第11話 lighten/明るく

「おはよう」


 朝起きると、隣の部屋から凛が出てきた。


「うん、おはよ」


 優しい朝日が開いている部屋のドアから入ってくる。チチチ、ピピピと小鳥が鳴いている声が耳を包み込む。そんな何気ない幸せな朝のひととき。


「だあーーー!! できねぇーーー!!」


 あのバカの声がなければ。



「おい発明バカ! ダマレェ!」


 現在時刻は午前五時。事務所のドアを勢いよく開け、奥の空間に叫んだ。

 凛が来てからしばらく経ったが、玄武はずっとあの調子だった。部屋にこもりっきりで発明を続け、朝から晩までカンカンカンカン音がしている。そのせいで私は若干寝不足だった。後ろについてきた凛は大きめのクマがある。いくらやめろと前日の夜に言っても朝にはあの調子だ。

 前にレイさんになんとかしてくれと泣きついても、


「すみません……」


とただ謝られるだけで、こちらが申し訳なくなった。


「あん? なんか言ったか?」


「おめえ今何時だと思ってんだ!」


「えーと……お、もう5時か」


「5時か。じゃねーんだよ! こっちはまだ寝てたいんだよ!」


「え〜、もうちょっと我慢してくれない?」


「それ今日で三回目だぞ! いい加減にしろ!」


 文句たらたらの私を前に玄武は少し考えて、ある提案をした。


「しゃあねぇな〜、これ終わるまでホテルに寝泊まりってことで手を打ってくれねえか?」


「え゛」

 中々の妙案を玄武が出してきた。もう二人とも限界に近い。凛なんて後ろで変な声出してるし。これは受けるしかないだろう。


「その分の代金は?」


「俺が払う」


「ホテル選びは?」


「お前らの好きなところでいい」


 よっしゃ、とびきり高いところ選んでやろう。


「凛はそれでいい?」


「……イイヨ」


「よし、それじゃあ行くぞ!」


というわけでしばらく駅前のホテルで過ごすことになったのだった。




「凛、準備いい?」


「……うん」


 現在時刻は午後3時。玄武から借りてきた黒と黄色のトランクを持って、ホテルに向かう。せっかくならということで、ちょっと高めのホテルにしてみた。

 一応、服は3日分詰めてきた。これだけあれば何とか過ごせるだろう。凛はインドア派だからなのか、知らない部屋で過ごすことが嫌なのかわからないが、少し緊張している


「ヘイ、タクシー」


 そこらへんのタクシーを捕まえて、ホテルへと向かう。今回のホテルは駅前にあり、駅が近づくにつれて、人通りも増えていく。なんだかあの転生してきた時を思い出す。


「着きましたよ」


 タクシーの運転手さんに料金を支払い、外に出た。ホテルはかなりの大きさを誇っており、高層ビルの立ち並ぶ駅周辺でも引けを取らないほどである。


「ヒエ〜」


 思わず変な声が出てしまった。

 中に入るとさらにすごい。もはや中に噴水があるし、なんなら天井にはシャンデリアがある。


「おはようございます。ホテル:プルーブです」


「予約している田切なんですけど……」


「はい、田切様ですね。15階になります。こちらをどうぞ」


 カードを手渡されて、エレベーターに乗り込む。エレベーターの一部からは外を見ることができ、ワクワク感が増していく。

 今回は二人で一部屋だ。何でもそこまでお金を出せないそうだ。そこはまあどうでも良いのだが。


「この部屋だね」


 手に握られたカードには1512と書かれており、その番号と一致するドアの前に立つ。重厚感溢れたそのドアは、カードをノブの上の鍵に当てると、カチャリと開いた。


「お〜!」


 中に入ると、まさに絶景。15階でも十分に外を一望できる。クローゼットも十分な大きさがあり、服は余裕を持ってしまうことができる。ベッドは申し分ない大きさがあり、ホテル特有の現象で枕が何個もあった。

