第4章 Welcome to new world
第19話 Loud/やかましい
四月。それは出会いの季節。多くの元大学生たちが社会人となり、会社に就職をして社会の恐ろしさを知る。
そして、多くの学生が新たな仲間と新生活をスタートさせる。桜舞い散る校庭で写真を撮って、新たな教室で仲間と顔を合わせるのだ。
まあ、私の頭の中にはそんな思い出はないのだが。
そんな始まりの季節は私達の団でも例外ではない。
「凛、ちゃんと高校行けたかな?」
「お前は何の心配をしてるんだ」
そう、今日は凛の入学式の日なのである。
私は今、事務所で暇をしながテレビを見ている。残念ながら、私達は一応、同じ団の団員ではあるのだが、親族ではないというまっとうな理由で入学式の出席を許可してもらえなかった。
結果、次の仕事に向けて事務所で準備をしている。
「行けるかと思ったんだけどね~」
「そんなに見たいなら、後で凛の母さんに写真とか動画とか見せてもらえ」
折角なら、凛の晴れ姿が生で見たかった。だが、それはそれで凛から話を聞かせてもらうことができるため良い。
「お前だって今から仕事なんだから、ちゃんと準備しろ」
「は~い」
すっかりパソコン業務のない生活になれてだれてしまった私。母が見たら発狂すること間違いなしだ。実のところ、玄武に言われなくとも、もうとっくの間に準備はできている。だから、どれだけだれていても問題はない。
「行くよ、
「うん」
次の仕事というのは、何を隠そうあの時の少年こと影人くんの事である。
ずっと粘り強く名前と年齢を聞いていたら、数日前についに教えてくれた。年齢は10歳で苗字は教えてくれなかった。
「この子って結局、預かる事になったんだっけ?」
「そうだな」
彼は一度は相談して、警察に引き取ってもらおうということになっていた。しかし、あずかってもらえるどこの施設に行ってもおびえてしまって行きたがらなかった。理由はなんとなくわかっているのだが。
そこで、どこか預けられるところが見つかるまでの間、唯一おびえなかったここ、竜王事務所であずかることになったのだった。今は凛の部屋の隣の部屋を貸し出して、居候させている。
「いや~……やっと行けるね」
あのとき山下さんから影人くんを連れてきて欲しいと言われてから、数週間。意外にも仕事が立て込み、行くことができていなかった。
「今回は転移で行くんだし、楽だね」
「だな」
前のようにバイクを走らせなくとも、前回京香さんと交換していたファインで連絡をとって行くことができる。
「転移って便利だね~」
「ああ、このスキルにはもう何年もお世話になってるからな」
そんなわけで、私達は影人くんを連れて山守神社へと転移した。
「お~ザ・普通って感じだな」
山守神社についた玄武の第一声はそれだった。
実際、山守神社はよくある神社としか言えない見た目をしている。唯一変わっていると言えるかもしれないことは、山奥にあることくらいだろうか?
