第2章 Just like I used to be

第7話 Emergency/緊急事態

「導華、明日任務に行くぞ」


 玄武団への正式な所属をした次の日。そんな日の夜に玄武に声をかけられた。


「今回の任務は廃村の草刈りだ」


「……たかが草刈りで守護者使うの?」


「何でもそこが次の開発予定地らしくてな、それでただの草ならいいんだが、どうやら凶暴化して暴れてるそうだ。作業員の安全と開発を迅速に進めるために考えて手っ取り早く処理して欲しいらしい」


 なるほど。確かに草は草でも化ケ物の草なら、納得だ。


「それでなんか注意点とかあるの?」


「周りの建造物は取り壊し予定らしいし、人もほぼいないそうだから怪我だけ気をつけろってさ」


「了解」


「結構遠いから、朝から行くぞ。だから……大体5時には起きておいてくれ」


 早すぎる……というわけでもない。昔はよくそれぐらいの時間に起きていたからそう思える。


「まあ兎にも角にも5時半にガレージに来てくれ」


「わかった」


 明日はついに私の初任務である。さらっと流していたが、この世界は草も凶暴化するらしい。全く、迂闊に外も歩けなさそうな世界だ。




「よし、しゅっぱーつ!」


「しゅっぱ〜つ……」


 約二週間ぶりくらいだろうか。久しぶりにこんな時間に起きた。外は暗く、街も静寂につつまれている。


「目的地までどれくらい?」


「……ざっと三時間ぐらい?」


「うえ〜、嫌だ〜」


 そんなに長いこと車に乗るのは流石に疲れる。だが、車の中は横になれるだけのスペースがあるため、運転中は仮眠しようと思う。


「ま、そうなるよな」

 

 しかし、なぜか前方の玄武が卑しい笑い方をしている。


「何笑っての?」


「もうちっと守護者の位が高くなると、俺たちも新幹線とか乗れるんだけど、やっぱ普通の車だときついよな〜と」


「それの何が面白いのさ?」


「それはな、この車が普通じゃないからだよ!」


 そう言いながら玄武がスロットの部分をガチャガチャし出した。


「は!? 何アンタ愛車壊すつもり!?」


「俺の愛車はそんなにやわじゃない。それにこれは別に車を壊そうってわけじゃなくてだな?」


 そう言うとほぼ同時。車が形を変えて、翼が生えてくる。黒色の翼で飛行機についているものに近い。


「何これぇ!?」


「ふっふっふ……俺の愛車をそんじょそこらの車と同じにするんじゃあない。後ろ見てみろ」

と言われたので、後ろを見てみると大きな噴射口のようなものがついている。


「……これもしかして飛ぶ?」


「もしかしなくても、俺の車は陸海空どこだって行けるぜ? さあ、導華掴まれ! 飛ぶぞ!」


「うそでしょぉぉぉ〜!」


 寝起き一発目にこの仕打ちはないだろう。




「うおえええええ~~……」


 玄武の運転で廃村まできたわけだが、空中を走ることでの不安定さと、途中にあった乱気流のせいですっかり酔ってしまった。確かに速く来ることができ、なんと一時間で来ることが出来た。が、ここまで酔いがひどいなるともう二度と乗りたくない。


「あの~、大丈夫ですか?」


 目の前にはスーツを着た人が居る。


「ああ、大丈夫ですよ。こいつは酔いやすいだけなんです」


 おめえの運転のせいだろうが!


「あ~落ち着いてきた……」


「それじゃあ、そろそろ説明してもよろしいでしょうか?」


「お願いします」


 なんだか担当の人に申し訳ない。


「え~、まずは自己紹介ですね。私は吉田といいます。この周辺の開発担当をしております。え~と玄武さんと、そちらは……?」


「田切 導華です。最近入団した新人です」


 玄武が紹介してくれた。


「田切さんですか。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 深々とお辞儀をされてしまい、私もつられてお辞儀をする。なんだか社会人だった頃を思い出す。


