第18話 error/エラー
「異世界転生……?」
ああ、そうだった。最初はそうなるよね。私もそうなったもんね。
「う~ん、どうしたもんか……」
とりあえず、警察にでも保護してもらおうと思っていたのだが、異世界転生者となれば話は別。流石にないとは思うが、この子をそのまま戦いに行かせる事になるかもしれないのはまずい。
「……玄武のところに行くか」
悩んでいても仕方がない。とりあえず、玄武の元に帰ることにする。
「ただいま~」
事務所にこの子を連れて帰ってくると、玄武がデニーとなにやら話していた。
「おお、おかえり」
「導華さん、お帰りなさいませ」
「オーウ!!! 導華さん、お帰りなサイ!!!」
奥のレイさんと併せて、出迎えてくれた。
「凛はどうだった?」
「ああうん、起きたよ」
「マジか!? それじゃあ早く行かないとな!」
「いや~その、実はその前にやって頂きたい事がありまして……」
「ん、どした?」
「とりあえず、この子見て」
そう言って、後ろに隠れていた少年を前に出した。
「こ、こんにちは……」
「……隠し子か?」
「ちげえよ」
「オーウ!!! これが『ジャパニーズ昼ドラ』デースか!!! 『修羅場』デース!!!」
「デニーさん、違うからやめてください」
いくら団員だとしてもアウトな話はあんまり聞かせたくはないので、申し訳ないがデニーさんには出て行ってもらった。そうして、いつもの用にソファに座って、隣に少年に座ってもらう。
「それでどうしたんだ? そいつ」
「実はかくかくしかじかこんなことがあってだね……」
玄武に長すぎる廊下に迷い込んだこと、そこで謎の異形にあったこと、そこで訳のわからない黒い刀のモードを手に入れたこと、不思議な男たちにあったこと、そしてそこでこの子に会った事などの病院であった一部始終を話す。
「ふ~ん、なるほど……」
「それで、この子どうするべきだと思う?」
異世界に来て約一ヶ月。まだこの世界での正しい選択は私にはできない。
「俺としてもなんとも言えないが……その子がここに来たいのであれば全然受け入れることはできる」
そう言ってもらえると嬉しい。だが
「まだこんな小さい子にそんな人生の選択になるかもしれないことをやらせるのもね……」
「だよな〜 それに俺たちは今知らない大人なわけだし」
実際問題連れて帰ってくるのも割とアウトな感じもする。
「どうしたもんかねぇ〜」
ウンウンと悩んでいると、机に紅茶とクッキーが置かれた。見ると、どうやらレイさんが持ってきたらしかった。
「これは?」
「はい、こちらはアールグレイです。柑橘系の果実であるベルガモットで香り付けがされた紅茶で、どんな茶葉を選ぶかによって香りや味わいは異なりますが、基本的に爽やかな香りになるのが特徴です。お好みでミルクもどうぞ」
「いやいやそうじゃなくて、どうして紅茶を出したんですか?」
「はい、紅茶にはエナジードリンクなどよりも脳を活性化させる能力があるそうです。それに、このまま考えていてもあまり良くはありません。一旦休憩を取るべきでしょう」
なるほど。確かにその通りだ。
「それじゃあもらいますね」
「はい、どうぞ」
飲んでみると、レイさんの言うとおりさわやかな感じがする。さらにその中にもフルーティな甘さがあり、飲み応えもある。
「……おいしいですね」
「だな」
「君も飲む?」
「……うん」
「ミルクいる?」
「……うん」
ミルクを入れて、差し出すと意外にも美味しそうに飲んでくれた。
「……おいしい」
「良かった。」
一旦のブレイクタイムの後、玄武が言った。
「そういえば、もらった名刺ってやつはどんなもんなんだ?」
「ん? ああ、これこれ」
ポケットから名刺を出す。
「……普通の名刺だな」
「そりゃね」
「思うんだが、まずは簡単に解決出来る事から初めて見たらどうだ?」
「というと?」
そう聞くと、玄武はおもむろにノートパソコンを開いた。
「その出会った奴のことからなんとかするってのはどうだ? ってことだ。とりあえず、このボウズは俺があずかっておいて現状の説明をしておく。だから、お前はここに行って欲しい」
そういうことであれば、確かにすぐにできる。
「わかった。それで、この名刺の場所ってどこなのさ?」
「それはだな……ココだな」
玄武がノートパソコンを回転させて画面を見せる。そこには『山守神社』の文字があった。
「神社?」
「みたいだな」
まあ、考えていても仕方がない。
「了解。それじゃあ行ってくる」