 しかし、どこのホテルに来ても初めにすることがある。


「ふ〜!」


 そう、ベッドダイブだ。これをして初めて、ホテルは始まると言っても過言ではない。後ろから凛のなんとも言えない視線がしている気がするが、気のせい気のせい。


「まず、何する?」


 ホテルに寝泊まりすることまでは決まっていたが、いざホテルに着くと何をしたら良いのかがわからない。


「私、この辺で行ってみたいところがあるんだけど、行ってみていい?」


「お、私も行っていい?」


「……いいよ」


 凛の提案でせっかくの機会なので行ってみることにする。もしかしたら、凛の趣味が知れるいい機会になるかもしれない。何故かあった間はきっと思い込みだろう。

 エレベーターでもう一度降りて行き、外にでる。凛が言うにはここからそう遠くないらしい。そのため、歩いていくことになったのであった。


「どんなお店なの?」


「うーん、数多くの知識人たちが、様々な分野の自分の好みの収集物を買いに行くところ」


「……なるほど?」


 まずい、全然想像がつかない。




「着いたよ」


 歩いて数分、凛が言うにはこの店が目的のお店らしい。


「……アニマート?」


 アニマートと書かれた看板をぶら下げたビルが、そこにはあった。中は人でごった返しており、入っていく人はチェック柄のシャツにリュックの男性、カバンに数多くの同じ缶バッチをつけた姫のようなファッションの女性、はたまた普通の人たちまで様々だ。


「ここってアニメのお店?」


 名前から察するにきっとアニメのお店だろう。あまり知識のない私でもそれくらいは知っている。


「そうだよ」


 ひとまず、中に入ってみる。外から見た通りだが、中は人で溢れている。しかし、レジまでの道は割と綺麗に人が並んでいる。どうやら異世界でもこの日本人の感じは変わらないらしい。

 というか、それよりもびっくりなのはもはや国籍という枠を超えて、虎っぽい人、ワニっぽい人、ハシビロコウっぽい人と言った確か……獣人? と玄武が言っていた人が意外と多い。


「ねぇ、凛。今日って……」


 凛に聞こうと横を見ると、なんともう凛の姿はなかった。どこに行ったかと探そうにも人が多すぎて不可能だった。

 ということで、諦めて一旦店を出た。改めて周りを見ると、40,50代の人も多くおり、店のドアをじっくり見ている。これはきっと私と同じで、子供と中に入って、見つからなくなって諦めたパターンだろう。仕方がないので、凛が帰ってくるまで店の前で待機だ。その辺のツノの生えたハトでも見ていることにする。




「お待たせ」


 お気に入りの紫のツノのハトが道路を20往復したくらいの頃、時間にして約1時間ほどで、凛は帰ってきた。手には山ほどの袋を持っている。


「お帰り、何買ったの?」


 一応聞いてみた。すると、凛の目が明らかにキラキラし始めた。


「んーと、『プロキュア』の缶バッチが5個、『伝染したらゴブリンだった巻』のランダムブロマイド10枚、『イヌ娘 グリーティングハッピー』のタペストリーが3つ、『TWO PACE』の鞄が一つ、後は……」


「よし、一回戻ろうか」


 キリがなさそうだったので、ホテルに戻ることにする。




「いっぱい買った」


 ホテルに戻ると、凛は興奮冷めやらぬままに、ベッドの上に買ったグッズを並べ始めた。

 私はというと、すっかり疲れてしまい、ベッドで仮眠をとるところだった。現在時刻は午後5時。夕食が7時なので、割と寝られる。連日の寝不足も溜まり、もうすっかり眠気に包まれてしまった。


「私一旦寝るね」


「……うん、おやすみ」


「おやすみ」


 私は久しぶりの深い眠りについたのだった。




「……寝た、かな?」


 導華が寝ると言ってから10分後、導華は私の横ですうすうと寝息をたてて眠っていた。私はというと、アニマートで買ったものを写真に撮り終わり、クリッターに上げた。

 グッズを片付けて、やることがなくなってしまった。寝ようともしてみたが、実際全然寝れなかった。元から私はあまり睡眠を取らなくても大丈夫なタイプだったから、玄武の騒音問題もそこまで問題ではなかった。

 それに、私は基本夜型なので、夜は起きていることが多い。目の下のクマは単なる夜ふかしのものだった。


「……チャンスか?」


 チラリと横を見ると、相変わらず導華が気持ちよさそうに眠っている。今ならたぶん、ずっとやりたかったことができる!