「神社に意外性を求めないでよ」
「いや、幽霊退治とかをやってるって聞いたからもっとでかいとか、何かの置物でもあるかと思ってたんだよ」
玄武の言うこともわかる。幽霊なんてオカルトの代名詞とも言えるものを退治しているのだから、普通はもっとすごそうな神社を想像するだろう。
「すいませんね。普通で」
三人で並んで神社の方に歩きながらしゃべっていると、本殿の方から哲朗さんがやってきた。なんともいえない表情を浮かべている。
「いや、謝るのはこっちです。うちのバカがすみません」
「大丈夫ですよ。それよりも、前の少年はその子ですか?」
哲朗さんはちらりと影人くんの方を見た。すると、影人くんは驚いたのか、私の後ろに隠れてしまった。
「おや、驚かせてしまったかね。申し訳ない」
ぺこりと哲朗さんが謝る。
「それでは少年も来てくれたことですし、早速本題に入りましょうか」
哲郎さんに連れられて、私たちは前に来た部屋である客間に来た。聞いたところによると、ここが居住スペースなのだそうだ。
「お茶をどうぞ」
今日は京香さんがお茶を出してくれた。
「竜王さん、田切さん。単刀直入にお伺いしますが、あなた方はこの少年についてどこまで把握していますか?」
「一応彼が異世界転生者だということ、名前が影人だということはわかっているのですが、そのほかは全く……」
「なるほど……」
哲郎さんは少し考える素振りをした。その後、こちらに向いてこう言った。
「あくまで私の推測に過ぎないのですが、おそらく彼は霊力を持っていると思いますよ」
「ええ!?」
「……まあ、ですよね」
玄武は驚いているようだったが、なんとなくは察していた。なぜなら、彼が怯えていた場所には軒並み先日見かけたような、いわば幽霊や怪物がいたからである。
あの一件で私も幽霊とやらが見えるようになったらしく、影人くんが嫌がっていたのも理由がわかっていた。
「田切さんはやはりわかってましたか」
「なんとなく、だったんですけどね。それで、それだけじゃないんですよね? 今回言いたいことって」
見えたことを教えてもらうだけならば、実際電話だけでも良い。呼び出したのにはきっと、それ相応の理由があるのだろう。
「そうです。私もこれを言うかどうか迷っていて、実際に少年を見てから決めようと思っていたんです」
「結局なんなんですか? その本題は」
「……影人くん、これは君が決める話になる。断ってくれてもいい。難しい話だからね。本当はこんなことをお願いするのは大人としてどうかとは思っている。だけれど、聞くだけ聞いてほしい」
「……うん」
哲郎さんのその目は光に満ちており、まっすぐと影人くんの顔を見ていた。
「君も祓人になってみないかい?」
「祓人……?」
「……そうなりますよね」
前に哲郎さんも言っていたように、祓人は数が少ないらしい。私はまだしっかりとした任務を行なっていないため実感は薄いが、多い時には凄まじく多くの任務が舞い込んでくるそうだ。
「一応、私の口から影人くんには幽霊や怪物について説明はしました。でも、流石に影人くんは幼すぎませんか?」
だからと言って彼は10歳。こんな恐ろしい世界に身を置くには少し早すぎる年齢だ。
「確かにそうです。ですが、彼は今幽霊が見えるけどどうにもできないような状況。もし彼が祓人として退治をする方法を会得したのなら、何かしらの護身術程度にもなりますし、これから襲われてもなんとかできるかもしれません」
さてどうしたものだろうか? 哲郎さんの言うことも一理ある。だが、流石に祓人までは危ないような気もする。
「ちょっと待て、お二人さん。」
突然、玄武が割り込んできた。
「どうしたのさ?」
「俺からすると、この問題はお前らが議論するべきじゃないと思うぞ」
「……え?」
「よく考えてみろ。こいつは今、よくわからんところに来て、よくわからんまま、よくわからん話を持ちかけられてるんだぞ? しかも、自分のことを勝手に議論されてちゃたまったもんじゃないだろ」
よく考えれば、玄武の言うとおりだ。私達は今、完全に影人君の意思をないがしろにして話してしまっていた。
「自分で決めてくれと言っておきながら、完全に忘れてしまっていましたね……」