「おう、なんかあったら連絡しろよ」
玄武に少年を預けて、デニーさんに中に入ってもらった後、私は春の温かい風が吹く中をバイクで駆け抜けていくのだった。
「なかなかの山奥……」
バイクを走らせて約1時間。かなりの郊外までやってきたと思えば、いつのまにか山奥に入っていってしまった。
「まあ神社だからムードがあるっちゃあるけど」
初めてこんなところに来たが、なかなか悪くない。木々の間からの木漏れ日が鮮やかで、風も悪くない。道も意外に整備されていて、決して未開の地を目指しているわけではないことがよくわかる。
「そろそろ着くはずなんだけど……」
バイクに付いているナビは付近を指している。
「……お?」
段々とひらけて行くと、そこには立派で大きい……とはいえないが、そこそこ大きめの神社があった。
「ここか……」
バイクを停めて、ザッザと歩いて行く。見た目は本当にオーソドックスな神社。しかし、何故だか不思議な感じがする。こう、浮世から逸脱した感じ……というか。
「ようこそおいでくださいました」
お守りを売っているところから声をかけられた。声をかけてきたのは若い女性で、ぱっと見は二十代。服装からしていわゆる巫女さんという奴だろうか。髪は黒色で、胸はあまりない。
どうすればよいかわからなかったため、とりあえずいってみる。
「お祓いですか?」
「いえ、この名刺をもらったのですが……」
と言いながら、もらった名刺を見せる。その名刺を見ると、巫女さんは少々訝しげな顔を浮かべた後に言った。
「……なるほど。少々お待ちください」
中に引っ込んでいってしまった。
暇になってしまったので、暇つぶしに付近を見る。周りは木々が生い茂り、爽やかな風が吹いている。しかし、その風からはどこか何ともいえない不安感を感じる。
「いらっしゃいましたか」
待っていると巫女さんが男の人と一緒に帰ってきた。男は黒髪でメガネをかけていて、少し疲れているように見える。いかにも苦労人という感じだ。
「病院の時の方で間違いないですか?」
「そうですけど……」
「そこで立ち話するのもなんですし、どうぞあちらの玄関からお入りください」
示された先にはよくある和風の扉があった。
「ああはい。じゃあお言葉に甘えて……」
扉を引いて中に入る。そこはいわば和風の屋敷。形は星奏さんの家に似ているだろうか。
「こちらです」
右奥の襖から先ほどの男が顔を出した。
私も靴を脱ぎ、奥へと進む。
「改めてようこそお越しくださいました」
そこでは男が正座して座っており、巫女さんの姿はなかった。
「あの時はすみませんでした。巻き込んでしまって……」
「ああ、いえ私こそすぐ来てしまってすみません」
あの一件からまだ数時間しか経っていない。
「そこは大丈夫ですよ。ところで、噛まれた左腕はどうなっていますか?」
そういえばすっかり忘れていた。
「痛まないですけど……」
傷口を見てみても特に目立った跡はない。
「そうですか。なら良かったです」
何となく辿々しい会話が繰り広げられる。
「忘れていたのですが、お名前は……?」
「ああはい、田切 導華と言います」
「田切さん、ですか。私は
「どうも」
「……田切さん、一つ聞いてもよろしいですか?」
「別に良いですけど?」
そして、竹下さんはずいと顔を前に出してこう私に聞いた。
「田切さんは幽霊を信じますか?」
「……はい?」
遠くからはるばる来たのにもかかわらず、なんともオカルティックな質問を投げかけられてしまった。
「え、幽霊?」
「ええ、幽霊です」
ここまではるばるバイクを一時間飛ばしてきて、始めにこんな質問とは……
「私は……いたらいいなって思いますかね……」
「それはどうしてです?」
「どうしてって……大切な人にもう一度会えるかもしれないからですかね?」
「……なるほど。ありがとうございます」
竹下さんは姿勢を元に戻してまっすぐな目を向けた。
「田切さん、今から言うことは全て真実です。決して見て見ぬ振りも聞いていない振りもしないと誓って頂けますか?」
ここまで覚悟を決めさせるとは、一体何を話すつもりなのだろうか。
「はい、誓います」
「……わかりました」
そして、瞬きをして話し始める。
「この世には幽霊が居ます」
「……はい」
「そして、この世界はそれを隠蔽しようとしています」
「……はい?」
「この世にまだ存在している魂達を多くの人たちには見せず、内々で使ったり、処理をしたりしようとしているんです」
信じがたい話だ。何を言っているんだこの男は?
