うざい後輩と異世界転移

@torataro430

第1話〜後輩と転移〜

 多くの高校生が帰路につく夕方。ある二人の男子生徒もいつものように並んで帰っていた。二人とも木刀と竹刀の入った細長い袋を担いでいる。二人とも剣道部に所属しているようだ。


 一人は二年生でそれなりに背の高い生徒だ。彼は切れ長の鋭い目付きをしていて、他人を寄せ付けない雰囲気を持っている。


 もう一人は一年生で高校生にしては背がやや低い。彼の雰囲気は明るく、愛玩動物のそれであった。顔立ちも少し幼く見えるため、中学生に見間違われてもおかしくはない。


 その小さい方の生徒が大きい方の生徒に声をかけた。


「センパーイ、なんか語り手に貶された気がするんですけどー。今機嫌が悪いのでなんか奢ってくださーい。」

「意味が分からん。語り手がなんだかんだ言って俺の金で何か食いたいだけだろ。」


 大きい方の生徒が呆れた口調で言った。二人は先輩後輩の関係のようだ。


「ちぇっ。先輩のケチ。」

「うるさいな。大体俺の財布に後輩に奢ってやれるほどの余裕はねーんだ。」

「そんなことは知ってますよーだ。」

「…はあ、仕方ねえなあ。家来て飯食うか?」

「え、マジっすか!ぃやったあー!先輩家のお母さんの料理ホント美味しいっすからね。うわー楽しみっすねー。」

「お前、ホント調子いいよな。」

「へへへ、ありがとっす!隆亮(たかあき)先輩。」

「どういたしまして。智也(ともや)。」


 剣持隆亮(けんもちたかあき)高校二年生。

 一文字智也(いちもんじともや)高校一年生。隆亮の後輩。


 二人は同じ剣道部の仲睦まじい先輩後輩であった。


「…先輩ってなんでモテないんでしょうかねぇ?」

「あ"?」

「いやいや!嫌味言ったわけじゃなくて、あの、なんというか、こんなにいい人なのになあって思いまして。」

「…あれだろ?顔が怖いんだろ。」


 自分で言ってて胸が痛くなる隆亮。それに気づいて智也は「あっ自分で言って自分で傷つくんすね。」と言う。


「先輩はマニア(マゾ)向けの顔してますもんね。」

「かっこの中まで言うな。」

「でも先輩は県大会優勝したり生徒会に入ってたりするからきっとそのうち女の子が寄ってきますよ。」

「お?そう言ってくれるか。さすがモテる男は言うことが違う。」


 隆亮は皮肉を込めて言うが智也は全く気づかない。

「まあ僕は先輩と違って"モテる"男ですからねぇ。あー他人の目線が痛いなー(棒)」

「……うざ。」

「なんすか!?その長い溜めは!?感情込めすぎっすよ!」


 二人は声を出して笑い合う。


 隆亮は思った。

(ああ、こうやってこの馬鹿と戯れ合うのも何年目かな)と。


 彼らは幼馴染で、ある程度は以心伝心できるほどの仲であった。それ故に彼は願った。

(これからもこいつと馬鹿やってけらますように。)


 一人そう思っていたらもうすぐ隆亮の家に到着するところまで二人は足を進めていた。


 その時だった。二人が見慣れない場所を歩いていることに気づいたのは。


「「!?」」

「先輩、ここどこっすかね?」

「俺も聞こうと思っていた。」

「薄暗い森の中っすね…」

「そうだな。」

「僕ら迷っちゃったんすかね?」

「どうだろうな。さっきまでまっすぐ歩いていたのにな。」

「なんでそんな冷静なんですか…」

「お前の方こそしっかり状況確認してるじゃねーか。」


 二人はこんな状況でも、駄弁られるほどには冷静だった。二人は現在の状況の確認を続ける。


「こういう時はどうすることが正解なんすかね?」

「さあな。とりあえず元の場所にどうやって戻るかだ…携帯は電波が繋がらん。圏外だな。」

「僕も繋がらないっす。」

「…待ってても何もない。少し進むか。」 


 足を進め始めた隆亮とりあえず智也。二人は状況判断と雑談を繰り返して気楽に進んで行った。


 しばらくすると二人はふと足を止めた。神殿があったのだ。


「は?何これ。」

「僕に言われても…」


困惑する二人。そこで隆亮があることに気づく。


「とりあえず、ここは日本ではなさそうだな。」


 彼らが見つけた神殿は日本にあるような物ではなく、ゲームの世界にあるような禍々しい雰囲気のある物だった。つまり誰でも気づくような簡単なことだった。当然、智也にも気づくことができた。 


「どどど、どうしましょう!?先輩!僕ら帰れるんですか?」

「落ち着け智也。俺もわからないから。」

「それじゃ困りますよ!先輩。」

「んじゃ今から俺らがすべきことを考えよう。」

「そ、そうですね。」


 一度慌てた智也だが。再び冷静さを取り戻すことができた。二人は考える。これからどうすべきか。どのようにして日本に帰るのかを。


「!」

「どうした智也?なんかわかったか?」

「先輩、今の僕たちが優先すべきことは、とにかく生き残ることです。この森はかなり広いっす。帰るためには森の探索が必要になります。それも長期間の。」

「…それで?」

「僕らはサバイバルをしなければならないんすよ!」

「そ、そうっすか…」

「口調移ってますよ。まあそれは置いといて、先輩!サバイバルの基本の3つの要素はなんですか?」

「んっと、水・火・食料の調達?」

「その通り!それでは早速探索開始っす!」

「…お前この状況で楽しんでる?」


 そう、智也は大のサバイバル好きなのだ。サバイバル系のテレビ番組や動画配信などはほとんど見尽くしていて、その知識はプロ並みである。そんな智也だから、いざサバイバルができると思うと気が高まるのだ。


「そんな気軽にサバイバルって…まぁ楽しそうではあるが…」

「でしょ?こういうのは楽しまないと。」

「そんなんでいいのか?」


 そんな楽しみと不安の残る二人のサバイバル生活がたった今始まったのだった。しかし、二人は知らなかった。自分たちが下校中に迷い込んだこの森が地球のものではなかったことを。そして、呑気にサバイバル生活と言っていられないほど危険な森であることを。そして、彼らの知らぬ間に、異世界に飛ばされていたということを。

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