第9話 undone/元の通りに

「食わず女房……ねぇ」


 図書館から事務所に帰ってきて、今回の調査でわかったことを玄武に説明する。


「そう。知ってる?」


「まあ、名前だけは」


 図書館で見つけた本で調べて、私の仮説に合致した唯一の化ケ物、それは『食わず女房』だった。食わず女房は多彩な能力を持っている。その中に蜘蛛の糸を使う能力、そして捕らえた女の体を乗っ取る能力があった。

 今回私が立てた仮説というはこうだ。まず、木曜日の深夜、食わず女房が自分の糸を使って病院の屋上まで上る。そして、そこからそのまま凛の母親が眠っている病室の窓までおりてくる。窓の前まで来たら、窓の隙間から糸を入れて窓の鍵を開ける。これで窓をまずは開ける事が出来る。


「だけどよ、蜘蛛の糸如きで鍵なんて開けられるのか?」


 その質問はくると思っていた。


「玄武、蜘蛛の糸を舐めちゃいけないよ? あれって鉄にも匹敵するくらい硬いんだから」


「へ〜、そんなに硬いのか」


 これで鍵問題は解決できる。

 そして、窓を開けて、最初にすることが、凛の母親のベッドを囲むように糸をドーム状に設置することである。これで抵抗する音を小さくしていたんだろう。

 そこからは簡単だ。繭で凛の母親を連れ去るのだ。しかし、そうなるとベッドに人が居なくなってしまう事になる。そこで、もう一つ、空っぽの繭を作ってそのベッドの中に作り、布団をかぶせるのだ。そうすれば、人がいるように見える。つまり、あの老婆が見たのはこれだったのだ。

 用意が出来たら、ドームを撤去して自分の根城に凛の母親を持って行く。そして、凛の母親に化けて、同じように入り、ベッドで凛の母親の振りをして眠る。

 あのときに老婆に聞いたことは糸に粘りけがあったかどうかだった。答えはYES。つまり、あのときの糸は、蜘蛛の糸だったと言うわけだ。


「だがよ、導華。それってその病院のどこに凛の母親がいるかってことがわからないといけなくないか?」


「それの答えはこれだよ」


 そう言って私はテレビをつけた。そこに写っていたのが、連日報道がされている連続女性誘拐事件についてだ。入院していたときにも、事務所にいたときにも流れてきた、何度も見たニュースだった。このニュースは今現在警察が血眼になって捜査している大事件である。


「この事件、少なくとも私が異世界に来たときには、もうあった。この事件の犯人が食わず女房だとして、その間に誘拐された人に総合病院の看護婦が居てもおかしくはないよね?」


