第41話 abyss/深淵

「先生?」

 空を飛び続ける飛行船の司令室。その中で北原という男は、彼のロケットを見せてきた。

「はい、私の……いえ、私たちのたった1人の恩師です」

「それで、その恩師さんが一体何で企業と関係してくるんだよ?」

 すると、北原は目を細め、過去を語り始めた。

「先生は、素晴らしい人でした」



 先生。彼は私たちに頑なに名前を教えなかった。だから、私たちは「先生」という呼び名しか知らない。

 しかし、私たちの住んでいた小さな村では、それだけでも十分だった。

 若者が村を出ていき、村唯一の学校も生徒数が4人。そして、教師は先生1人。校長も入院したままで、実質的にあの学校は先生のものだった。

 昔から住んでいた先生は、村の人たちとたいそう仲が良かった。

 メガネをかけ、過去にクマに襲われたという大きな顔の傷がトレードマークだった。

 私たちも先生が大好きで、先生は色々なことを教えてくれた。

 そんなある日のことだった。



「……村がなくなる?」

 私は両親からそのことを聞いた。なんでも、政府のダムの開発に邪魔になったらしい。

「それで、私たちは出て行かないといけないのよ」

 母親も、父親も納得しているようだったが、私は納得していなかった。なぜ、そんな勝手な都合で慣れ親しんだこの村から、移り住まなければならないのだろうか。

「今日も村をガンデイ株式会社の人たちが回って、説得していたわ」

 そんな話は、もちろん学校でも話題になった。

「なぁ、俺たちここから出て行かなきゃならないんだってさ」

「アタシ、納得いかないよ!」

 中学3年生。まだまだ未熟だった私たちに、その現実は酷すぎた。

「先生!」

 そうして、みんなで先生に泣きついた。先生なら、なんとかしてくれるかもしれないと思ったからだ。

「……私だって、ここを離れるのは嫌だ。しかし、何度も村長に直談判したが、もう決定しているの一点張り。もう私ではどうにもならない。君たちがここを卒業すると同時に、ここをみんなで離れる。それが上の出した決定だ」

 その言葉を聞いて、全員が肩を落とした。もうここにはいられないんだと。

「……なあ、だったらさ」

 そんな時、私たちのリーダー的存在だった、東山ひがしやま 健太けんたが、こう提案した。

「だったら、せめて卒業する時ぐらいは、笑顔で出ていけるように、今から頑張ろうぜ! そんな暗い顔で出くのは、嫌だしよ?」

「……そうだな」

「そうしよう!」

「うん」

 それから、私たちは全力で遊び、精一杯学んだ。

 先生も、私たち一人一人が学びたいことを教えてくれた。

 そうして、月日は流れた。



「……いよいよ卒業だな」

 時に流れは速く、ついにその日が来てしまった。

「この学校とも、この村ともお別れか」

 古びた校舎を五人で並んで、眺めた。

「そうだ。最後にみんなで写真を撮らないか?」

 先生がそう言って、カメラを持ってきた。私たちが、これを断るわけがなかった。

 村の人にカメラを渡し、五人で並んだ。

「はい、チーズ!」

 そうして、私たちは村を出た。



「……その数週間後。私たちはディザウィッシュに来ました。村の全員で来たのです。そのはずでした。しかし、なぜか先生の姿がなかったのです」

 ゴウンゴウンと飛行船の動く音が響く。

「月日が流れて、私はついに元凶であるガンデイ株式会社こと、今の会社に就職。管理職まで登り詰めました。そして、会社のデータベースを調べたら、ある不可解な点を見つけたのです」

「不可解な点?」

「はい。今のあの街は実質的に、全ての実権を議会からガンデイが金で買収して成り立っていて、探せば住民情報が会社の中にあるのです」

「腐ってる……」

「それでなのですが、ここ数年で失踪した人の名前の横に、『済』の文字があったのです。さらに調べていくと、会社の地下に房があることがわかりました」

「房!?」

「どうやら、会社に楯突いたものを、監禁して、エネルギーを奪い取っているようなのです」

「そして、その先生の名前にも済があったと……」

「そういうことです」

 闇が深い。ただその一言に尽きる話だった。

「むちゃくちゃな街だな……」

「……襲った立場である私が、こんなことを頼むことがおこがましいということは、十分理解しています。しかし、我が社の防衛システムを打ち破れるのは、あなた方しかいません。どうか、力を貸していただけませんか?」

