第13話 assembly/会合

「玄武サン!!! アリガトウゴザイマース!!!」


 事務所に帰った私達。デニーさんは採用のうれしさからしばらくこの調子だ。


「良いって事よ」


「ワーイ!!!」


 本当に30代か? このマッチョ。無邪気すぎる。


「そういえばさ、デニーさんもここに住むの?」


 凛が聞いた。


「いや、住まないな。デニーは普通にマンションに住んでんだ」


「……スライムってマンション住めるんだ」


「なんか聞いた話によるとデニーの人間の知り合いがやってくれたらしいな。本人が言ってた」


「へ~、スライムの知り合いの人間……」


「そうデース!!! マイブラザーデース!!!」


 こんな明るいスライムの知り合い。せっかくならいつか会ってみたいものだ。


「気になってたんだけど、そのしゃべり方ってその知り合いから教えてもらったの?」


「イェェェス!!! でも、正確にはブラザーがしゃっべっていた日本語をまねしてるんデース!!!」


 言ったとおりなら、その教えてくれた知り合いはきっと外国人なんだろう。カタコトの日本語から読み取れる。


「とにかく、これからよろしくお願いシマース!!!」


「うん、よろしく」


とはいえまた一人、心強い仲間が増えたというものだ。




「それでだ……デニー。この後って予定空いてるか?」


 玄武がそう問いかけた。顔は少しニヤリとしている。


「ハイ!!! 空いてマース!!!」


「それじゃあよ、新団員も二人入ったことだし、何人か呼んで飲みに行かないか?」


 そういえば、凛の分のパーティをまだやってなかった。ちょうどいいしぜひやりたい。


「二人もそれでいいか?」


「うん、別にいいよ」


「凛がいいなら私も」


「よし決定!とりあえず居酒屋『麻陣まーじん』の前集合で頼んだ」


「「了解」」


「了解デース!」


 入団記念のパーティで居酒屋に行くことになり、デニーさんは一度家に帰った。準備をしてくるらしい。


「時間になったら呼ぶから、それまで好きにしてな」


 そう言われたので、私たちは部屋に戻った。居酒屋なんて久しぶりだ。今から楽しみだ。



 いざ部屋に戻ったはいいが、特にやることがない。スマホで少しネットを探ってみる。


『明日の天気は晴れ』


『日本の民間企業、ロケットの打ち上げ成功』


『新人アイドル、大躍進』


 スクロールしていっても、特に見たいものは見つからない。次は動画を見ようとMytubeを開いた。


「……あ」


 そこで、一つ思いつく。凛ことアイリス・サンシャインを見てみようと。別に中身を知っていたとしても、まあ楽しめるだろう。

 それに私自身Vチューバーがどんなものなのか興味がある。

 検索欄に『アイリス・サンシャイン』と入力する。が、『あいり』と入れた段階でもうすでに予測検索欄にあった。ここからも人気の高さが伺える。

 チャンネルを開いてみると、登録者100万人の文字。下の方にスクロールして一番上の動画を見ることにした。

 一応、イヤホンをしてドアの方を見た。ドアは空いていない。準備は万端。早速見よう。


「は〜い! みんな元気〜? みんなの心のサンシャイン兼美少女アイドルの〜アイリスちゃんだよ〜! よろしくね〜!」


 白髪にキラキラとした赤い目。少女のような見た目をした女の子が元気に挨拶をしている。凛とは真逆の印象を受ける。


「今日はね〜、みんなのために……A•S•M•Rをやっちゃうよ〜」


 少しゆっくりとした口調に色っぽい声になった。こんな動画もあるのかと少し驚いた。


「それじゃあ……ゴロンと横になって、私の膝の上に頭を乗せてね……?」


 その時だった。


「導華、ストップ」


 ドアの方を見ると、凛が息を切らして立っていた。相当焦っていたのか、顔が赤い。


「え……聞こえてた?」


 そう聞くと、凛は私のスマホを指差す。なるほど、イヤホンがいつのまにか抜けていたらしい。


「ごめんごめん」


「……その動画は見ちゃダメ。恥ずかしい」


「え、何で?」


「何でじゃない! とにかく見ちゃダメ!」


 珍しく凛が怒っている。


「わかったよ〜」


「……ならいい」


 凛は部屋を出ていってしまった。


「……次はバレないように……」


 こっそりとイヤホンジャックをしっかり挿して、また同じ動画を開いた。私がこんなことで諦めると思ったら大間違いだ。


「挨拶は飛ばして……」


 下の赤いバーを横にして先ほどの位置まで戻した。

 改めてイヤホンをつけて聴くと、聞くと音の聞こえ方が変わっている。左右から違う音がしていて、何だか耳がゾワゾワする。


「……準備はいい? 始めるね……」


 すると、イヤホンからカリカリと耳掃除の時のような音がする。


「おおっ……うふ……」


 変な声が出てしまった。気持ち悪いような感じがするが、やめられない。しかも、だんだん眠くなってきた……。