「確かに……な」


 これが、私の立てた今回の事件の仮説だ。これが、当たっているとするならば、私達は相当やばい一件に足を突っ込み、解決しようとしているということになる。




「確かに、お前の言うその予想は多分あってる。だがな、俺はそれよりも、その化ケ物が現代にいるなんてって感じだな」


 玄武が言うこともごもっともだった。なぜなら、食わず女房はスマフォで調べた限り、いわば都市伝説のような扱いをされていたからだ。


「それに、気になるのは何でそんな奴が凛のことを狙っているのかってことだな」


「それは……まあそうだけど」


 そこだけは図書館から出た後にも調べまくったが、結局どれだけ調べても全然わからなかった。


「けどまあ、そういう類いの化ケ物は無差別に襲ってるんだと思うけどな。それに、理由どうこうよりもさっさと凛をなんとかしないとまずいだろうな」


 確かにそうだ。


「そこは大丈夫。作戦が一個あるから」


「ほう? 聞かせてもらおうか。その作戦」


 現在時刻は午後4時。ここからノンストップで準備が始まる。



 カタカタカタとキーボードの音が部屋の中に響く。私は今、日課となったネットサーフィンをしている。学校で友達が少なかった自分でも、ネットの中では孤独を感じない。

 最近では、母も変わってしまい、食事の中に何か入っていないかとビクビクしながら食事を食べている。


「ピリリリピリリリ……」


 電話がなった。携帯からだ。


「もしもし」


『凛、今いい?』


 それは唯一今の状況を打開できそうな、凛の信頼している導華の声だった。

 導華の質問に応えるためにチラリとドアの方を見る。しかし、何の気配も感じない。


「多分、大丈夫」


『よかった。……凛、今から私の調査から立てた仮定の話だけど、今回の件の真相を話すよ』


 そこで説明された内容は私の想像を優に超えてくる内容だった。


「……めちゃくちゃな予想に聞こえる。でも、筋は通ってる」


『それでさ、凛に一個お願いがあるの』


「何?」


『おとりになってくれない?』


「いいよ」


『……え?』


「うん、いいよ」


『……即答すぎじゃない?』


「そりゃそうでしょ? そうじゃないと困るんだし、それにも絶対的な意味だってある。それに……」


 なんとなく、この言葉は言うかどうか迷った。しかし、自分のためにここまでしてくれた導華に自分の思いを伝えたいと、強く思った。だから、言った。


「私はあのとき手を差し伸べてくれた唯一の人に全部の信頼をおいてるんだから」




「どうだった?」


 電話が終わってすぐ、玄武が尋ねてきた。


「いいってさ」


「そりゃ、良かった。そうとなったら、すぐに準備しないとな」


 そう言って玄武が奥に消えた。


「信頼……か」


 実際かなり驚いた。まさか、あそこまで言われるほどに信頼されているとは……。


「導華さん、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫」


「導華さんは今、任務で疲れている状態です。いったん落ち着くためにミルクティーを入れました。どうぞ」


と言って、レイさんがミルクティーの入ったマグカップをくれた。そのミルクティーには、笑みを浮かべた私の顔が写っていた。



「ピリリリリ、ピリリリリ……」


 現在時刻は午後五時半。また電話がかかってきた。


「ん、導華どうしたの?」


『一回さ、試したいことがあるんだけど、いい?』


「いいよ」


『じゃあさ、ちょっとテレビ電話に出来る?』


「……ちょっと待って」


「? いいよ」


 いったん電話を切った。


「まっずい……」


 なぜまずいのか、それは私の部屋がとんでもないほど汚いからである。前に導華を部屋に入れたとき、なぜ部屋を暗くしておいたのか。それは私の部屋を見られたくなかったからである。床に置いてある空のカップ麺の容器、ごちゃごちゃに積み上げられた服、そしてどこぞの漫画やチラシが散乱している。


「流石に……ね?」


 しょうがないので急いで掃除をすることにした。



 ようやくまともに背景として使えそうな場所ができた。そこでもう一度、導華にかけ直す。


「……もしもし、準備できたよ」


『ありがと、それじゃあ早速、テレビ電話モードにしてみて』


 言われた通りにインカムを起動する。


「できてる?」


『うん、大丈夫』


 若干の心配はあるが、おそらくは大丈夫だ。


『それじゃあ、そのカメラをちょっと床のほうにむけてみて』


「?」


 その指示に従ってカメラを向けた。


『うん、オッケー。じゃあちょっと待ってて』


 そう言って導華はどこかに行ってしまった。向こうではごちゃごちゃと音がしている。


『よーし……玄武、準備いい?』


『いいぞ』


『凛、ちょっとびっくりするかもだから、気をつけて』


「え?」


『行くぞ、「転移」!』


 男の声がすると、スマホの画面からの光が強くなる。驚いて一瞬目を閉じた。


「……っと。成功だな」


「ほんとにこれで行けるんだ……」


 すると、何ということだろう。導華と男が私の部屋の中に立っているではないか!


