第49話 reminiscent/思い出させて

「秘密結社ねぇ……」

 えらく厨二病くさい集団だ。

「世界をひっくり返す〜とかほざいているようだよ。全く、馬鹿げてるね」

 ナイフをクルクルと回しながら、スージーは言った。

「まあ、この情報を知ったところで君たちにはあまり関係ないかもしれないがね」

 そして、クスッと笑うのだった。



 私たちは今一度、一番最初の部屋に戻ってきた。

「さて、もうやることは終わったんだろう? さあ、帰った帰った」

 手をヒラヒラとさせて、スージーは帰るように促した。

「いや、まだちょっとお願いが……」

「なんだい?」

「それを話すにはちょっと場所が……」

「ふむ、ではまた研究室にでも戻ろうか」

「ありがとうございます。あ、凛は帰ってていいよ」

「わかった。私の部屋で待ってるからね」

「……ハイ」

 凛はウインクをして、クレアラさんに地上へと案内されて行った。

「それで、お願いとはないんだい?」

「その……えっと……」

「なんだい、早くいいなよ」

「……女の子って、どうやった満足するのかなって……」

「満足っていうのは?」

「その……気持ちいい的な意味で」

 それを聞き、スージーは笑う。

「ハハハ! 科学者に何を聞くかと思ったら、そんなことかい!」

「真剣に悩んでるんですよ!」

 今私は家に帰ったら、確実に凛にあーいうそーいうことを求められる。しかし、私は何をしたらいいのか全くわからない。潜在的にはわかっているのかもしれないが。

「いいだろう。私がいっつもやってる方法を教えてあげよう!」

「あ、ありがとうございます」

「そうだね。ちょっと待っていたまえ」

 スージーは研究室の大きめの棚をガサゴソと探す。そして、中からマネキンを取り出した。

「これはね、私が作った人間そっくりのマネキンだ。ちょうどいいから、これでやり方を教えてあげよう」

「あ、はい」

「それと、道具は使う予定かい?」

「使わない方向性でお願いします」

「了解だ。では、講座を始めよう!」

 そこから、2時間20分にもわたるスージー先生の講座が始まったのだった。



「早く導華、帰ってこないかな〜」

 ベッドの上で、パリパリとせんべいを食べながら、私は導華を待っていた。

「コンコン」

「は〜い」

 誰かがドアをノックした。

「あ、バタフライさん」

 その正体は、バタフライさんだった。

「こんにちは」

「最近、よく会うわね」

「どうしたんですか?」

「ちょっと気になることがあってね。入ってもいいかしら?」

「いいですよ」

 そして、バタフライさんはベッドの上の私の横に座った。

「一つ、気になったことがあってね」

「なんです?」

「これは私の推測だし、別にあなたが嘘つきだということを言いたいわけでもないの」

 そして、バタフライさんは神妙な面持ちで言った。

「本当に、あの夜に導華ちゃんはあなたを襲ったの?」

「……そのことですか」

 私は、あの時のを思い出す。



「まっ、まって! 心の準備が……」

「えりゃ〜!」

「あ、ああ、うあ!」

 そして、導華は私の首に噛みついた。

「い、痛いよ……」

 ガジガジと歯形をつけるように噛みついた導華。私は、次は何が来るのか心臓が破裂しそうだった。

「……でも、導華になら、何されてもいいよ?」

 クルリと導華の方を見た瞬間、私は言葉を失った。

「……寝てる?」

 なんと、導華は噛みついたままスウスウと寝息を立てて眠っていたのだ。

「そういえば、前もベッドに行った時爆速で寝たっけ」

 以前酒を飲んだ時にも導華はすぐに寝たことを思い出した。しかし、同時にあることを思いついた。

「これって、既成事実作れるんじゃない?」

 そう考えた私は、まず導華の服を剥いだ。一応、下着は残した。

「うへへ……いい体♡」

 そして次に私も下着姿になる。

