第27話 occult/オカルト
「それで、何で珍しく監視室にいるのさ?」
いつもは発明部屋にいるはずの玄武に聞いた。
「ああ、それはな、師匠のメンテナンスだな」
「メンテナンス?」
そう私が言うと、玄武は傍の工具箱からドライバーを出した。
「そうだ。師匠は今、体が機械だから、こういうメンテナンスをやっておかないと動かなくなっちまうんだな」
そして、ドライバーで師匠と呼んでいるアンドロイドの背中をいじりはじめた。
「それじゃ、レイさんもメンテナンスしてるってこと?」
「いや、レイの方はしてない」
「え?」
「だって、あれは師匠と俺の合作だからな」
「合作?」
「そうだ。俺はこの人に色々教わったんだからな。レイはいわば最高傑作。師匠が作った機体に、俺が色々詰め込んだんだ。だから、メンテナンスなんてほぼいらない」
「へ〜」
正直、玄武が全部作ったと思っていたから、驚きだ。
「そういえば、お前こそ何でここに?」
玄武が不思議そうに聞いてきた。
「ああ、服を買いに行ってくるから、その報告」
「へ〜、お前にしちゃ珍しいな」
「いや〜凛がさ……」
昨日のこと、凛が聞いてきた。
「導華っていっつもその服着てるよね」
その時私が着ていたのは、いつものスーツ。確かに寝る時以外もっぱらこの服を着ている。
「あ〜、確かに。まあ、この服が一番しっくりくるからね」
異世界に来た時はなんだかんだ言っていたこの服だが、今になって愛着が湧いてきた。
「導華なら色々似合うと思うんだけど……」
「私もう26だし、そんなに色々着れる年齢じゃ……」
凛が固まった。
「……26?」
「どうしたの?」
「今、なんて言った?」
凛の目がそれはもう凄まじく鋭くなっている。まるで猫のよう。
「だから、私はもう26だから……」
すると、凛が肩を掴んだ。
「導華って26だったの!?」
「え!? 逆に今までいくつだと思ってたのさ?」
「……22?」
「若めだなぁ」
もうアラサーも見えてきたこの年齢。それが22……。
「何でそんなに若く見えるのかね……」
昔から若く見られがちだったが、ここでもそれは変わらないらしい。
「肌綺麗、声綺麗、立ち姿綺麗……」
「そんなにあげられると恥ずかしいからやめて」
そして、凛が何かを決めたように声を上げた。
「決めた!」
「何!?」
「導華、明日丸八デパート行こう!」
「はぁ!?」
そう言われても明日は平日。凛は学校がある。
「学校あるよ!?」
「関係ない! 放課後行こう!」
「部活とかないの?」
「入ってない!」
そして、凛の強引な押しにより、私はデパートに行くことになった。
「そんなことがあったのか」
玄武はほげ〜といったような、あまり興味なさげな顔で返事をした。
「そういうわけだから、デパート行ってくる」
「金はあるのか?」
「使ってないからいっぱいある」
この世界でまだあまり買い物をしていないため、私はたんまりお金を持っていた。趣味もないため、ほぼほぼお金を使わない。
「おお……そうか」
若干驚き気味の玄武を横目に、私は丸八デパートへと向かうのだった。
「導華、こっち」
丸八デパートの西口、そこに学校帰りの凛がいた。
「お久しぶりです」
「どうもです!」
そこにはアンとルリもいた。2人とも制服だ。
「3人とも、学校お疲れ。まさか、アンちゃんもルリちゃんも着てくれるとはね」
「いいんすよ。うちの学校、軽音部もないんで、つまんなくて」
「私も部活に入るより、やりたいことがいっぱいあるので」
なるほど、3人とも部活に入っていなかったから簡単に来られたのか。
「それじゃあ早速行きましょう!」
そうして、私たちの買い物物語が始まった。
「最初はわたしっすね!」
最初に向かったのは、アンがオススメするお店。どうやらよく行くらしい。
「ここっす!」
「ここって……」
「……楽器屋ですね」
「楽器屋じゃん」
「楽器屋だね」
なぜか案内されたのは楽器屋。
「違う違う、隣」
……の隣の服屋だった。
「よかった」
「流石にギターもファッションとか言い出すかと思った」
「言わねーよ?」
アン曰く、楽器を見にきた帰りによく寄るらそうだ。まあ、買うことはないらしいのだが。
「ここはファンキーな感じの服がいっぱい売ってんだ」
そこには、まさにバンドマンの服というような服がズラッと並んでいた。ちなみに、店員さんの服は普通だ。