 そう言って、北原は頭を下げた。

「ほい、これ」

 そんな北原に玄武はあるものを差し出した。

「……これは?」

「そいつは依頼状。うちでは依頼人はみんなこれを書くことがルールだ。待ってろ、今拘束解いて、ペン渡すから」

「じゃ、じゃあ!」

「ふっ、俺たち玄武団、受けた依頼はきっちりこなすぜ、なぁ?」

 玄武はこっちに話を振ってきた。

「ま、導華も探さないとだし、ちょうどいいでしょ」

「ワタシはもちろん頑張りマース!」

「うん、頑張ろう!」

「ポ!」

 全員、意見は同じようだ。

「あ、ありがとうございます!」

 そうして、私たちの任務が始まった。



「んじゃ、ちょっと聞きたいんだが……」

 皆が、飛行船の船内へと撤収する中、唯一玄武が残り、北原に耳打ちする。

「なんですか?」

「この飛行船……改造していい?」



「ふんふふんふふ〜ん」

 夜の9時頃、らんまはテレビのホラー特集を見ながら、ポテチを食べていた。

『……知ってますか? ここの井戸、出るんですよ』

 古びた井戸がテレビに映り、老人がインタビューに答える。

『夜になると、中から人が……』

「ははは、科学的じゃないな〜……」

 そんなふうに笑いながら、ポテチを食べるが、内心はかなりビビっていた。

『その映像がこちら』

 パッと画面が切り替わり、井戸がアップで映る。

「……ふ、ふ〜ん?」

 ピタピタと水道の水が落ちる音に、妙に耳が敏感になる。

 そして、徐々に井戸がアップになっていく。

「……何もない?」

 そんな時、突然の出来事だった。

「あ、らんまか? ちょっと話が……」

「イヤアアアアアア!!!!!! お化けえええええ!!!!!」

「え、ちょ待」

「大丈夫ですか!?」

 運悪くテレビの真ん前に転移門を作り、上半身を出した玄武は、全力で四根に殴られた。



「いってぇ!」

 レイに手当てをされながら、玄武はパラパラと紙をめくった。

「突然出てくるななの!」

「だからって殴るのはねぇだろ!」

「まあまあ、2人とも落ち着くのじゃ」

 今三人がいるのは、飛行船の上部の楕円形の部分の先端。ここは飛行船自体の形の関係で、デットスペースになっており、横に5メートルほど空間ができていた。

「それで、こんな夜にわしらを呼び出すとは、一体何のようなのじゃ?」

「そうだったそうだった。まず、お前らを転移で呼び出した理由を説明する前に、現状を話さにゃならん」

 そうして、玄武は今現在、この船がディザウィッシュという都市に向かっていること、そこにあるグリーズなどの話を全て2人に伝えた。

「なるほど……。全てのエネルギーを吸収する球……厄介じゃな」

 星奏は腕を組み、顔をしかめた。

「魔法をぶつけて破壊しようにも、その魔法自体が無効化されてしまってはな……」

「それで、結局私たちを呼んだのって、結局何なの?」

「それはだな……」

 そして、玄武は次に自分のやろうとしている計画を話した。

「……バカなの?」

「正気を疑うのぉ……」

「いやいや、結構有効な対策だろ?」

「確かにそれが成功すれば最高じゃが……」

「でもよ、全員を救うには、これしかないと思うんだよ。だから、頼む! 俺に協力してくれ!」

 玄武は手を合わせ、2人に頭を下げた。それを見て、2人は口角を上げた。

「……しょうがないのぉ」

「まあ、石の心臓の恩もあるし、手伝ってやるの」

「お前ら……ありがとよ!」

 こうして、三人の計画が始まった。



「……暗いですね」

 黒いゲートを抜けて、私と西村さんはディザウィッシュに潜入した。

 まず最初に気づくのが、街全体を大きな黒い結界が覆っていることだった。西村さんによると、これが日光を吸収しているらしい。

「街の人も元気がないですし……」

 先程の説明の通り、道を歩くと、力無く歩く住民ばかりが目に入る。

「これがディザウィッシュ。全く、闇が深い街ですよ」

 ガスマスクをして、表情の見えない西村さんが言った。その言葉の通り、本当に人が暮らせる場なのか疑うほどの景色だ。