「……その話と今回の病院の件。一体何の繋がりがあるんですか?」
「先程、私は世界は幽霊を隠蔽しようとしていると言いましたね?あなたは隠蔽できなかった、隠し通せなかった人、つまり、選ばれた人間なんです」
だんだんと宗教じみた話になってきてしまった。だが、覚悟を決めてしまった以上もう引けない。
「だから、何なんですか?」
「今回我々はあれを祓うためにあの地に出向きました」
「結局、あれは何なんですか?」
「あれは……」
彼はゴクリと唾を飲んだ。
「あれは、人間の魂の集合体です」
「……あれが?」
「正確にはあの病院で亡くなった人々の魂の欠片や怨念、願い、力。その全てが集まった物です。あれは普段人々には『幽霊』と呼ばれ、彼らの目にはとまらない存在です」
「だったらなんで私に見えたんですか?」
「それがあなたが選ばれたということです」
「意味がわからないんですが……」
「選ばれたあなたにお願いがあります」
そう言って彼は紙を差し出した。
「私達とともに祓い人になりませんか?」
「……なんですか? 祓い人って」
「いわば、あなた方守護者の延長線、幽霊退治版です」
「はあ……」
話が飛躍しすぎてついていけない。
「だから、どうか、どうか! 祓い人になって頂けませんか!?」
何故か、熱が入ってきて、だんだんと顔を寄せてくる。
「ちょちょ、待ってください!」
「さあ! さあ! さあ!」
「ひぃぃぃぃ!!!!!」
ぐいぐい来られて、万事休すのこの状況、本当にあんなのを退治する仕事を受けてしまって問題ないのだろうか? というか、この人怖い! もう無理! 助けて!
その時、入り口の襖がピシャっと開いた。
「ちょっと、パパ! その人引いてんじゃん! キモすぎ!」
そこには青色のネイルに赤と青のメッシュの入った黒い髪を持った、いかにもギャルという女の子が立っていた。
「待て、きょうか。これは仕方がないんだ。わかってくれ。人が少なくて……」
「だったら、そこ変わって」
「……え?」
「パパの代わりに私が話すから」
「いや、きょうかよりパパの方が……」
「いいからそこどいて」
謎の『きょうか』というギャルに竹下さんはどかされてしまった。
「すみません。うちの父が」
「……ああ、いえ大丈夫ですけど……」
「父は気にしないでいいです」
竹下さんはシュンと縮こまってしまった。
「ここからはこの人の娘の
急に丁寧なしゃべり方になった。しかし、このしゃべり方どこかで……。
「……もしかしてあの時の巫女さんだったり……」
「お、大正解です」
驚きだ。異世界ではギャルが巫女さんをやっているらしい。
「それじゃあ……まずは幽霊について話しましょうか」
「……わかりました」
京香さんが乗り込んできたことで、竹下さんもとい哲郎さんのいたところには京香さんが座っている。ちなみに哲郎さんは、京香さんに怒られてお茶を出した後に本殿に戻された。
「幽霊というのはいわば死んだ魂。魂は本来その本人が亡くなるとそのまま黄泉の国へと旅立ちます」
この話はよく御伽噺とかでも聞く話だ。
「しかし、まれに本人の願いが強かったり、そもそも本人が強者だったりすると、その魂が現世に残ってしまうんです。この状態を『幽霊』と呼んでいるんです。ここまではわかりますか?」
「はい」
前の世界だとオカルト扱いされるこの話。が、異世界転生があるのだからこれぐらいのことがあってもおかしくはない。
「では次です。その現世に残ってしまった魂というものは他の魂ととてもくっつきやすいんです。その魂がくっついた魂の集合体を『
「その怪物と幽霊って何が違うんですか?」
「簡単に言ってしまえば、幽霊には自我があるんですが、基本的に怪物には自我がありません。そのため、生物としての生存本能だけが残り、人を襲うのです」
「なるほど……」
思い返せば、あの怪物は私のことを食べようとしていたように思える。
「そして、ここからがややこしいのですが、その怪物と幽霊たちが持っている力が魔力とは同じで違うものなんです」
「……ん?」
同じで違う……?
