第2巻 メイドな隊長、がんばる!

第3章 続・メイドな隊長

第43話 続・転生したら、メイド服な隊長でした

 青空の下。

 小鳥がさえず長閑のどかな村の道を歩きながらも、なにやら物思いにふけっている様子のレオナ。

 その背後から。


「隊長、お待たせしました」

「ウヒャァッ@☆◇□◎!?」


 不意に声がかかり、レオナは妙な声を上げてしまう。

 いや、妙な声だったのは不意だったからだけではなかった。

 やはり、首筋に暖かい吐息がかかるほどの距離だったことが大きい。


「さ、サイカ、気配消さないで! あと、近すぎっ!」


 振り向くと、腰に届くほどある美しい黒髪の麗人こと、副官のサイカがいた。


「失礼しました」


 ニッコリと微笑む整った顔が、離れる。


 そもそも、レオナは小柄だ。

 成人の儀を経ているとはいえ、その外見は大人一歩手前の少女でしかない。

 一方、サイカは長身の部類に入る。

 普通に声をかけてくれば、レオナの首筋にサイカの吐息がかかるはずなどないのだ。


(どーかんがえても、わざとだよねー)


「心ここにあらずといった感じで道を歩いていらっしゃいましたが、どうかされましたか?」

「あ、あはは――サイカが追い付くのを待ってる間、ちょっと考え事をね」


 レオナは言葉を濁すと、サイカを伴って村長の家へ向かって歩きだす。


 転生時の不満とか後悔とか思い出してましたー……とは、言えない。

 あと、サイカたちと出会った頃を思い出してましたー……とも、言えない。恥ずかしい。


「アルテアたちから連絡は?」


 使いの村人から、おおよその話は聞いている。

 それに基づいて、アルテアの班とは村の手前で別れ、先行して動いてもらっていた。


「まだ……ああ、ちょうど来ました」


 サイカが空を見上げ、腕を水平に伸ばした。

 そこへ、空から舞い降りてきた鳥が止まる。

 鳥の種類は、ない。

 なぜなら、この鳥はシェラの使い魔だからだ。


「どうぞ」


 サイカは鳥の脚から筒状に丸められた獣皮紙を外し、レオナに渡す。


「ありがと」


 獣皮紙を広げると、レオナは書きなぐられた文字に目を通した。

 そして、ほっと息をつく。


「予想通りだったよ――不幸中の幸い、かな。あとはアルテアたちが突き止めてくれるのを待つしかないね」

「村長と会うのを遅らせて、情報が揃うのを待ちますか?」

「いや。村長も村の人たちも心配してるだろうし、手元にある情報だけでも伝えておこう」


 さらに少し歩き、レオナとサイカは村の中では比較的大きな家屋の前に辿り着いた。

 この村の、村長の家だ。


「コホン」


 レオナは小さく咳ばらいをし、背筋を伸ばす。

 威厳とは縁遠い容姿の自分だが、隊長として対外的にめられてはいけない。

 間違っても「可愛い」などと見下されるわけにはいかないのだ。

 そう。

 これもまた、戦いなのだ。


「さぁ、行こう」

「あ、お待ちください」


 扉に手を掛けようとしたレオナを、サイカが制止する。


「ホワイトブリムが曲がっています――はい、これで完璧です。可愛いですよ」

「ありがと――って、なんか違う……」


 メイド服の小柄な隊長は、どこか釈然としないまま扉を開けた――。

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