第11章 The blue and fleeting youth is

第66話 School/学校

 15年前。俺は桜の木下であいつと出会った。

「……何だこいつ」

 そいつはそこで寝息を立てて寝ていた。

「……しゃーねーか」

 何となく放って置けなくて、俺はそいつを家に担いで帰ることにした。

「全く……」

 これが、俺とあいつの数奇な運命の始まりだった。



「んじゃ、行ってくるわ」

 15年前のある朝のこと。俺はブレザーを着て、カバンを持って玄関にいた。

「はい、行ってらっしゃいませ」

 俺に向かってぺこりと礼をする人物、もといロボットがいる。彼女の名前はレイ。師匠が作ったメイド型ロボットだ。

「……高校生活か」

 師匠が死んでから約1年。そのころ中学生だった俺も、時がたち高校生になった。

「まあ、ゆーてもただの高校じゃないがな。お、見えてきた」

 国立守護者養成高等学校。国が強力な守護者を育成することを目的に作ったこの学校。入学試験は基本全て実地試験で行われるなど、守護者を育成することに特化した学校である。

 俺は守護者になって金を稼ぐとかのこれからのことを考えて、この高校に入学を決意したのだった。

「まあ、サクッと卒業して、サクッと守護者になりますか」

 この頃は守護者になるにはこのような施設である程度の実力や知識をつけるのが一般的だった。

「どんな学校生活になるのやら……」

 こうして、俺の奇想天外な高校生活が幕を開けるのだった。



「全く、どこに行ってもジジイの話は長えなぁ……」

 長い長い入学式が終わり、俺は教室に来ていた。

「さてさて、俺の席は……」

 壁に貼ってある席表を見て、己の席を見つける。

「お、ここか」

 一番後ろの真ん中。ちょうど昼寝しててもバレなさそうな席だ。ラッキーラッキー。

「よっこいせっと……」

 座って周りを見渡せば、そこら中に目立つ奴らが沢山いる。獣人、髪がピンク、あれは……エルフか?

「ま、退屈はしなそうだな」

 自分の席も確認して、暇になった俺は、少し学校内をブラブラ回ることにした。

「ひっろいな〜」

 歩いてみて広さを実感する。聞けば、全ての階層を合計して、某何たらドームの3倍の大きさがあるんだとか。

「迷わないように気をつけないとなっと」

 そう言いながら、俺が廊下の曲がり角を曲がろうとしたその時、俺の目の前にやってきた。

(ヤッベこれぶつかるぞ)

 しかもその手には何やらフラペチーノらしきカップが握られている。

(うっわ。あんなのこぼしたら、ぜってぇに取れねえぞ)

 俺は新品の制服を汚されたくはなかった。そのため、何の躊躇いもなく、スキルを発動した。

「『転移』!」

 自分にかかる寸前のフラペチーノを転移門で見える適当な場所に転移させた。そのおかげで俺は汚れずに済んだ。

「……」

 が、代わりにその人が汚れた。どうやらフラペチーノの持ち主の頭の上に転移させてしまったらしい。

(……ドンマイ)

