第33話 monitor/監視

「五月雨 吉右衛門……」

 玄武の言ったその名を反芻する。

「どうしてそう思うのさ?」

 聞いたところではまだ私にはなぜ玄武がそう思うのかがわからない。

「根拠は一つだ」

 玄武は人差し指をたてた。

「俺たちは、石の心臓の技術を吉右衛門にしか話していない。この技術の話はもっと戦闘用ロボットが普及してから公表しようと思ってたからな」

「つまり、そもそも石の心臓の話を知ってる人がその人しかいない……ってことか」

「そういうことだ」

 確かにそれなら玄武が疑うのも頷ける。

「と言っても、玄武は一体どうやって吉右衛門さんを捕まえるつもりなの?」

 予測できる犯人がわかったところで、そもそも捕まえる手立てがないならどうにもならないだろう。

「それはまだ決まってない。ひとまず俺はこの石の心臓を解析してみる。話はそれからだな」

 こうして、吉右衛門については一旦話がまとまったのだった。



「そういえば、玄武がいない間に一つ依頼がきてて……」

 思い出して玄武に言った。

「ん、どんな案件だ?」

「えっとね、ストーカー撃退だってさ」

「ほ〜、案外安全の案件だな」

 この世界はドラゴンがいる世界。この案件のように、比較的安全と思われる部類の依頼の方が少ない。ここにきて最近知った。

「どうする? 誰が行く?」

 一応、今日の夜から行ってもらうことになっているため、誰か1人を出さないといけない。

「俺は石の心臓を解析しないといけないし、凛はダウンしてるし、デニーはもう任務に行ってもらったからそんなに引っ張り出せないし、導華は今日一日中休みだし……」

「かと言って影人くんたちを行かせるのもねぇ……」

 どうしようかと悩んでいると、玄武が思いついたように手を叩いた。

「あ、1人いるじゃねぇか。信頼できるやつが」

「誰のこと?」

「ちょっち待ってな」

 すると、玄武はスマフォで電話を始めた。

「おう、元気か? ちょっち頼みたいことがあってだな……」

 そして、玄武はかくかくしかじか説明をした。

「そんなわけだ。報酬? うーん……今月入荷のクレーンゲームぬいぐるみ5体分とかどうだ?」

 電話口の人物が納得したのか、玄武は嬉しそうに電話を切った。

「ようし、このあと一旦、ここに来てもらう手筈になったぞ」

「なんとかなったんだ」

「まあな。断らないだろうと思ってたよ」

 そうして、私たちはその人物の到着を待つのだった。



「何じゃ全く……突然呼び出して……」

 電話から1時間ほど。やってきたのは、星奏さんだった。

「お久しぶりです、星奏さん」

「おお、導華。久しぶりじゃのう。元気にしてたか?」

「ええ、おかげさまで」

 久しぶりに星奏さんに会ったが、元気そうだ。

「それで、ストーカー撃退……じゃったか?」

「ああ、今日だけでいいから行ってもらえないか?」

「しょうがない……。別に特に予定があったわけではないから、良いぞ」

「サンキュ!」

 その時、ふとある疑問が浮かんだ。

「そういえば、星奏さんってぬいぐるみ好きなんですね」

 その瞬間、星奏さんの動きが止まった。

「……今なんて?」

「え? だから、ぬいぐるみが……」

 その言葉を聞いた途端、星奏さんは髪の毛の腕で玄武の襟を掴んだ。

「コラァ!!!!! お主、導華の前で電話をしたなぁ!!!!!」

「んだよ、別にいいだろ!」

 掴んだまま星奏さんは玄武の体をブンブンと振る。

「せっかく師匠ポジで導華を上手いこと導くキャラになりたかったのに……!」

「大して何も教えてないだろ」

「うっさい! せっかく積み上げた師匠キャラが今全部崩れたんじゃよ!」

 星奏さんは大騒ぎして、今にも玄武をぶん殴りそうな勢いだ。別に玄武なら殴っても平気そうだが、ここは止めたほうが良いだろうか?

