第5章 We are out of the ordinary
第26話 Warning/警告
「ジリリリリ……」
「はい、竜王事務所です」
4月も終盤になった頃、朝早くに事務所の電話が鳴った。
「はい、はい……。なるほど」
玄武はそれをとり、話を聞く。
「わかりました。また追って連絡いたします」
電話を切って、窓の外を見る。外は雨は降っておらず、かと言って晴れているでもない微妙な空模様だ。それをじっと見つめた後、玄武は例にレイに頼んだ
「レイ、導華を起こしてきてくれ」
「はい、了解しました」
レイは階段を登って導華の部屋へと向かう。
「こればっかりは俺は動けねぇしな」
玄武はノートパソコンに映った自分の事務所の『幽霊退治』の文字を見ていた。
「ついに幽霊退治の依頼、か」
早朝、レイさんに起こされて、何事かと思いながらも事務所に向かうと、玄武が先程受けた依頼についてを教えてくれた。
「ああ、そろそろかと思ってたがな」
通常、私たちは化ケ物退治をしている。だから、この事務所が幽霊退治をしていることが知られていないのもあって、依頼はなかった。そのためこれが初めてのしっかりした幽霊退治となる。
「俺じゃ何にもできないし、ここは導華に一任したい。いけるか?」
「うん。一応、山守神社の方にも連絡入れておく」
「ありがとよ、頼んだ」
そして、私初の幽霊退治という新たな任務が幕を開けた。
「導華さんが幽霊退治に向かうということで、我々も同行します」
山守神社に連絡をすると、以前に病院で見た黒い大型自動車が迎えに来てくれた。そして停車すると、中から京香さんが出てきた。
「だ、だいぶ重装備ですね」
一つの任務だけで大型車を出してもらうのは、大袈裟な気がする。
「こんなものです。一個一個の一件が大変なものになることがどうしても多いんです。そのため、量より質、任務の数ではなく、任務での生存者を増やすことをモットーにして、我々は活動しているのです」
以前聞いたように、この幽霊業界は常に人員不足。人が一人減るだけで大きな打撃をうける。だから、この対応も仕方がないのかもしれない。
「とにかく、この車に乗ってください。退治のくわしい方法は中で私が教えます」
京香さんの言うことにおされて、車に乗ると、運転手である哲郎さんがいた。
「今日はよろしくお願いします」
「導華さんもついに幽霊退治ですね……」
哲郎さんは私を見ると、なぜかしみじみとした顔をした。
「ほら、パパ。早く出発して」
「……はい」
そして娘に叱責され、縮こまったままの運転手の運転で車は出発した。
「よろしくお願いします」
今回の依頼はある空き家での依頼だ。空き家は赤い屋根の平屋一戸建て。長い間放置されていたのか、外装がボロボロになっている。
「それでどう言ったことが?」
「それが……」
話を聞くと、どうやらこの空き家、最近になって幽霊被害が起こり始めたらしい。近所の住民から呻き声やものが動く音、そう言った音が深夜聞こえると空き家の持ち主である依頼人の
「それで前にも広告で見た霊媒師さんを呼んで除霊をしたのですが、治らなくて……」
概ね依頼の際に聞いた話の通りだ。ちなみに、今回は山守神社も属している団体に話を聞いた際に、値段と症状からウチを勧められたそうだ。
「それでは、ここからは私たちにお任せを」
話を聞いて、とりあえず依頼主さんには帰ってもらう。
「まずは……」
手始めにある札を貼る。
この札は封じの札というものだ。いわば、化ケ物退治での結界とほぼ同じものだ。
京香さん曰く、幽霊は化ケ物と違って一般人の目に見えないため、こうして外に出さないようにして周りの安全を保つという意味もあるらしい。さらに、霊に貼れば、除霊もできる優れものなのだそう。
「お邪魔しまーす」
中は案外綺麗で、古き良き日本家屋というイメージだ。ひとまず、中に入ってすぐの畳の部屋に入る。
「どうですか、哲郎さん」
どことなく嫌な感じはしているため、幽霊はいるのだろう。一応、哲郎さんに尋ねてみた。
