第67話 adviser/相談役

「伊達政宗!?」

 私はその名を聞いて驚いた。伊達政宗といえば、私の元いた世界ではお馴染みの、独眼竜の侍ではないか。

「導華、知ってるの?」

 しかし、この世界ではお馴染みではないらしい。凛はキョトンとした顔をしている。

「まあ、とりあえず話を進めるか」



「伊達政宗?」

 そう名乗った男は礼儀正しく、俺の前に正座した。

「ところで、ここはどこだ? かなりの豪邸とお見受けするが……」

 政宗はそう言って、周りをキョロキョロと見回した。

「あの〜、そこまで豪邸ではないんだが……」

 俺の家は師匠の家をそのまま引き継いでいて、和風の普通の家だ。

「何をおっしゃる。戦国のこの世ではかなりの大きさではないか」

「戦国?」

 俺はそこで、こいつと俺との何か決定的なズレを感じた。

「一つ聞きたいんだが、お前はどこの誰なんだ?」

「俺の名を知らないのか? では改めて、俺はは伊達政宗。出羽国と陸奥国の戦国大名だ」

「どこだそれ」

「……え?」

「もしかしてお前……転生者だな?」

「てん……せい……?」

 そして俺は転生者というものを政宗に説明してやった。すると、政宗は目をカッと見開き、手を床についた。

「何と……つまり俺は死んでしまったということか!?」

「んまーそうだな。お気の毒様」

 俺はそう言って、合掌をした。

「で、ではこれから俺は何をして生きてゆけば良いのだ!?」

 政宗はすがったような目で俺に聞いてくる。

「俺に言われても……」

 その頃はまだ転生者の受け入れ態勢が全く整っておらず、警察も回収するほどではなかった。

「……ま〜しょうがない。今日は一晩泊まってけ」

「い、いいのか!?」

「ああいいぜ。ここに連れていきたのも俺だしな」

「かたじけねぇぜ……!」

 政宗は深く深くお辞儀をした。その姿はまさに礼儀と仁義を重んじる、侍そのものだった。

「そんじゃあ、どうするかは明日考えるか」

 こうして、政宗は俺の家で一晩を明かすのだった。


「なんだこの飯は……うまいぞ!」

「なあレイ。こういうのってどこに連れて行くのが正解なんだ?」

 次の日の朝。モリモリとご飯を口にかき込む政宗を見て、俺はレイに耳打ちをした。

「すみません。私のデータベースには過去にこう言った事例がないものでして……」

「さて困った……」

 すると、俺はとあることを思い出した。

「そういえば、こいつって学校の校庭のいたわけだよな?」

「マスターの伝聞が正しければ」

「ならよ、学校に聞けばいいんじゃね?」

「……はい?」

 レイは淡々と返していたが、ここで俺の言ったことを聞き返してきた。

「いやよ、たとえば学校に突然植物が生えてきたとするだろ?」

「はい」

「それってどんな植物であれ、その土地のやつのものになるだろ? 多分」

「まあ……はい」

「だったらコイツだってそうなるんじゃね?」

「理解できません」

 大概のものはそれが見つかった土地の所有者のものになる。もちろん例外はあるが。であれば、コイツの権利だって学校側に何かしらはあると考えられるのではないか?

