第61話 sortie/出撃

「リリリリン……リリリリン……」

 暗い部屋。彼はそこで電話をとった。

「はい、もしもし」

『あ、先生。お久しぶりですね』

「何の、用だ。玄武」

 彼の名前は家石 超介。玄武の高校時代の恩師で、爆戸や新田の担任でもあった人物だ。

『ちょっと厄介なことが起こりましてね……。またムーンライトレコードが動き出したんですよ』

「……ほう」

 その名前は玄武や爆戸、新田、そして超介にとって因縁の名前だった。

「あのコインロッカー事件、か?」

『そうです。新田の監視カメラの分析結果から』

「……そうか」

『もしかしたらそっちにも何かが来るかもしれないんで、よろしくお願いします』

「わかった。こちらでも、動けるだけは、動いておく」

『ありがとうございます。それじゃ……』

 急いで電話を切ろうとする玄武。そんな彼を超介は止める。

「後、もう一ついいか?」

『何ですか?』

「深追いは、しすぎるなよ」

『……わかってますよ』

 そして、ガチャリと電話は切れてしまった。

「さて……。私も、動くか」

 そうして、彼は椅子から立ち上がり、どこかへと電話をかけ始めるのだった。



「うっし、準備完了! 俺たちも動くか!」

 一通り電話を終えた玄武は声高らかにそう言った。

「だが、どうするつもりだい? いくら犯人がわかったと言っても、簡単には捕まえられないだろう?」

 新田さんの質問に、玄武が悩む。

「そこなんだよな〜。一体どうしたもんか……」

「誰か情報通でもいないものか……」

 社長室に少しの沈黙が流れる。

「「……あ」」

 そして、私と爆戸さんが同じタイミングで何かを思い出す。

「南川さんがいるじゃん」

「俺も同じこと思った」

 以前のディザウィッシュの時にも活躍してくれた南川さん。そういえば、爆戸さんのクラブハウスに今はいるのだった。

「今呼び出せるか?」

「ああ、開店前だし多分暇だろ」

 そう言いながら、爆戸さんはスマフォで電話を始めた。

「おう……おう……。できるだけ早めでお願いできるか? ……助かる、ありがとよ!」

 そして、笑顔で電話を切った。

「お前感情が表情に出やすいよな」

「あぁ? 別にいいだろうが」

「それで、結局来てくれるのかい?」

「ああ。後10分ぐらいで来てくれるらしい」

「了解したよ」

 待つこと十分弱。社長室の扉が開いた。

「来ましたよ。それでオーナー、急に呼び出して何のようですか?」

「ありがとな。それがだな……」

 爆戸さんは南川さんにことの次第を説明した。

「なるほど……。とりあえず、私はその団体について調べればいいわけですね?」

「ああ。よろしく頼む」

 すると、南川さんはカタカタと自前のノートパソコンを使って調べ始めた。その数分後、ぴたりと南川さんの手が止まる。

「……あった。団体名ムーンライトレコード。今現在はどこかの団体と統合しているみたいだけど、団体自体は存在してる。各都市に支部があるけど、本部はわからないかな」

「なるほどな……ありがとう」

「情報系の仕事なら、任せてオーナー」

 これで団体が存在していることははっきりした。しかし、本部がわからないとなると、支部を回って本部を聞き出すしかないだろうか?