 導華の部屋に乗り込んでから十数分後、導華の部屋から変な声がして音がしなくなった。心配だ。


「……見にいってみるか」


 別に寝ているとか、そういうのならば別に構わない。しかし、倒れていたりしたらと思うと確認せずにはいられない。

 導華の部屋のドアを開けて、中をチラッとみる。


「良かった……」


 導華はただ寝ていただけだった。

 安心して部屋のドアを閉じようとした時に、ふと、導華の布団の上でスマフォが光っているのが見えた。


「消し忘れたのかな?」


 おっちょこちょいだと思いつつ、スマフォの電源を落とそうと近づく。


「……」


 画面に映っていたのは私の睡眠導入耳かきASMR。どうやら導華はこの動画を見て眠ってしまったらしい。


「……スケベ」


 スマホの電源を落として、そっとイヤホンを耳から外す。もしかして、導華は耳が弱いのだろうか。いつか試してみたいものだ。

 言いつけを破った罰として、そっと導華の耳に顔を近づける。


「そんなに耳かきして欲しいなら、私頑張るのに。バカ」


 結局恥ずかしくなって部屋から逃げるように出たのだった。




「……華……導華……導華!」


 体を揺すられて、凛に起こされた。外を見ると日がもう沈みかけている。どうやら寝てしまっていたらしい。


「ん〜……何〜?」


「導華、行く時間だって玄武が」


「うん、わかった……」


 そういえば、私凛の動画を見ていたような……。見られたらまずい。


「……スマフォは?」


「そこにあるじゃん」


 見ると、机の上にスマフォが乗っていた。


「あ〜良かった」


 どうやら、寝る寸前で何とかしたらしい。凛に見られなくて済んだ。


「早く行こう。玄武が呼んでる」


「わかった」


「後さ……」


「ん?」


「……導華って耳弱いんだね」


 おっと、どうやら見られたらしい。




「よっしゃ! 行くぞ!」


「お、お〜」


「……」


「……ごめんって」


 凛は私が起きてからずっとこんなかんじだ。むすっとして話を聞いてくれない。


「何だ? なんかあったか?」


「……何にも?」


 さすがに言えない。言ったら絶対バカにされる。


「まあいいや、そんじゃ『転移』!」


 玄武の掛け声に合わせて、いつものように体が光に包まれる。そして気がつく『麻陣』というのれんのかかった店の前にいた。


「ここか……」


 そこが今回の目的のお店らしい。


「一応今回は部隊長に呼べそうな知り合い片っ端から呼んでくれって言ってある。ワンチャン人がいっぱいいるかもしれないから、よろしく」


 そんな会話をしていると、デニーさんがやってきた。


「遅れマーシタ!!!」


「いや、全然大丈夫だ。むしろ時間より少し早いくらい」


 全員揃って居酒屋のドアをガラガラと開けた。


「おう、玄武。こっちだ」


 中には奥の座敷席に部隊長たちがいた。


「ああ、部隊長ありがとうございま……」


 部隊長たちを見た瞬間、玄武が固まった。


「玄武、どうしたの?」


「ああ、そうだそうだ。玄武、今回呼べた人がほぼいなくてね。彼らしか呼べなかったんだ」


「……おい、てめえがくるなんざ、俺は聞いてねえぞ」


 そこには部隊長こと慶次さん、翔子さんと一緒に男が二人いた。一人はサングラスに茶髪の少し変わった髪型をした男と、髪が深緑と水色という変わった色をしたバニーガール姿のガタイのいい男がいた。


「俺こそお前がいるなんて聞いてねぇよ」


 そこにいた男のうち、玄武は茶髪のいかにもチャラそうな男と揉めている。


「玄武……誰?」


 すると、玄武は言いづらそうに口を開いた。


「……高校のときの同期」


「へぇ〜、ここでも多いんだそういうの」


 どうやらここでも昔の友人に仕事で会うことがあるようだ。かくいう私は大学の時の友人に少し仕事であったくらいである。


「ま、俺の方が強いがな」


「あ? 俺の方が強いだろうが!」


 どうやらまたやかましいやつが一人増えてしまったようだ。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。



「まあまあ、とりあえず座って」


 慶次さんに促されて、席に座った。


「とりあえず自己紹介からしようか。それじゃあ……玄武陣営の人たちから」


「竜王 玄武でーす」


「田切 導華です」


「時雨 凛」


「デニー・クランプトンデース!!!」


「ほーん、随分人を増やしたみたいじゃねえか」


 まあ何とも上から目線なコメントだ。


「おい、お前らも自己紹介しろ」


 玄武も若干イライラしているようだ。


「はいはい、俺が『クラブ ダイナマイズ』の団長、爆戸ばくと 感史かんじだ。このバカとは高校からの付き合いだ。普段はクラブハウスのオーナーをやってる。とりあえずよろしく。」