「えちょ……え? AR? 分身?」


「あはは、ごめんごめん。びっくりしたよね。これはね、この玄武っていううちの団長のスキルなの」


「あっ、どうも。玄武です」


「……あ、あ。どうも」


 普通に挨拶してくるが、全く理解が追いつかない。それよりも、まずいことがある。


「凛の部屋は……まあ、うん、ね? きっと疲れてたんだよね?」


 急いで積み上げた空のカップ麺の山を見ながら導華が言った。


「とりあえず、まあ……俺の部屋よりは綺麗だな」


「……褒めてるそれ?」


 ああ、なぜこうも見られたくないものを見られてしまうのか。



「さて、それじゃあ作戦会議をしよう」


 私たちは凛を部屋から持ってきて、事務所で話し始める。レイさんが持ってきてくれたホワイトボードを背に玄武が話し始めた。


「まず、今夜導華に凛のことを監視してもらう。そして凛は部屋のドアの氷を溶かしておいてくれ。たぶん、溶けていればすぐにでも奴はお前を連れ去るからな」


「連れ去られたら、まずいんじゃないの?」


 当然の疑問だ。


「そこは大丈夫だ。導華のアイデアで繭にいる間に、このロボットと凛を入れ替える」


 玄武の横には私と同じ色の髪をしたロボットが立っていた。


「……私と同じ色の髪つける必要ある?」


「それは……まあ、あれだ。中を見られた時にパッとわからないようにするためだ」


 絶対後付けだな、この理由。


「後はシンプルだ。導華に戦ってもらって、その間に人質を全員俺が助ける。導華は出来るだけ、時間稼ぎだけ考えてくれ。勝てなくてもいい。その間に他の守護者を俺が連れてくる」


「ねえ、生き残ることだけ考えれば、何で私だけで戦うのさ? みんなで行った方が良くない?」


 いくら異世界転生の特典があったとしても、流石に強さに限界はある。一人では不安だ。


「それはきっと、偽物を紛れ込ませないため」


 凛が答えた。


「そうだ。考えたくはないが、こっちの守護者の中にあいつが混じっている可能性もある。だから、食わず女房が目の前にいる状態で戦う必要があるってわけだ」


「なるほど」


「実際、前代未聞の作戦なんだ。導華はまだ守護者の新米。それを危険階級三階にぶち当てるだなんてな。でもよ、もう時間がないし、方法がない。だから、導華。お前に全部がかかってる」


