第3章 Two of the oddest people
第12話 Robust/たくましい
「凛、導華、任務だ」
私と凛のホテル生活が終わった数日後のこと。突然の電話を受けて、玄武が言った。暑い日も寒い日もあり、不安定な時期だ。そんな時期でも任務は変わらずやってくる。
「どこ?」
「いつもの廃ビル群だ」
またあそこか。私の行く討伐は軒並みあそこな気がする。
「あそこよく出るね」
「あそこに化ケ物寄せてるらしいからな」
「へ〜、今日は玄武は一緒に行くの?」
「今回はちょっと色々準備しないといけないから二人で頼んだ」
「了解」
というわけで、今日も今日とて化ケ物退治のスタートである。
「玄武の話だとここら辺だけど……」
いつもの廃ビル群を歩き回って今回の標的を探していたが、なかなか見つからず難航していた。
凛はリュックを背負っており、その中に玄武お手製のノートパソコンが入っているそうだ。今回の討伐はこのノートパソコンの試運転も兼ねているのだ。
「今回ってどんな奴なの?」
「え~と……玄武からもらった資料には小型のコウモリって書いてある」
「ふ~ん……」
そんな会話をしながらも歩き回っていく。
「コウモリならさ……」
凛が唐突に言った。
「音とかでおびきだせたりしないの?」
「あ~、確かに」
確かにそうだ。ここでもコウモリが変に変わっていないならば、音に敏感であるはずだ。
「でも、音出せるものがないんだよね~」
しかし、ココ一体を包める程の音を出せる物を持っていない。良い方法だがあきらめるしかなさそうだ。
「導華、大丈夫。任せて」
そう言うと凛はしょっていたリュックから早速ノートパソコンを取り出した。ノートパソコンは画面の後ろに五角形のマークが書かれていて、どこかの窓のパソコンに酷似している。
凛はそのパソコンを少し操作すると、それを地面に置いた。
「耳、ふさいで離れて」
言われた通りに耳を塞ぎ、走った。凛も同じように走ってくる。
「ばばぎゃあああああん!!!!!」
空間を揺らすような轟音が小さなパソコンから放たれて、廃ビル群の中を駆け巡った。窓ガラスに数枚ヒビが入っており、轟音の激しさを物語っている。
「うるっさ!」
本当にこの言葉しか出てこない。耳をふさいでいるのにも関わらず、まるで意味の無いように感じる。
「キキーーー!!!」
すると、いくつかの廃ビルから巨大なコウモリがわさわさと羽ばたいてくる。
「……小型?」
それは私のイメージからかけ離れた大きさをしていた。形はそこまで変わらず、大きさが2~3メートルほどある。さらに、そんな奴らが大群になっていく。
「きっも……」
大きさも量もある。だが、結局はコウモリはコウモリ。見た目がかなりきつい。
「さて、勝負……!」
というか、私はそんなことを言いながら、ノリノリで戦おうとしている凛の気が知れない。
「キキーーー!!!」
ざっと居る20~30匹ものコウモリ達がこちらに向かって、一心不乱に飛んでくる。
「導華、止めといて!」
「は!?」
まさかの指示をくだされてしまった。仕方が無いので、凛の方に行くコウモリも含めて、刀をふるう。刃の当たったコウモリは辛そうな表情を浮かべるが、すぐに飛び去っていった。
その間に凛はコウモリたちを横目にノートパソコンを回収した。
「早速、大技!」
凛はパソコンのキーボードをカタカタと入力して、ある画像を画面に表示させた。その後に凛は画面をつかみ、ぐるりと180度回転させた。
「『魔法陣:ブリザード』!」
すると、パソコン内の画像、魔法陣の画像が水色に光り輝き、画面から無数のつららが打ち出された。
「え!? 魔道書ってそういうこと!?」
玄武の言っていた魔道書とはこういうことだったのだ。確かにこれなら本よりも簡単に大量に魔法を持ち運び出来る。
凛の打ったつららはコウモリの集団にヒットする。
「「「キキャーーー!!!」」」
そして、そのうちの数匹の羽や体が打ち抜かれて、落下した。
「キキーーー!!!」
その仲間の死の光景を目の当たりにしたコウモリ達は本能からか、逃げ出していった。
「チッ、逃がしたか……」
「チッ、って……」
凛はなんとなく悪意の満ちた表情を浮かべた。その表情からは、単純に相手に攻撃をしてやろうという闘争本能がこもっていた。
「このノートパソコン……凄い使いやすい!」
凛は子供のように無邪気でうれしそうな表情を浮かべた。
「そのパソコンそこまで使いやすいんだ……」
「うん!」
ここまでうれしそうな凛は初めて見た気がする。
「お疲れ様です」
しばらく待っていると、いつものように防護服を着た隊員が車に乗ってやってきた。
「ああ、どうも」
到着してまもなく、隊員たちはそそくさとコウモリたちを布でくるんでいった。