「早速ですが、任務をお願いします。では、ついてきてください」


 そう言われて行ってみると、そこには草がわんさか生えていた。ざっと百は超えているだろうか。大きさも2メートルはゆうに超えている。


「……多いですね」


「そうなんですよ。しかもですね……」


「ヒャッハーーーー!」


「!?」


 草がしゃべっており、そのうえ、昭和のヤンキーみたいな声をしている。


「凶暴化してしまっていて……」


「いやそうはならんやろ」


「あいつらは近寄ると殴ってくるのでお気をつけて。忙しいので私は行きますね。じゃ!」


「あ、ちょ!」


 あっという間に吉田さんはどこかに行ってしまった。


「あの人すげ~ビビりなんだよな。いつまで経っても変わらないぜ」


 吉田さんが行ってしまい、途方に暮れる。


「……どうする? あれ?」


「とりあえず行ってみるか」


 とにかく雑草たちのところに行ってみることにした。




「オイオイオイ! 命知らずの人間がきやがったぜぇ!」


「ハハハハ! ここはもう俺たちのモンだぜ!」


「取り返せるモンならやってみやがれぇ!このトリアタマどもが!」


「「「ヒャヒャヒャ!」」」


 何だろうかこの小物臭は。完璧に型にハマった量産型ヤンキーのような草が生えている。


「どうするこれ?」


「うーむ、除草剤はもう試したって言ってたしな……」


「俺たちに除草剤なんてモン効くわけねぇだろ! ヒャヒャヒャ!」


 ひとまず周りを見渡してみる。周りは何もなく、遠くにボロボロの民家が見える程度だった。暴れても問題はなさそうだが……。


 ここで私は妙案を思いつく。


「……燃やす?」


 草なら炎が効きそうなものだが、どうだろうか?するとさっきまで威勢の良かったヤンキーたちはピタッと動きを止めた。


「おっと?」


「ッフー……。流れ変わったな」


「遺書はどこにやったっけな……」


「あ〜、もっと色々世界を見たかったな〜」


 態度があからさますぎる。


「よし、導華やれ」


「イェッサー」


 刀に魔力の流し込み方を教えてもらって、ちょうど試してみたいと思っていたのでちょうどいい。


「すみません、ちょっと待ってください!」


「何?」


「マジで勘弁してください!」


 草たちが頭を下げる。草に初めて頭を下げられた。


「もう行く宛がないんです!」


「……どうする? 話だけでも聞いてあげる?」


「そうするか」


「ありがとうございます……。オレ、グラウスっていいます。」


 そこから草ことグラウスは何故ここにいるのかを説明し始めた。


 グラウスたちは元は裏の山で暮らしていたらしい。が、突然大きな木の一団が生えて来て、住処を追われてしまったらしい。そこで、ちょうどいい場所のあったここに来たそうだった。グレていたのはその木たちに舐められないようにするためだったそうだ。


「それで、アンタらはその話をしてどうするって言うわけ?」


「その……そいつらがいなくなればオレ達もここからいなくなるのにな〜ってことで……」


「よっしゃ、わかった。そいつらをボッコボコにしてやろうじゃないか!」


「はぁ!?」


「本当っすか!? あざっす!」


「(こいつらの話信じるつもり?)」


 私は小声で玄武に話しかけた


「(まあまあ、嘘だったらお前が焼いちまえばいいだろ?)」


「(……まあ、そうか)」


 よく考えれば、こんな命がかかった状況でそんなしょうもない嘘はつかないだろう。


「というわけで、グラウス? だったな。お前ちょっとそこまで案内してくれ」


「はい! 喜んで!」


 調子のいいやつだ。


「そういえばアンタらどうやって移動すんのさ?」


「簡単っすよ。歩くんすよ」


と言ってグラウスはよっこいしょといいながら土から出てくる。出てくると根が生えていて、その根で立っている。


「この世界やっぱ狂ってるよね……」






「こっちっすね」


 グラウスについていって10分程で開けたところが見えてきた。


「ここか……」


 そこには大樹が生えており、それ以外の植物は全て枯れているようだった。


「お前……何モンだ?」


 ドスの効いた声がその大樹からする。草木にも半グレと完全にヤバいやつの区別があるようだ。


「お前がこいつの住処を奪ったクソ野郎だな? お前を伐採しに来た。というわけで伐採させろ」


 うーん、ストレート!