「……もうすぐですよ」

 西村さんに連れられ、歩くこと数分ついにその場所に着いたらしい。

「ここを降りれば、下に闘技場があるそうです。あと、ここ違法なので一応マスクか何かしたほうがいいですよ」

「へぇ、詳しいんですね」

「ええ、友人がここにいるもので」

 そんな西村さんの説明を聞き、すぐ近くの雑貨屋で仮面を買った。価格は2400円。割高だ。

「それじゃあ、いきましょうか」

 扉を開き、カンカンと鉄の階段を下る。

 最初は暗かったその道だが、段々と光が見えてきて、歓声が聞こえてくる。

「うおおおおおおお!」

『さあ、もう間も無く地下闘技場:電話争奪生き残りバトルを開始します!』

 目の前に広がる人の群れ。中心には半径5メートルほどで、高さ4メートルほどのフェンスに囲まれた六角形のバトルフィールドが設置されている。

 フェンスを通して向こう側には、アナウンスをしている髪に緑のメッシュを入れた女の人がいる。

「うおー、熱気が……」

 それにしても、人が集まった熱気が凄まじい。汗が出てくる。

「ほら、田切さん。早くしないとエントリー終わっちゃいますよ」

「あ、はい!」

 大急ぎで仮面をし、フェンスを跨いで反対側にあるブースでエントリーをする。

「名前……」

 迷いに迷って、T.grayにした。どこぞの怪盗の真似だ。

『さあ、それでは本日も初めていきましょう!電話争奪生き残り合戦! 何でもアリの無法地帯ルール! 選手の皆様は入場してください!』

「くっくっく……」

「フフフ……」

 屈強な男、なんか目が細いレイピアを持った背の高い男、多分手持ち無沙汰になって、その辺にあった木を引っこ抜いてきた人……。様々な人たちがフェンスの中に入っていく。

「できるだけ真ん中の方……」

 そんな中、私は真ん中に立った。

『それでは、このゴングがなったらスタートです!』

 全員が息を呑み、その瞬間を待つ。私も刀に手を添えて、その時を待つ。

『……バトル、スタート!』

「カーン!」

 その音がした瞬間、私は刀を抜き、体を捻った。

「『炎刃』!」

 全方位高さ1.4メートルほど、炎の刃が選手を襲う。

「「「「うああああああ!!!!!」」」」

 結果、そこにいた全員が炎の刃の餌食となった。

「「「「……え?」」」」

『……え?』

「……ん?」

 観客、司会、私までもが唖然とする。

「……あ、そっか」

 そういえばこの人たち、魔力を取られてるから弱ってるんだっけ。

『勝者、T.gray!!!!!』

 静まり返った会場に歓声が湧き上がった。

「……まあ、よし!」

 とりあえず、何とかなった!



「……何だあいつ」

 1人の男がポツリと呟き、立ち上がった。

『えちょ、けんちゃん!?』

 1人の男が、司会の制止も振り切り、フェンスの扉を開けて中に入ってきた。

「よお、お前強いな」

「……誰ですか?」

「俺の名前はK。ここの地下闘技場のオーナーをしてる」

 観客がざわつきだした。どうやら、大物らしい。

「オイオイ、何でKさんが……」

「でも、あの侍もなかなか強かったしな……」

「こいつは面白くなってきたな……」

 どうやら、私はこの人と戦わないといけないらしい。

「……私はあなたと戦えば良いんですか?」

「ああ、そうだ。俺に勝ったら、電話をくれてやる」

「いいでしょう」

 歓声が上がった。会場のボルテージもマックスだ。

「それじゃあ、試合開始だ!」

 そうして、もう一度ゴングが鳴らされた瞬間だった。

「動くな」

 そんな声が後ろからした。

「……ッチ、邪魔が入ったな……」

 見れば、闘技場の周りがロボットによって囲まれている。

「何ですか、これ?」

「ああ? お前、こいつら知らねぇのか?」

「す、すみません。旅のものでして……」

「こんなところに来るとは……。まあいい。なら説明してやる。あいつらはガンデイっていうここを牛耳ってる会社が作った警備ロボットだ。街中で魔法を使うと、反逆だと判断してきやがる。いつか来るとは思ってたが……」

