第8話 queer/奇天烈

「とりあえず、わかった?」


「わかんないんだけど……」


「何が?」


「何もかもが」


「……ほんと?」


「ほんと」


「え~」


 逆になぜ突然呼ばれてわかると思ったのだろうか。


「……ちょっと聞いていい?」


 埒が明かないので、私から聞いてみることにした。


「いいよ」


「名前は?」


時雨しぐれ りん


 どうやら、あの閉じこもり少女で間違いないようだ。


「歳は?」


「15」


「扉の氷は凛ちゃんがやったの?」


「そう。あと凛ちゃん呼びはやめて」


「……わかった」


 いくつか質問をしてみたがどれも返事が素っ気ない。改めて少女を見てみる。服はジャージで髪は短く、綺麗な水色をしている。目は黄色で少しクマがあるようだった。


「それじゃあ本題を聞かせて。偽物のお母さんってどういうこと?」


「その言葉の通り」


「……質問を変えるよ。何があって偽物ってことになったの?」


「……少し前だった。母さんは事故に遭ったんだ」


 少女こと凛はポツリポツリと話し始めた。2,3週間前のこと、自転車で買い物に行っていた母親が軽自動車との事故に遭ったらしい。そのことで一週間ほど入院をした。

 凛はその間家で緊急で来てくれた祖母に世話をしてもらっていたそうで、幸い、その頃にはもう中学校の卒業式は終わって、特にやることもなくしばらくはゆっくりとした日々を送っていたらしい。

 そして、入院生活が終わって母が家に帰ってきた。が、その母がおかしかった。

 大雑把に子供のことや自分の母親のことはわかるのだが、カッターや印鑑などの家の物の場所をすぐに聞いたり、知り合いの話をしてもなんだか知らないような反応をされたとのことだった。どうやら細かなことを覚えていないようだった。


「なるほど。その物を聞くっていうのは事故の影響ってことは……」


「ない……と思う。でも、それ以上に……」


「それ以上に?」


 拳を握りしめて、ぽたぽたと涙を流しながら彼女は振り絞るような声で言った。


「うちは父さんが昔病気で死んじゃって、母さんが必死になって私を育ててくれたの。そのときの母さんはどんなに忙しくても私のことを優先してくれて、私のことをいつも一番に思ってくれてた。でも……そんな優しさが今の母さんからは全くしない……。絶対におかしい、のに、誰も気づいてくれなくて……」


 母親の愛情のなさ……か。


「あなたしか、もう頼れない……。助けてよ……」


 なぜだろうか、この少女は私と同じような雰囲気をしている。そして、このままなら本当に私と同じ道を歩むことになるだろう。そんな気がする。


「……私は任務をするのも二回目、何をするべきか、どうすればいいか、何にもわからない。だからその任務は引き受けられない」


「……そう、だよね……」


「でもね」


 これは私の決意だ。


「それ以上に目の前で困ってる人を見捨てる事なんて絶対に出来ない。いや、したくない。だから、どれくらいできるかはわかんないけどさ」


 これは私の心の声だ。


「私のことを信じて任せてよ。絶対に、なんとかしてみせるから」


 私は少女に手をさしのべて、そう言った。


「あり、がとう……!」


 少女は私の手を強く握りしめて、泣いていた。少女の心の底からの訴えは私の心を動かした。そして、この子には私と同じような人生を歩ませたくはない、そう思った。




「私はあなたのことはなんて呼べばいい?」


「まあ、導華でいいよ」


「わかった。ところで……ファイン交換しとく?」


 出た、ファイン。このファインというものはいわば元の世界でいうところのラ○ンのようなもので、どうやらこの世界ではこのファインというアプリが主な連絡用ツールとして使われているそうだ。