「……そのメチャクチャな理論はよく理解できませんが、学校に相談するというのは一理あります」

「なんでだ?」

「マスター、あなたあの方を発見した時近くに何があると言いましたか?」

「え? 光る桜の木」

「マスター、そんなもの普通存在していますか?」

「……確かに」

「あの方が異世界転生者ということは説明できますが、木が一緒に転生してくるのは、どう考えてもおかしいです。まして、それが光っているなど」

 一般的に異世界転生してくるのは動物。根本から考え直せば、木が転生してくるなど、確かにおかしな話だ。

「そうか。学校側が何か知ってるかもしれないってことだな?」

「そういうことです」

「レイお前、賢いな!」

「兄様が作ったアンドロイドですので」

 そう考えてみると、ますます学校に行ってみるべきだ。

「よっしゃ! 政宗、学校行くぞ!」

 俺は机を叩いて立ち上がり、ちょうど飯を食い終わった政宗に声をかけた。

「なんだかわからないが、わかった!」

「よし!」

 こうして、俺たちは学校へと向かうことしたのだった。



「いや、どゆこと?」

 俺たちは早速、土曜日の学校に来た。休日だったが、用務員のおばさんがいたので、一通りの説明をしてみた。

「いや、だから深夜に光る桜の木の下にコイツがいたんだって」

「それがわかんないのよ。薬物でもやってるの?」

「誰がヤク中だ」

 まあ正直わかっていた。この頃、異世界転生とはまだまだ社会に浸透していないものであった。ここからの十数年間で大きく社会が動き、今のような体制になったのだ。そのため、おばさんのこのような反応も仕方のないものであった。

「さて、どうしたものか……」

 結局おばさんに門前払いさせられ、俺と政宗はすごすごと学校を出てきた。

「玄武よ、異世界転生とはなんなのだ?」

 そんな時、政宗が俺に聞いてきた。よく考えたら、俺はコイツに何にも説明していなかった。

「ああ、それはだな……」

「人間、または生物が死亡ないし特別な条件をトリガーとして、時間場所をランダムに世界間を本人の意思とは関係なく突発的に移動する。その際に対象は何がしかの優遇措置、スキルや武器を獲得した状態で世界で目を開ける」

 完璧な説明が俺の背後から近づいてきた。

「君は、玄武と言ったな。その話、聞かせてもらいたい」

 それは、昨日俺を叱ったあの家石先生だった。



「へ〜異世界転生ってそんなに厳密な区分があったんだね」

「ああ、まあそうだな。ただここで生きてるだけじゃ聞いたことないだろうしな」

「私は聞いたことなかったな〜。ところで、導華はなんでそんなに考え事してるの?」

「ああ、いや、別に……」

「そんじゃあ、話の続きからだ」



「……なるほど」

 俺は先程おばちゃんに話した内容と同様のことを家石先生に話した。家石先生はおばちゃんと違って、ちゃんと取り合ってくれた。

「桜の原理は、説明できないが、彼に関しては、異世界転生で、間違いないだろう」

 先生は政宗をマジマジと見た。

「……君、何かここにくる、前と後、覚えていることは、ないかい?」

 すると、政宗は顎に手を当てて、記憶を引き出し始めた。

「確か……俺は何かの怪異を見たんだ。そして気づけば、桜の木下にいて、両目が見えるようになっているし、姿も若くなっていた。しかし、どうにもできず途方に暮れて眠っていると、玄武が来たんだ」

「怪異か……」

 少し考えた後、先生は再び政宗を見た。

「君は、おそらく、その怪異に、殺されたのだろう。そして、ここにやってきた。だから、当然だが、戸籍も何も、ないわけだ」

「戸籍?」

「まあ、生きるのに、必要なものだ」

 そう言って、家石さんは学校へと戻ろうとした。

「ま、待ってください!」

 俺はそれを引き止めた。すると、家石さんは足を止めて、俺の方を向いた。

「お、俺は一体どうしたらいいんでしょうか!?」

 そんな俺の訴えを聞き、彼は一つこう言った。

「君は、どうしたい、玄武くん」

 まっすぐな瞳で、俺のことを見ている。

「俺が……?」

「君と、彼は、全くの無関係。助けてやる義理も、ないだろう。なら、なぜそこまで、やってやる必要がある? その理由と、その先のやりたいことを、教えてくれ。話はそれからだ」

 そんなことはとっくの間に自覚している。俺は、その質問にノータイムで答えた。

「そんなの、困ってるやつ見つけたら助けたいじゃないですか! その先なんて、コイツが決めればいい。俺はコイツが、思うように生きられるまでの手伝いがしたいだけです!」