 どうやら、先程の私の炎刃に反応したらしい。

「なんか、すみません」

「別にいい。それより……お前、協力しろ。俺と2人であいつらを退治するぞ」

 このままだと、私としても安全に電話ができない。それに呼び寄せたのは私なのだから、しっかり落とし前はつけておきたい。

「わかりました!」

 Kの剛拳と、私の刀がロボットたちへ牙を向いた。



「……ハァ」

「凛さん。やはり心配ですか?」

「当たり前……」

 散らかったプールサイド。そこに体操座りをして、私はレイさんと話していた。

「きっとあの人なら大丈夫ですよ」

「そんな気はするけど……」

 それにしても心配だ。玄武は構わずに作業をしているが、こっちはそれどころじゃない。導華のことが心配で、何も手につかない。

「ピリリリリ……ピリリリリ……」

「ん?」

「凛さん、携帯が」

 見れば、隣に置いてあった私のスマホがなっている。

「……非通知だ」

 連絡先は非通知。しかし、何もすることがないので、保険のセールスマンでも暇つぶしにはなるだろうと、電話に出た。

「もしもし……」

『あ、凛?』

「導華!?」

 その電話主はまさかの導華。噂をすればというやつだろうか。

「やっと連絡できた……」

『あはは……。こっちが圏外で、ちょっと繋がる電話を借りたんだ』

 だから非通知だったのか。

「そういえば、言わないといけないことがあったんだった」

『こっちもあるけど、そっちからでいいよ』

「その前に、玄武を……」

 玄武を呼ぼうと右を向いた。

「呼んできました」

「痛え! 怪我人の腕を引っ張るな!」

 すると、既にレイさんが玄武の腕を引っ張って連れてきていた。

「んだよこっちは忙しいのに……」

「玄武、導華とつながった」

「マジか。ちょっと貸してくれ」

 仕方がないので、玄武に携帯を貸すと、玄武はスピーカーモードにしてこちらで起きた全てのことを説明した。

『……なんかこっちよりも展開が進んでるんだけど』

「それで、言いたかったことって何だったの?」

『その説明の冒頭部分』

「ああ……」

 ひとまずはこれで導華とも連絡が取れることがわかった。安心だ。

「そっちの電話って、インカムをオンにできるか?」

『うん、できるよ』

「うし、それなら連絡を取りやすいようにトランシーバーを送る。俺の特製品だから、圏外もクソもない。上手く使え」

 そう言いながら、玄武は大量のトランシーバーをガラガラと導華に送った。

『多い多い!』

「多いに越したことはない!」

 何だろうか、この事務所のような安心感。

「……やっぱ導華の声聞くと安心する」

『……ありがと』

 この際、あの時のことを謝ろうかと思った。しかし、玄武がいる中では、恥ずかしい。



「そういえば、私はこっちで何すればいい?」

 携帯を片手に、大量のトランシーバーを横目に、私の役目を聞いた。

『ああ、そうだな。導華には大事な任務をこなしてもらいたい』

「……大事な任務」

 ごくりと唾を呑み、その言葉を繰り返した。

『お前にはあの会社の社長、ゼニスを倒してもらいたい』

「そうなるよね」

 話を聞いた限り、あの会社自体を何とかしないと、任務も私たちの生還も叶わないだろう。

『それと、後でそっちにデニーを行かせる。デニーには先生ってやつを助けに行ってもらう。だから、それまで少しの間護衛を頼む』

「了解」

『決行は明日の0時。トランシーバーで俺から指示を送る。北原によると社長はあのビルの一番上の、社長室にいるらしい』

「最上階……ね」

『残りはお前に任せる。頼んだぞ』

 そうして、飛行船側との電話が切れた。

「……話せた」

 正直、私は電話をするのを少し戸惑った。凛ともう一度ちゃんと話せるかわからなかったからだ。しかし、覚えていた電話番号が凛のものしかなかった。

「……先生か」

 私の頭の中の先生はろくなものがいない。変に自分の思想を押し付けてきたりして大嫌いだった。

「懐かしいよなぁ……」

 それも早5年以上前。時の流れは早いものだ。

「……そうと決まれば!」

