第37話 encouraging/心強い
「申し訳ないけど、私行かないといけないところがあるんだ」
都心へと戻ろうとした矢先、導華はロボットにその道を塞がれた。
「心配シナクテイイ。行カナクテ良クナル」
そう言うと、十攻は10本の指全てを変形させ、まるで銃口のような形に変形させた。
「『
その瞬間、大量の弾丸が発射される。その数ざっと見て500は超えている。それぞれが指から出ていて、その光景はまさに雨のようだ。
「数はすごいね」
導華は刀を構え、その弾丸と相対する。
「だけど……今の私にとっては、遅い」
弾丸が導華に到達しようかというその瞬間、弾丸が導華をすり抜ける。
「……何ダ?」
その後も次々と弾丸がやってきてはすり抜けていく。
「ドウナッテイル!?」
目の前の十攻も何が起こっているのか理解できていないようだった。すると、十攻の目の中にあるレンズが少し動き、導華にフォーカスした。
「……雷?」
そして、十攻はやっと捉えた。この現象の根幹を。
(違ウ、止マッテイルノデハナイ……。動イテイルノダ……高速デ!)
別に導華は何も特別なことをしていない。ただ単純に避けただけなのだ。しかし、その動きは雷の力で、凄まじい速度になっていた。その速度はまさに光速の一言に尽きる。
「さて、今度はやり返させてもらうよ」
弾丸が全て止み、導華の反撃が始まる。
(十攻との距離は推定10m。なら、あまり出力はしなくていい。それに、この距離なら……!)
私は体勢を低くすると、刀へと魔力を送った。すると、刀は大きくバチバチという音を立てた。
(一発で……仕留める!)
距離感を十分に測り、一気に踏み込んで、体を捻る。
「『
刹那。地面を雷が走る。
「ナッ……!」
十攻はその雷を受け止めようと、私に向かって、銃口を向けた。
「もう、そこに私はいないよ?」
しかし、雷となった私は、既に十攻の懐に入っていた。
「私、もう行かなきゃ」
雷を纏った刀は、十攻の頭を斬り落とした。
「さて……」
頭と体が切り離されたロボットを足元に見て、私は息を吐く。
「導華〜! 大丈夫なの!?」
遠くかららんまが走ってくるのが見えた。
「うん、大丈夫。それより……」
「……派手にいったの……」
十攻は完全に頭と体が二分されていて、確実に再起不可能なのが見て取れる。
「一応、私の方でこいつは引き取っておくの」
そう言うと、らんまの後ろにいた一閃が十攻の残骸を持った。
「ありがと。とりあえず、私は都心に行かないと」
「わかったの、頑張ってなの!」
「うん、行ってくる」
そして、雷の力を使い、私は高速で都心へと駆け出していくのだった。
その頃、一戦交えた後の玄武の前には四根が仁王立ちをしていた。
「2連戦はきちぃな……」
そんなことを呟きながら、肩をゴキゴキと回す。
「意外と大丈夫そうだな」
「そうでもねぇよ」
ただの会話の中だが、いつ戦いが始まってもおかしくはない。
「……そういえば、一つ聞きたかったんだ」
「……何だ?」
「お前らはどうしてそんなに世界を機械だらけにすることにこだわるんだ?」
先程の五火と波六も含めて、何故かロボットたちは世界を機械だらけにすることを目標として動いている。
「そんなにいいもんでもないだろ?」
四根はそんな玄武を静かに見ていた。そして、一言こう言った。
「……不要だからだ」
「不要だぁ?」
玄武はその言葉が何を意味しているのか理解できなかった。
「お前にも教えてやろう」
そう言いながら、四根は彼の過去を語り始めた。
「……これでよし」
ある研究所の奥、四根のメンテナンスをする老人が1人いた。
「ありがとうございます、博士」
彼の名前は五月雨 吉右衛門。このロボットの根幹でもある人工知能を製作し、ロボットたちのプログラムを組んだ男だ。
「まあ、俺はメンテナンスしかできないしな」
彼はよく言っていた、お前たちロボットは俺が作ったわけではないと。
「しかし、内部機関を作ったのはあなたです。ならば、作ったのはあなただと言って差し支えないでしょう」
四根はいつもこう反論していたが、その度に吉右衛門はこう答えた。
「いや、大事なのは中身でも外見でもない。その発明は何か有益なものを作り出せているのかってことだよ」
これはある一種の彼の信念だった。発明するのが大事なのではない。発明で何を作るのかが大切なのだと。
「それを作れて初めて、製作者だと言えるんだと思うがな」
そう言いながら、彼はニッヒッヒと笑った。
「なら、博士は一体何を作れば作者になれるのですか?」
そんな疑問に吉右衛門は少し悩んで、こう答えた。
「……平和だな」
戦闘用ロボットが世界を平和にする。そんな皮肉めいたことが彼……いや、彼らの夢だった。