「う〜む、確かに幽霊がいた形跡があるようですね……」
そう言いながら周囲を見渡す。
「ほらここ」
そう言って、哲郎さんは黒いヘドロのようなものを指差した。
「これって……」
「そう、霊力です」
以前の病院でも見たものだ。
「だから、霊関連の何かがいることは確定ですかね」
「なるほど」
すると、一緒に歩いていた京香さんが何かを見つけた。
「ん?」
「どうかしたか?」
「なんかこの畳少し浮かんでない?」
言われてみると、確かに畳と畳の間に少し段差がある。
「何かこの下にある?」
「とりあえず、持ち上げてみましょうか」
私と哲郎さんで畳を持ち上げる。
「これは……」
すると、中から階段のような空間が出てきた。
「ここにも霊力がこびりついている……」
この階段が何かはわからないが、何かしら今回の一件に関わっていると見て間違いなさそうだ。
「不気味……」
京香さんのいう通り、階段は石の階段でところどころ黒ずんでいる。その上、その先に何があるのか見ることができない。
「……行きましょうか」
手にランタンを持ち、私たちは階段へと歩を進めた。
ポタポタと雫が落ち、床にはところどころ苔が生えている。
「空き家の下がこんなになっているなんて……」
ただの住宅街の中の普通の一軒家。そんなものの下にこんなものものしい空間が広がっているとは想像もつかない。
「ここに住んでいた人はどんな人かお話は聞いていますか?」
「確か、研究者だと」
「であればここは研究室だったのかもしれないですね……」
そのまま進む。途中途中でコウモリや虫がいたあたり、おそらくもう使われてはいないのだろう。
「扉?」
しばらくすると、黒い扉の前に辿り着いた。
「田切さん、見てください」
哲郎さんがドアノブを指差す。そこには霊力がこびりついている。
「量的にここにいることは間違いなさそうですね」
確かに扉の向こうから強い霊の気配を感じる。
「……行きましょうか」
哲郎さんが扉を開く。ギギギという重い音と共に、内部が明らかになる。
「これはひどい……」
中はまさに地獄絵図。たくさんの空のケージが置いてあり、中に動物がいたのだろう、中のケージには赤いシミが大量についている。その上、その空間は腐臭で溢れている。今いるだけでもかなり辛い。
「……ごめん、出る」
この光景に耐えかねて、京香さんは外に出た。
「私もあんまりここにはいたくないですね」
「導華さんもそうなりますよね。幽霊退治をしているとこういう現場も少なからずあります。早いとこどうにかしましょう」
その時だ。
「誰ダ……」
その空間の奥、ランタンの光の薄いところから、声がする。反射的に刀を構える。
「……私たちは除霊に参りました。あなたこそ誰ですか?」
ランタンを持ち上げ、その姿を見る。
「ワタシハ、誰ナンダロウナァ」
形は人型。しかし、その体全体に何かが巻き付いている。巻き付いているそれは蠢いている。
「あれは……犬?」
巻き付いていたものは犬、猫、ウサギといった動物たちの頭を持った長い間蛇のような何か。それぞれが独立して動き、私たちを見ている。
「どうやら、屋敷の主人の霊に、ここの実験動物たちの霊がくっついたようですね。もうあれは怪物になってしまっています」
「事情はともかく、アレを祓いましょう」
「ええ、もちろん」
そうして、初の除霊が始まった。
「グギエエエエエ!!!!」
犬の頭がこちらに向かってきた。
「ふん!」
哲郎さんはそれを何かの紙が大量についた棒で殴る。
「ギア!!!!」
すると、犬の頭が吠えて、元の怪物に戻る。
「ジョアゴアアアア!!!!」
「ビアゲレアアアア!!!!」
それでもさまざまな動物たちが哲郎さんに向かう。しかし、その動物たちも同じように打ち返される。
「どうなってるんですか、その棒!」
「これはお祓い棒です! 棒に大量の封じの札を貼って、武器として扱えるようになっているんです!」
その後も哲郎さんはお祓い棒で除霊をしていく。
(やっぱり。集まってるだけで、それぞれはそんなに強くない!)