「一応わかりやすいように、頑張って話してみます。導華さん、水やお茶って痛むのって知ってます?」
「ああ、知ってますね」
話が急に変わった。しかし、液体が痛むというのは有名な話だ。長時間常温の中に放置しておくと、たとえ水筒に入れていても飲めなくなる。母にも口酸っぱく言われていた。
「それと同じように魔力も痛むんです」
「え、そうなんですか?」
「そうなんです。普通は起こらないんですが」
途中でズズズとお茶を飲んでまた話す。
「肉体が亡くなると、前提として魔力というものが痛みます。そしてそれは魂の中の魔力も例外ではありません。魔力は『
「じゃあ、怪物が見えた私にもその霊力? があるってことですか」
「きっと気づいていないだけでありますよ。そうじゃないと怪物なんて斬れませんし」
「なるほど……」
やはり、霊力というものは扱い的には割と魔力と似ているようだ。
「どうですか? ここまでわかりましたか?」
「大丈夫です」
説明がわかりやすいおかげで、やっと状況が飲み込めた。哲郎さんが言っていたのはこういうことだったのか。
「そんな怪物たちは自分たちのテリトリーである『結界』へと人を招き入れます。そこでは先ほど言った霊力の有無関係なしに怪物や幽霊と接触できてしまいます。結界の入り口はあらかたの場所は予測できるのですが、基本的に突然現れます。田切さんもそうでしたよね?」
思い返せば、歩いていたら突然無限に続く廊下は本当に突然、何の前兆もなく現れた。
「そうやって幽霊や怪物は人々に害をなすんです」
「つまり、幽霊や怪物も結局は襲ってくるわけなんですか?」
「まあ、そうですね。ですが、それに対して何も対策をしていないわけではありません。それがいわば怪物版の守護者、『
ここでやっと最初の説明と話がつながった。
「それで、その祓人に私にもなってほしい……と」
「はい、祓人はいかんせん霊力を持っていなければいけないという性質上、人が少ないんです。うちの父のように神主の人や巫女さんがやったりもしていますが、守護者と違ってしっかりとした制度も何も整備されていないので、危険なところも多くて……」
この世界でもやはり人手不足というものはあるようだ。考えてみれば、霊感を持っているという特殊な人の中でさらに危険な仕事を請け負うだなんて言ってくれる人は本当に少ないに違いない。
「……正直何をどうすればいいのかなんていうのが全然わからないですが、それでもいいんですか?」
「ええ、田切さんのような素質があるなら私たちが少し教えるだけですぐ現場に向かうこともできます。」
「うーん、ですが、うちの団長にも話を通さないといけませんし……」
その仕事を請け負いたいのはやまやまだが、流石に玄武たちに何も言わないのはまずい気がする。
「なるほど、話は聞かせてもらいました」
すると、障子を開けて、本殿にいるはずの哲郎さんが戻ってきた。
「……何でパパがいるわけ?」
丁寧な言葉遣いから急に年頃の女の子のような口調になる。
「いや、さっき田切さんの名前を聞いてみて何となく調べてみたんだよ」
そう言いながらスマフォを見せてくる。その画面には何と玄武団のホームページが映されていた。
どうやらあの男、私の名前をホームページに載せていたようだ。
「そうしたらこんなふうに出てきてね。こうなるだろうと思って団長さんに連絡をしておいたのだよ」
何という用意周到さだろうか?