「なるほど……。アンらしい選出ですね」
「だろ?」
そして、服の知識が最底辺の私は服を選んでもらう。
そのあと、選んでもらった服をもって、試着室に入った。
「これでお願いします!」
そう言われて、差し出された服をとりあえず着る。
「何渡したの?」
「へへ、かっこいいやつだ」
そんな会話を聞きながら、試着室のカーテンを開ける。
「何といいますか……」
「アンらしいというか……」
私が着たのは上がドクロのマークのついたTシャツ、下がダメージジーンズといったまさにファンキーという感じでのコーデだ。
「……男子中学生並みのセンスですね」
「へへっ、ありがとよ」
「褒めてません」
よくわからないが、何だかダサいようだ。
「ですが、ダメージジーンズはいいかもしれませんね」
「そうなんだ」
「とりあえず、似合いそうなトップスを探してきましょう」
そう言って、ルリが持ってきたのを着てみる。
「お〜」
「まあまあさまになってる!」
その服というのが、白黒ボーダーのTシャツである。
「導華さんなら、こういうシンプルな感じがいいかと」
確かにこれなら割と好きかもしれない。凛もいっぱい写真を撮ってくれている。
「じゃあ、ひとまずこれ買おうかな」
そうして、まず、一つ目のコーデを購入した。
「私はここのお店です」
ルリが案内したのは思ったより高そうではない店だった。そこは主にレディースを取り扱っている店舗で内装は明るく店員さんも優しそうだ。
「思ったよりも普通だね」
「お嬢だっていっつもドレス着てるわけじゃないからな」
そうして、またも試着室で待っていると、ルリが服を持ってきた。
「これが私のコーデです」
とりあえず着替えて、反応を見る。
「お〜!」
「近所の優しいお菓子とかくれるお姉さんって感じがするな!」
今回持ってきたのは、少し濃いめの緑のスカート、そして紺色のシースルーのトップス。
「これでハンドバッグなどを持ってみるといいかもしれません」
これは普通におしゃれだ。優しそうかはわからないが。
「それじゃあこれも買ってくる」
そうして、2つ目のコーデを手に入れた。
「最後は私」
そして残されたのは、凛だ。
「ここは……」
「ワンピース専門店か」
案内されたのは、多くのワンピースが並ぶ店舗。店員さんもワンピースを着ている。
「私はシンプルにいく」
いつも通りに試着室に入り、凛から服を渡された。
「それじゃあ、着てくる」
そして、服を着てみてカーテンを開ける。
「なるほど……」
「……海とか行きたくなるな」
渡された服というのは、白のワンピース。少しシースルーの感じもあって、服自体が綺麗だ。
「やっぱり、導華はこういうのも似合う」
相変わらず写真を撮り続ける凛。
「こういうのなら、帽子とか併せてもいいですね」
「わかる」
そうして、女子高生3人組のおかげでコーデを三つ手に入れたのだった。
「ただいま〜」
だいぶ遅くなって、凛と帰宅してきた。
「おお、おかえり」
「だいぶスパッと決まったよ」
「ならよかった」
事務所に入ると、晩御飯が準備してある。
「影人と俺はもう飯食ったからお前らも食べな」
「わかった」
今日の晩御飯はカレー。カレーといえば、家によってかなり味が分かれる。今回は中辛らしい。
「あ〜、お家のカレーって感じ」
部屋に飾らず、程よくスパイスも効いている。こんな塩梅のカレーが一番美味しい。
「私はちょっと辛い……」
「であれば、こちらをどうぞ」
そして、レイさんが出したのは、牛乳。
「乳製品と一緒に食べると辛さが和らぎます」
「……本当だ」
こんな具合で私たちは晩御飯を食べ終わった。
「ひとまず、今日買った服は洗っておきます」
買った服はレイさんが預かってくれた。
「ありがとうございます」
「そういえば、山守神社様からお電話がありましたよ?」
「何て言ってました?」
「はい、明日伺うと」
「わかりました、ありがとうございます」
哲郎さんたちが来るということは、きっと何かしら相棒候補が出たのだろう。
「相棒……か」
変なやつを連れて来ないといいのだが。
「おはようございます」
朝9時ごろ、哲郎さんと京香さんがいつも通りの黒い大型車でやってきた。
「ああ、おはようございます」
「とりあえず、相棒候補は見つけてきました」
「……どこにいるんですか?」
黒い大型車の中だろうか?