「最近、あいつら多いんですよ」
先程挨拶してくれた隊員さんが教えてくれた。
「そういえば、あいつらって何者なんですか?」
「あいつらは吸血コウモリですね」
「吸血コウモリ?」
「そうなんです。アイツらは人の血を吸うんです。そんなのが大量発生しているせいでてんやわんやで……」
隊員さんたちも大変だ。
「それでは私たちは行きます。」
隊員さんたちに別れを告げて、事務所に帰ったのだった。
「おう! おかえり!」
「お帰りなさいませ、導華さん、凛さん」
事務所に帰ると、珍しく玄武が部屋から出てきていた。さらに、レイさんと一緒にいそいそと何かの準備をしていた。床を掃除していたり、机をきれいにしている。
「……玄武、何やってんのさ?」
「これからな、面接があるんだよ」
「面接?」
返ってきた内容は想像の斜め上。うちに面接があるだなんて初耳だ。
「え、うちって面接やってんの?」
「そうだぞ? 普通、団の団員を集めるのは面接だからな。それにうちなんてホームページまであるぞ」
そう言って玄武はスマフォをこちらに向けてきた。
『化ケ物退治は玄武団事務所』
キャッチコピーがストレートに伝わるデザインで、ページを開くとそれが目に入る。しかし、所詮は玄武クオリティ。その他の配色センス、レイアウトといったその全てが絶望的なデザインをしている。
「……やっぱ玄武だね」
「おい、そりゃどういう意味だ」
そんな折、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「スミマセーン!」
「お、来た来た」
明るく元気な声がドアの向こうからする。ドアの磨りガラス越しに見える姿は、明らかに大きく、ガタイがよい。いわばマッチョという奴だ。
「失礼シマース!!! ワタシの名前はデニー・クランプトンデース!!! 本日はヨロシクオネガイシマース!!!」
その風貌はまさに明るいマッチョ。焼けた肌ににかっと笑った口から見える白い歯がよく似合う。顔はアジア系ではなく、欧米系の顔をしている。
服装はタンクトップにジーンズ。いくら温かくなってきたとしても明らかに場違いな服を着ている。
「よし、デニーさん、簡単に面接するからココに座ってください」
玄武はデニーさんをソファに促し、自分も一応団員としてその向かいのソファに座った。
「はい、それじゃあ初めていきますね」
「よろしくお願いしマース!!!」
こうして、玄武とデニーの少しやかましい面接が始まった。
とりあえず、私も凛もこの面接を見学させてもらうことにする。ちなみに凛はソファの後ろにちょこんとと座っている。
「えーと、とりあえず名前、年齢、意気込みを教えてください」
面接のド定番の質問だ。
「ハイ!!! デニー・クランプトン、31歳デース!!! この団に入ったら、精一杯頑張って任務をこなしていきマース!!!」
「うんうん、元気が良くて、良い感じだね」
「アリガトウゴザイマース!!!」
デニーさん、元気なのは良いことなのだが、元気すぎて少しやかましい。
「それじゃあ、次に……自分のアピールポイント、スキル、戦闘スタイルを教えてください」
「わかりマーシタ!!!」
彼は意気揚々と答えた。
「ワタシは腕が伸びマース!!!」
「「…は?」」
面接見学組の私達はそんな声を漏らした。
「あと、体の形が変わりマース!!!」
「ほうほう、それで?」
「スキルは身体能力向上系のスキルが使えて、主に肉体で戦っていきマース!!!」
「なるほどね……」
なんでこの男はナチュラルに受け入れているんだろうか? 今言った内容をサラサラとメモに書き写す。
「はい、これで面接を終わります。結果発表と実地試験は明日行いますんで、明日も同じ時間にここに来て下さい。本日はありがとうございました」
「ありがとうございマーシタ!!!」
行きと同じように元気よくドアをバコーンと開け、バコーンとドアを閉めていった。まさに、嵐のような人だった。
出て行ってすぐ、凛が聞いた。
「……玄武、何あの人」
これは私も思った。
「デニー・クランプトン」
「違う。本当に人間?」
「違うぞ」
「「は?」」
「これ見ろ」
そう言うと、玄武はファイルからある紙を取り出した。
「ここ、俺もビビったよ。こんな奴が来るとはな」
そこには、こんな風に書いてあった。
『スライムです。日本語、英語が話せます』
「……こんなのアリ?」
「アリなんだなぁ……これが」
しみじみと言う玄武の事なんて気にならないほど、ぶったまげる情報を教えられてしまった。このまま行くと、人間ではない何かが仲間になるようだ。
やはりここは異世界なんだと再認識させられた。
「おはようございマース!!!」
昼過ぎ、事務所にデニーさんがやってきた。その目からはやる気が感じられる。