 男はどうやら爆戸というらしい。変わった名前だ。しかし、ぶっちゃけ竜王も大概変わっている。


「それじゃあ次はアタシね。アタシはバタフライ。このオーナーの店でダンサーをやったり、守護者として討伐に行ったりしてるの。よろしくね♪」


 見た目からは想像できないほど話しやすそうな人だ。まあ、見た目のせいで話しかけようとは思わないのだが。


「どうも」


「自己紹介も終わったところで、注文しようか」


 慶次さんがペラペラとメニューをめくっていく。


「それじゃあ……私は烏龍茶と焼き鳥、ねぎまそれぞれ二本で」


 私はこれで様子見するのが、社会人時代に学んだ定石だ。


「そんじゃあ俺は……」


 そんな具合で各々が注文をした。お酒が飲めない凛以外はみんなお酒だ。私はこういう場では絶対に飲まないと決めているので飲まないが。


「……」


 場に何となく重い雰囲気が流れる。


「……す、好きな食べ物なんですか?」


 ここで翔子さんが先陣を切った。


「俺はチョコ」


 玄武が即答した。


「私は……無難にオムライスとかですかね」


 一応私も答えておく。


「私はコーンスープ」


 意外にも凛はあったかいものが好きなようだ。


「ミーはサラダチキンデース!!!」


 見た目通りすぎだぞ、デニーさん。


「アタシはサラダね。特に海鮮」


 バタフライさんは健康に気をつかっているもがよくわかる。


「……味噌汁とかか?」


 意外と和風。正直聞いたことのないアメリカの食べ物とかだと思っていた。

 全員が答え終わると、また会話が続かなくなった。凛なんてもうすでにスマフォをいじり始めている。


「……部隊長、何でコイツら呼んだんですか?」


「サプライズ……かな?」


「サプライズじゃないっすよ」


「というか、何で二人はそんなに仲が悪いのさ?」


 気になったので聞いてみる。


「「あ?」」


 二人がこっちを睨んでくる。


「それはお前んとこの団長さんがいっつもいっつもうざかったからだよ! 俺で発明品試しやがって!」


「んだと?! それは金払ってただろうが! いっつもボンボン爆発させて、揺らしやがって……あれでどんだけの発明品がお陀仏になったと思っていやがる!」


「あんとき百円だったろうが!」


「あ?」


「やんのか?」


 険悪になってきた。店員さんがさっきから重そうにお盆を持っている。ごめんなさい。


「……お、お待たせいたしました〜。ご注文の品で〜す。ごゆっくり〜」


 隙をついて店員さんは料理を置いてどこかにさっていった。


「とりあえず、ご飯を食べようか」


「一応これ、新人歓迎パーティだからな? ちゃんと祝えよ?」


「わかってるわ!」


「それじゃあいくぞ?」


 玄武の掛け声に合わせて、全員でジョッキを合わせる。


「「「かんぱーい!!」」」




「それで、お前、ポーンて飛んでってな〜!」


「アハハハ! なっつかしいな!」


 歓迎会が始まって、1時間ほど。すっかり酒の回った玄武と爆戸さんが異様盛り上がっている。翔子さんは早々にダウン。デニーさんはほろ酔い状態で、慶次さんはピンピンしている。凛は面倒くさくなり、スマフォをまたいじっている。


「やっぱり、仲がいいわね〜」


 ふと見ると、バタフライさんがいた。


「そうなんですか?」


「あの二人変わっててね〜、す〜ぐ喧嘩するくせに、すぐあんなふうに仲良しになるの。変な二人よね」


 ……何だろうかこのまとも感。服装はバニーガールで一番まともじゃないのに。


「ピリリリ……ピリリリ……」


 そんな時に、慶次さんのスマフォがなった。


「はいもしもし……」


 少し席を外した。


「あら、来ちゃったかしら?」


「何がです?」


「待ってればわかるわ」


 しばらくして、慶次さんが戻ってきた。




「すまない。宴会中だが、任務が入った」



「え!? みんな酔ってますけど、どうするんですか!?」


「それは大丈夫だ。酔ってるコイツらは俺が面倒を見る。すまないんだが、導華、凛、バタフライは討伐にまわってくれ」


「バッチグ〜!」


「……私も?」


「しょうがないんだ。動ける人がほぼいないし、二人はあのザマだし」


 指差した先にいるノリノリの玄武と爆戸さん。


「指示はスマフォから送る。バタフライをリーダーとして早急に向かってくれ」


 こうして、楽しい歓迎会の途中にまさかの即席チームで討伐に向かうことになったのだった。

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