「これでよし」

 次に、導華の歯の型を氷でとった。そして、入れ歯のようなものを作った。

「ふふふ……」

 そうして作った歯形を私の体に押し付けていく。すると、導華の歯形が体にできていく。

「いけないんだぁ〜♡」

 するとそうだろう。まるで導華が女子高生を襲って、身体中に歯形をつけた変態に見えるではないか。

「……最後に〜♡」

 そして、仕上げに導華の首に噛み付く。

「表向きは私はあなたのもの。だけど、本当はあなたは私のもの」

 じんわりと血の滲む歯形が、そこに残る。

「導華は、悪い人に捕まっちゃうかもな〜」

 こんなことをされても、スウスウと寝ている導華を、表向きは心配しながら、内面では少しの興奮を覚える。

「これなら、何をしても気づかないだろうし、何しても……いいよね」

 胸を揉み、髪をしゃぶり、耳を舐め、その度に体の火照りを感じる。

「最っ高……♡」

 どこか支配欲のようなものが満たされていくのを感じる。今までに満たされなかったこの感情。それが、だんだんと満たされて、興奮する。

「まだ……もうちょっとだけ……」

 決してやってはいけないことだとわかっている。しかし、止められない。自分はあくまで被害者でいられるを作れてしまったから。もう、導華が離れることのできない手段を作ってしまったから。

「導華なら、責任感を感じるもんね。いい子だもん♡」

 ぎゅっと、導華を抱きしめる。体の全てを擦り付けるように、まるで野生動物が自分の痕跡を残すように。

「ずーっと一緒だよ♡ み・ち・か♡」

 その数十分後。玄武が私たちの部屋を覗くのだった。



「……あの時の導華は泥酔していた。そして、各個人の部屋には監視カメラはない」

「……何が言いたいの?」

「あの夜の真実を知っているのは、私しかいない」

 だから、教えない。教えてしまえば、導華が私と距離を置くから。いつの日か、私が押し倒した時のように。

「そう。別に私は二人の関係をどうこう言う気はないわ。だけど、きっといつか後悔するわよ」

「それでもいいです。私が選んだ道なので」

 私は、首についた噛み跡を優しく触った。



「そういえば、バタフライさんは何でここに?」

 現在時刻は夜の9時。どうしてこんなところにいるんだろうか。

「ああ、玄武くんにお届け物があって来たのよ」

「お届け物?」

「そう。珍しくうちのオーナーが手紙を出してね。切手代の節約だって言って私に行かせたのよ」

「へ〜」

「なんでも、高校時代の友人集めて飲むんだ〜だって。なんだかんだで仲良しよね〜」

 バタフライさんは手を頬に当てて笑った。

「手紙も渡したし、帰ろうかしら」

「もう夜も遅いですしね」

 そして、バタフライさんは立ち上がった。

「それじゃあ、バイバ〜イ」

「それでは」

 バタフライさんは手を振って、バーに戻って行った。



「ただいま〜」

 講座が終わって、帰ってきたのは11時。随分と遅くなってしまった。

「おかえり」

 そんな私を待っていたのは、凛だった。

「待ってたよ」

 そう言って凛は、にこりと笑った。

「ちゃんとシャワーも入ったし、準備はできてるよ?」

 私に抱きつき、私を見上げる。

「もちろん、ご・ほ・う・び……くれるよね♡」

「……もちろん」

 己でやってしまったのなら、仕方がない。責任はしっかり取る。

「それじゃあ……私の部屋、行こっか♡」

 凛に手を取られて、部屋へと向かう。

(ああ……異世界転生した時の私は、こうなるだなんて予想してたのかな……)

 初めて自由を手に入れて、舞い上がっていた私に待っていたのは、まさかの酒に酔って女子高生を襲うという結末だった。しかも、酔い過ぎて記憶がない。

「さ、早く♡」

 凛の部屋に入り、凛はベッドに入った。

「……うん」

 覚悟を決めて、スージーさんに習ったことを思い出す。

(まず体触って……次は指で……)