「嫌だ……と言ったらどうする?」


 大樹がこちらを睨む。


「そりゃお前……力ずくでぶっ倒すまでよ!」


 そう言い終わると玄武は腰の愛銃を抜いた。


「展開!」


 玄武はいつものドームを張った。


「我にたてつくとは……後悔させてやろう!」


 大樹の方も地面から大きな根を突き出す。


「ハッ! 随分デケエじゃねえか!」


「年の功ってやつだよ」


 地面から生えてきた根が玄武に向かってくる。動きとしてはあの時のゴリラのツタと似たようなものだった。だが威力が桁違いすぎた。玄武に当たらず、地面に当たった根はそこにクレーターを作った。


「ヒュー! ハンパねぇなあ!」


「なんで笑ってるんすか!」


「おもしれぇからな! あと導華、お前は今回動くなよ?」


「え、何でさ!?」


 刀を抜こうとしていたところを玄武に止められた。


「何でって……お前が動けばここの森無くなっちまうだろ?」


 前みたいなことをここですれば山火事はほぼ確定だろう。


「というわけでお前ら二人はそこで待ってな!」


「フン! 一人で勝てると思っているのか!?」


 ついに暴れ狂っていた根が玄武に当たる。


「危ない!」


「ボガッ!?」


 しかし、その根はなぜか大樹の方に当たってしまった。


「……ほーん。今のが当たったとでも思ったか?」


「何だと……!?」


「教えてやるよ、こういうことだ!」


 玄武の方を見てみると薄いバリアのようなものが体を包むように張られていた。


「こいつがある限りお前の攻撃は届かねぇ!」


「……小癪なぁ!」


 憤怒した大樹はもう一度根を伸ばす。が、その根は同じように大樹に当たった。


「……スキルのせいか」


「大当たり! 導華、流石だな!」


 そういえば、ペガサスの時も玄武には攻撃が全く当たっていなかった覚えがある。

「簡単に言っちまえばこの根を転移させて、あのデカブツに当ててるってわけだ! どうだ? デカブツさん、自分の攻撃に当たる気分は?」


「うがあああ!!!」


 最初の時の冷静さはもうなく、暴れている大樹。玄武の言葉は届いているかわからない。


「さあ、終わりだ!」


 玄武の銃から弾丸が放たれた。青い軌跡を残しながら、その弾丸は大樹を貫き、勝敗をつけたのだった。




「玄武の兄貴、気をつけるっす! まだいるっす!」


 終わったかと思ったのも束の間、グラウスが叫んだ。


「ほう、見破っておったか」


 すると、周りからゾロゾロと先程の大樹の仲間と思われる木々がやってくる。


「まあ、もう遅いがな」


「お主らは包囲されている。負けを認めるがいい」


 その数はグラウスの仲間達と同じくらいに見える。


「流石にまずい……?」


 この数では流石に刀を抜くしかないだろうか? 玄武を見た。


「なるほど……な」


 この絶望的とも思える状況の中で、玄武は笑っていた。


「……何がおかしい?」


「教えてやるよ、本当に終わるのがどっちかってことを、な!」

 