 あっちの世界だとスマホだったのもこっちはスマフォというらしい。ファインはいいとして、何でスマホがスマフォになるのか。地味に違うところがややこしい。


「そうだね。一応しておこうか」


 実は私もスマフォを持っている。これは玄武が入団祝いにと買ってくれたものだ。


「……できた」


 画面を見ると、そこにはΣ《シグマ》というアカウントが増えていた。時雨だからΣ……中々わかりやすい。


「これからはこれで連絡するから、よろしく」


最初と同じ素っ気ない返事だったが、表情は心なしか明るかった。




「ただいま~」


 下から声がする。


「まずい、偽母さんが帰ってきた!」


 すぐさま凛は私を部屋から出した。


「私はいつでもここに居る。だから、何かあったらドアの前で自分の名前を言って」


 偽母親にばれるとまずいので、仕方なく同じようにドアの横に座った。そうして、ドアは再び氷に包まれた。


「どうですか、凛は?」


 階段の方から声が聞こえた。見ると偽の母親が居た。


「だめですね……。うんともすんとも言いません」


「そうですか……」


「お~い、導華帰ったぞ~」


 どうやら玄武も帰ってきたようだ。ちょうどいい。


「それじゃあいったん情報を整理してくるので、事務所に戻ります。今日はありがとうございました」


 そう言って深々とお辞儀をし、玄武の方に向かう。


「玄武、いったん帰ろうか」


「そうだな、明日からもお願いしますね」


 私は後ろを見る。すると、偽母親がいた。どうやら、私と一緒に来ていたようだ。気づかなかった。


「ええ、明日からもお願いしますね」


 そして、ドアを開けて時雨家から出るその時だった。


「(……しぶとい小娘)」

 あの母親であるような、また違うような、そんな声でそう何者かが言ったような気がした。




「それで、どうだった? 聞き込みの結果」


 事務所に帰ってきて、二人で情報の整理を始めた。


「それなんだが……本当に何にもわかんなかった」


 玄武がけだるそうにキャスター椅子の背もたれをそらせた。


「何を聞いても特に何かめぼしい事も無い。ただ一つあるかなって思ったのは、娘さんが学校で友達が少なかったってくらい。でも、そこからいじめにあったということもなかったそうだ」


 思った通り、あの引きこもりの原因はいじめとかではないらしい。


「……玄武さ、明日は私が聞き込みにいってもいい?」


「まあ、良い勉強になりそうだし、いいだろ。今回の案件は特に重要案件じゃなさそうだからいいぞ」


「じゃあ明日は玄武が見張りって事で」


 玄武に凛のことを言おうかは迷ったが、玄武であればそのまま母親に突っかかっていきそうなのでやめておいた。




「それじゃあ、行ってきます」


「おう、いってらっしゃい」


「お願いしますね」


 次の日、時雨邸にて昨日の玄武と同じように聞き込みに出発をする。しかし、今回の聞き込みは母親もとい偽親のこと。偽親のことを調べるために、一番有力なのはやはり入院していた病院だろう。ということで、初めは病院に向かうことにする。


『凛、お母さんが入院してた病院ってなんて名前?』


『長家総合病院』


 返信がノータイムできた。前の世界だと引かれるやつだ。


『了解』


 一応私からも返信をしておいて、病院で向かうことにした。

 今回移動用として黒いバイクを借りてきた。どうやらこのバイク、守護者にはただで貸し出しされるらしい。運転サポートもついていて、運転がしやすいのが売りなのだと玄武が言っていた。

