だ。抜き打ちでそんなことはしないでほしい。

「いや、勉強ではない。戦闘の、だ」

 その言葉を聞いて、俺はほっと胸を撫で下ろした。

「……いやなんで心で思ったことがわかったんですか?」

「スキルだ」

 便利だね、スキルって。

「それでは、試験の説明に入る。今から玄武、感史、政宗の3人には、このそれぞれ赤、青、黄色の地点に、向かってもらう。そこには、化ケ物がいる。それを退治するのが、試験の内容だ」

「……シンプルだな」

「ちなみに、新田は普通に筆記のテストを受けてもらう」

「わかりました」

「ずるくないっすか!?」

 俺は思わず声を出した。明らかに1人だけ危険度が違いすぎる。

「ちなみに問題は有名国立大学の入試だ」

「僕が悪かったですすみません」

「わかればよし」

 それなら化ケ物退治の方が幾分マシだ。

「後、ここにいるのは、この学校で使用される化ケ物よりも、遥かに強い。気を引き締めるように」

「えちょ、危なくないですか!?」

 感史がそう声を上げた。

「だが、君たちはある程度戦闘経験があるのだろう?」

「……まあはい」

「なら大丈夫だ」

 俺や感史は大丈夫だが、問題はどちらかと言えば政宗だ。本当にあいつは戦えるのか……?

「では、早速移動しようか」

 こうして、俺たちはテスト問題と新田を部屋に残し、化ケ物の待つ赤のポイントへと向かうのだった。



「はえ〜家石さんって毎回実地試験で実力測るんだね」

「ああ、あの人は意外と実力主義だからな」

「それにもしかしたら会った時点で私のスキルってバレてたのかな」

「かもしれないな」

「あの人、本当に謎が多いな……」



「ついたぞ」

「いや、言われなくてもわかります」

 付近に来た頃から轟音が響き渡っている。

「なんですかあれ」

 目の前にいるのは、無数の目を持つ巨大な蛇。身体中にギョロギョロと動く目玉があり、この上なく気色が悪い。

「あれは『ヒャクメオオヘビ』。あの目からはビームが放たれる」

「全部ですか?」

「全部だ」

「やっばすぎるだろ……」

 ビュオンと音を立てながら、大量の光線が宙を舞っている。

「さてどう攻略したものか……」

 俺は顎をさすりながら、考える。しかし、この頃の俺はあまり賢くなかった。

「……やっぱめんどいから時空転移で吹っ飛ばすか」

 俺は体の周りに青い半透明の膜を張った。

「さあ……一気に決めるぞ!」

 ビーム飛び交う空間に入り込む俺。その俺をヘビは一瞬で捉えた。

「キシャー!!!」

 目を光らせて、こちらに飛び込んでくる。ヘビは牙を突き立て、俺を突き出そうとする。さらには何本ものビームがこちらに向く。

「無駄だボケェ!」

 それを全て空間転移で飛ばし、ヘビ自体の肉体に当てる。牙は肌に入り、ビームは体を焦がしていく。

「自滅寸前だなぁ!」

 俺は懐から拳銃を取り出して、魔力を貯める。

「『圧縮弾』!」

 魔力を圧縮した弾が放たれて、青い軌跡を描く。

「ガッ!!!」

 額にそれが貫通し、ヘビはぐらりと揺れて、バタッと倒れた。

「いっちょ上がりだな」

 こうして俺の試験はあっけなく終わった。



「瞬殺じゃん」

「まあな。若い頃の俺は手加減とか余力を残しておくということを知らなかったからバカスカ技を打ってたんだよ」

「ちょっとは賢くなったってことね」

「まあな」



「……強いな。流石に想定外だった」

 家石先生はそう言って驚くが、その顔は全く動かない。

「すげ〜」

「なんじゃあの珍妙な技は!」

 感史も政宗も口を開けて驚いている。

「へへっまあな」

 とは言いつつも、正直称賛を浴びて嬉しかったのは内緒だ。

「これなら、文句なしの合格だ。驚いた」

 どうやら俺は合格したらしい。まあ合格するメリットはわからないが。

「ああ、合格するメリットはな、守護者をまとめる団を、すぐに作ることが、できることと、少し優遇措置を、受けられることだ」

 合格できてよかった〜!