 私は立ち上がり、ロボットが大量に倒れ、観客が皆帰った闘技場で、1人自分を鼓舞した。

「社長、ぶっ倒しますか!」

 考えてみれば、私も明朗快活になったものだ。



「おい、お前。さっき先生って言ったか?」

 闘技場から出ようと左を向くと、先程のK、そして司会の女の人、加えていつの間にかガスマスクを外した西村さんがいた。

「え、言いましたけど……」

「……キタくんだよね」

 司会の人がポツリと呟いた。

「というか、西村さん。お二人と関係があったんですね」

「はい、ここに引っ越してくる前に、2人と同級生だったんです」

「へ〜、そうだったんですか」

 2人の顔を見るが、2人ともどこか暗い。心なしか、西村さんも暗い。

「なあ、あんたら先生を助けに行くんだろ?」

「そうですけど?」

「なら、私たちも連れてってよ」

「……はい?」

 私としては全く理解できない。しかし、西村さん含め、三人とも覚悟を決めた表情をしている。

「西村の言った通り、俺たちは昔同級生だった。そん時、会ったのが先生だ。あの人は俺たちの恩師だ」

「小中高ずっと見ていただいて、使えもしないのに、よく右利き用のハサミを使って、いろんなものを工作してくれて……。おかげで私は何かを作るのが大好きになりました」

「アタシも、昔は人見知りだったけど、先生が根気よく話しかけてくれた。そして今は司会として、ここで働いてる」

「俺も、先生には世話になった。槍の使い方がうまかった先生は、俺に武術を教えてくれた。今ではそいつが俺の稼ぎになってるし、助けにもなってる」

「とにかく、私たちは先生にご恩があるのです」

 だから、三人揃って助けに行きたい、というわけか。

「どれだけ危険になるかはわからない。それでもいいの?」

「いいぜ。先生を連れてきて、何で消えたのか吐かせてやる」

「それに、アンタ。ゼニスと戦うんでしょ? それなら多少ゼニスについて詳しくなった方がいい。アタシら、こう見えて情報通だから、結構色んなの情報があるの。もし、連れてってくれるんなら、そいつを教える。悪くないでしょ?」

 確かに、全く情報なしで戦うのは、いささか不安だ。情報があるに越したことはない。しかし、それがなくても、私の答えは変わらない。

「わかった、いいよ。ただし、危ないと思ったら、すぐに帰ること。いい?」

「おう!」

「ありがと!」

「ありがとうございます」

 こうして、三人の追加人員が決定した。



「ところで、そこの2人って名前なんて言うの?」

 そういうと、2人は顔を合わせた。

「……どっちから行く?」

「俺から行くわ」

 そう言って、Kは前に出た。

「俺の名前は東山 健太。何とでも呼べ」

「アタシの名前は南川みなみかわ 恵美奈えみな。よろしく!」

「東山さんに、南川さん……」

 軽く頭に叩き込んでおく。こういう名前を覚えることから仕事は始まる。そう社会で習った。

「それじゃあ、決行日まで待機!」

「「「了解!」」」

 さあ、ここからは本当の戦いの始まりだ。



 そんな4人の姿を写したビジョンがあった。小型カメラが闘技場の中に仕込まれていたのだ。

「ふむ……」

 ワイングラスを揺らし、彼はその映像を見つめる。

「私を倒す……か」

 白い笑ったの仮面をつけ、彼は静かに椅子に座っていた。

「それに、先生。あれほど執着するとは……」

 男の下では、大量の人々が働く。まさに、社会の縮図のようなものだろうか。

「……どうしますか、社長」

「よい、放っておけ」

「かしこまりました」

 秘書のロボットが社長室から出て行った。

「……」

 男は動かない仮面の顔で、眼下に広がるわずかな光の灯った街を見る。

「全く変わらなかったな。この街は」

 そう言って、男はビジョンに、導華の顔をアップにした。

「フフフフフ……。ハハハハハ!」

 バサリとそのマントをたなびかせ、彼は笑った。



「私を超えてみせろ! 田切 導華!」



 男はガンデイの取締役社長、名をゼニスと言った。

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