「……博士は、常に平和を求め続けた。平和を作れと、我々に命じた。その途中だった。我は気づいた」
四根はその瞳のLEDを揺らすことなく、語り続ける。
「人間が人間を支配し続ける限り、平和は訪れない」
玄武はその四根を見つめる。
「わかってしまったんだ。天才的な博士の作ったプログラム。それはついに、この結論を導き出した。上下関係、主従関係……。人が平等に存在しないと、この世は平和にならない。だから、我は決めたのだ。機械でこの世を支配すると」
その決意をしたことを後悔はしていない。そんな意思が玄武にも伝わった。
「そうすれば全ては平等で、機械という感情のないものが支配をする。そうすれば、上の人間のくだらない理想のために争うこともない。管理するために、食糧難もじきになくなる。苦しみも、辛さも、大変さも、その全てが生まれない世の中……そんな理想郷を作ることができる」
「……なるほどな」
「だから、大量のロボットと石の心臓のレプリカを生産して、街を襲った。ロボットの強さを確かめたかったんだ」
「それで、今日が決行日だったってわけか……。前のは、試運転ってとこか」
「そうだ」
四根の信念を聞いた玄武は、四根にこう言い放った。
「ま、無理だろうな」
「……そうか」
「どうせ、人間は平等でも何でも争うもんは争う。いくら機械が管理してもなぜか上下関係は生じるだろうな。食糧難だって、管理していくことでわかる問題もあるだろうしな」
それは、四根の言ったことをスッパリと切り落とすような言葉だった。
「人間は愚かだ。平和をいくら掲げても、そのうち争う。そして、好き勝手に上下関係を作る。そいつはいわば、本能ってやつなのさ。そいつらは誰にも止められねぇ、人間の三大欲求みたいなもんだ」
「本能……」
「だけど、平和を作ろうっていう目標は立派だ。流石は吉右衛門の組んだプログラムだ。平和を作る手助けなら、俺もしたい。それにさっきはダメだと言ったが、やってみないとその方法が成功するかもわからないしな。だけどな……」
すると、玄武は銃を構え、まっすぐな目を向けた。
「それなら、まずは俺を倒せ。倒して納得させてみろ。お前が勝ったら、俺はお前に協力しよう。だがお前が負けたら……」
「負けたら?」
「お前が俺に協力しろ。やらなきゃなんねぇ仕事があるんだ」
その賭けの内容を聞き、四根は笑った。
「面白い、いいだろう。その賭け……乗った!」
こうして、上に立つ者同士の激戦が幕を開けた。
「『
まず先にスキルを繰り出したのは、四根。彼はおもむろに地面を殴る。
「うお!?」
すると、周りの廃ビル群の窓や、瓦礫、ガラス片などが震え出す。
「俺のスキルは『
「オイオイ、いいのか? そんなに情報を漏らしても」
「フッ、お前ならどうせすぐ気づく。それに、本来ならお前が知る前にお前が死ぬからな」
その言葉を聞き、玄武の額の血管が太くなる。
「ほお……? 言うじゃねぇか!」
玄武は煽り耐性がなかった。
「こんな地震程度、俺には意味がねぇ!」
そういうと、玄武はなんと揺れる地面の上を走り出した。
「走るか、玄武……!」
「あいにく、止まってんのは苦手なんでね!」
そして、四根に近寄り、引き金を引く。
「かってぇえなあ!」
しかし、その銃弾は先程のように弾かれる。
「無駄だ!」
「だったら、こいつはどうかな……!」
先程と同じように引き金を放つ。しかし、今度はその銃弾は四根の右手の薬指を撃ち抜いた。
「……何?」
「そいつは俺お手製、圧縮銃弾! 普段の銃弾の10倍の量の鉄を含んでるから、その魔力も威力も10倍! これなら流石に効くみたいだなぁ!」
四根は薬指を一瞥する。
「この程度、何ら支障はない」
「そう言うと思ったよ!」
しかし、四根は考えていた。おそらくこの銃弾を数発胸に撃ち込まれたら、自分は動けなくなる。それに、先程の電磁砲をもう一度撃たれたら、ひとたまりもない。
(ならば……)
そして、四根はある一つの結論に辿り着く。
「次で終わりにさせてもらう」
玄武と同じように、もう一段強さを上げる。これが四根の結論だった。
「お前たち、力を借りるぞ」
そう言うと、四根は地面に落ちた石の心臓の五番と六番を手に取った。
「何をする気だ?」
なぜか、四根は石の心臓をおもむろに胸の部分に押し当てた。
「フン!」
すると、石の心臓から眩い光が溢れ、魔力が四根へと流れていく。
「……なるほど。スマフォのモバイル充電みたく、接触することで、エネルギーを持っていってるわけか」
そんな四根を玄武が見逃すはずもない。
「だが、隙だらけだなぁ!」
もう一度圧縮銃弾を放とうとした玄武。しかし、その目の前に廃ビルが倒れてきた。
「うお!?」
瞬時に玄武はそれを後ろに回避した。
(なるほど……。先程の地震で倒れやすくしておいたってことか……!)