「我ながら大人げなかったな……」
これは素直に反省するところだ。影人くんもおびえた表情でこちらを見ていた。
「わかってくれたなら、それでいい。それよりもだな……」
すると、玄武は影人くんの方を見た。
「影人くん、いや、影人。聞いて欲しい話がある」
「……何?」
顔を上げて、玄武を見た。
「もし、お前が祓人になりたいんだったら、俺たち玄武団はお前のことを全面的にバックアップする。もし、お前が祓人にならなくても、やりたいことが出来るめどが立つまではサポートする。大事なのは、お前がここで何をしたいかなんだ。才能も他人の意見も関係ない。今すぐここで選ぶだなんてことは難しいのはよくわかってる。だから、じっくり考えてくれ。そして、俺にどうしたいかを教えて欲しい。期限は設けない。お前だけの人生だ。自分で選んでくれ」
やはり、彼の言葉には誰かの心を動かす力がある。この光景を見て、そしてこの言葉を聞いて、思い出した。
「わかった。そうする」
「ありがとな」
彼は影人くんの頭をわしわしと撫でた。
「そういうわけで竹下さん。決定はもう少し待ってもらってもいいですかね?」
「ええ、大丈夫です。決まったら連絡をください」
結果、結論を出すのはもう少し待ってもらうことになった。自分もそれが良いと思う。
「それじゃあ、行きます。今日はありがとうございました」
「いえ、私も学ぶ物がありました。感謝を伝えたいのはこちらです」
哲朗さんたちに礼を言って、私達は転移で事務所に帰ってきた。
「いや~疲れた~」
ボフッと玄武がソファに座った。私も向かい合うように座る。
「流石玄武って感じだった。やっぱ玄武にはかなわないな~」
「……導華が俺を褒めてる!? レイ、台風と大雪の用意はあるか!?」
「おい、そりゃどういうことだ」
なんだろうか、この男。かっこいいことを言ったと思ったら、このざまだ。やはり、玄武は変わっている。
「まあ、いろいろあったけどよ。俺たちは影人を見守ることに徹しようぜ。大人達はやっぱし子供の成長を見守るのが大事なんだしよ」
「言われなくても、そのつもり」
大人の仕事というものを再確認させられた。
「ただいま〜」
玄武が部屋にこもっていた時の昼過ぎ、凛が事務所に帰ってきた。
「お、おかえり」
「マジで疲れた」
凛はソファに倒れ込むように寝転んだ。今の凛は明らかに疲れて見える。
「……何があった?」
「いや、それがさ……」
そう言って凛は学校での出来事を話してくれた。
「今日から学校か……」
私は今、門の前に立っている。ここは都立
「友達……できるかな?」
実のところ中学時代の私には友人が少数しかいなかった。別にそれでもよいのだが、なんとなく一人くらいは仲の良い人を作っておきたい。
そんなわけで、入学式。周りを見渡せば、獣人からエルフ、様々な生徒で溢れている。
(……ここで話しかける度胸はないかな……)
無理に急いで友人を作るのも良くない。ここは無言のボッチ体制で乗り切る。
校長先生の迷惑なほど長い話。これはどこの学校に行っても変わらない伝統のようなものなのだろうか? であればさっさと断ち切ってもらいたいものだ。
「ここが私のクラスか……」
1年D組と書かれた札の下がった教室の扉の前に立つ。ドキドキしながら扉を開けると、そこには特に知り合いがいるわけでもない、未知の空間が広がっている。私の席は一番後ろの窓側から二番目だ。
何も言わずに席に座って周りを見渡す。入学式で見かけたような気がするもの、絶対陽キャだとわかるようなもの、多分アニメ好きなんだろうなというもの、まさに一般的なクラスという感じだ。
(流石にアニメみたいなことはないよね)
そんなときだった。ドアが開いた。そこまでなら何も驚くことはない。
しかし、そこには明らかに高校生ではない何者かが立っていた。服装から見るに信じがたいが、執事だろう。もちろん教室はざわついた。
「(何これぇ!?)」
いくら驚いても大きな声を出すのは防ぐ。目立ちたくはない。が、私はその光景をガン見していた。
そして、執事が道を開けて、誰かが入ってきた。
「……」
見た目は明らかにご令嬢。髪は金髪で綺麗な緑色の眼をしている。
彼女は何も言わずに歩いて行く。
(どこに座るんだろ?)
