第50話 node/節
「『
凄まじい速度で演奏されるギター。その手を視認することができない。そこから放たれるのは、大量の雷。空気を揺らしながら、周囲を無造作に攻撃していく。
「いきなり、何するんですか!?」
できるだけ周囲の雷も吸収するように、刀を振るってガードする。
「……」
「止めたいけど、あんまりでかいこともできないし……」
無言で攻撃を続けるケラさん。大技を打ちたいが、ここはただの街中。現に周りには人がいて、逃げ惑っている。
「それに、なんで急に……」
それ以上に私はなぜケラさんが突然暴れ出したのかと悩んでいた。友人だから下手なことはしたくない。が、同時に友人に街を破壊してもらいたくはない。
「一体、どうすれば……」
友人としての気持ちと、守護者としての気持ち。その二つの気持ちの中で、私は迷うのだった。
「お〜、困ってる困ってる」
画面を見て、男が笑う。
「こら、
そんな彼を頂はしかる。
「へへ、スミマセン」
そして、改めて彼らは導華を見た。
「さて、友人を倒すのか、それとも……」
情は導華の様子をニヤニヤと見ていた。
「とにかく、まずは……」
ケラさんに刀を振えばいいのかはわからない。しかし、彼がああなる前に言っていたことを考えると、他人を傷つけたくないのは間違いない。
「みなさん、逃げてください!」
私の刀でどれくらいをカバーできるかもわからないし、そもそも私自身が街での戦闘に不慣れ。そのため、まず最初に周辺の市民を逃す。
「『迅雷』」
再び、雷が放たれる。今度は対策を考えた。
「『氷刃』!」
氷の刀が私たちを囲むように壁を作る。ビルとの距離を考えて、最低限道路上でも人、車が通れるくらいにして囲んだ。
「これならまだ、マシ!」
これにより、建物や人への被害はかなり抑えられるだろう。
(氷がいつ壊れるかもわからない。できるだけ早めになんとかしないと……!)
しかし、どうすれば良いのか。あの人を私は凛みたいに器用に氷で拘束することはできない。だから、止めるには刀で切りつけるしかないのだ。
「もっと、何か方法は……」
だが、私はそんなことしたくない。せっかくできた友人を傷つけるような真似はしたくない。
「……トメテ」
その時、私はケラさんの声を聞いた。思わず、そちらを見る。
「……コロシテデモ、トメテ」
そう言って、彼は無表情で涙を流した。
「……そう、か」
私は甘い。甘っちょろい。こんなことも自分では決められない。
だけれど、たった一つわかることがある。
「友人の願いなら、叶えてあげるべき!」
刀を振るう理由を見つけられた。だったら私は、戦う。それが私にとって辛い決断でも。
「『炎刃』!」
雷が飛び続ける中を抜けるため、私は刀に魔力を流し、炎で刀を包み込んだ。
「待っててください、ケラさん!」
ただ無表情で、ギターを鳴らし続けるケラさん。私はあの人の下へ向かうべく、走り出した。
「『
ギターのリズムが変わった。先程よりも一層激しく、雷の数も倍ほどに増える。
「だけど、負けない!」
しかし、怯んではいられない。無数にも飛んでくる雷撃。それを全て刀で受け止め、吸収する。
「こういう時、こいつは頼れるんだよね……!」
異世界転生してからずっと一緒だったこの刀。きっと、私のためにここにどこかからやってきてくれたのだろう。本当に、頼りになりっぱなしだ。
「ありがとう、相棒。あなたのおかげで、みんなを護れる!」
ただ走る。雨の如く降り注ぐ雷を掻き分け、足を強く踏み出し続ける。
「もう少し……!」
段々とケラさんとの距離が縮まってきた。
「『
その時、さらにケラさんのギターの速度が速くなる。それによって、今まで散っていた電撃たちが、私に一直線に向かってくる。その様子はまるで一筋のレーザーのようだ。
「まだこんな技が……」
だが、止まらない。止まってはいけない。
「ケラさん、今行きます!」
やってくる電撃に真っ向から向かっていく。
「『炎刃全開』!!!!!!」
炎と雷。二つがぶつかり合う。
「ぐっ!」
やはり、凄まじい威力だ。私が少し押される。
「だけど、まだ……」
それでも、諦めない。
「私は、ケラさんの願いを、叶えたい!」
最後に聞こえた微細な願い。その願いは私の心に届いた。
「叶えるの、私は嫌だけど……。友達がそう願ったんだったら、それを叶えてあげるのが筋ってもんでしょ!」
一気に流す魔力の量を上げる。炎が大きく燃え上がる。
「いっけぇええええええ!!!!!!」
相棒は、電撃を全て吸い込んだ。そして、その刃をケラさんの胸に叩き込んだ。決して、その刃をギターに当てないように。
「『
その刃は、友の暴走を止めたのだった。
「ほぉ〜、やるね〜!」
「お〜、僕も結構出力あげてたんだけどな〜」
ケラを倒す瞬間を、魂と情は共にパソコンで見ていた。
「ふむ、やはり強い」
「言った通りでしたね」