 実際乗ってみると、バイク無経験の私でも簡単に乗れた。一応乗る前にバイクスーツとやらを着ておく。真っ黒なやつで、多分夜道で着ていたらはね飛ばされる。


「さて、行きますか……」


 バイクで病院まで早朝の住宅街を走り始めたのだった。




「……着いた。」


 病院に着くと、総合病院と言うだけあって、とても大きい。さて、どこに行けば良いのやら。

 ひとまず、すぐに見える入り口に入ってみる。


「ご用件を」


 入ってすぐのところに大きなエントランスがあり、2,3台のロボット達が居た。異世界ではこんなところもロボット化されているようだ。


「あの、聞き込み……じゃなかった、捜査で来たんですけど……」


 これは玄武に教えてもらった言い方だ。どうやら玄武が言うには捜査って言った方が簡単に入れて素直に話してもらえるらしい。


「了解しました。少々お待ちください……」


 ロボットからよく電話で聞くコール音がする。異世界でもここは変わらないらしい。


「あの、あなたが捜査でいらっしゃった……」


 しばらくロボットの前で待っていると、看護婦さんが来た。茶髪で少しパーマのかかった髪、服装はピンク色の前の世界と変わらない看護師の服だ。


「合ってます。田切 導華と申します」


「ああ、おはようございます。あのそれでご用件というのは……?」


 早速本題に入る。


「この人のことについてお聞きしたいのですが……」


 そう言って私はある紙を見せる。それは依頼人状という物らしく、依頼人の顔写真と本名が書いてある。この写真は最悪来る人の顔写真を貼ってもらえれば良いらしい。

 今回は幸い、偽親の顔写真で名前も同じだったので助かった。


「あ~、はいはい……わかりました。時雨さんですね? 担当した看護師さんを呼んできます」


 またこのまま待たされた。さすがに総合病院ともなると、こうもたらい回しになるのも仕方が無いだろう。実際過去に何度もこういうことは経験している。


「あなたが、時雨さんのことを捜査している、田切さんでしょうか?」


 またまた待たされて出てきたのは、ぽっちゃりめの看護婦さんだった。しかし、服や髪の毛はほとんど先程の看護師と変わらない。


「はい、そうです」


「時雨さんの担当だった吉田です。よろしくお願いします」


「ああ、お願いします」


 吉田さんは病室に向かいがてら、質問に色々答えてくれた。私も昔見たドラマの質問やら聞いとかないといけない質問とか、質問した。


「時雨さんは……。うーん何か特別なことはなかったけどなあ……」


「じゃあ、どんな会話をしたとか……」


「うーん、時雨さんは、よく娘さんのことをしゃべってたくらいしか……」


 凛の言っていたとおり、娘思いの母親だったようだ。


「……あ」


 悩んでいた吉田さんが何か思い出したかのような表情をする。


「どうかしました?」


「いや、ね?そういえばちょっと不思議なことがあったのよね」


「不思議なこと?」


「そうなの。時雨さん、寒いの苦手だって言ってよく毛布をかぶったりしてたりしたんだけど、それがある日からめっきりなくなっちゃたのよ」


「……なるほど。ちなみに、何曜日か覚えてます?」


「覚えてるわよ! 金曜日!」


 急に吉田さんのテンションが上がった。


「その日にマッツ・ジューノの単独ライブがあったから絶対あってるわ!」


 誰だよマッツ・ジューノ。どこぞのジャ○ーズのアイドルみたいな名前してる。しかし、なかなか有力な情報を手に入れられた。




「着いたわここよ、ここ」 


 吉田さんからマッツ・ジューノについて延々と聞いていると、目的地に着いた。

 病院の13階。そこは病室で、四人部屋。しかし、患者さんは老婆一人しか居なかった。どうやら凛の本物の母親はその老婆の隣にいたらしい。


「あの窓際のベッドよ。それじゃあ、私は外で待ってるから。用が終わったら声をかけてね」


「ありがとうございます」


「こちらこそ。私の話を聞いてくれてありがとうね」


「……はい」


 吉田さんの話を聞いて、かなり疲れた。ようやく目的のことを調べられる。

 まずは、ベッド下を確認する。が、やはりと言って良いのか掃除されていて綺麗になっていた。そりゃ退院して時間が経っているのだから掃除されているわけで、何かあるわけがない。