 俺は何事もなかったかのように去ろうとした。

「……ちょっと待て」

 しかし、その男に呼び止められた。

「ん?」

「お前のスキルだな、これ」

 彼はその特徴的な頭を指差しながら、トサカのように尖った頭を俺に見せてきた。もちろん、フラペチーノトッピングだったが。

「まあ、ぶつかりそうだったんでね」

「ぶつかりそうだったからだぁ?」

 すると男は俺に突っかかってきた。当然ちゃ当然かもだが。

「おい、どうしてくれるんだよこれ!」

 男の罵声を聞いてるうちに、俺も段々とイライラしてきた。

「ああ!? んだごれテメ……」

 瞬間、廊下の奥から轟音が響いた。

「オラァ! どきやがれ!」

 俺は咄嗟に屈んだが、目の前の男は間に合わない。

「アベシッ!」

 男は何者かの膝蹴りをモロに顔面にくらい、ノックダウン。動かなくなってしまった。

「こんにゃろ。さっき俺にぶつかってきやがって……」

 膝蹴りの男が去ろうとしたので、一声かける。

「おい、オメェ。危ねぇだろうがよ」

「あぁ?」

 これが俺と感史との出会いであった。



「ていうか、その学校、治安悪すぎじゃない?」

「しょうがない。昔は守護者といえばもっと戦闘狂がなる職業だったからな。導華は知らないと思うが」

「私の高校そんなじゃなくて良かった……」

「それで? どーせアンタのことだし、また何か一悶着あったんじゃないの?」

「ああ、もちろん。それでだな……」



「危ねぇって言ってんだよ」

 俺は半分キレた状態で感史に突っかかった。

「こいつは俺がさっき肩ぶつかったから鬱憤ばらしにぶっ飛ばしたんだよ。お前にゃ関係ない。すっこんでろ」

「んじゃ尚のこと俺はキレていいはずだ。関係ないのに危ない目にあったんだからな!」

「やんのかてめぇ!」

「ああ上等だ!」

 ガンの飛ばし合い。完全にヤンキー同士の喧嘩だ。

「あの……俺……」

 先程の男が何かを言っている。

「「雑魚はすっこんでろ!」」

「ひぃぃ……」

 そして男は逃げていき、その場には俺と感史だけになった。

「んじゃおっ始めようじゃねぇか……!」

「後悔すんじゃねぇぞ……?」

 感史は拳をゴキゴキと鳴らして、俺は首を鳴らす。

「オラァ!」

 感史が拳を振るう。

「ウラァ!」

 俺も続けて拳を出した。その瞬間だった。

「やめなさい」

 俺たちの手は空中でぴたりと止まった。

「「あ?」」

 やがてコツコツと無機質に歩く音が聞こえてくる。

「入学早々、問題を、起こすな」

 そうして出てきた男こそ、我らが先生、家石 超介だったのだった。



「「……」」

「反省、したか?」

 結局俺たちは放課後に職員室に連れて行かれて、長い長い説教をされた。しかもタチの悪いことに、先生は喋るのがゆっくりなせいで普通の説教よりも凄まじく長いのだ。

「「すいませんでした」」

 これ以上の長い説教はゴメンだったため、俺たちは口を揃えて謝った。

「今回は、ゆるそう。しかし、次はないぞ」

 こうして、俺たちは何とか解放されて、帰路に着いたのだった。



「ったく、何だあの先生は……」

 俺と感史は偶然にも帰路が同じで、なぜだか並んで歩いていた。

「無駄に話の長い……」

 俺たちは悪態をつきながらテクテクと夕陽差すこの道を歩く。

「……おい、お前。名前なんて言うんだ」

「……竜王 玄武だ」

「……そうか。俺は爆戸 感史だ」

「……おう」

 そこから俺たちは何も話さなかった。しかし、互いにどこか似たもの同時という謎の感覚を抱いていた。



「アンタら家石さんいて良かったね。絶対退学だよそんなの」

「しゃーねーだろ。あっちが喧嘩売ってきたんだから」

「はぁ……。それで、今のところ肝心のお侍さんが出てきてないけど?」

「ああ、そうだそうだ。ここからが本番なんだがな……」



「ただいま〜」

 俺は家の戸を開けて中に入る。

「おかえりなさいませ」

 すると奥からレイが出てきた。まあ、メイド型ロボットだから当然ちゃ当然なのだが。

「どうでしたか、学校は」

「ま、普通だったよ。普通」

 正直いきなり問題行動を起こしただなんて口が裂けても言えない。

「ところでなのですが、お弁当を出していただけませんか?」

「ああ、はいよ」

 そう言って俺はカバンをガサガサと漁った。

「……あれ」

 しかし、見つからない。お弁当箱の影が見当たらないのだ。

「どうかされましたか?」

「いや、弁当箱を忘れちまったみたいでな……」

「そうですか」

 レイはそう淡白に言ったが、おそらく困っているだろう。

「しゃーない。取ってくるわ」

 そんなレイをみて、俺は何となくの申し訳なさを感じ、弁当を学校にとりに行くことにした。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫」