 そろりと音を立てないように導華に近いていく。そしてついに、私は導華のベッドの横まで来た。


「……えへへ〜」


 何だかニヤついてしまう。導華に出会ってからずっとやってみたかったことがあった。そっと導華の首元に顔をうずめて、匂いを嗅ぐ。


「はぁ〜」


 思った通りの良い匂いだ。ずっとやりたかったことというのは導華の匂いを嗅ぐことだった。出会った当初から随分と良い匂いがしていた。ふんわりと香ってくる安心する匂い。

 嗅がせてほしいと言ってみようと思っていたが、変態扱いされて引かれるのは困る。部屋も別だったので、念願叶っての今だった。

 別に私はそういう女性好きの趣味があるわけでもない。それどころか、そもそも若干の人間嫌いだ。加えて性欲とかが特別強いわけではないと思う。でも、導華は特別だ。


「……もうちょっといいよね?」


 結局、20分以上そのまま嗅いでしまった。しかし、それもこれも導華がこんなにいい匂いで、無防備に寝ているのが悪いのだ。うん、そうだ! こんなことができるだなんて、玄武様様だ。一生カンカンやっててほしい。




「ヘキシッ!」


「マスター、大丈夫ですか?」


「ん? ああ、大丈夫だ」


 何だろうか、どこかで俺に感謝しながら、変態的行為を行なっている輩がいる気がする。




「ふぁ〜、よく寝た」


 目を覚ますと、時刻は午後6時半。随分長い間寝てしまっていた。


「おはよう、導華」


 横を見ると、凛がいる。少し顔が赤いような……?


「もうすぐご飯だから、行こう」


「ああ、そうだったそうだった」


 凛に言われた思い出した。特別準備するようなこともないが、一応服やら何やら準備をして、凛と一緒に夕食に向かうのだった。




「美味しかった〜」


 夕食を食べ終わって自室に帰ってくる。出てきた料理は思っていたよりもまともで異世界っぽい訳の分からない料理は出てこなかった。

 食事はバイキングでよくホテルにあるようなシステムだった。自分的にはピラフが一番美味しかった。

 凛は何となくイメージ通りと言って良いのかあまり多くは食べずに特定のものを食べ続けていた。


「えーと、確かお風呂が……」


 自室のパンフレットに目を通す。そこにはこのホテルの大まかな地図がある。その

中から目的地を探す。


「大浴場……だっけ?」


 凛が今言ったようにここのホテルは大浴場が売りらしく、特殊な技術が好評だそうだ。


「今8時半だけど……行く?」


「行こうか」


 私はその特殊な技術なるものが何なのか早く知りたかった。そのため、少し早めだが、風呂に浸かることにしたのだった。



 私、時雨 凛は苦悩していた。いつまでも悩み、その悩みが解消されることは決してなかった。苦しみ、眠れない夜も涙を飲んだ日もあった。


「凛、大丈夫?」


「……ダイジョブ」


「本当に?」


「……ホントダヨ」


 ここは脱衣所。偶然なのか、客はほぼいない。きっと自室の風呂を使っている人が多いのだろう。

 そんな脱衣所で今発生している問題。これはある意味国際問題と言えるかも知れない。

 時は遡ること数分前、私と導華は風呂に入るべく、服を脱いでいた。導華がいつものスーツを脱いでいた、そしてそんな折、導華がシャツを脱ぎ、ピンクの下着を外したその時、事件は起きた。


「(デッカ)」


 そう、格差社会だ。私はいつまで経っても胸がなかった。遺伝的なことかとも思ったが、家系を見るところそういうわけではない。私の胸はダントツでない。少ない友人から言われたのは、


「凛って胸の分の栄養全部、魔力に変換したみたいだね。」


だった。私だって好きでまな板やっていない。

 導華の胸は締め付けられるものを失い、その破壊力を私の目に焼き付けた。


「ミチカ、ムネ、オオキイネ」


 まるで修学旅行の会話。しかし、今の私にはそれしか出せなかった。


「そう? 確かEカップぐらいだったと思うよ」


 結論、デカいがツヨいのだ。正確な大きさは関係ない。それがこの世の乳格差問題なのだ。




「ふー」


 導華と私はまず、大きめの風呂に浸かった。疲れてが取れているような導華。しかし、疲れよりも私は浮いている導華の乳に釘付けだった。デカくて重い上に浮かぶだなんて、もう意味がわからない。

 ひとしきり浸かり終わって、次は目玉の最新鋭の技術の風呂というやつだ。

 ガラリとそのドアを開けた。


「おー!」


 目の前に広がる夜桜。どうやら、最新鋭の技術というのはどこかの桜をこうして転移と組み合わせて、出現させ、月をプロジェクションマッピングで映すというシンプルなものであった。