そんな考えをしていると、彼女はなんと私の右隣に座った。
(……マジか)
後ろのドアから入ってきた時点で私の席の近くなのは覚悟していたが、まさか隣とは。
「よろしくお願いします」
席に座ると、彼女は私に挨拶をしてきた。
「あっ、よろしくお願いします」
「……」
一応ちゃんと返した。しかし、返は何もない。
(最初はこんなもんだよね……)
それからも続々とクラスメイトが入ってくる。まあ、誰も話しかけてはくれないのだが。
それに対して、隣のお嬢様は色々な人に話しかけられていた。しかし……
「ねえ、名前はなんていうの?」
「それは席表使ってご自分で確認してください」
「趣味って何?」
「それをあなたに教える必要がありますか?」
とまあこんな具合に多くの人を淡白な返しで突き返してしまうのだ。そのせいで、私たち二人は完全に孤立していた。
「そろそろ始めるぞ〜」
前の扉を開けて、担任が入ってきた。話していた人もみな蜘蛛の子を散らしたようにぱっぱと席に戻っていった。
「それじゃあ、出席から確認しようか」
担任は生徒表のようなものを手に持って、一人一人名前を呼んでいく。
「次が……咲原 アン」
しかし、返事がない。よく見ると私の隣の席の人がいない。おそらくこの席だろう。
「いないか……」
そのとき、教室のドアが思い切り開かれた。
「セーフ!」
「いや、アウトです」
そこには赤髪のツインテールにギターケースを持った女の子がいた。
「いや、すみません。道端でおばあさんが困っていまして……」
「そんなベタな言い訳は通じないぞ」
クラスにドッと笑いが起こる。彼女はそれも気にせずに私の隣に座った。
「お、あんたがお隣さんか。よろしく」
「あっ、お願いします……」
明るくて、やかましいタイプが私は苦手だ。しかもなぜかもう一人のお隣のお嬢様がこちらを凝視している。
「ま、仲良くやろうぜ!」
「は、はぁ……」
なぜここまで馴れ馴れしくできるのか? 理解に苦しむ。
「……それでは全員揃ったことですし、少しの間雑談の時間にしましょうか」
担任の計らいにより、ここで周りの人と話す機会ができた。
「……最初くらい、もう少し早く学校に来れませんかね」
お嬢様がアンに聞いた。それにアンは笑って答えた。
「はっはっは。いいんだよ、ちゃんと来れたんだし」
「……あなたはいつまでも変わりませんね、ほんと」
意味がわからないが、なぜかお嬢様が呆れたような、嬉しそうな感じにしている。
「せっかく高校に来たんだし、新しく友達でも作ろうぜ? ほら、お隣さんとかよ」
今度は私に白羽の矢が立った。
「いやです。面倒くさいので」
なぜだか少し傷ついた。そんなこと言わないでほしい。
「まあまあ、そう言うなって。話してみればなんとか行けるかもしれないぜ?」
「……はあ」
観念したのか、お嬢様はこちらを向いた。
「私の名前は
「あっはい。時雨 凛と言います」
「なら私も言っておくか。私の名前は
経歴が濃い。しかし、なるほど。アンとルリは知り合いだったようだ。だったら、その間に座ってる私って……考えないことにする。
「そいじゃあいっちょ友好の証にファインでも交換しとくか!」
出た。陽キャ特有のファイン繋ごうの高速勧誘。だが、断るのも怖いので、受け取っておく。
「ほら、ルリも!」
「しょうがないですね……」
そんなわけでクセの強いお隣さんのファインを手に入れたのだった。
「なるほど……」
凛の話を聞いて思うのが、学校には一人ぐらいいつでも変なやつはいるということである。
「それでファインになんか送ったの?」
「とりあえずスタンプは送っといた」
まあ、話を聞いた限り、楽しそうな学校な気がする。
「とりあえずは今日はもうなんもないよね……」
「うん、お疲れさ」
そんな時、事務所のドアが開いた。
「邪魔するぞ〜、お隣の時雨さ〜ん」
すると、明らかなお嬢様と赤髪の女の子がやってきた。
「……はえ?」
凛が驚きすぎて変な声を出している。
「いや〜まさかネットで検索したら引っかかるとはな」
どうやら玄武団のホームページを見てきたようだ。凛はまんまるに目を見開き、唖然としたままだ。
「あの……どうかしましたか?」
おそらくこの二人が凛の話していた二人のお隣だろう。しかし、事務所に来ている以上、大切なお客様なので要件を聞く。
「そうだった、そうだった。ちょうど探してたんだよな」
「ええ、ここならなんでも解決できるそうですし、頼んでみましょうか」
本当に頼むから変な任務を持ってくるのは、やめてほしい。
「それじゃあ、こいつんちのダイヤモンドを守ってもらっても良いですかね?」
「……とりあえず話を聞かせてもらってもいいですかね?」
意味が分からなかったが、私はひとまず話を聞いてみることにした。
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