すると、頂はコーヒーカップを持ったままコツコツ歩き、情たちの所にやってきた。
「天敵は、確認できた。では、次の段階に移ろうか」
「了解です。各地の部隊を動かしますね」
そう言って、彼はまたパソコンを動かし始めた。
「世界が、ひっくり返るのは、もうすぐだ」
頂は己の後ろにある世界地図を見て、手に持ったコーヒーカップを逆さまにした。
「……ふぅ」
周囲への影響はほぼない。作戦としてはパーフェクトだろう。
「犠牲は、除いてだけどね」
私は横たわるケラさんの所に歩いて行った。
「大丈夫ですか、ケラさん」
あれだけの攻撃を喰らってもなお、まだ息がある。しかし、長くは持たないだろう。
「何か言いたいことはありますか? 友人として、聞きます」
「……まずは、ありがとう」
私は彼を静かに見た。
「私は残念ながら、人間ではないんだ。いわゆる、付喪神のなりぞこない。ものについた魂だ」
「そうだったんですか」
「私の親友は、私をある廃屋に置いて出て行った。絶対に帰ってくるから待っててと言ってだ」
「言ってましたもんね。そんなこと」
「その後、ある組織が持って行って、私の魂をマネキンに移していい人形として使った」
「その組織は?」
「アンダーグラウンドだからいう組織さ」
「……そうですか」
「そしてだ。最後にこれを君に頼みたい」
そう言うと、ケラさんは私にギターを手渡した。
「これ……」
「私はやがてそこに帰る。そうなったら、誰もそれを預かってあげる人がいなくなる。だから、預かっておいてくれ。そいつは、持ち主に合わせて形が変わるから、好みの点は保証する」
「……わかりました。私もギター、練習します」
「ははは、ありがとう。これで安心して眠れる。あとは頼んだよ、友達」
「ええ、任せてください」
私は、ケラさんの手をぎゅっと握った。次第にケラさんの手から温かさがなくなっていき、最終的に硬いマネキンになってしまった。
「あーあ。弱いな、私」
私はもらったギターを抱きしめた。
「こんなことで、泣いちゃうなんてさ」
私は、静かに涙した。ポタリとギターに涙が落ちる。
「……ギター、濡らしたらダメだよね。もう、泣き止まなきゃ」
口ではそう言うし、頭でもわかっている。だけど、止められない。
「本当、私は、弱い女だなぁ」
「ふんふ、ふんふふ〜ん」
「あれ、導華。ギター買ったの?」
その日の夕方ごろ。凛が帰ってきた。その頃私は、自室でギターを拭いていた。
「いや、友達に譲ってもらった」
「綺麗なギターだね」
白色のギターは、夕日に照らされて少しオレンジ色をしていた。
「でしょ?」
「何か一曲弾けない?」
「う〜ん、そうだなぁ……。何かリクエストとかない? ジャンルとか」
「えーっと……。ラブソングとかどう?」
「はは、なんだか凛らしいや」
「別にいいじゃん」
「いいよ。弾いたげる」
「やったー!」
まるであの人のような優しげなギターの音色が、部屋にこだました。
「……はい、はい、はい。わかりました。本人に言っておきます」
ある日の午後。事務所に行くと、玄武が電話をしていた。
「レイさん、コーヒーもらっていいですか?」
「はい、少々お待ちください」
私は、レイさんにコーヒーをもらおうと台所に来ていた。
「お〜い、導華。いい知らせ2つが入ったぞ」
「ん〜、何?」
「まず、あのギターはお前がそのまま持っていいだと。なんかあったら言えって」
「あ、良かった〜」
私はあの後、一応ということもあってギターを検査してもらっていた。今は自室にあるが、そのまま持ってていいようだ。
「こちら、コーヒーです」
「あ、どうも」
レイさんにホットコーヒーを貰い、飲んだ。
「それで、もう一つは?」
「お前に取材の依頼がきた」
私はコーヒーを吹いた。
数時間後。事務所に担当者さんが来た。
「あの〜、団長さん。大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと任務で火傷しただけです」
アツアツのコーヒーがかかったせいで、手に火傷を負った玄武と、その原因の私はソファに座って話を聞いていた。
「それで……私に取材って本当ですか?」
この人は、『守護者エブリデイ』という雑誌の担当者さんらしい。メガネをかけた恰幅の良い男性だ。
「ええ。今度の『最近話題の強い女性特集』という記事で取材を行いたいと思っておりまして……。簡単なインタビューに答えていただきます」
一応、数時間の間に簡単な返答は考えておいた。しかし、なんとも来るのが早い気がする。
「ええ、わかりました」
まあおそらくは答えられるだろうということで、取材をスタートさせた。
「え〜、それでは取材を初めていきますね」
「よろしくお願いします」
「まず、お名前をどうぞ」
「田切 導華です」
「使用武器と得意属性の方は?」
「主に刀で、得意属性は炎です」
「田切さんと言えば、様々な属性を使われているという情報がありますが、これは?」