「それでは、次の会場に向かおうか。爆戸、次はお前だ」

「応ッ!」

 感史は大きく返事をするのだった。



「お前の相手は、こいつだな」

 感史の目の前にいたのは、巨大な蜘蛛だった。大きさは20mほどで、大きな蜘蛛の巣を張っている。

「デッカ……」

「戦えるか?」

「……そんなの、NOというバカはいないですよ!」

 感史は黒い手袋を手にはめると、サングラスをかけた。

「今から強い光と音が出ます。ご注意を!」

 そう言い残して、彼は蜘蛛へと向かっていく。

「!!!」

 蜘蛛は感史を認識した瞬間、蜘蛛糸を飛ばす。

「うおお!?」

 周囲に巡らされた糸。感史はそれに足を取られる。

「うわっぷ」

 そのせいで蜘蛛糸を思いっきりくらい、蜘蛛糸まみれで動けなくなった。

「『爆破バクハ』!」

 かに思えたのだが、感史はそれを一瞬で弾き飛ばした。

「なかなかの出力だな」

 外気との接触がない、つまりは空気中の魔力を使うことなくあの威力を出すとは。なかなかできる男だ。

「んじゃ、こっちから反撃行くぞ!」

 感史は張り巡らされた蜘蛛糸に飛び乗った。

「それじゃあまた引っかかるんじゃ……」

「それはどうかな?」

 感史は小刻みに足裏から爆発を起こし、張り付くのを防いだ。

「これが『爆破足ボムステップ』だ!」

 ネーミングセンスはこの際置いておいて、ダダダと走る感史。途中でビシュンとかなりの速度で放たれた蜘蛛糸も爆破で無力化する。

「当たらなきゃ、意味ねぇんだよなぁ!」

 感史は飛び上がり、拳に魔力を込めた。拳が真っ赤になる。

「さあ、大業行くぜ!」

 空中から右手を伸ばし、そのままの姿勢で落下する。

「『爆破突撃ボムストライク』!!」

 その拳が蜘蛛に触れた瞬間、凄まじいほどの爆発が巻き起こる。

「うおお!?」

 俺たちは吹き飛ばされそうになるのをなんとか耐えた。

「……ふぅ」

 プスプスと煙が舞う道路にいたのは丸焦げになった蜘蛛と、それに乗った感史だった。

「……少し損傷を抑えてほしいが、単純な威力は期待値以上。合格だな」

「っし!」

 戻ってきた感史はガッツポーズをし、嬉しそうな表情を浮かべた。



「へ〜感史さんってそんな風に戦うんだ」

「お前らの前では戦ったことないもんな。あいつの戦い方はかなり大雑把だが、その分破壊力は抜群だ」

「なんというか、類は友を呼ぶってことなのかもね」

「……どういうことだ?」

「わからなくていいよ」



「さて最後は政宗だが……」

 ついに黄色ポイントに到着した。正直俺はこいつが一番どうなるか想像がつかない。

「……お前できるのか?」

 目の前に見える大きなトカゲ。こちらも20mほどはあるだろうか。果たして彼にこいつが倒せるのだろうか。

「……わからない」

「わからないか」

「俺は元は独眼竜の剣士。疱瘡ほうそうという病気で右目を失ってから片目だけで戦ってきた。だから両目でどれほど戦えるかがわからんのだ」

「両眼だったら強くなりそうなもんだが……」

「片目両目では感覚が全然違う。だから戦闘スタイルも大きく変わる。だから、わからん」

「そうか……」

 そんな時、政宗が俺に話しかけた。

「もし、俺が死んだら、俺の骨は山のてっぺんに埋めてくれ」

「……わかった」

 俺は政宗の覚悟を決めた表情に気押されてそう答えた。

「では、行ってくる」

 彼は真っ黒な刀を抜き、トカゲと対峙する。

「さて、どうするか……」

 彼はなんとその場で止まったのだ。トカゲとの距離は約10m。どうするつもりなのだろうか。

「……ここだな」

 政宗はなぜか少し先に刀で線を描いた。なんの意味があるのだろうか。

「では、勝負と行こう」

 政宗は体勢を低くし、刀を構え、トカゲに背後を見せた。

「は!?」

 刀といえば近接で斬りかかるのが一般的。なんのつもりなのだろうか。

「キシャー!!!」

 それに気がついたトカゲは政宗に迫る。

「政宗!」

 刻一刻とトカゲが迫る。

「……」

 しかし、政宗は動かない。

「あいつ……右目を……!?」

 挙句右目を閉じて、左目で背後を見ている。

「やっとわかった。俺のスキルの、意味が!」

 政宗から1m。トカゲがそこに入り込んだ瞬間だった。

「『独眼竜ドクガンリュウ:断頭斬ダントウザン』!」

 体の捻る勢いと、赤く光る刀身。その勢いは凄まじく、一撃でトカゲの頭に入った。トカゲが動きを止める。その少し後、トカゲの頭がぼとりと落ちた。

「……勝負、アリだ」

 その時の政宗の姿はまさに、剣豪だった。



「うおおおおお!! すげえええええ!!」

 俺は思わず歓声を上げた。

「ここまで強いとは思ってなかったぞ!!」

 政宗の背中をバシバシと叩き、声をかける。

「独眼竜……良いスキルだ」

 政宗は嬉しそうに拳を握り締めた。

「素晴らしかったぞ、お前ら」

 そこに家石先生がやってきた。

「今電話があってな、新田のやつ、満点だったらしい」

「バケモンすぎだろ」

「でも、ということは……」

 感史が話をふると、家石先生はニコリと笑って、こう言った。



「見事、全員合格だ」



「「「いよっしゃあ!!!!!」

 こうして、俺たち4人の物語が幕を開けたのだった。


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