 頭をあげて周りを見る。周りは綺麗に直されたベッドやカーテンしかなく、後はめぼしいものは何もない。


「まあ、そうだよね〜」


「……ちょっといい? お嬢さん」


 隣のベッドの老婆に話しかけられた。


「はい、なんでしょう?」


 お嬢さん呼びは26歳にしてはどうかと思うが、そのまま会話を続けることにした。


「今は何をしてらっしゃるの?」


 こういうのは正直に言って良いのか少し迷った。しかし、何か話を聞けるかもしれないので、正直に捜査だと言っておく。


「それでなんですけど、この病室で何か不思議なことってありませんでした?」


「不思議なこと……ああ、一つあったよ」


「そのこと教えてもらってもいいですか?」


「もちろんよ。それはね、確か……木曜日の夜だったかしら?その日に吉田さんが珍しくずっとウキウキしててねぇ」


 絶対マッツ・ジューノだろうな。


「私眠ってて、寒くて起きたのよ、真夜中に。普段そんな時間に起きることなんて全くないの。それでなんでかと思ったら時雨さんのところの窓が空いてたのよ! 私びっくりしたわ〜。こんな夜中に開けるだなんてねぇ」


 急いでスマフォのメモに情報を打つ。


「……その時時雨さんってどうしてました?」


「え〜と、確か布団に包まって寝てたわね。寒かったのかしら?」


「なるほど……」


 母親と偽親入れ替わったとしたらそのタイミングだろう。

 だが、寒がって布団に包まっていたのなら、その次の日に毛布を一切使わなくなったのはおかしな話だ。暖房でもつき始めたのだろうか?

 それに、入れ替わったのならば母親も何らか抵抗をしたんじゃなかろうか。仮に寝ている時でも寒がりの母親が起きないということがあるとは考えにくい。だったら、何か抵抗したはずだ。が、その音で老婆が起きていないのはおかしい。もしかしたら、音を出す間もないまま捕まったとか……。

 それ以前にここは13階。本当に何者かがやってこられるだろうか?


「後ね、もう一個あったわ」


 二個あったんかい。


「その次の日の金曜日の朝にね、また不思議なことがあったの。とっても長い糸が落ちてたの」


「糸?」


「そうなのよ。とっても長くてね〜。6,7メートルはあったと思うわ。それがこう、グルーっと時雨さんのベッドを囲むようにあって、不思議だったわ〜」


 ますます謎は深まるばかりだ。糸なんて何に使うのだろうか?