「はい、デニーさん。時間通りですね、それじゃあ行きましょう」
この空気にもなれてしまい、玄武もさっさと始めるようだった。かくいう私も凛ももう大丈夫ノーリアクションだった。
「俺の手を握って下さい。面接会場に向かいます」
「ワカリマシタ!!!」
デニーさんはぎゅっと玄武の手を握った。玄武の手はくしゃっとしていて、明らかに痛そうだ。
「……導華、凛。お前らも一緒に来てくれ」
「言われなくとも」
おきまりとなった転移を使って連日の廃ビル群にやってきた。
「オーウ!!! 便利デース!!!」
デニーさんは転移にテンションがマックスになっているようだ。
「それでは早速面接を始めます。ここには化ケ物のコウモリが居ます。それを5体討伐してください。制限時間は……20分で」
「OKデース!!!」
システムといい、場所といい、私の時の試験に似ている。それと、もしかしたら、コウモリ討伐ってここの化ケ物の数を減らすためだったのかもしれない。
「それでは……スタート!」
どこからか持ってきたピストルを放って、デニーさんの試験が始まった。
「レッツゴーデース!!!」
デニーさんはピストルの音を聞くと、早速と言わんばかりに腕を前にする。
「行きますヨ〜?」
なんとも力の抜けるようなかけ声とともにデニーさんの右腕が伸び、その腕はペタリと付近のビルにくっついた。
「レッツゴー!」
腕はみるみるうちに短くなり、あっという間にビルまで移動した。このスパ○ダーマンのような動きを見る限り、スライムというのは本当らしい。彼はその動きを繰り返し、縦横無尽に動き回る。
「行っちゃったね……」
小さくなってしまった背中を見て、そうつぶやいた。
「お、見つけたっぽいぞ」
どうやらデニーさんはもうコウモリを見つけたらしく、そのコウモリに向かって飛んでいった。
「……強くね?」
玄武が言った。それもそうだ。デニーさんは何かを叫びながら、腕を伸ばしたりしてのパンチや、伸びた腕を振り回すなどしてコウモリを攻撃していく。
「キキーーー!!!」
なんと開始1分程でコウモリを一匹退治してしまった。
「……玄武」
「……何だ?」
「難易度ミスったな?」
「……だな」
この光景を見たら、それしか言えないだろう。
「キエオオオオーーー!!!」
突然、咆哮が響いた。廃ビル群の窓ガラスが揺れる。昨日のパソコンから出した音声に引けを取らないほどの大きさだ。
「……デッカ!?」
昨日の奴とは比べものにならない大きさのコウモリが唐突に出現した。
「親玉か!?」
どうやら、親玉というらしい。意味は聞かなくてもなんだかわかる。絶対強い奴だろう。
「デニーさん危なくない!?」
親玉コウモリの後ろから、いつもの大きさのコウモリがわんさか出てきた。まあ、いつものと言っても巨大なのだが。
「行くか!」
さすがに危ないということで、私達はデニーさんの元に走った。
「デニーさん!」
「オーウ!!! ベリービッグ!!!」
のんきか。
「あいつをブッ飛ばせばいいんデースか?」
「いや違っ……」
「そうです!」
隣のバカな男が叫んだ。いや、今はアカン。
「了解しまーシタ!!!」
瞬間的にデニーさんは飛び上がった。
「なんであんなこと言ったの!?」
いくら強いといってもさすがにあれはまずいだろう。
「まあまあ、良い機会だろ? 強さを見る……な。それに、最悪俺らが行けば問題ない」
「はあ……」
言ってしまったことは仕方が無い。見守ろう。
「行きますヨ~?」
そう言うと、デニーさんは腕を後ろにした。すると、腕が短くなった。
「一体何する気!?」
「『パンプアップ:アーム』!」
そう唱えると、デニーさんの腕がオレンジ色に輝く。
「くらってクダサイ!!! 『ノックアウト・パニッシュ』!!!」
圧縮されていた腕が一気に放たれて、コウモリの一団に当たった。
「グエアアアアーーーー!!!」
コウモリ達はそんな声をあげて、数体落ちた。しかし、親玉は仕留めきれなかった。
「キオオアアアーーー!!!」
そうして、コウモリ達はどこかに飛び去っていってしまった。
「オーウ、逃げてしまいマシタ……」
「まあまあ、上出来ですよ」
おりてきたデニーさんに、玄武が近寄っていった。それに私達もついて行く。
「それでは、結果のほうをお伝えします」
結果を聞くデニーさんは手を祈りのポーズにしている。
「厳正な検査の結果……」
ゴクリとのどの音が聞こえる。
「見事!合格です!」
「ヤリマシターーー!!!」
大声で喜ぶデニーさん。心なしか泣いているようにも見える。
というわけで、マッチョなスライムが仲間になった。
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