「はい、私の刀は特殊で様々な攻撃を吸い込むんです。雷や氷は一度吸収したそれを、自分の魔力を流すことで使えるってな感じなんです」
「ほぉ〜、随分変わった武器なんですね。それで、入手方法などは……」
「それはシークレットで」
「了解しました。それでは、守護者になろうと思ったきっかけはなんですか?」
「私、昔は単なる会社員だったんです。ですが、玄武団の団長や、知り合いの刀鍛冶の方を見て、私もあんな風に人を護りたい、誰かを護ってその人の夢を叶える手伝いをしたい。そう思ったんです」
「ほ〜、会社員から守護者に……。随分思い切った決断をしましたね」
「ええ、怖かったですが、自分の夢を叶えたいなって思いまして」
「すごいですね〜! それでは、その服装には何か意味が?」
「ああ、これは動きやすいし、しっくり来るってだけです」
「なるほどなるほど……」
担当者さんは、聞いた内容を手慣れたようにメモを取っていく。
「それでは最後に聞きます。田切さんの思う、守護者の意味とはなんですか?」
「意味……ですか」
そんなこと考えたこともなかった。しかし、少し考えてみて、ある答えがしっくりきた。
「あ〜、守護者の意味ですよね?」
「はい、そうです」
「私の思う守護者の意味は……」
その2週間後……。
「お〜、載ってる載ってる」
「結構すぐ載ったね」
私と玄武、そしてレイさんは机の上に雑誌「守護者エブリデイ」を乗せて見ていた。
「ほ〜、結構ちゃんと答えられてるじゃねぇか」
「当たり前でしょ。一応、元社会人だし」
特集にはインタビューの様子や、どこで撮ったんだという写真が載っていた。
「いや〜、まさか副団長よりも先にお前が載るとはな。感慨深いぜ」
「そういえば、うちの副団長って誰なの?」
よく考えたら、聞いたことがない。団長がいるなら、副団長がいてもいいはずだ。
「ん〜、まあその話はまた今度してやるよ」
そう言って、玄武はチョコスティックを食べた。
「……お、いいこと書いてるじゃねぇか」
「まぁね」
玄武は「Q.守護者の意味とは?」という部分を見ていた。
「……お前何冊買ったんだ?」
朝の学校。私は袋いっぱいに詰まった雑誌を机に置いた。
「ん? 50冊以上」
「なんでそんなにいるんですか……」
「切り抜く用、切り抜く用予備、保管用、保管用予備、読む用、読む用予備、使う用が10ストック、あとは……」
「もういいです。ありがとうございます」
「あの、アンさん。途中の使うようってなんだったんですか?」
「わからん。ただやましいことだということは分かる」
そして、3人にも雑誌を渡した。
「いいんですか?」
「うん。元からその想定で買ったから」
みんなでペラペラと読んでいき、ついに導華のページに辿りついた。
「お〜、マジで載ってる」
「すごいですね」
「流石導華。いつか有名になると思ってた」
「お前は古参ファンかって」
そのページをじっくりと読み、私は導華の姿を思い浮かべた。
「いや〜、やっぱ導華さんはいいこと言うな〜」
「ですよね。なんだか、等身大の尊敬……というか。って、凛さんなんで泣いてるんですか」
「うっうっうっ……。有名になっだねぇ。みぢか!」
「お前は母親かって」
その一言で、私たちは笑った。
「デニーさん。何読んでるんです?」
「オーウ、大野サン!!! 見てくだサイ!!!」
デニーは彼の勤務先のトレーニーにそれを見せた。
「田切 導華……。ああ、デニーはさんとこのお侍さんですか」
「そうデース!!!」
デニーはそのページを読み、一言こう呟いた。
「有名になりましたね。導華さん」
「いや〜、やっぱり父さんの目は正解だったな!」
「父さんは運が良かっただけでしょ」
朝の山守神社。そこで竹下親子は雑誌を見ていた。
「本当、田切さんには感謝しかないよ」
「父さんもそう思うぞ!」
「お〜、載ってるのじゃ!」
「すごいなの!」
ここはらんまの研究所。そこにらんまと星奏は寝転がって雑誌を読んでいた。
「ここまでになるとは……。ワシも誇らしいのじゃ」
「私もなの!」
二人は鼻をさすった。
「ふんふふんふ〜ん」
ある一室。日の当たるリビング。彼女は毎号楽しみにしている「守護者エブリデイ」を読んでいた。
「……あら?」
彼女の手は、導華のページで止まった。
「……ふふふ。いいこと言うわね」
彼女の見ていたところには、こう書いてあった。
「Q.田切さんの思う、守護者の意味とは?」
「A.街を守る……というより、自分の大切な何かを護ること。それが意味なんじゃないかと思いますね」
「……決めたわ」
彼女はスクッと立ち上がり、こう言った。
「私、この子の姉になるわ!」
第8章 The Story of the Future 〜完〜
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