「ここにはいません。今からその場所に向かいます」
「あ、そうなんですか」
ぶっちゃけこんな街中で馬鹿でかい妖怪を出されたらとヒヤヒヤしていたので助かった。
こうして影人くん、私、一応玄武という組み合わせで、車でその場所に向かうのだった。
「着きましたよ」
着いた先は一つの村。周りには多くの木々が並んでいる。
「ここは?」
「ここは
確かに、民家を見れば、多くのお札や何か呪物のようなものがある。
「はえ〜」
とても都会から車で行ける距離に大自然があるとは信じられないほどの美しい自然。それに呆気にとられながらも、私は村道を進む。
「ここです」
京香さんに連れられてやってきたのは、ある屋敷。以前の空き家とは比べ物にならないくらい大きい。
「ここは村長の家です。ここで主に霊を捕られて管理しているんですよ」
言われてみれば、この家だけ、物々しい雰囲気がする。
「それでは行きましょう」
靴を脱ぎ、哲郎さんを先頭に廊下を進む。そして、哲郎さんが入った部屋に入る。
「ご無沙汰してます。村長」
その部屋の中にいたのは着物を着て、髭を生やした老人。厳格なオーラを纏っている。
「この少年か……」
老人は影人を見ると立ち上がった。
「すまないな。こんな危険なことに巻き込んでしまって」
そして、影人に声をかけた。意外と気さくな人のようだ。
「ううん、かっこいいから大丈夫」
「そうか、かっこいいか。はっはっは!」
老人は高笑いをする。まるで近所のお爺さんといった感じだ。
「……村長? 自己紹介を……」
そんな様子を見かねて、京香さんが村長に声をかける。
「そうだったな。私の名前は
そして、村長はまた座り直した。
「さて。それでは早速、相棒を探しに行こうか」
こうして、影人くんの相棒探しがスタートした。
「それでは少年」
「影人だよ?」
「ふむ……影人くん。君はどんなのが好きなんだい?」
屋敷の廊下を歩きながら、村長さんと影人くんが会話をする。
「え〜と、おっきいやつ」
「後は?」
「ん〜と、白くて強いやつ」
「よしわかった」
村長は影人くんの話を聞くと、どこかに歩き出した。
「少々、外に出ようか」
そうして案内されたのは屋敷の隣の蔵のようなところ。
「ここに霊が?」
「ああ、ここには比較的大きめな霊が揃っている」
そう言いながら、扉を開けると、中は思ったよりも明るく、中にいる霊も前に見た個体より綺麗だ。
「色々いますね……」
人型のものもいれば、馬もいたり、何ならそのハイブリッドもいる。ここなら相棒が見つかるかもしれない。
「ひとまず、回ってみるといい」
そして、ひとまずこの蔵の中を見て回るのだった。
「う〜ん……」
一通り見て回って、影人くんは悩んでいた。
「どうだった」
「いっぱいいて悩む……」
確かに蔵の中には多くの霊がいた。数人絡んできたりしたが、概ね皆良さそうだった。案外皆優しそうなものばかりだった。
「そうだな、考え続けていても仕方ない。ひとまず、ここでお茶にしよう」
村長さんがお茶を淹れてくれた。
「そうですね」
そして、久しぶりにお抹茶を飲んだ。随分昔に接待で飲んだ覚えがある。もう味も忘れてしまった。
「美味しいですね」
「そう言ってくれるだなんて、嬉しいのぉ」
そんな会話を交わしていると、影人くんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、遊んできていい?」
子供にはお抹茶は早かったみたいだ。飽きてしまったらしい。
「いいですかね? 村長」
「そうだな。遊べる場所があるかは分からぬが、せっかく来てもらったんだ。大体安全だろうし行っても良いぞ」
「わかった!」
そして、影人くんは元気に走って行った。
「ふんふふんふふ〜ん」
影人は軽快に村を歩く。
「……ん?」
すると、山の木々の一つにカブトムシがとまっているのを見つけた。
「あ! カブトムシ!」
そして、それを追いかけて、山の中に入っていく。
「お〜!」
山の中には、多くの虫がいて男子小学生が歓喜の光景だった。
ここで一つ、この尺八村のある欠点を説明する。
尺八村には幽霊が入って来られないように結界が張ってある。しかし、そのため、その村の周りには村の中に入れない幽霊がたまっている。そして、この山は幽霊の集まるところになってしまっているのだ。
「……ん?」
そして、影人は気がつくと、ある綺麗な祠のようなものの前にいた。その中には石ころが入っている。
「何だろ? これ」
そして、影人はその祠に興味を示した。
「とりあえず、これでも置いておこうかな」
そして、影人がおいたのは、先程の屋敷にあったお茶菓子。
「誰か食べてくれるかも」