 そんなことは食わず女房を調べた時点でこう応えるつもりだった。


「了解」


 その返答に玄武は深々と頷いた。


「後は聞いときたいことはあるか?」


 玄武が一通りの作戦を説明し終わって、こちらに聞いた。


「はい」


 凛が手を上げた。


「私その間、どうしてればいい?」


 そういえば、そうだ。守るべき対象が危険な状態のままほかっておくわけにはいかない。


「うーん、まあ一応、お前のとこに信頼できる同僚を置いておく」


「わかった」


 私ももう質問はない。


「そんじゃあ、掛け声するか!」


「いや、体育大会かよ」


「いいだろ? こういうの。せっかくなんだからやっとこうぜ?」


「……はあ、いいよ」


「私もいいよ」


 私たちの回答を聞いて、玄武は大きな声で言った。


「よし、それじゃあ、行くぞ!」


「「……お、お~」」


 掛け声の寒暖差がひどい。




「さあ、今までさらった人間と、凛の母さんの体、返してもらおうか!」


 深夜、全ての作戦が成功して、私と食わず女房は相対した。何となくの決め台詞を共に、彼女を見ると、優しそうな顔をしていた凛の母親の顔はひどく歪んでいた。

 それを見て、私は無意識に刀を抜いていた。


「へえ、単身で来るかい、小娘。バカはどっちか、思い知らせてやるよ!」


 やがて、彼女がこちらに走ってくる。その姿はもう、凛の母親ではなかった。白い着物に真っ白な肌。しかし、口から覗く黄ばんだ歯は不規則に並んでガタガタだ。


「ほおら、『糸鉄砲いとでっぽう』!」


 両手の指先から短い糸が車ほどの速度で放たれた。全てを避け切ることはできない。その糸を刀で受け止め、防ぐ。

 当たらなかった糸は床に小さな穴を瞬間的に作った。


「マジかよ……!」


 何だろうか、時間稼ぎができる自信がなくなってきた。




「……始まったらしいな」


 事務所で玄武は二人の戦いを小型カメラで見ていた。カメラに付属しているマイクが激しい戦いの音を伝えていた。


「さて、俺も始めるか」


 彼はそのカメラを食わず女房にバレぬように、動かし始めた。しかし、その動きは恐ろしく遅い。


「こりゃ、どんだけかかるか……。導華、頼むぞ」


 願うこととこの動きに集中することしか、彼にはできなかった。



「導華……」


 凛は心配そうにパソコンを覗き込んでいた。彼女もまた、玄武のカメラを通じて導華の戦いを見守っていた。


「大丈夫じゃよ。あやつは絶対帰ってくる」


 そう声をかけたのは星奏だった。信頼する同僚というのは、星奏のことであった。


「でも……」


「お主も信じてみろ。あやつの力を」


 星奏には絶対の自信があった。なぜなら、星奏は彼女の奇跡を知っているからである。




「やっばい……!」


 戦いは防戦一方だった。食わず女房は糸で宙に浮いて、こちらに向かって、糸を放ってくる。その攻撃を受けないよう刀でガードすることをひたすらに続けていた。


「あははははは!!! その程度かい!? 侍さん!」


 悔しいが、玄武があの繭たちをどうにかするまで、何もできない。


「早くして……」


「何かを心配する前に、自分の心配でもしたらどうだい!?」


 彼女の糸は遅くなるどころか、みるみるうちに速度を上げていった。


「さあ、動きを増やそうか! 『蜘蛛網くもあみ』!」


 彼女が出す糸が、少し変わる。地面に着弾した糸が、網状に広がった。たぶん、ゴリラの時みたいに、あれ踏むと足を取られるだろう。


「だったら!」


 一瞬の隙をついて、かがむ。糸を一通り避けて、仕事のなくなった刀で周囲の蜘蛛の網を掬い取るように回転切りで除去する。


「ほう、少しはやるようだねぇ!」


「守護者やらせてもらってますから……!」


 守護者として、一人の少女を助ける人間として、こちらも負けるわけにはいかない。凛の母をここで助けることができなければ、凛は少なくとも、愛を受け取る人を失うことになる。


「譲れないものがこっちには、あるんだよ!」


 魂の叫びを奴にぶつけた。




「もう少し……」


 玄武はカメラを必死に動かしていた。あと数センチで全ての繭がカメラに写る。


「写っ……た!」


 導華が負ける前に自分の大事な任務を達成した。


「行くぞ!」


 繭の下のそれぞれの空間に穴が空いた。加えて、それを吊るしている糸を横から見るように、一つ、穴が開く。そして、玄武の目の前に穴が開く。その穴は横の穴に繋がっていた。