そして、玄武は銃を構える。


「ハッ! たった一人で何ができる!?」


「遺言はそれでいいか?」


「なっ!」


 その言葉と同時だった。愛銃から弾丸が放たれる。しかし、その弾丸はなぜか空中に浮いた穴に消える。


「フン! イキがったかと思えば、一体何を……」


「ガハッ……!」


 遠くから声がする。


「何事だ!?」


「よそ見してる暇はねーぜ?」


 弾丸が一瞬にして4発放たれた。また同じようにそれらが穴に飲まれた。


「ジャガハ!」


「ウバゲ!」


「ドガホ!」


「ギュバ!」


 様々な方向から断末魔が聞こえる。


「一体どうなっているんだ……?」


「お前たちは今、ここ一帯に大量にいる。それだけの広い範囲じゃどうにもならないとでも思ったか? 俺の弾丸はな、空間であっても撃ち抜く!」


 青い軌跡を描きながら次々と弾丸が樹木を撃ち抜いていく。


「……すごい。」


 その言葉に尽きる。軌跡は周り一帯を彩るかのごとく輝き、目標を打ち取っていく。軌跡を描く弾丸はまた穴に入り、違う穴から出現していく。それを繰り返しながら、樹木たちは数を減らしていく。これがレイさんの前に言っていた玄武の乱暴で危ない戦い方と言うやつだろう。確かに、これなら民間人を巻き込んでしまうことにも繋がりそうだ


「どうだ? これが最強の俺の必殺技、『弾丸の流星メテオ・オブ・バレット』だ!」


 厨二病丸出しの名前である。これが最強の名付けのセンスか……。


「我らがここで……滅びるだとぉ!」


「お疲れさんだ」


「クソがあああああああ!!!!」


 結果、私たちの周辺は緑のない焼け野原のような姿になっていたのだった。




「「「マジであざっす!」」」


 焼け野原のど真ん中、グラウスたちは元の住処に戻っていた。ヤンキー口調はどうやら癖になっていてしばらく治らないらしい。


「もう迷惑かけんじゃねぇぞ?」


「はい、もちろんです!」


「オレたちここで隠居します!」


 隠居するようなところではないような気がする。もうすぐで開発も始まるわけだし。


「おし、ほんじゃ戻るか」


「了解」


 グラウスたちの住処を後にして山を降りていく。


「というか、結局アンタも山壊してんじゃん」


「あー……、まあ倒してたら偶然なっちゃったってことで許してくれるだろ」


「私は責任取らないからね」


「わーってるって」


 雑談をしながら山を降り、元の廃村に帰ってくる。先程のグラウスたちがいなくなったところはさっぱり綺麗になっていた。


「よっしゃ、これで任務完了だな」


「お疲れ様でした」


 声のした方をみると、吉田さんがいた。一体どこから現れたのか?


「草たちはどこかにいった時はどうなるかと思いましたが、何とかなって良かったです。報酬はいつものところに振り込んでおくので、今日はもう帰ってもいいです。」


「わっかりました! 腹も減ったし帰ろうぜ」


 ここで嫌な予感が私の頭をよぎる。


「……そういえば帰りって……」


「もちろん車だな」


 初任務は若干嫌な思い出になった。




「あ〜、だいぶ落ち着いた」


 玄武の最悪な運転で帰って来て、ソファで休憩していた頃だった。帰りも予想どおり酔ってしまった。


「大丈夫ですか、導華さん」


「ありがとう、レイさん」


 レイさんが看病してくれたおかげで行きよりも早めに落ち着いた。机にはレイさんの出してくれた薬が置いてある。


「酔い止めを持たせればよかったですね」


「ああ、もう大丈夫だからいいんですよ」


「その調子なら、次も行けそうだな」


 私を酔わせた犯人の声が聞こえる。


「次って何……?」


「次の任務だ。俺たちゃ忙しいからな。これから依頼人がここ来るから、そこどけ」


 そこで私は普通に殴った。




「あの〜、大丈夫ですか? 顎」


「ははは、ちょっと任務で……」


 依頼人が事務所に来た。いつも玄武から任務を伝えられてきたから、こういうのは新鮮だ。

 今回の依頼人は長髪で水色髪の中年のおばさんで、体調があまり良くないようだった。


「時雨と言います。よろしくお願いします」


「それでご依頼というのは……」


「娘のことなんです」


 そこから、おばさんは話始める。

 数週間のこと、おばさんは横断歩道を歩いていた時に車と接触してしまい、病院で入院していたそうだ。

 そして入院生活も終わり、家に帰ると娘の部屋のドアが凍ってしまっていたそうだ。一応、ドアの前に食事を置いて、しばらくすると食事がなくなっているそうなので、中で死んでいるわけではないそうだ。