そして、一つが倒れたのをかわきりに、大量のビルが倒れ、崩れ始める。
「流石にまじーな……」
四根はビルの下。が、玄武にはわかる。そんなことであいつが倒れるわけがないと。
「……待たせたな」
やがて、砂埃は晴れ、ビルの一部に穴をあけ、何者かの影が出現する。
「大丈夫だ、待ってない」
四根はその腕を大きく肥大化させるなどの見た目の変化に加え、凄まじい魔力と共にその場に現れた。
「さあ、行こうか」
全ての力をこの一撃に込める。四根は最終段階に入った。
「『地震』!」
重い一撃。先程と同じスキルのはずだが、明らかに揺れの大きさが大きくなっている。
「立って……られねぇ!」
これには思わず玄武も右膝をつく。
「どうやら、ここで終わりのようだな」
それを見て、四根は勝利を確信する。
「くっ……!」
四根の拳が目の前に迫ってくる。玄武は隠し玉を使うしかないかと覚悟した。
その時だった。
「『
玄武と四根の間に、稲妻が走った。
「……ム?」
「何だ!?」
お互いに後ろへと飛び退く。
「玄武……そんなにびっくりしないでくれる?」
稲妻の着弾点。少々煙が立つその場所から、見覚えのある侍が出てきた。玄武はその影の正体を、即座に察する。
「……ハッハッハ! おっせえじゃねぇか!」
「命救ってやったんだから、感謝してよ?」
「わーってるって!」
突然、笑顔を取り戻した玄武に四根は動揺を隠せない。
「……何者だ?」
四根はやってきた侍に名を聞いた。
「田切 導華、玄武団の侍。言っとくけど、団長は殺させないよ?」
侍とガンマン。相反する2人は、互いを信頼していた。
「フッ、人数が増えたぐらいで、我が負けると思うな!」
そう言って、四根はもう一度地震を発動した。
「……なんか大丈夫だ」
「……どう、なっている!」
隣の玄武が立っていられないほどの揺れ。しかし導華にはなぜか効かない。
「てか、導華なんか浮いてねぇか?」
「何、いじめ?」
「そういう浮くじゃねぇよ」
玄武が導華の足元を見ると、わずかに浮いているのがわかった。
「うーん……。もしかして、体を電気でコーティングしてるからかな?」
「コーティングだぁ?」
「うん、素早く動けるように」
導華のスキル、『雷刃』は今までのスキルとは少し違っていた。それは、導華自身も微量の電気を纏うということだ。
「そうじゃないと、動けないみたい」
「なぁんでわかるのかねぇ?」
「なんとなく?」
あまりに抽象的な答え。しかし、玄武もそれで納得するしかない。なぜなら、スキルなのだから。
「ならまあ、好都合か」
玄武もなんとなく納得した。
「……小癪な!」
そして、四根は地面ではなく、直接2人を叩きに行く。
「来るよ!」
「言われなくても!」
玄武と導華、互いに刀と銃を構えて迫る四根に立ち向かう。
「……そういえばさ、私たちってまだ共闘したことなかったよね?」
「……そういえば、そうだったな」
「でも、いけるでしょ?」
「ったりめぇよ! 俺を誰だと思ってる!」
「はあ、こんな時でも本当に変わらないね」
バカな玄武。それを見て呆れる導華。その2人の会話は誰が見てもわかるほど、まるで魂に刻み込まれたように、テンポが合っている。
「『
四根の魔力に溢れたその腕を、導華は刀で受ける。
「『
激しく火花が散り、強大な魔力と魔力がぶつかり合う。
「玄武!」
導華の背後から、玄武が顔を出す。
「ああ、任せろ!」
その銃口に、狂いはない。
「『
その銃弾は眩い軌跡を描きながら、四根の胸を貫いた。
「……我の負けか」
戦いの喧騒の中、四根は静かに目を閉じた。
「……ム?」
四根は目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
「ここは……」
そこは事務机、ソファが置いてあり、奥からは機械音がする部屋だった。
「お、起きたか?」
すると、横たわる四根の顔を上から覗き込む、見覚えのある顔があった。