「一発で……決める!」


 愛銃から放たれた弾丸は糸を打ち抜き、繭を落下させる。落ちた繭は床ではなく、空いた穴へと吸い込まれるように落ちていった。


「命中!」


 玄武の大仕事が、一つ終わった。




「やってくれたか、玄武!」


 導華はニッと笑った。その視線の先には吊るされていた繭が糸を残して、全て消えていた。

 視線に振り向いた食わず女房は、その光景を見て、驚嘆の声をあげる。


「こっ、これは……!」


 そして、気づく。目の前の小娘これが狙いだったのかと。


「小娘ぇ!!!」


「どうだ? いっぱい食わされた気分は!」


 食わず女房は今、心の中でドロドロとした強い恨みが湧き上がってくるのを感じた。


「お前だけはユルサナイ!」


 いっそうの憎悪の念を浮かべた表情に、導華は殺気を受ける。


「ここまで使うとはね……。さあ!タイマンと行こうじゃないか!『蜘蛛の部屋くものへや』!」


 手から無数の糸が二人を包むように張り巡らされる。


「なっ!」


 導華は完全に退路を塞がれてしまった。


「さあ、第二ラウンドと行こうじゃないか!」


 好奇の表情を浮かべる女はまさに化け物そのものだった。




「玄武! こっち何にも写ってないんだけど!?」


『こっちもだ』


 蜘蛛の部屋が張り巡らされて、パソコンから二人の様子が見えなくなった。凛は焦りの電話を玄武にかける。


「導華……導華は大丈夫なの!?」


『それもわかんねえって!』


 あまりの焦りに凛はダラダラとひどく汗をかき始めた。このままだと、私は二人も大切な人を失ってしまう、そんな思いが彼女の脳内を何度も駆け巡る。


「凛、一旦落ち着くのじゃ」


「落ち着けるわけないでしょ!?」


 強くそう怒鳴ってしまう。それほどまでに母と導華は彼女にとって、大切な人になっていた。

 母は女手ひとつで私をここまで育ててくれた。導華はそんな母を全力で助けようとしてくれた。


「いやだ……! いなくなってほしくない!」


 だが、どうしようもない。そんな焦りと悔しさは彼女の思考を加速させていく。




「はっはっは!!! もう終わりかい!?」


 蜘蛛の部屋に閉じ込められたことで、回避可能な空間が大きく狭まってしまい、思うように動けない。


「『炎刃えんじん!』」


 炎の刀をぶつけても、以前より威力不足で食わず女房を仕留めることができない。もういっそ前のように体に刀を刺してしまおうか?


「さあ、フィナーレと行こうじゃないか!」


 考えていた刹那、食わず女房からの殺気が勢いを増した。そして、空中で食わず女房が体を大の字にする。すると、蜘蛛の足が背中から六本生えてくる。


「終わりだよ、『死糸累々ししるいるい』!!!」


 今までの手に加えて、背の六本の足から鋭く、細い糸が私を包むように暴れ回る。


「多すぎ……!」


 計八本もの糸は刀で防いでも、防ぎきれなかった。


「あがっ!?」


 糸で体を巻かれ、頭だけを出した状態で、捕まってしまった。


「さあ、終わりだね? 侍さん」


 最後の抵抗でありったけを刀に流し込む。しかし、刀は炎で眩い光を出しただけで、何の意味もなく終わる。


「最後の抵抗も失敗だねぇ!」


 食わず女房の笑いが部屋に響いた。



「あがっ!?」


 パソコン導華の嗚咽がする。


「いやだぁ! いやだぁ!」


 まるで子供のように叫ぶ凛。たとえ中が見えなくとも、弱っていた彼女の心にその嗚咽は強く響いた。


『ああ、もう!』


 下手に打つこともできないため、玄武もどうもできない。

 そんな時だった。眩い光が蜘蛛の部屋に中からした。


「何!?」


『落ち着け! 凛! これは導華の刀だ!』


 玄武がそう叫ぶ。その言葉と思考をリセットさせた眩い光は凛の心を落ち着かせた。



「そういえば、なぜあやつは凛の部屋を破って入ってこなかったんじゃ?」


 星奏が少しの疑問を口にした。今はそんなことを言っている場合ではないと、わかっていた。でも、この疑問は口にせずにはいられなかった。


「なん、で……」


 ハッと凛が気づく。あの時したことは一つしかなかった。


「氷……」


 気づいてからの凛は早かった。即座に携帯をもう一度手に取る。


「玄武、聞こえる!?」


『今度は何だ!?』


 この気づきが正しいかはわからない。しかし、これが自分のできる唯一だ。


「私の部屋にワープホール作って!」


 彼女は一つ、季節外れで、ボロボロの赤色のマフラーを首に巻いた。




「最後の抵抗も失敗だねぇ!」


 私は終わりを感じた。


「終わりだよ!!!」


 八本の糸が私に向かってくる。もう何もできることはない。本当に終わりだ。



「終わらせない! 『ゼロアイス:アイシクル』!」



 瞬間鋭い氷がどこからか蜘蛛の部屋の壁を突き破って、美しくそれでいて強く、降ってくる。その氷は私の前の糸を全て弾き飛ばす。


「やっときたかい! 魔女!」


 目の前には美しい氷の魔女が立っていた。

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