 しかし、こんなふうに部屋に閉じこもってしまい、出てこない理由がわからないそうだ。


「その理由を調査して欲しいんです」


「ご自身での調査というのは……」


「したいのですが、いかんせんや病み上がりであまり動けないんです」


 数日前まで入院していた身だ。確かに厳しいだろう。


「それでその……どうしてうちに?」


「化ケ物がらみの案件だとまずいですし、それに最悪氷を壊してもらえないかなって……」


 強行突破もやむなし……か。


「そうでしたか……わかりました。その依頼お受けいたしましょう!」


 この男、話が早い。


「ありがとうございます! ひとまず今の状況をお見せしたいので家に来ていただいてもいいですか?」


「もちろんです。早速いきましょうか。導華も一緒に行くぞ」


「わかった」


 こうして、私の二つ目の任務が始まるのであった。




「これなんですけど……」


「これはまた……」


 よくある平屋一戸建ての家。2階に行く階段を登っていくと、そこに一つだけ異様なドアがあるのがわかる。そのドアは話に聞いていた通り、氷に閉ざされている。


「自分でやったと思うのですが……」


「うーん、お子さんの名前ってなんて言うんですかね?」


「凛、ですね」


「凛ちゃーん、出ておいでー」


 玄武が呼びかけてみても効果はないようだ。それもそうだ。犬じゃあるまいし。


「ここにいても仕方がないですね……。自分は外に聞き込みに行ってきます。この時間なら、学校にも行けそうですし」


「ああ、もう凛は中学を卒業していて、今はちょうどお休みの期間なんです」


「なるほど……、わかりました。話を聞きたいので、凛ちゃんのご友人についてお話を聞いてもよろしいですか?」


「ええ、一応……」


と言って一通りの友人を教えてもらう。


「了解しました。私はその友人方に話を聞いてみるので、外に行きます。導華はここに残って何か動きがないか、見張っておいてくれ」


「了解」


「じゃあいって来ます」


 そういうと玄武は忙しく外に出ていった。


「私もそろそろ買い物に行かないと行けないので……」


「ああ、わかりました。」


「それでは、いって来ます。」


 そう言い残しておばさんも行ってしまった。依頼したとはいえ、他人を娘と一緒に家に残すのは少しどうかと思うのだが……。

 そういうわけで、今この家には部屋の中の凛という女の子と私だけだ。仕方がないので一応、凛に話しかけてみる。


「どうも、田切 導華って言います。」


 しかし、扉から反応はない。とりあえず、伝えたいことは伝えておく。


「う〜ん、なんて言ったらいいかわかんないけど、一応あなたの味方。今家にはだーれもいないから、何かあったら呼んで。まあ、なにができるかもわかんないけど」


 わずかに床が軋む音がした気がした。



 そんなことを言っていたらトイレに行きたくなってきた。


「……トイレ借りるね」


 そう言ってトイレに行く。一階にしかないのでトントンと階段を下っていった。


「ふう……」


 しっかりと鍵を閉めて、用をたす。その時だった。


「ガチャ!」


 なぜかトイレの鍵が開いた。どうやら外側から工具で開けたらしい。


「へ?」


 そしてドアが開く。


「急いで、来て」


 そこには綺麗な水色髪の少女が立っていた。この少女が凛だろうか?


「えちょ……」


「いいから早く!」


 何か切羽詰まった表情だった。その気迫に気押されて、少女に見守られながら、トイレから出た。なんだか凄まじく恥ずかしい。


「こっち」


 手を引いかれて案内された。なんとそこは先程の部屋。が、ドアは凍っていない。やはり、凛で間違いないようだ。


「入って」


 部屋に入る。窓がなく、中は暗い。そのため、部屋の様子はよく見えない。


「よく聞いて」


 凛と思われるその少女は驚くべきことを口にする。




「あの母さんは偽物。あなたにお願いがあるの。本物の母さんを探し出して」




突然の展開に空いた口が塞がらない。しかし、これだけは言える。いくら緊急事態でも人がトイレにいる時は開けないで欲しい。

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