第2話〜サバイバル開始!〜
剣持隆亮(けんもちたかあき)高校二年生には不安が募っていた。後輩の一文字智也(いちもんじともや)と下校していたらいつの間にか知らない森、しかも日本でないところに飛ばされたからだ。
一方、大のサバイバル好きである智也はこの絶対に良い状況とは言えない中で、森の探索やサバイバル生活を楽しみにしていた。
隆亮はこの状況を智也ほど楽しめず無自覚にもどんどん不安が募っていた。智也にも不安はあるが楽しみの方が比率は大きい。そんな智也を見兼ねた隆亮が「どうしました?先輩。いつも以上に暗い雰囲気ですよ?」と声をかけた。
「俺がいつも暗いみたいな言い方すんな。というかこの状況で楽しめるのお前だけだ。」
「まぁそうっすよね。僕も多少は不安を感じてます。本当に帰られるのかーとか、ここは安全なのかーとか、サバイバルできるのかーとか。」
「最後のは楽しめるかどうかの心配なんだが…」
隆亮は智也に呆れた声で言う。
「まあ、そんなお前に付き合っていっしょにサバイバルしてやる。」
智也に呆れる隆亮だが、自分も楽しみを少し感じていることに不本意ながらも気づいていた。そんな彼だったから智也の冷静と能天気の切り替えに今まで着いて来れたのだろう。
「さて、そうと来たら今の俺たちの持ち物を確認しよう。」
「そうですね。えーと、部活で使ってた木刀と竹刀、家に持ち帰ろうとしてた教材にスマホ、あとこの学校指定のカバンですね。あーそれと、中身が残り僅かな水筒もっす。」
「うん、圧倒的に物が足りないな、サバイバルするには。」
「そうっすね。でもサバイバルに必要なものは現地、つまりこの森でも調達できると思いますよ。」
そう、ここは一応森のど真ん中である。二人は知らないが、大きな湖があり、食料となりそうな果実のなる木も多い。ある点を除けばサバイバルをするには打って付けの環境ではある。ある点を除けば。
「それじゃあこの神殿を目印にして探索でもしますか。」
「ああ、そうだな。これだけ大きな目印があれば逸れても合流はできそうだな。」
そうして二人はこの森の探索を開始した。
念の為二人で行動し、お互いの安全を確認しながらの探索となった。
「一応木刀持ってきたけどほんとに必要か?」
「できれば使う必要のない探索になって欲しいっすけどね…。」
「まったくだ。猛獣とかには出てこないでもらいたいな。」
二人は雑談や今後の計画などについて話し合いながら森林探索をしていた。二人の探索は順調で、先述の湖や食料となる果実などサバイバルに必要な物を発見・採集した。
「まさかこんなにサバイバル初心者に優しい森だったとはな。」
「本当ですよー。僕としてはもう少し難易度が高くても良いと思いますけど。まあ生き残ることが最優先っすからね。」
水筒には湖の水を入れ、後で煮沸するできるようにしてある。カバンの中身にはできるだけ多くの果実が入っている。
二人は満足そうに、から拠点とした神殿に向かっていた。
「戻ったら火起こしとかしないとですね。」
「ああ、そうだな。」
もうすぐ日が暮れると同時に仮拠点に近づいている二人。
何事もなく戻れるのが二人にとっての理想だが、現実はそうはいかない。
―ガサッ
すぐ近くの草むらから音がした。当然二人にも聞こえ、この音が風によるものでないことにも気づいている。
"な、なんですかね?先輩。"
"わからん。ここは音を立てずにそうっと歩くぞ。こっちに気づいて襲いかかって来たら全力で逃げる。いいな?"