 その返答を聞き、家石先生は再び学校の方を向いた。

「……ついてくるといい」

「……へ?」

「合格だ。2人ともども、一緒に来るといい」

「「わ、わかりました!」」

 俺たちは先生に続いて、学校へと戻るのだった。



「へ〜、家石さんってその時も助けてくれたんだね」

「ああ、異世界転生がらみだったら大体この人に言えば解決してくれる」

「そういえば、導華って家石って人にあったことあるの?」

「うん。随分前にね。助けてもらったんだ」

「へ〜」

「よし、そんじゃあ次行くか。俺たちはそこからな……」



「……先生」

「なんだ」

「どこまで行くんですか?」

 俺たちは家石先生に続いて、ひたすら校内を歩いていた。

「もうちょっと、先だ」

「先生さっきあんなにハキハキ異世界転生について語ってたんだから、普段からチャチャっと喋ってくださいよ」

「あんまり早く話すと、脳が疲れる」

 やはりこの人、謎だ。

「ほら、もう少しだ」

 そう先生が言って指差した先には、とある看板のようなものがあった。

「なんですかここ?」

 そこの部屋には電気がついているのが、ガラス越しにわかった。しかし、文字は掠れて読めなかった。

「化学室だ。私が持ってる教室だが、今はあまり使っていない」

 先生はガラガラと扉を開けて、中に入った。

「お邪魔しま〜す」

「失礼します」

 俺は中に入ってギョッとした。

「あ!? 感史!?」

「玄武!?」

 なんとそこにいたのは、昨日俺と喧嘩しかけた感史だったのだ。

「なんでお前がここにいるんだよ?」

「それはこっちのセリフだ」

 見れば、感史と席を離した位置にも誰かメガネをかけた人がいた。

「2人とも、ひとまず座ってくれ」

 先生に言われ、俺と政宗は何もわからぬまま席に座った。

「(それで、なんでこの部屋に来たんだよ?)」

「(俺もよくわかんねぇって)」

 こそこそと感史と話す。そんな時、ついに先生が概要を伝え始めた。

「ひとまず4人。よく集まってくれた。ありがとう」

 そして、その後先生は1人のことをしゃべり始めた。

「まず、メガネをかけた彼は、新田 幸助。スキルは『幸運』と『知識人』。この学校には珍しく、戦略担当だ」

「どうも」

 先生の説明が終わると、幸助はペコっとこちらに礼をした。

「次に、玄武も知ってる彼は、爆戸 感史。スキルは『爆弾魔ボマー』。爆発物の生成及び、その肉体から爆発を、発生させることができる。典型的な戦闘型だね」

「あ、あえ!?」

 感史は説明されたが、なぜか驚いたような表情をしている。

「え〜次が竜王 玄武。スキルは『空間転移』と鉄鋼生成』。かなりトリッキーな戦い方をする、遠距離近距離こなせる、オールラウンダーだ」

「は!?」

 驚くべきことに先生は俺が話した覚えのない情報をペラペラと喋った。感史が驚いた原因がわかった気がする。

「最後に、伊達 政宗。おそらく異世界転生者で、スキルは……なるほど面白い。『独眼竜』というらしい。効果は実戦の時に、言おうか。彼はおそらく、侍。近距離特化、だろうね」

「そうなのか?」

 その上、先程出会ったばかりの政宗のことまでさらりと言い当てた。この人何者だ?

「改めて、私の名前は、家石 超介。スキルは『超能力』。様々なことが、できる。詳しく話すと長いから、省くが」

 そう言い終わって、家石先生は一息ついた。

「それでは、本題に入ろうか」

 その後、先生は度肝を抜くようなことを言い放った。



「これから、君たちには、チームを組んで、化ケ物退治に、赴いてもらう」



「「「は、はぁ!?」」」

 こうして、俺たちのフォーマンセルは始まったのだった。

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