 レイに二つ返事で返して、俺は早速家を出た。

「さっさと取りに行ってくるか」

 こうして、俺は終礼後の夜の学校に忍び込むのだった。



「さ〜て、しんにゅーしんにゅー」

 俺は校門の前に立ち、スキルを発動する。

「『転移』」

 門の隙間から見える地点めがけて発動し、内部への侵入に成功した。

「さてさて、どこにあるかな〜」

 俺はひとまず教室に行ってみることにした。

「こういうところに……」

 すると、俺の予想はぴたりと当たった。

「お、マジであった」

 何と俺の机の上に弁当箱が置いてあったのだ。

「ラッキー。サクッと見つかった」

 俺はさっさと帰ろうと、転移で外に出た。すると、先程とは違う光景に目を奪われた。

「何だこれ?」

 校庭に咲いた美しい桜の木。それが白く怪しく発光していたのだ。

「うお、すっご」

 驚きながら近づくうちに、さらにあることに気がつく。

「誰か寝てね?」

 気づけば俺はその木のすぐそばまで来ていた。

「寝てる……」

 黒い髪に少しのクマ。どこか古ぼけたその服は、何かと戦った後のようにも思えた。

「このまま寝かしといた方がいいのか?」

 弁当片手に俺は頭をかいた。いくら4月と言っても、夜は冷え込む。しかし、なぜここで寝ているのか意味のわからないやつを起こしていいのか否か……。

「……しゃーない、一旦家に連れて行ってやるか」

 このまま風邪でも引かれたら困る。よって、俺はこいつを背負い、家に帰ることにした。

「変なやつじゃないといいなぁ……」

 昼間のことを思い出して、そんなことをぼやきながら、俺は家へと急ぐのだった。



「ただいま〜」

 本日2度目に帰宅。もうすっかり外は暗くなってしまった。

「おかえりなさいませ」

 再び奥から出てくるレイ。これも見覚えがある。

「ちょっと帰りにこんなやつを拾ったんだよ」

 よっこいせっと言いながら彼を玄関に下ろす。

「この方は……」

「ああ、光る桜の下で寝てたんだ。流石に冷えるから放って置けなくてな」

「そういうことでしたか」

 突拍子もないことを言っているのが自分にも理解できたが、にしてもレイの理解力の凄まじさたるや侮れない。

「ではこの方を……」

「ああ、介抱してやってくれ」

 俺はそう言って、その男のことをレイに任せた。

「何もないといいんだけどな」

 そんな心配をしながら、俺はレイの準備した晩御飯を食べたのだった。



「……ん」

 その数時間後。ついに男が目を覚ました。

「お、起きたみたいだな」

 俺はレイの元に行くと、レイは彼を神妙な面持ちで見ていた。

「おう、大丈夫そうか?」

「はい、ですが……」

「何かあったのか?」

 レイは少し躊躇った後に、あるものを取り出した。

「これは……」

 黒色の鞘に、美しい銀色の装飾と刃。そう、レイが出したのは日本刀だったのだ。

「彼は持っていらっしゃいました」

「んじゃあこいつはもしかして、守護者か何かのか……?」

 その時、突然彼がクワッと目を見開いた。

「うわあああ!」

 彼は驚嘆の声をあげて、俺たちから離れた。

「あ? 大丈夫か?」

 俺は心配しながら近寄った。

「な、何ものだ!」

 男は大声をあげて、俺に話しかける。

「お前が外で寝てたから介抱してやったんだよ。お前、大丈夫か?」

 すると男は歯切れの悪そうな顔をした。

「そ、そうか。助けてくれたのか……」

 男はそういうと、正座をゆっくりとした。


「そういうことなら礼を言う。ありがとう。俺の名前は伊達だて 政宗まさむね。遠い地に突然連れて来られて困っていたのだ」



 これが、俺と政宗の出会いであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る