「あの……それで玄武は何と……?」
「『面白そうだからバッチグー』って言ってました」
ふざけてんのか。
「というわけで、団長さんの許可は問題ないです。さて、田切さん。どうしますか?」
哲郎さんは、先程と同じようにずいと顔を出そうとして、京香さんに止められた。まあ、そちらの方が話しやすいのだが。
「……まだまだよくわかんないこともいっぱいあります。けれど、こんな私でも力になれるんだったら……」
ああ、懐かしい。入団の時もこんな感じだったっけ。
「ぜひ、そのお仕事受けさせてください」
「「やったあーーー!」」
竹下家の二人の歓声が境内に響いた。
「それであの……手続きとかって……」
「ああ、守護者と違ってそういうのはないです。」
京香さんが言っていた通り、祓人の仕事の規定はやはりゆるゆるだ。
「ですが、一応うちにも所属の枠は用意しておきます。まあ、普段は玄武団さんの方で活動していただければ問題ないです」
「本日行いたいことはもう終わりです。本当にありがとうございました」
「ああ、いえそんなに深々と礼なんて……」
京香さんに深々と礼をされて、少し恐縮してしまう
すると、何故か京香さんが私の耳に口を近づけた。
「それで、田切さん。少し行ってみていただきたいところがあるのですが……」
「あの……それで次の時なんですけど、できればあの時の少年を連れてきていただけませんか?」
帰り際、京香さんと共にお見送りをしにきてくれた哲郎さんにそんなお願いをされた。
「何でですか?」
「彼からは何となくですが、違うオーラがすると言いますか……」
「わかりました。約束はできませんが、頑張ってみますね」
ここにくるか来ないかは結局はあの少年の興味次第だ。何なら私はあの少年の名前すら知らないのだし。
「それではさようなら」
二人に別れを告げて、行きとは違う道を通る。今の時間は夕方。行きとは違った景色を山々が見せてくれる。
先程、京香さんに言われたこと、それはちょうどこの時間に良い景色が見れるところがあることだった。
「せっかくなら、凛にファインで送ってあげようかな?」
バイクを走らせていくうちに段々と森が深まっていく。
「……本当にこっちであってる?」
京香さんを信じてバイクを走らせる。そのうち、景色がひらけて、美しい海が私の眼前に広がった。
「綺麗……」
こんなに綺麗な景色は初めて見たかもしれない。
「ふう」
ちょうど見えた広場のようなところにバイクを停める。周りには誰もいない。
「いつか、みんなで見に来たいな……」
思い返せばこの一ヶ月。あれよあれよと危機を乗り越えて、大切な人と夢を手に入れた。
「昔の私に言っても、信じないだろうな」
何だか笑えてしまう。こんなに笑えるようになるなんて不思議なものだ。
「あ、自販機」
ふと見つけた赤い自販機。財布の小銭を漁って、缶コーヒーを買った。
「……よく飲んだなぁ」
デザインは違うが、缶コーヒーだなんて懐かしく思える。最近はもっぱらレイさんのコーヒーばかり飲んでいたからだろうか?
ふと、思いつく。缶コーヒーを開けて、いつかの誰かに向けて前に出す。
「今のこの景色と私の仲間を想って」
そんな独り言をポツリと漏らす。
「乾杯」
さざなみにその声は飲まれた。私は缶コーヒーを久々に飲んだ。
「……あんまり美味しくないや」
慣れてしまったあの味がまた飲みたくなる。
「それじゃ、私の家に帰ろうかな」
家に帰るために、私はバイクにまたがった。
「今日の話、なんて言うかな?」
帰るのが楽しみだ。
第三章 Two of the oddest people 〜完〜
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