「……なんかまずいこと聞いちゃいましたね」

「……ハァ、もういいのじゃ。バレてしまったらしょうがない」

 星奏さんは項垂れるように私の横に座った。

「別にワシだってこれが悪いことじゃとは思っとらん。思っとらんが、いかんせん刀鍛冶の娘がこんな趣味だとバレるのは、どこか恥ずかしいのじゃ」

「別に恥ずかしがるようなことでもないと思いますけど……」

「そうなんじゃが、もっと厳格な趣味を持っていると周りから誤解されとってな。おかげで引くに引けないところまで来てしまったのじゃ」

 思い返せば、私も星奏さんの趣味は囲碁か将棋だと勝手に思っていた。

「それに、わしクレーンゲーム下手っぴじゃし」

「星奏、いっつも五千円くらいかけてとってるもんな」

「そうじゃよ。安月給も相まって、玄武に頼らないとあっという間にお金がなくなってしまうのじゃ」

 だから、報酬がクレーンゲームだったのか……。

「……別にそんなに気にしなくてもいいのに」

「だって、導華だってワシみたいな者がぬいぐるみ好きだなんて知ったら、威厳を感じないじゃろう?」

「そんなことありませんよ。趣味が何だろうと、星奏さんは星奏さんですよ」

 そう言いながら、自然と頭を撫でた。

「……導華はいいやつじゃのう。しかし、頭は撫でなくていいぞ」

「あっ、はい。すみません」



「しょうがない、受けた仕事じゃ。今夜だけじゃし、頑張ってくるのじゃ」

 星奏さんはスクッと立ち上がって、事務所のドアの前まできた。

「状況は逐一無線で連絡するから、頼むぞ」

「おう、任せとけ」

「それじゃあ、帰るのじゃ」

 そう言って、星奏さんはドアを開けて帰っていった。

「……星奏さんがまさかぬいぐるみ好きだったとはね」

「あいつは家柄とか気にしてそういう趣味を隠しちまってるからな。ほら見ろこれ。星奏のぬいぐるみシリーズ」

 そう言いながら、玄武はスマフォの画面を見せてきた。そこにはパンダやペンギン、テディベアといったぬいぐるみたちが山のようにあった。

「すごい量……」

「半分ぐらい俺が獲ったやつだ」

「いくらぐらいで獲ってるの?」

「大体300円」

「そりゃ頼むわけだ」

 写真の中には、ポニーやウサギのぬいぐるみを抱っこして満面の笑みを浮かべた星奏さんもいた。

「わ〜、可愛い!」

「こういう時は普通の女の子なんだけどな」

「おいゴラァ! そういう時とはどういう意味じゃ! そして、導華に写真を見せるんじゃない!」

 ドアを開けて星奏さんが首だけを出し、玄武を睨んだ。

「そういうことだよ」

 結局、玄武は追加で2個ぬいぐるみを獲ることになったのであった。



『お〜い、玄武。こっちの準備は良いぞ』

 夜の7時ごろの閑静な住宅街。依頼人である緒方さんの帰宅時間に合わせて、星奏には付近で待機してもらっている。

「どうだ? 変なやつはいるか?」

『……見た感じいないな』

 かくいう俺は本日の成果物である石の心臓を解体しようとしていた。

『……おっ、緒方さんが来たぞ』

 数十分後、無線を繋いでる星奏の方で動きがあったようだ。

「緒方さん自体に変な様子は?」

『多少周りを見ているが、特に変な様子はないようじゃな』

「よしわかった」

 いかんせん無線なので、あちらの様子がちっともわからない。ここは星奏に任せるしかない。



「お?」

『どうした、星奏』

 薄暗い道に照る電灯の下、尾行を続けていた星奏の目の前に黒い人影が現れた。

「……誰か来たのじゃ」

 黒い人影は緒方さんの少し後ろを離れて歩いている。

「……明らかに緒方さんをつけているな」

 見ていれば、緒方さんが曲がるのに合わせて毎回曲がっている。それを勘付いてなのか、緒方さんもチラチラと背後を確認するようになった。

『よし、そのまま尾行を頼んだ』

「合点承知」