「……ありゃ?」

 そんな時、南川さんが首を傾げた。

「どうかしましたか?」

「いや、Wi-Fiが切れちゃって……」

「社長! 大変です!」

 すると、社長室のドアをぶち開けて、サラリーマンが入ってきた。おそらく、新田さんの会社の人だろう。

「どうしかしたのか?」

 彼は息を切らしたまま、新田さんに叫ぶ。

「外! 外を見てください!」

「外ぉ?」

 私たちは何なのかと思いつつ、窓から外を見た。

「んなっ!?」

「何じゃこりゃぁ!?」

 窓の外には、肌の色が腐ったように悪く、服もボロボロになった人の大群がいる。これはいわゆる……。

「「ゾ、ゾンビ!?」」

 なんと、私たちの知らない間に、都心がゾンビまみれになっていたのだった。



「どうだ。薬の効果は」

「なかなかすごいですね……。都心がゾンビまみれになってます」

 薄暗い部屋で都心上空のドローンの映像を見ているのは、頂と情。頂の手の中には緑の液体が入った試験管が握られている。

「上空からこの薬品を散布。するとこのザマ。おっそろしいですね……」

「流石、『やまい』の作った、薬だ」

「……そういえば、肝心の病はどこに行ったんです?」

「人体実験の結果は、この目で見ないといけないと言って、出て行った」

「……あいつらしいですね」



「うええ!? どうなってんの!?」

「いつの間にこんなに……」

「私が来た時はこんなじゃなかったんですけど!?」

 南川さんが来てから数分。その短時間でここまで大量のゾンビが出現したようだ。信じがたいが、目の前で起きているのだから、信じざるをえない。

「……なるほど。奴らそこら中の電線を切って回ってるみたいです。おかげでこの会社のWi-Fiが使えなくなったみたいですね」

 南川さんはポケットWi-Fiをノートパソコンにのせて言った。

「それで、奴らの特徴は?」

「触れる、噛まれるでゾンビ化。ゾンビ化までの時間はほぼなし。つまり、奴らを何とかしないと、ここから外には出られません」

「なるほど……」

 新田さんは社長席で考え込む。そのうち、彼は立ち上がり、南川さんに再び質問をした。

「そいつらの対処方はわかるかい?」

「わかりません。ただ、今都心を飛んでいる飛行機から出てくる薬を浴びるとこうなるとようです」

「わかった」

 そして、彼は社長室の壁をコンコンと叩き始めた。

「何やってんだ?」

「玄武、感史。昔僕たちがよく遊んでいたゲームを覚えているかい?」

「もちろん。『ガンディア スペースバトル』だろ?」

「パイロットが乗り込み、宇宙人を倒す、あの人気ロボットゲーム。玄武と俺が忘れるわけないだろ?」

 そのうち、ぴたりと新田さんの動きが止まる。

「美山、今動いているのは緊急用電源か?」

「はい」

「では社内にアナウンスを入れてくれ。もう間も無くこの会社は停電になると」

「……了解しました」

 美山さんは一瞬ハッとした後、すぐさまどこかに向かっていった。

「それじゃあみんな。今から言うことをよく聞いてくれ」

 そして、新田さんは私たちの方を向いた。

「今からこのゾンビパンデミックを何とかする。そのために、指揮を僕に任せてほしい」

「ああ、いいぜ」

「いいですけど……」

 新田さんの言葉に異論を唱えるものはいない。

「ありがとう。それじゃあ、まずは本元を叩くために飛行機に向かう。メンバーは玄武団の3人。おそらくそこに解毒剤、悪くとも元に薬品がある」

「根拠は?」

「薬を作った時に解毒剤は大体作る。なくとも今から作る」

「そんなことできるんですか?」

「できるさ。うちの会社を舐めるんじゃない」

 そう言いながら、彼は壁の一部をベリっと剥がした。

「エレベーター?」

 そしてそこに現れたのは、何とエレベーターだった。

「さて、みんな。今から僕の秘密の研究所に行くよ」

 こうして、私たちはそのエレベーターへと乗り込むのだった。



 ゴウンゴウンと動くエレベーターの中。玄武は新田さんに質問する。

「秘密の研究所ってなんだよ」

「その名前の通りさ。秘密の研究所だよ」

「いや、それがわかんねぇから言ってるんだが……」

 その時、ガタンと揺れてエレベーターが停止した。どうやら到着したらしい。

「見ればわかるよ」

 ウィーンと開いて、目の前に広がったのは大きなロボットが並び、何やら怪しげな機械が溢れた不思議な部屋だった。

「うおおおお!! すっげえ!!」

 それを見た玄武はテンションが上がっている。

「ここでは僕がロボットや薬の研究をしている。入れるのは僕と美山、そして限られた社員だけだ」

「はえ〜……」

「触れるのはダメ。だけど外に出ないといけない。こうなったらこれを使うしかないと思ってね」

 凄まじく大きなロボットだ。大体大きさは事務所のあるビルに3倍はあるだろうか。防護服とかの方が良い気がするのは私だけだろうか。

「それでだ。玄武、あの時のゲームの操作は覚えているかい?」

「もちろん、あのコントローラーの感触はいまだに覚えてるぜ?」

「ならバッチリだ。では、玄武団の諸君。ここからコックピットに乗ってくれ」

 新田さんの横から鉄の板のような橋が出てきた。どうやら目の前にある赤色のロボットに繋がっているらしい。

「たっか……」

 カンカンと音を立てて歩いていく。下を見れば、真っ暗な底が見える。

「キャー、ワタシタカイトコロコワーイ」

 そんなことを言いながら、凛が私に抱きついてくる。

「凛、まずは棒読みを改善しようね?」

「クッ……」

 しかし、そんな安直な作戦は私にバレバレだ。というか、相当なバカではない限り誰でも気がつく。

「なるほど……。そうやって抱きつく方法があるんだね……」

 新田さん、あなたは私が思う以上に頭が弱いのでしょうか?