智也は隆亮の言葉に頷く。そして彼らは一切の音を立てずに足を進めた。しかし、音の原因である存在は彼らを追う。そして、彼らが5メートルほど離れた時、その存在は二人に襲いかかってきた。
「逃げるぞ!」
「はい!」
二人は走り出した。全力で。しかし、ものの十秒でその存在は二人を追い越して前にやってきた。
それは、巨大な蟻だった。日本にいるヒアリのような見た目で、身体の大きさは小学生高学年ぐらいだった。
「で、でっか!…」
唖然とする智也。しかし、隆亮はここでも冷静であった。
「智也、俺がこいつを引き付けとくからこれ出しとけ!」
そう言って隆亮が智也に投げつけたのは彼の木刀袋だった。
「は、はい!」
智也の返事を聞く前に隆亮は巨大ヒアリを連れて走っていった。智也から木刀を受け取るため、なるべく離れないように隆亮は走った。しかし巨大ヒアリは全力で走る隆亮との距離をじわじわと縮めていく。
そんな危機の中隆亮は焦りながらもうこの巨大ヒアリをどう倒そうかと考えていた。
(こいつ節足動物っぽいし、外骨格だよな?身体を覆ってんの。だとすると、身体の節々が狙いどころだ。)
「先輩!」
智也は叫び隆亮に木刀を投げ渡す。隆亮はそれを受け取り、振り返った。
目の前には巨大ヒアリがいる。獲物が目と鼻の先にまで近づいて来たその瞬間― 隆亮は横方向にスライドし、獲物の左前足に木刀を入れた。
するとその左前足の半分以上が本体から切り離された。
本来、木刀で物体を切断することは困難で
ある。ましてや厚い外骨格に覆われた太い足を切るのだ。普通に木刀を入れても、木刀が折れる可能性の方が大きい。
しかし、隆亮は知っていた。木刀で物体を切る方法を。彼とて、木刀ごときで硬い外骨格を切るはおろか砕くこともできない。だが、隆亮は外骨格の守りが薄い節を狙うことで勝利の可能性を見出した。また、目標を切る際、木刀でただ切るのではなく、木刀の先端部分で切るようにした。これは、木刀にかかる圧力を最小限にし、目標に与えるダメージを最大限にするための工夫だ。
こうして隆亮は巨大ヒアリの左前足を切断し、動きを鈍らさることに成功した。
「動きが鈍ったならこっちのもんだ!」
隆亮は獲物が怯んだ一瞬の隙を狙い飛びかかった。そして、先ほどと同様に今度は獲物の胸と頭の繋ぎ目に木刀を入れた。
首が取れて、活動を停止した巨大ヒアリ。
― 隆亮の勝利である。
「やりましたね!先輩!」
「ま、まあな。」
智也には余裕そうに見えるが、隆亮は緊張と疲れでいっぱいだった。
「ところで、こいつどうしますか?」
智也が聞いたのは巨大ヒアリの処理方法だ。
「こいつ喰えすかね?」
「我が我慢を言うと食いたくないし怖い。毒とか。」
「腹は毒針と毒袋がありそうっすけど、足は蟹っぽいかも知んないっすよ?」
「まあ、とりあえず持って帰るか。」
「そうっすね。」
二人は巨大ヒアリの死骸(せんりひん)を持って仮拠点へと戻った。
仮拠点でまず先に行ったのは火起こしだ。これは二人の感情で乗り切ってなんとかした。
「や…やっと、火…ついた。」
「もう…やりたく、ないっす…」
二人は火起こしで相当な体力消耗をしたのだった。
「とりあえず、飯作るか…」
「そ、そうっすね。」
「とは言ってもほとんど焼くだけだが。」
巨大ヒアリは足を一本一本切り離し火に炙った。智也の提案で腹は心配なので研究材料にすることになった。頭は食べられるところは火で炙り、そうでないところは研究材料にした。
死骸の解体をしていると、二人は不思議なものを見つけた。死骸の中から青紫に輝く宝石のようなものが出て来たのだ。かなり大きめの。
「な、なんすかね…これ。」
「なんか異世界もののマンガとかアニメとかに出てくる魔石みてーだな。ほら、魔物を倒すと出てくるアレ。」
「あー確かにそう見えなくもないっすね。とらあえず保存保存っと。あ、研究材料の管理は僕がしますね。」
「ああ、頼む。」
二人は巨大ヒアリの足などが焼けるまで、昼頃に採った果実を食べながら雑談をしていた。
「なんか昼もこの果物食べましたけど、今食べてる方が美味しく感じますね。」
「ああ、確かにそうだな。」
「おっ、もう食べれそうっすよ。この足。」
「あ、ああ。そうだな。食ってみるか。食わず嫌いはよくないし…」
「あれぇ〜センパーイ、もしかしてビビってんですかぁ?」
智也が癪に障る声で隆亮を煽る。これに怒った隆亮はムキになって、外骨格に入っている身をしゃぶる。
隆亮はそのひとしゃぶりで驚愕した。隆亮にとってその味は蟹を超えるほどの美味であったのだ。
「おい、これ冗談抜きでめっちゃうめーぞ!」
「マジっすか!?んじゃ、いただきまーす。」
智也もつられてしゃぶってみる。
「!?んまーいっ!こんな美味しい蟹食ったことないっすよ、先輩!」
「蟹じゃねーけどな。」
「頭の身もそれなりにいけるっすよ!」
「ほんとか?どれどれ…」
二人は思わぬ収穫に感激しているところだった。
隆亮のサバイバルに対する不安は薄れ、智也は楽しみが増えた。そんな二人にならこの異世界でのサバイバルを成功させることができるかもしれない。
―いや、それは大きな油断、すなわち落とし穴なのかもしれないが。
「「うんまーい!」」
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