 電柱から電柱へと緒方さんの後ろ2メートルを歩く人影をつけながら歩く。

「何かする様子はないな……」

 尾行をしていくが、特に変わった様子はない。ただ後ろを歩くだけだ。

「……何者なんじゃ、あやつ」

 そのとき、なぜか人影が首をこちらに向けた。特に音も立てていないし、距離を詰めたわけでもない。

「んな!? 気づかれた!?」

『何っ!?』

 そして、人影がこちらへと走ってきた。それを見て、緒方さんは反対方向へ走っていった。

「くそっ、何がどうなってるんじゃ!」

 明らかにこちらに向かって拳を振り上げている。このままいけば、確実に殴られる。

「住宅街じゃぞ!?」

 そんなのはお構いなしなのか、拳をこちらに放つ。

「ふん!」

 しかし、星奏はその拳を2本の髪の腕で止めた。日々刀を打っているその腕はハリボテなどではない。

「舐めるでない!」

 すると、その様子を見てなのか、人影は星奏から離れた。そして、素早く走り去った。

「あっ、待て!」

 星奏は懸命に走った。走ったが、走力に自信のない星奏では追いつけない。

「くそ……」

 そうして、人影は夜の闇に消えてしまった。



「結局、おっぱらうことはできたっちゃできたんじゃが、正体はわからずじまいじゃな……」

 尾行のあと、星奏は事務所に戻ってきていた。

「う〜ん、こっちの心臓の方も全然解体できないし、困ったな」

 今回は撃退できたが、明日からもこんなふうに住宅街で暴れられては、住民にも迷惑だ。

「依頼も解決しないし、石の心臓の件もどうにもならないし、八方塞がりだな……」

 俺がソファの背もたれに体重をかけ、頭を抱えていると、星奏が何かを思い出した様に問いかけた。

「……一つ気になったことがあるんじゃが」

「どうした?」

「ワシが尾行したアレは本当に人か?」

 星奏が投げかけてきた疑問は斜め上の疑問だった。

「……何言ってんだ?」

 すると、星奏は先ほどのことを話す。

「ワシはあの時やつの拳を受け止めた。しかし、その腕に違和感があるのじゃ」

「違和感……?」

「何というか、硬すぎる……というか」

「どのくらいだ?」

「ふむ……。いつもワシが触っている鉄のようじゃった」

 普段鉄を触っている星奏が言うのだから、間違いないだろう。

「確かにそれはおかしいな」

「じゃろ?」

「……明日は導華を行かせるか」

 ひとまず依頼の方は明日に回す。緒方さんも無事に帰れたようだから問題はない。

「そういえば、その肝心の導華はどこじゃ?」

 いつもこういう時には事務所にいる導華がいない。疑問を持つのは当然だろう。

「あいつは今、凛の看病をしてるぞ。何でも凛に頼まれたんだと」

「ほぉ、あの入団した氷の魔法使いの少女じゃったか。導華を指名するとは見る目があるのぉ」

 俺としては、早く凛が良くなるのを期待するばかりだ。



「凛、大丈夫?」

「うん、もう元気」

 煌々と電気の灯る部屋の中、比較的元気になり、体を起こした凛と私は、ゆっくりとお粥を食べていた。

「これなら明日は作業できる」

「それなら良かった」

 お粥もパクパク食べているし、これなら大丈夫そうだ。

「……そういえば、最近ゲームばっかりだね」

「うん」

 凛ことアイリスの配信は雑談が多いのだが、最近はなぜかゲームが多い。

「最近は格ゲーばっかやってる」

「急に路線変更したの?」

 別にそれはそれでいいのだが、なぜなのか気になった。

「路線変更したわけじゃないよ。これがあるんだ」

 そう言いながら、凛はスマフォのメールを見せた。


『アイリス・サンシャイン様

 動画を拝見させていただいております。「アージ・アンタム」と申します。今回、格ゲーコラボのお誘いとしてこのメールを出させていただきました。どうぞよろしくお願いします。