「……玄武?」
「ご名答。記憶部分に問題はないようだな」
そこは、玄武団の事務所だった。
「しかし、なぜ我はここに……」
思い返しても、自分はあの時死んだはずだった。そう四根は思っていた。
「俺がコキ使おうと思って修理した」
「修理した……!?」
その回答に四根はLEDの目を大きくする。
「我に体はそんなに簡単な作りでは……」
「そうだよ、苦労したさ。でも、説明書があったおかげで助かった」
「……そうか」
大量生産のために事細かに書いたものを準備した甲斐があったようだ。まさか、こんな形で役に立つとは。
「ロボットたちは俺の仲間たちが全撃墜。石の心臓も回収。唯一七番だけは居場所が分からなかったがな」
「七番をもっていたやつは、自爆した。その時に七番も吹き飛んだ」
そして、四根は彼女のことを思い出す。
「……八番をよこせ?」
ある日、なぜだか研究所を抜けていた漆が帰ってきた。しかし、帰ってきて早々に石の心臓をよこせと言われた。
「そうだよ。あれ、人工心臓になるでしょ?」
「なることにはなるが……」
石の心臓は製作者がそれを意図して作ったのか、人工心臓として使うことができる不思議な物だった。
「お願い! どうしても助けたい子がいるんだ!」
そのうち、漆は手を合わせてお願いした。
「無理なものは無理だ。帰れ」
すると、漆は悪い笑みを浮かべた。
「……後悔しないでよ?」
数日後、研究所に盗人が入った。
「……あいつは、自由だったな」
四根はうつろな目で、外を見つめた。
「その漆ってロボットが守ろうとしたもの、見せてやろうか?」
唐突に玄武はそう提案した。
「……どういうことだ?」
「まあ、ちょっとこい」
玄武は四根のもう小さくなった腕を引っ張り、二階に登った。そして、凛の部屋のドアを少し開けて、四根に耳打ちする。
「(見てみろ)」
「?」
四根は恐る恐る隙間を覗いた。
「……これは」
そこには、排除するつもりだった石の心臓の八番の所持者こと緒方、導華、凛になぜかアンとルリもいた。
「わかったか?」
5人はゲームをやっているようで、全員が楽しそうに笑いながらコントローラを持っている。
「……そうか」
四根はそっけない返事をした。
「四根。争いはな、嫌なもんでもないんだ。時にそれは人の快楽をうみ、人々を成長させる。そんなものがなくなっちゃったら、きっとつまんねぇだろ?」
玄武の言葉、それはまさに四根の考えを真っ向から否定し、四根の脳内に新たな考えを植え付けた。
「……俺は、遅すぎたのかもな」
この時代には、平和が満ち溢れている。だから、大事なのは、それを守ることだったのだ。
「……博士、案外現代も悪いもんじゃないかもしれません」
四根はそう呟いた。
「ありがとうなの、玄武!」
その日の夕方。事務所にらんまがきた。
「世話になった」
隣には一閃と、だいぶ丸くなった四根がいた。
「いや〜、らんまが手伝ってくれたおかげでだいぶ早くできたよ」
「それならよかったなの!」
そして、四根と一閃、らんまは並んで帰った。
「ねぇ、四根。これからも働いてくれる?」
その帰り道、らんまは四根に話しかけた。
「もちろんですよ」
四根は笑って言った。
「もう、今までの我ではないので」
「へぇ、変わったの?」
すると、四根はあの男のことを思い出す。
「……真似てやるか」
最初はふざけてやったあの自己紹介。初めてあの男が乗ってくれた。
「我が名は四根。平和を守るものだ」
らんまは満足げに笑った。
「やっぱり、発明家は喜びを作ってなんぼなの!」
「……そうですね」
かつて自分を作った師匠との約束。守れたかどうかはわからない。しかし、四根はここから新たな目標を立てて生きる。「平和を守る」という、また新しい目標を。
第6章 The view that changed me 〜完〜
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