「糸、糸……」


 囲いのような糸、夜中に空いていた窓、寒がりの変化、そして音のない抵抗……。私は一つの可能性を考えついた。


「……あ!」


「どど、どうかしました!?」


 声を聞きつけた病室に吉田さんが飛び込んで来た。


「あ、ああ、すみません。ちょっと……」


「ひぇ〜びっくりしたわ〜」


 真相がわかったかもしれない。


「とりあえず要は済みました。ありがとうございました」


「そう? それならいいんだけど……」


「最後に、お婆さん、もう一つ聞いていいですか?」


「いいけど、どうしたの?」


「その、さっきの糸って……」




 現在時刻は午後1時。少しお腹は減ったが、目的地に行くのが先だ。

 今私は図書館に向かっている。ファインで玄武に連絡してもう少しかかることを伝えた。


「ここか」


 ついた図書館は大図書館と呼ばれる図書館で多くの書物があるそうだ。ここならきっと目的の物があるだろう。


「ようこそいらっしゃいました。こちらは大図書館です」


 またロボットが出迎えてくれた。


「あの、検索機って……」


「こちらです」


 ロボットが示した先には大きなパソコンのような機械が並んでいた。


「えーと、『化ケ物図鑑』っと……」


 今回の事件が化ケ物によるものであることはなんとなく予測がついていた。

 しかし、どんな種類かわからないままで行くことは危険であると判断して中々動けなかった。

 そこで、病院で聞いた話を元にあらかたの種類は予想がついたので、確かめに来たと言うわけだ。

 本を見つけてパラパラとめくっていく。本はかなりホコリをかぶっており、異世界でも電子化が進んでいることを想起させる。


「え〜と……、あっ! た……」


 思わず大きな声を出しそうになったが、なんとか堪えた。


「……これ、まじか」


 この部分の記述を読んでそんな声がポツリと出てしまう。


「危険階級……三階」


 玄武から教えてもらった『危険階級きけんかいきゅう』と言う単位。これは化ケ物の強さが上がるほど数が小さくなっていくそうだ。


「ゴリラって上がった状態でも五階だったよね……」


 どうやら、覚悟を決める他ないらしい。




「ピリリリ、ピリリリ……」


 バイクに乗って戻る途中のこと。スマフォが鳴った。バイクを路肩に停めて、電話をとった。


「はい、もしもし」


『おう、導華。俺だ』


「オレオレ詐欺なら切るよ」


『判断が早い』


 電話は玄武からだった。


「んでどうしたの?」


『いや、今日はもう遅いし、一旦事務所に帰ってこいって言う話だ』


「ああ、そういう……」


『何か、有力な情報あったか?』


 ぶっちゃけ、一人でやろうかとも思っていた凛からの依頼。が、敵があそこまで強いとなると玄武に協力をしてもらうしかない。


「あった。というか、むしろもっとすごいことになった。詳細は事務所で話すから、早めに帰って」


『なんだかわかんないが、了解!』


 電話口からする声はかなりのんきだ。こっちのことも知らないで……。

 しかし、そんなにムカついている時間はない。早くしないと、凛が死ぬかもしれない。




「んで、その情報ってやつはなんなんだよ?」


 事務所に着いて早々、玄武が聞いてくる。


「実はだね……」


 そこから私は凛に聞いたこと、自分で調べた予測、そしてここから起きることを玄武に話した。


「母親が偽物……まさかそう来るとはな。だが、まあこれで聞き込みをした時になぜか凛よりも母親の方が変な情報が多かったのも納得がいったな。」


「え、そうだったの?」


「そうだぞ。なんでもあの人夢遊病らしくてな……」


 その情報は早く聞きたかった。しかし、聞けてよかった。


「……その話ちょっとよく聞かせて」


 玄武が夜勤の大学生に聞いた話によると、最近、母親が頻繁に夜外出しているらしい。しかも、後ろ向きで歩くという中々に不気味なことになっているそうだった。不気味でその大学生は夜な夜な怯えながら帰宅をしているようだった。


「……なるほど、ね」


 これで私の仮説は確信へと変わった。しかも、どうやらこの事件、もっと大きなものと結びついている可能性も高い。


「ねえ、玄武。ちょっと協力してもらいたいことがあるんだけど……」


 実のところ、凛は今いつ死んでもおかしくない状況に立たされている。それを防いでいるのが、あの氷だ。あれが化ケ物の侵入を防いでいる。

 しかし、凛もずっと部屋にいるわけではなく、偽親の外出時には外に出ているそうだ。そのことを偽親に気づかれれば一発でお陀仏だ。

 だから、今日の夜、この事件に終止符を打つ。



 深夜0時、時雨邸にて。暗闇の中、女性が歩いている。凛の部屋のドアには氷がない。


「……やっと観念したか、小娘」


 その女は凛の部屋のドアを開けた。


「ケケケケケケケケ!!! やっと、やっとだ!!! 私の悲願が叶う!!!」


 その女は指先から糸を出して、寝ている凛を繭に包み、その繭を持って廊下の窓から外に出た。



 女は廃工場へと向かった。そこは薄暗く、月の光が差していた。が、その月明かりに照らされて、多くの繭が天井からぶら下がっている。


「さてやっと、やっとだ!!!」


 女は表情を歪めて、繭を見た。そして繭を開けようと手を繭に突っ込む。


「さあ、人間ども!!! もう終わりだ!!!私の天下はすぐそこ……」


 繭を開けた女は驚愕した。


「何だい、この鉄人形は……!」


 そこには凛と同じ髪のロボットが入っていた。憤慨してそのロボットを破壊する。


「誰だ!!! こんな馬鹿げたことをする輩は!!!」



「バカはあんただよ、蜘蛛女……いや、食わず女房さん」



 声がして、女は振り返った。そこには、スーツを着た、一人の女の侍が立っていた。


「さあ、今までさらった人間と、凛の母さんの体、返してもらおうか!」


 女の侍は綺麗な灰色の髪をたなびかせ、刀を抜いた。


「へえ、単身で来るかい、小娘。バカはどっちか、思い知らせてやるよ!」


 事件の最終幕が切って落とされた。

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