          アージ・アンタムより』


「そんなわけでコラボでするから、練習してたんだ」

「なるほど……。このアージ・アンタムって人は有名な人なの?」

「うん、登録者70万人くらい」

「すごい人じゃん」

「でも私の方がすごい」

 そういえばこの子100万人いってるんでしたね。

「私格ゲーとかよくわかんないけど、頑張ってね」

「うん、頑張る」

 そうして、今日は凛の部屋に寝袋を敷いて、眠りについたのだった。



「それで私に尾行に行ってもらいたいと……」

 次の日の昼ごろ、凛は作業で、影人くんたちは哲郎さんたちとお仕事へ、事務所には私と玄武、そしてレイさんがいた。

「そうだ。できれば犯人にこれをつけてくれ」

 玄武が机の上に置いたのは、小さなチップのような物だった。触ってみると、裏面が少しベタついている。

「これは?」

「そいつはGPSだ。そいつをつければ、どこに行くががわかる」

 玄武が渡したのは、以前の怪盗の時にも使ったGPSだった。

「だから、今回の目的はそれをストーカーにつけること。そして緒方さんの安全を守ることだ」

「了解」

 そうして、今日は私がストーカーの尾行を行うのだった。



「来たよ」

『よし、尾行開始だ』

 昨夜と同じ道で同じ時間。同じように歩く緒方さんの後ろにストーカーが現れた。

「……話に聞いてた通り、動きがないね」

 今回は緒方さんにも話を通して、ストーカーが動き出したらすぐに逃げる手筈になっている。

「そろそろだよね……」

 その瞬間、昨日と同じようにストーカーが向かってきた。

「来たっ!」

『頼むぞ!』

 拳を振る上げるストーカー。その拳を受け止めようと、刀を構える。

「はっ!」

 拳と刀がぶつかった時、ガキンと激しい音がした。

「こんなの本当に人間!?」

 そして、ストーカーの懐に潜り込み、刀で斬るフリをして、体にGPSをつけた。

「……」

 結局、ストーカーは何も言わずに走り去っていった。

「……OK。つけれたよ」

『よくやった、ナイスだ』

 私は一旦、玄武の指示を待つのだった。



『今、導華のスマフォにGPSの位置情報を共有したから、それ使ってストーカーを追いかけてくれ』

 スマフォを見ると、見慣れない青色の丸いアプリが入っていた。どうやらこれがGPSのアプリらしい。

「わかった」

 スマフォ上の地図でGPSを示す赤い点は街の中を動いている。

「ちゃんと機能してるな……」

 その赤い点を目指して気づかれないように夜の街の中を歩く。

 すると、段々と赤い点が街を抜けた先の森の方に向かっていることに気がつく。

「本当にこっち?」

 半信半疑ながらもそのまま進んでいくと、ついにある一点で止まった。

「……洞窟?」

 赤い点の少し前くらいのところに来ると、目の前には洞窟があった。

「こんなところに本当にいるの?」

 スマフォでライトをつけて、薄暗い洞窟を進む。途中少しコケが生えていたり、湿っているところもあって、転びそうになった。

 結果、ある扉の前についた。

「……ここか」

 その扉はやけに新しく、怪しい。しかし、その奥に赤い点がある。

「……行こう」

 刀をいつでも抜けるように準備をして、私は扉を開けた。



「……何ここ?」

 そこは薄暗く、かろうじて床がわかる程度だ。しかも、見える床はなぜかタイルで、明らかに場違いだ。

「一体ここは……」

 その瞬間、唐突に壁が明るくなった。

「うわっ!?」

 そして、自分がいるところが明らかに洞窟ではないことに気がつく。

「真っ白……」

 床は一面タイル張りで、壁や天井にはLEDライトがついているのである。

『よく来たな! 挑戦者よ!』

 突然、天井から声がした。見れば、そこにはスピーカーがある。

「誰!?」

『私の名前はゲームマスター。ここの支配人だ』

 厨二病丸出しの名前をした何者かが、スピーカーから語りかけてきた。声は加工しており、異様に低い。

『今から君の前に数体ロボットを出す。これを倒せたら、君の勝ちだ』

 スマフォをチラリと見ると、すでに赤い点がなくなっている。どうやら、この意味のわからない施設に誘い込まれたようだ。

『さあ、始めよう!』

 その言葉と共に、天井からロボットが3体落ちてくる。黒いボディで青い目をしていて、大きさは160cm程度だろうか。その上、3体ともレーザーでできた剣を持っている。

「標的、補足」

 3体が向かってくる。仕方なく刀を抜いた。

「『炎刃』!」

 小手調べということでまずは炎刃を使った。するとどうだろう。驚くべきことに3体ともあっけなく斬れてしまった。

「……あれ?」

『あれ?』

 私もゲームマスターとやらも困惑している。

『……出すロボットを間違えたようだ! 今度こそ大丈夫だ!』

 そして出てきたのは、先程のロボットよりも2,3倍大きいロボット。ボディも真っ黒で明らかに強そうだ。

『さあ、思う存分……』

「『炎刃』」

 ロボットはあっけなく倒れた。先程と全く同じように。

(これさては……そんなに強くないな?)