私の方にも向かってくるが、その全てが切り伏せれる。
「アア……グ」
「でも、何回やっても効果なさそうですけど……」
何度も動物の霊を倒していくが、怪物の方はピンピンしている。
「そうでもなさそうですよ」
よく見れば、段々と絡みついていた動物の霊たちが少なくなっている。
「本当だ」
「このまま押し切って、本体を叩きましょう!」
「はい!」
その後も除霊を続けて、ついに本体に巻き付いていた動物が消えた。
「これなら……!」
「田切さん、頼みます!」
「了解です!」
本体に駆け寄り、首元に狙いを定めて刀を振るう。
「……甘イ」
「なっ……!」
しかし、その刃は相手の霊力に押されて、弾き返される。体勢を崩しかけるが、何とか着地し、再び刀をもって立ち上がる。
「大丈夫ですか!?」
「はい。でも、あれって……」
先程と違い、本体からは赤い目が2つ輝いている。他の霊がいなくなって見えるようになったそれはギラリと睨んでいるようだ。
「ヤット、オモイダシタ……」
そして、その霊はその赤い目を卑しく歪ませた。
「ワタシハ……『トウゴウ』ダ!!!!」
戦いはまだ終わらない。
「サア、シモベヨ……ヤツラヲ打破セヨ!!!!」
トウゴウと名乗った怪物の体からはまた動物たちが飛び出した。
「また来ます!」
「さすがにもう、きつくなってきました」
流石に哲郎さんも体力の限界が近いようだ。
(私がやるしかないか……!)
グッと手に力が入る。
「だけど、数が桁違いすぎる……!」
哲郎さんはそのお祓い棒で何とか捌き切っている。しかし、いつ倒れてもおかしくはない。
その時、トウゴウが大技を放った。
「『
そして出てきたのは、犬や猫、虎や熊といったさまざまな頭を持った八つ首の霊。言うなれば、ヤマタノオロチの姿に近い。
「なんて大きさ……」
大きさは優に10メートルを超えている。私たちを見た途端、その霊が首を伸ばしてこちらを噛みつこうとしてくる。
「うおっ!」
それを何とか受け切るが、大きさが大きさなだけあって、流石に辛い。
「やはり、短期決着で行きましょう!」
それを見て、哲郎さんが言った。
「でも、どうしましょうか?」
目の前には巨大な霊。そしてその奥からは大量に霊を出してくる怪物。どうやって大量の霊と八つ首の霊を越えれば良いのか。
「それは……」
哲郎さんも解決策はないようだ。
「……なら、一ついいですか?」
そこで、一か八か勝負にでる。
「準備はいいですか?」
「大丈夫です!」
刀を構え、八つ首の霊の前に立つ。
「……田切さん、頼みました!」
「任せてください!」
そして、哲郎さんは怪物がいる方向に向かってお祓い棒を投げる。
「ウグ!!!!」
そして、大量にいた霊を押し除けて、八つ首の霊の前にたどり着く。
「オワリダ!」
その後ろで怪物が叫び、八つ首が私に噛みつこうとしてくる。
「グア!!??」
「何ッ……!」
「終わりなんかじゃ、ありません!」
その勢いで、八つ首の霊の首を全て落とす。
「ゴオオオオオオ!!!!」
そして、首のなくなった霊はばたりと地に伏せた。
「ナゼ、噛ミツカレナイ!!!!」
怪物が声を荒げる。
「簡単ですよ」
そして、怪物の目の前にやってくる。
「ナッ!?」
怪物は私の姿を見て驚愕する。
「このお札があれば、あなたたちは攻撃できないですよね?」
何をしたのか、それは単純な話、私自身をお祓い棒と同じ状態にしたのだ。おかげで身体中お札だらけでスーツから髪までベタベタする。
「これで終わりです!」
刀から霊力を引き出し、刀身を黒くする。
「『
「ギアアアアアアア!!!!」
そして、怪物ことトウゴウはその姿を薄くして消えた。
「ひとまず、やることはやっておきました。あとは様子見ですかね」
「はい、ありがとうございます」
管理人である東郷さんに鍵を渡し、今回の任務は幕を下ろした。ちなみに、体についていた匂いは京香さんの消臭魔法で消した。幽霊退治だとこの魔法は使い勝手がいいらしい。
「哲郎さん、京香さん。今日はありがとうございました」
車の中、運転やら何やらでかなりサポートしてくれた2人に礼を言った。
「いえいえ、私は途中からいませんでしたし……」
「それに、大半は田切さんが処理したものなので」
とにかく、今回はうまくいってよかった。
「……ところで、一つ提案がありまして……」
哲郎さんが切り出す。
「何でしょうか?」
「影人くんのことです」
「……そうですよね」
何となくはわかっていた。影人くんの祓人の件は騙し騙し、何もせずにここまできた。しかし、そろそろ何かしら結論を出すべきだということは理解していた。