 ゴソゴソとベットに入り、凛と至近距離で向き合う。

「それじゃあ……エスコート、よろしくね♡」

 そうして、私の最難関の戦いは始まった。



「……凛、大丈夫?」

「はーっ、はーっ、だ、だいじょうびゅ……」

 数時間後、私は膝がガクガクの凛を担いで、部屋から出ていた。

「み、導華うましゅぎ……」

「あ、あはは……」

 スージーさんに教えてもらったことをちょちょいとやったら、あらまびっくり。凛はこのザマになってしまった。

「水、飲む……」

 フラフラのままくらい事務所で水を飲んだ。

「……はーっ」

 水を飲んで、落ち着いたようだ。その後、私たちは一旦、私の部屋に行った。

「こんなに導華が上手いとは思わなかった」

「スージーさんにマネキン使いながら教えてもらったんだ」

 汗だくの凛を見て、少しやり過ぎたかと心配する。私もまさかここまで聞くとは思わなかった。

「つ、次はもうちょっと手加減するね?」

「いや、いい」

 凛はなぜか真っ直ぐな目で言った。

「また、よろしくね?」

「う、うん」

 そうして凛は部屋に戻って行った。



「ふーっ……」

 今日は私はあることを思った。

「マッサージ……凄すぎない?」

 私は絶対に凛にあんなことやそんなことを求められると踏んでいた。だからこそ、そーいうことになる前に、もっと健全な方法で気持ちよくしてしまえばよいのだ。

「スージーさんに教わって正解だった〜」

 流石に女子高生相手に下手なことはできない。こうしてなんとか気持ちよくなってもらえて助かった。

「いや〜、本当に良かった〜」

 疲れ切った私は、そのままベッドに横になった。

「今日はもう寝よう……」

 そして、私は目を閉じた。



「……くっ!」

 私は部屋に戻り、机を軽く叩いた。

「まさかマッサージに屈するとは……」

 導華とあんなことやそんなことをしようと思っていたが、導華が提案したマッサージで骨抜きにされてしまった。

「私としたことが……」

 私は初めて、己の不甲斐なさを感じた。

「次こそはあのマッサージを乗り切って、本番まで持って行ってみせる……!」

 しかし、私はある問題に直面した。

「……マッサージに耐えるって何したらいいんだ?」

 私と導華がイチャイチャできるのは、まだ先になりそうだ。



「あ〜、暇」

 スライム事件から数日経ったある日のこと。任務を頑張ってこなしたが、それでもお暇な私はソファで昼寝でもしようか悩んでいるところだった。

「ジャジャーン、ジャーン」

 そんな時、外からギターの音が聞こえた。

「……見に行ってみるか」

 その時暇だった私は、それを見に行ってみることにした。

「ラララ〜♩」

 外では中性的な見た目をした黒髪の人が、アコースティックギターを奏でていた。いわゆる、ストリートミュージシャンというやつだ。周りには観客が数にいる。

「……ありがとうございました」

 演奏が終わり、大きな拍手が起こった。それと同時に地面に置かれたギターケースにお金が入っていく。

「美味かったなぁ」

 演奏を途中から聴いた私だったが、そのうまさには感動した。そこで、私は少し多めにお金を入れた。

「どうも、ありがとうございます」

 すると、そのストリートミュージシャンはぺこりと礼をした。誰にしたのかと思ったが、周りには誰もいない。

「……私ですか?」

「はい、そうです」

 なんと、このストリートミュージシャン、私に礼をしたようだった。

「あの……好きな曲とかはあったりしますか?」

「あ〜、えっと……」

 この世界に来て、まだ音楽はあまり嗜んでいない。私は返答に困り、こう言った。

「あ〜、あれが好きです。ロック。曲名はちょっと覚えてないですけど」

「へ〜、意外」

「あはは……」

 一応ロックは好きだった。いつかエレキギターも弾いてみたいと思ったのはよく覚えている。

「それじゃあ、弾きますね」