「綺麗〜!」


 それでも導華は大興奮なのでまあよしとしよう。


「あれ、導華さんじゃないですか」


 そんな導華に話しかけてくる人影が一人。その人影はその夜桜風呂から上がってこちらにくる。


「あ、焔さん! 来てたんですね」


「ええ、奇遇ですね」


 その女性は焔というらしい。というか、なぜか温泉であるはずのここで狐面を付けている。


「綺麗ですね、ここ」


「そうですよね」


 何だろうかこの仲間はずれ感。

 それから、その風呂に3人で浸かる。お湯がピンク色で桜を意識しているようだった。


「あの、こちらの方は……」


「ああ、そうでしたね。新しい団員の凛です」


「ああ、よろしくおねが……」


 頭を下げようとしたその時、私の目に巨大なスイカが入った。導華よりも優にデカい。


「古々尾 焔です。よろしくお願いします」


 そうして、導華と焔というデカパイダブルスに挟まれて、温泉に浸かる羽目になったのだった。



「あ〜、いいお湯だった」


 風呂から上がり、そんなことを導華は言っていた。私はというと、あのデカパイショックであまり記憶がない。強いてあるのは、導華に背中を流してもらったことだけだ。嬉しかった。


「もう結構いい時間だね」


 時刻は午後11時半。私的にはまだまだスタートくらいなのだが、導華的には遅いらしい。

 部屋に帰ってダラダラテレビを見たり、UNOとかやったりして何となくで過ごしていた。まるで本当に修学旅行のようだった。


「それじゃあ先に寝るね」


「うん」


「おやすみ」


 導華は先に寝るようだった。また導華吸いをしてもいいが、今はシャンプーしたばかり。導華の匂いはそこまで強くない。


「やるか……」


 そこで、私はもう一つの仕事をすることにした。




「……じ? すっご〜い!」


 何だろうか? やけに明るい声がする。寝ぼけ眼で枕元の時計を見ると、午前1時を示している。明るい声はどうやら窓のそばのテーブルからしているようだ。

 くるりと寝返りを打ち、そちらを見た。そこには、凛がいる。しかし、何だろうかこの違和感。いつもの凛という感じがしない。異様に明るい。そして、パソコンに向かって話をしている。


「それじゃあね〜! バイバイサ〜ン!」


 そんなあいさつ? のようなものが聞こえたので、ばっと起き上がった。


「やっと、終わっ……」


 そこで思いっきり凛と目が合った。何となく見てはいけないものを見た感じがする。


「……え〜と、バイバイサ〜ン?」


 そう言ってゆっくりと布団をかぶって見ていないことにした。そう、私はそういう気遣いができるのだ。


「……弁解させて」


 しかし、そうは問屋がおろさないらしい。



 夜のホテル。テーブルに向かい合わせで凛と私は座っていた。


「何から説明したらいいのかな……」


 凛はさっきの明るさはなく、どことなくモジモジしている。


「え〜と、あれって何やってたの?」


 こちらから話を振ってみる。


「配信」


「何の?」


「雑談」


「???」


 まずい、ちんぷんかんだ。雑談をしているようには見えなかったがどういうことなのか?


「……とりあえずこれ見て」


 そう言いながら凛はノートパソコンをこちらに向けた。そこにはある少女と名前が写っている。


「……アイリス・サンシャイン?」


 そこには白色の髪に赤い目をした少女が映し出されていた。


「導華はVチューバーって知ってる?」


 どこかで聞いたような聞いてないような……。そんな私の反応を悟ってか凛が説明してくれた。


「Vチューバーっていうのはね、自分の動きに合わせて画面の中のアバターが動くシステムを使って、Mytubeで動画を出す人たちのことなの。いわば二次元の着ぐるみみたいなものだと思ってくれればいいよ」


 MyTubeというのはこっちの世界でメジャーな動画配信サービスのことである。凛が前に言っていた。要するに異世界版Y○uTubeである。


「それが凛なの?」


「そう、このアイリスの中身が私。これでよく生配信してるんだ。こう……その生配信の視聴者とお話ししたり、ゲームしたり。今日はせっかくアニマートに行ったから、その話してたんだ」