「いよっし、着いたぞ」

 色々ありながらも、私たちはコックピットに辿り着いた。中は割と広く、事務所の半分ほどはある。

「それで、ここで何をしろと……」

「こ、これは……!」

 困惑気味な私とは対照的に、玄武は熱狂しながら何かを掴んだ。

「これはゲームボックスのコントローラー! 懐かし〜!」

「そうだろう? 頑張って当時のものを再現したんだ。操作性も一緒だよ」

「マジかよ!?」

「いや、ついていけないんですけど……」

「大丈夫。ここまではわからなくても全然問題ない」

 そこから、新田さんは作戦を説明し始めた。

「まず、先ほど言った通り、その機体を使って飛行機に行ってほしい。そして、そこで薬または解毒薬をこちらに送ってくれ。玄武なら即座にできるはずだ」

「任せときな!」

 玄武はいつになく機嫌が良く、こんな状況にも関わらず、張り切っている。

「その機体の操作は玄武に任せるといい。おそらく彼なら簡単に操作できるはずさ」

 この男に操作を任せるには少々不安があるが、ここは甘んじて受け入れるしかない。

「これで作戦は全部だ。その機体は今回が初運転だから、壊さないでおくれよ」

「わかったわかった。任せろって」

 絶対壊すぞこの男。

「それでは準備はいいかい? 行くよ!」

 ゴウンゴウンと音がして、天井が開き、日光が入ってくる。

「ボルカニック・フェニックス! 発進!」

 そして、私たちの乗った機体はバシュンと地上へと打ち出されるのだった。



「フハハハハ! 行くぞお前ら!」

「頼むから安全運転で頼むよ!?」

 ダァンと大きな音を立てて、着地するロボット。着地した先にはゾンビが溢れている。

「うっわ多すぎ……」

 これには凛も思わず苦悶の表情を浮かべる。

「ゾンビの危険性はないだろうけど……。これ私たち立ちっぱなしなの!?」

「当たり前だ。ボルカニック・フェニックスは1人乗りだからな。座席は一つしかない」

 不安だ。ここからの運転があまりにも不安すぎる

「見ていろお前ら! これがボルカニック・フェニックスだ!」

 すると、玄武は何やらコントローラーをいじったかと思ったら、ロボットの腕が変形した。

「うわぁ!?」

「行くぜ! ボルカニックストーム!」

「どっちだよ!?」

 ロボットの腕から放たれたのは炎ではなく、凄まじい風。コックピットのモニターから見ているが、ゾンビがみるみるうちに吹き飛ばされていく。

「すっご」

「このまま進むぜ!」

「ちょ、ゾンビって元は民間人なんでしょ!? 踏んだらまずいんじゃ……」

『説明しよう!』

 すると、コックピットのモニターの一部に新田さんが表示される。

『正義の味方ボルカニック・フェニックスは民間人を踏んづけないために、地上から約3m浮いているぞ! 相当大きな人でない限り安心だ!』

「地味だけどしっかり安全に配慮してやがる……」

『後、コックピットの後ろ側にはリンゴジュース、バナナジュース、ぶどうジュースが置いてあるぞ!』

「あ、どうも」

『随分前に入れたやつだから、賞味期限には気をつけてな!』

「やっぱり飲むのやめます』

「おい俺もうそれ飲んじまったぞ!」

「飲むの早いな」

「えーと、賞味期限は……1ヶ月前に切れてる」

「んー……じゃあいけるか!」

「これ私生きて帰れるかな……」

 こうして、私たちは飛行機を目指すのだった。



「お前ら! 今から離陸するから、揺れに注意しろ!」

「えちょ」