 すると、なんとその人のアコースティックギターの形が変わり、エレキギターになった。

「わぁ、すごい!」

「僕の自慢の相棒です」

 そして、そのエレキギターでロックを奏でてみせた。その音は激しく力強い。

「……ありがとうございました」

「お〜」

 いつのまにか集まった観客と一緒に拍手をした。

「お上手ですね」

「ええ。昔親友から教えてもらったもので」

 そう言って、彼はギターを大事そうに触った。

「僕、昔このギターを親友から預かりまして。親友はどこかに行ってしまったのですが、私は彼を待ち続けているんです。きっとまた、このギターで演奏してくれると」

「そうなんですね……」

「私は、ケラと言います。この辺で不定期に演奏してるんで、いつかまた聴きに来てください」

「はい」

 そうして、私は事務所に戻り、ストリートミュージシャンはどこかへ去って行った。



「お、接触したみたいですよ」

 ある暗い部屋。そこでとある集団は密談をしていた。

「そうか」

 そこでパソコンをいじり、画面に導華の写真を写す。それをトップである男に見せる。

「この女の人が、一体なんなんです?」

「そいつは、いつか絶対、我々の敵になる」

「へー、そうなんですか」

 興味のなさそうな声で、彼はそう言った。

「ま、あなたが言うならそうなんでしょう。いただきさん」

 その団体の名は、秘密結社Under ground。そのトップの名を「頂」と言った。



「玄武、ちょっと私外出てきていい?」

「いいぞ」

「即答……」

「まあ、最近化ケ物の活発じゃないしな。別に大丈夫だ」

 ある日の昼ごろ。私は流石に動かないのもどうかと感じ、外に出ることにした。

「あ〜、またあの演奏聴きたいな〜」

 あれから数回ケラさんに会って、演奏を聴いていた私は、あの人に会えないかと思って歩いていた。

「お、あれっぽくない?」

 歩いていると、またケラさんを見つけた。

「あ、田切さん。どうも」

 演奏の準備をしていたところで、ギターを出したところだった。

「どうも」

 ケラとも仲良くなり、段々とこの町での友好関係が広まって行ったように感じた。

「今日は何を演奏するんです?」

「今日はですね……」

 そうやって、今日演奏する予定の曲を聞くのが、私は楽しみだった。



「あ〜、これは完全に油断してますね」

 暗い部屋にパソコンをつけて、空中にあるドローンの映像を見る。

「どうします? やっちゃいます?」

「今の彼女の実力を、知りたい。やれ」

「アイアイサー。お〜い、たましい。出番だぞ〜」

 むくりと、ある男が起き上がった。

「仕事ですか〜? ファ〜」

「そうだ。こいつの霊魂を動かせ」

「りょ〜かい」

 そうして、彼はあるスキルを発動する。

「『魂暴コンボウ』」



「それで……」

 話を聞いていた時、なぜかケラさんの動きが止まった。

「……大丈夫ですか?」

「……ハナレテ」

「え?」

 その瞬間、凄まじい電撃が私を襲う。

「うわっ!」

 思わず吹っ飛ばされてしまう。

「一体何が……」

 そして、気づく。その電撃がどこから出たのかを。

「何してるんですか。ケラさん」

 ギターを背負い、赤く光る目。いつものケラさんとは全く違う。

「スミマセン。モウトメラレマセン」

 ギターを弾き、バリバリと空気を揺らすほどの電撃を街中で響かせる。

「うわっ、やめてください!」

 しかし、その言葉はケラさんに届かない。

「オネガイデス。タギリサン」

 ケラさんは顔を上げて、こっちを向いた。



「トメテクダサイ。ミナサンヲ、マモッテクダサイ」



 機械的で苦しそうな声だった。

「……なんでこうなるんだ」

 刀を抜き、私はその人……いや、人かすらわからない友人の願いを叶えることにした。

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