「でも何でホテルで?」


「それが、定期的にやらないとみんな見なくなっちゃうんだ。人気も落ちてくるし」


「ほえ〜」


 よくわからない世界だが、まあ何となくはわかった。


「それで、お金とかってもらってるの?」


 単純な疑問をぶつけてみる。


「……まあ、うん」


「……月いくらくらい?」


「……100万くらい」


「……え?」


「100万くらい」


「チャンネル登録者って何人くらい?」


「ざっと百万は超えてる」


 今の質問二つで一気に動揺する。でもこれでアニマートであんなに爆買いできた理由がわかった気がする。


「そんなすごいの?」


「最初は何となくで初めて見たんだ。そうしたら、そこからVチューバー自体に人気が出始めて今ではこんな感じに……」


「お母さんは知ってるの?」


「多分知らないと思うよ。言ってないし」


 掘れば掘るほどヤバい情報がドコドコでてくる。時雨 凛……全く怖い女だ。


「それでその……秘密にしておいてくれない? みんなには言うべき時が来たら、自分で言うからさ」


「別にいいけど……」


 凛はその返答に安心した様子だった。そんなこんなでとんでもない秘密を知ってしまった。やっぱり異世界はとんでもない。




「ピリリリリ……ピリリリリ……」


 ホテルに滞在して4日目の朝。私の携帯がなった。


「はいもしもし」


『よお! 久しぶりだな導華!』


「どなたですか?」


『あんたんとこの団長さん、玄武さんですよ!』


「ああ、それで何の用?」


『発明品ができました〜! といわけで、帰ってきてください』


「了解。領収書持ってくから、後でお金返してね」


『おう! 待ってるぞ!』


 やかましい男の電話はそれで切れた。


「凛、玄武終わったって〜」


 いわば朝シャン中の凛に声をかけた。


「わかった〜」


 返答がしっかり帰ってきた。そして、楽しかったホテル暮らしに別れを告げるように荷造りを始めるのだった。




「ご利用ありがとうございました〜」


 タクシーの運転手さんの言葉を背に、久しぶりに事務所に戻ってきた。


「おう、おかえり!」


「おかえりなさいませ」


 玄武とレイさんがお出迎えしてくれた。


「それで、何ができたのさ?」


「ふふふ……これだ!」


 玄武が見せてきたそれはノートパソコンだった。


「何これ?」


「これは魔導書だ!」


 そう言われてもどこからどう見ても本には見えない。


「バカになったか」


「違う違う!」


 玄武が言うには、どうやらこのパソコンにはさまざまな魔導書のデータが入っているらしく、画像として魔法陣が表示できるそうだ。それに魔力を込めればあらゆる魔法を放てるらしい。


「こいつは凛へのプレゼントだ」


「私?」


「そうだ。いわば入団祝だ。これでお前も立派な魔法使いだ。またこのパソコンは実戦で使ってみてくれ。と言うわけで俺は寝る!」


 そう言って玄武は奥に引っ込んでしまった。


「……あいつはほんとにめちゃくちゃなんだから……」


 ひとまず荷物の片付けのために自室に戻った。




「凛、ひとつ聞いていい?」


 荷解きも終わり、凛の部屋でゆっくりとコーヒーに飲んでいた時だった。


「どうしたの?」


「……凛はさ、守護者になって何がしたい?」


 玄武が前にしてきた質問を私も凛にしてみた。


「……私は、挑戦したかったんだ」


 そう、凛は言葉を始めた。


「私、ずっとくすぶってばっかで挑戦なんてしてこなかったんだ。でもさ、会って間もない私にこんなに優しくしてくれて……。私、単純なんだ。頑張ろうって思った。この人に私の姿をもっと見て、すごいって言って欲しいって……そう思ったの」


 まさか、そこまで私のことを考えていたとは……。


「導華のおかげで、私は明るくなって、こんなに挑戦できるようになった。この守護者はその第一歩なんだ」


 凛はゆっくりと、昔とは違うような不安を感じさせない口調で話した。


「だからさ、導華」




「わたしの挑戦、これからも一番の特等席で見ててよ。わたし頑張るからさ」




 顔を上げた彼女の笑顔は明るい、綺麗な笑顔だった。


「もちろんだよ」


 ああ、昔のわたしと随分変わったな。彼女を見た今、そう心が声を上げていた。












  



  第二章  Just like I used to be 〜完〜




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