そして、影人は虫探しを再開した。
「あ!」
しばらく虫探しをした後、影人は再び祠の前にいた。
「食べられてる!」
そこには食べカスがボロボロと落ちていて、お菓子がなくなっていた。
「誰が食べたんだろ〜?」
そんなことを言っているうちにあることに気がついた。
「……ここってどこなんだろ?」
影人も虫探しに夢中で気が付かなかったが、迷ってしまったようだ。
「う〜ん、どうしようかな〜」
そうして、悩んでいると、1人に中年がやってきた。
「少年、大丈夫かい?」
中年は影人に声をかけた。
「僕迷っちゃったみたい」
「そうかい。それは大変だ。一緒に村に戻ろう」
そして、影人の手を引いて、中年は歩き出した。
「すぐ着くから、大丈夫だよ」
「……ねぇ、おじさん」
「どうしたんだい?」
影人は不安そうな表情を浮かべて聞いた。
「おじさんはどうして足がないの?」
影人の手を引いた中年。彼の足は透けていた。
「……」
ある者がいた。
「……」
彼女は腹を空かせたまま、ある小さな石の中に封じ込められていた。
「……」
最近までもらっていた食べ物がなくなり、彼女は急速に弱って行った。
「……だろ? これ?」
「……?」
久しぶりに人の声がした。
「…れかが食べてくれるかも……」
そうして、彼女の前にあるお菓子が置かれた。
「……!」
彼女はそれを貪った。
「……」
久しぶりの食べ物。それをくれた何者かにお礼がしたかった。
彼女は石の中を出た。
「……」
そして、彼女は食べ物をくれた少年を見つけた。
しかし、彼女はわかっていた。きっとこのまま行ったら、彼を驚かせてしまうと。
「……!」
しばらくすると、少年は弱い霊に連れて行かれた。
「……」
このままでは、彼は食べられてしまうかもしれない。
「……ポ」
彼女はその力を解放した。
「おじさん!?」
影人の手を引いたその霊は急速に形を変えて、黒いモヤのようになった。
「ヒヒ……」
そのモヤからは声がする。
「バカナガキ……」
影人はそのモヤからは手を抜こうとした。
「抜けない……!」
しかし、モヤは恐ろしいほど強い力を持っていた。
「タベテヤルヨ……!」
「ヒッ……! 助けて!」
影人に体がモヤに引き摺り込まれそうになる。そして、影人が悲鳴を上げたその時だった。
「ポポポポポ!!!!」
巨大な何かが黒いモヤを切り裂いた。
「ギエエエエエ!!!!」
黒いモヤは影人を吐き出した。
「ぎゃ!」
その勢いで、影人は投げ出される。
「ポ!!!!」
それを何かがキャッチする。
「誰……?」
その何かはとても大きい。そして大きすぎて顔が見えない。しかし、とても白い服を着ている。
「……ナゼオマエガ、ココニイル!!!!」
モヤからは叫び声が響く。
「ポ〜ポ!!!!」
「クソッ!!!!」
彼女がそう叫ぶと、モヤは消え去った。
「ポ〜……」
その後、安心した彼女は、影人を置いて、どこかに行こうとする。そこを降りた先には、村が見える。しかし、彼女はその反対に行こうとしていた。
「待って!」
「……ポ?」
影人は彼女を止めた。
「ありがとう!」
無邪気なその笑顔。彼女は助けてよかったととても嬉しくなる。
「ポ!」
そして、少年はなぜか彼女の手を引いた。
「ポ!?」
抵抗しようかとも思ったが、彼女はなぜかできなかった。なぜなら、影人はこう言ったからだ。
「君! 僕の相棒になってよ!」
彼女はその時、これ以上ない嬉しさを感じた。
「……何だか騒がしくなってきましたね」
影人くんが遊びに行った後、なぜだか少し騒がしくなってきた。
「……なんかすごくデカくて白いのが見えるんですけど……」
「何!?」
その言葉を聞いた途端、村長は血相を変えたように外に走り出した。
「ちょっちょっちょ! どうしたんですか!?」
「まずいぞ! なぜだかわからんが、奴が復活しおった!」
「奴……!?」
そして、人混みをかき分けて、その中に入ると、影人くんと影人くんと手を繋いだ白い何かがいた。
「デッカ!?」
その身長は2メートルを超えている。
「導姉! ただいま!」
影人くんは私を呼んだ。
「え、影人くん。その人誰?」
「僕の相棒!」
周りがかつてないほどざわついた。
「……村長。あれって誰なんですか?」
青い顔をした村長に聞くと、ポツリポツリと語り出した。
「……数百年前、この村を大量の霊が襲った。その時、霊や怪物の大将として、君臨した妖怪がいた……」
村長はごくりと唾を飲んだ。
「間違いない……! 奴は『
どうやら、影人くんはとんでもないものを連れてきたようだ。
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