「フライング・フェニックス!」

 グワンと機体が揺れて、ロボットが一気に上空へと飛び上がる。私と凛は何とか手すりに掴まり、事なきを得た。

「危なかった……」

「導華、私走馬灯見えた」

 若干ふらつく足のまま立ち上がり、モニターを見れば、何やら怪しい液体を散布している飛行機が見える。

「おっ、あれみたいだな」

 玄武はそれを見つけると意気揚々とコントローラーを操作し、飛行機へと向かっていく。

「意外と大きいね」

 飛行機の大きさは約30m程だ。大きいことには大きいのだが、ボルカニック・フェニックスが大きすぎるせいで霞む。

「んー……ロボットのままは入れなさそうだよね」

「……いいこと思いついた」

 そんな会話を交わしていると、黙っていた玄武が何やら怪しげな笑みを浮かべた。

「いやだよ私」

「導華、拒否が早い」

「だってアンタがその顔する時ろくなことないじゃん」

「まーまー。今回は有効な作戦だからさ。な?」

 玄武は手を合わせて、私にお願いをする。

「……まあ、そこまで言うなら」

「よっし、ビーム発射!」

「何やってんの!?」

 私の同意を聞いた途端、飛行機に向かって細いビームを放った。

「お前ら、防護服着ろ!」

 玄武は後ろにかかっている防護服を指差した。

「は? は?」

「急ぐぞ!」

 玄武に急かされて、私たちは防護服を着る。

「何する気!?」

「導華。ガンディア スペースバトルではどうやって敵の船内に侵入していたと思う?」

「いや、知らないけど……」

「正解はだな……」

 玄武はそう言いながら、コックピットの赤いボタンを押した。すると、コックピットが開き、外が見える。

「こうやって相手の機体に穴開けて、そこから入るんだよ!」

「はぁ!?!?!?」

「さあお前ら、突入じゃい!!」

「ちょっとま」

「レッツゴー!!!!!」

「うわああああ!!!!!」

 こうして、空に投げ出された私たちは、飛行機へと向かって落ちてゆくのだった。



「……やっぱこうなったか」

「玄武のことだし、こうなると思ったよ」

 その様子を研究所のモニターで見ていた新田と爆戸は笑っていた。

「それで、俺の仕事って何だ?」

「ああ、玄武たちが降りた後の機体を操作して、ここら一帯のゾンビを払ってもらうよ」

「了解!」

 そして、爆戸は意気揚々と遠隔操作用のコントローラーを受け取り、誰も乗っていないボルカニック・フェニックスを操作するのだった。



「……っと、到着!」

「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

 何とか飛行機の中に着地し、玄武は空いた穴に蓋を作った。

「これで吹っ飛ばされる心配は無くなったな」

「私はさっき命の危機を感じたよ」

 そんなことを言いながら周りを見れば、ゾンビがいっぱいいる。

「わー……。いっぱいいる」

「だな」

 玄武はその様子を見て、ニヤリと笑い、拳銃を抜いた。

「お前ら、準備はいいか?」

「……こうなると思ったよ」

 私は刀を抜き、構える。

「うん、大丈夫」

 凛もその体の周りに氷を纏わせて、ゾンビたちと相対する。

「それじゃあいくか!」



「玄武団、作戦開始!」



「「了解!」」

 こうして、私たちのゾンビパンデミック解放戦線が幕を開けた。

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