「提案って何ですか?」
「これは本人に結論を聞きたいのですが、幽霊退治の相棒をつけるというのはどうでしょうか?」
「相棒?」
「ええ、相棒です」
よくわからず、ひとまず話を聞くことにした。
「これから祓人になるならば、あのような凄惨な現場も多少なりとも見ることになるでしょう。だから、戦闘を他の霊に任せて、影人くんから霊力だけを送ってもらうというのはどうでしょう?」
「……つまり主従関係をつける、猛獣使いのようなことをするってことですかね?」
「ええ、概ねその認識であってます」
確かに、それなら影人くんは危険にならないだろう。しかし、問題は誰を相棒にするのかということだろう。
「その相棒はとりあえず、私たちで探していきます」
京香さんが言った。
「任務などで使えそうな霊がいたら、影人くんに会わせてみたいのです」
「う〜ん……。私じゃ何とも言えないですし、ひとまず一緒に事務所に行って、そこで決めましょうか」
そうして、車は事務所へと向かって行くのだった。
「いいよ」
「ふぇ?」
事務所について、玄武に言って、影人くんに先ほどの話をした。
「いいの?」
「だから、いいってば」
すると驚いたことに簡単にOKをもらえてしまった。
「え〜、というわけで私どもの方で相棒探しはやっておきます」
「はい、わかりました」
そして、玄武と確認をすると哲郎さんたちはそそくさと帰って行った。
「なんか、もうちょっとあるかと……」
「僕は危なくないし、カッコよさそうだからいいんだ」
話を聞くと、どうやら最近バトルもののアニメにハマっているらしい。それで判断されるのは若干怖いが、最悪私も山守さんの方もあるし何とかなるだろう。
「アニメでお化けが怖く無くなるとは……」
「あれだ。男の子ってのはバトルものが大好きだからな」
「そうなのかなぁ〜」
「それに、こうして色んなところに手を伸ばしていた方が、あっちの世界への帰り方もわかるかもしれないしな」
そういえば、影人くんは私と違って帰りたい方だと前に言っていた。
「……まあ、最悪俺たちもいるから大丈夫だ」
そうして、影人くん祓人デビュー計画が始動したのだった。
「玄武〜」
ある日のこと、その日は平日の夕方。少し家を空けたいので玄武に言おうと思って玄武を探していた。しかし、珍しく発明部屋にも地下にもいない。
「レイさんは買い物に行っちゃったし、どうしたもんかな〜」
そして、諦めて部屋に戻って準備をしようと思っていた時、ふとあることに気がつく。
「監視室のドアが開いてる?」
いつもは閉まっているはずの黒い重厚なドア。そのドアが開いていたのだ。加えて、そこから光が漏れている。
「もしかして、あそこ?」
もう団員である私。それなら監視室くらい入っても問題ないだろう。
「……入るか」
ドアノブを持ち、重いドアを開ける。普段暮らしている建物のはずなのに、妙にドキドキする。
「玄武〜いるなら返事くらい……」
ドアを開けた先に確かに玄武がいた。玄武がいたのだが、その隣に黒い鉄球のような何かが浮かんでいる。
「……導華か?」
そして、玄武は振り返ると、その黒い球が動く。
「ほぉ、こいつが導華か」
「師匠はいっつも観てるでしょう」
「はっはっは、そうじゃったのぉ」
玄武が師匠と呼んだその玉。それからは2つのアームが出ている。その上、その中心にはディスプレイがあり、二つの黄緑色の線がまるで目のように光っている。
「……何それ?」
わけもわからず、玄武に聞く。
「ああ、これ……というか、この人は俺の師匠だ」
「……師匠!?」
すると、その反応を見た鉄の球がくるりと宙で回って、そのあとその体からクラッカーのような音と共に紙吹雪を出した。
「パンパカパーン!」
「……え?」
「師匠、とりあえず、自己紹介してください」
「おお、そうじゃった、そうじゃった」
そして、黒い球は私の前に来た。
「わしの名前はテッカイじゃ。玄武の師匠をやっておる。今は訳あってこういう体じゃが、普段はここで監視をしておる。これからよろしく頼むぞ!」
そして、その鉄の球もとい、テッカイは鉄のアームを差し出した。これは握手をしろということだろうか?
「よ……よろしく?」
「ほっほっほ」
テッカイはそのディスプレイに笑ったような目の形をした線を映し出して笑った。
「……なんでここってこんなにロボット多いわけ?」
「「ロボットじゃない。アンドロイドだ」」
相変わらず、所属していても意味のわからない事務所だ。
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