 この時点で私は、犯人の想定と私の本来の戦闘力がだいぶかけ離れていたことに勘づいた。

『……ぐすん』

 やがて、ゲームマスターが涙声になってきた。

「……大丈夫ですか?」

『……もういいもん、最終兵器出すもん!』

 明らかにやけっぱち。そして出てきたのは、さっきまでの奴らとは一線をかくすほどのオーラを放つ、赤い目のロボット。見た目も太めの鎧を纏い、4mほど。加えて、手に持った刀から電気を出している。

『おら! ウチの最終兵器なの!』

 掛け声と共に、そのロボットが動き出す。その動きは見た目に合わず俊敏だ。

「『炎刃』!」

 試しに炎刃を使ってみたが、刀で受け止められた。

『そんなもん、ウチの最終兵器の前で効くわけないだろなの!』

「標的を討伐いたす」

 喋り方もずいぶん変わっている。声は低く、まるで歴戦の侍。明らかに今までのものと一線を画す強さに見える。

「斬」

 ロボットは電気を纏った刀で私を斬ろうとする。しかし、外れて地面へとその刃が当たり、バギンと大きな音と共に地面が割れる。

「強っ!?」

 油断しているとやられそうだ。

「しょうがない……。本気で行こう!」

 ロボットから距離をとって、体勢を低くし、軽くねじらせる。

「かわいそうだし、斬らないように……」

 あの声を聞いては、斬り刻むのも可哀想だ。

「食らうがいい」

 ロボットは案の定、こちらへと体を向けて、やってくる。

「フッー……」

 息を吐き、真っ直ぐにロボットを見た。

「『絶対冷刀ぜったいれいど』!」

 過去にヴァンパイアおも凍り付かせたその刃は、鎧に当たる。そして、その一点から凍り付かせる。ビキビキと音を立てて、ついにロボットは動かなくなった。



『……あああああああああ!!!!!』

 バンバンと机を叩く音が聞こえる。

「うるっさ」

『何でこうなるんだあああ!』

 すると、戦っていた部屋に突如としてドアが現れた。

一閃いっせん〜!」

 ドアから出てきたのは、青緑の綺麗な長髪に、ダイバー用の様な大きなゴーグルを頭に乗せ、白衣を着た少女。目には涙を浮かべている。

「行かないで〜!」

 氷をべしべしと叩き、泣いている。

「……あの〜」

 声をかけようとする。

「うるさい! 元はといえば、お前がここに来るのが悪いの!」

 なぜか私が怒られた。

「……はあ」

 しかし、突然落ち着き、ぺたりと座った。

「ついにぼっちなの……」

 何だかかわいそうになってきた。

「あの〜、いいですか?」

「何なの?」

 こちらを睨んでくる少女。その少女にある事実を伝える。

「氷、溶けますよ」

「……へ?」

 というのも、前に凛に氷の溶き方を教わったのだ。以前のヴァンパイアの時はこうして外に出したのだ。

「……お願いしますやってくださいなの!」

 それを聞くと、少女は平謝りしてきた。

「別にいいけど……」

 そうして、手をかざすと、氷がばきりと溶けて、ロボットが再び姿を現した。

「一閃〜!」

「……ご主人」

 ロボットは落ち着いているのか、目が青色だ。

「おで、負けた」

「別にいい! お前が無事なだけでいい!」

 少女は鎧を撫でで泣いていた。



「すみませんでしたなの……」

 とりあえず、少女を正座させて、ストーカーの件となぜこんなことをしたのかを聞いた。

「つまり、ストーカーはロボットがやってて、この挑戦?ってやつは悪ふざけだと……」

 少女は項垂れたまま答えた。

「だって、強そうなのが来るみたいだったから……」

 全く……。玄武みたいなことを言う少女だ。

「それで、何でストーカーしたの?」

 今回の任務の根幹となることを聞く。

「それは……」

「それは?」

「……危ないからなの」

「危ない?」

 すると、少女は顔を上げた。

四根しこんがきちゃうなの……」

 よくわからないことを言っている。ここであることを思い出す。

「……そういえば、名前聞いてなかったね」

 すっかり聞くのを忘れていた。この際聞いておこう。

「ああ、言ってなかったなの」

 そして、少女は立ち上がると、少し赤いままの目で答えた。



「ウチの名前は、五月雨さみだれ らんま。ここに住んでいて、ロボット開発やってるなの」



「五月雨……」

 その聞き覚えのある名前は、頭の中で反響したのだった。

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