第44話 負けるな、隊長
「お待ちしておりました」
村長である老婦人の案内を受け、レオナとサイカはテーブルに着く。
初めてここへ来て以来、彼女に孫のように扱われてお菓子と甘い飲み物を延々と
定期的に村へ立ち寄り、様々な依頼を受けてきた甲斐あって、本日テーブルに置かれているものは、ついにサイカと同じ、苦みのある一般的なお茶であった。
(ついに、この村長さんに大人と認めさせたっ)
心の中のガッツポーズを顔に出さないよう取り繕いつつ、レオナは静かに口を開いた。
「子供たちが森で行方不明だそうですね」
「はい。森へ採取に行かせた子供が七人。全員女の子です」
子供といえど、村では貴重な労働力だ。
森へ行って薬草や木の実を採取してくるのは、一般的に力仕事が向いていない少女たちの仕事とされている。
「先ほど仲間から連絡がありました。人間の手で
「ああ、すでに動いてくださっていたのですね――魔獣に襲われたのではなかったのは、不幸中の幸いでした」
「囚われた場所が分かり次第、救出に向かいます。この後、仲間を一人寄越しますので、子供たちの名前や特徴を、その仲間に教えていただけますか?」
レオナたちは、この村へ何度も足を運んでいるが、顔見知りはまだまだ少ない。
昼間に立ち寄る程度では、外で働く村人は大人でも子供でも顔を合わせる機会がないためだ。
「承知しました」
「では、わたしたちは準備にかかりますので、これで」
「あ、レオナさん」
村長宅を後にしようと席を立ったレオナに、村長がゴソゴソとなにか取り出し、手渡してきた。
「よかったら、こちらをどうぞ――ごめんなさいね。気が動転してて、レオナさんにまで苦い大人のお茶を出しちゃってたわ」
「あり……がとうござ、い、ます」
レオナが受け取ったのは、いつもの甘いお菓子だった。
■■■
「村長ぐらいの
テーブルの向かいに座るマリアが、心なしかションボリとしながら村長に貰ったお菓子をポリポリ食べているレオナを、慰めていた。
ただ笑いを噛み殺しながらなので、全然慰めになってないのが惜しいところだ。
「そ、そうだよ。たしか学院に入ってる村長の孫が、隊長と同い年って言ってたし、どうしても孫のように見えるんだって……たぶん」
こちらは本気で慰めてくれようとしているクレア。
「気にすることない。村長は、隊で一番お姉さんのわたしにもくれる」
淡々としているが、こちらも本気で慰めていると思われる。
エルフのルックアである。
ちなみに、この世界のエルフは小柄で、レオナと同じくらいの背丈が普通だ。
見た目も、永遠に老いることはない。
ルックアも当然、レオナと同世代にしか見えない。
なので周りから「慰めになってるか?」という視線が集まっているのだが、本人はいたって真面目な面持ちで、レオナの頭をヨシヨシと撫でていた。
繰り返すが、本気で慰めていると思われる。
(ぜったい、これから大きくなってやる……)
そんな中、じゃっかん涙目で決意を新たにする、レオナであった。
お菓子は、甘くて美味しかった。
「隊長」
レオナが心の中で固く決意をしていると、暗褐色の肌を持つダークエルフのリルダが入って来た。
エルフのルックアと同じく耳の先が尖っているが、大人の人間と同じくらいの身長だ。
なお
サイカが親近感を持っていると言えば、伝わるだろうか。
「シェラの使い魔が来たよ」
「ああリルダ、ありがと」
レオナは、リルダから受け取った獣皮紙を広げる。
そこには、とある館の見取り図が描かれていた。
「なかなか詳細ですね」
背後に立つサイカが、レオナの肩越しに見取り図を眺めて感心している。
厳重に警戒されているであろう館の中に入り込まなければ、ここまでの情報はつかめない。
シェラの使い魔がいなければ、不可能だったことだ。
「うん、さすがシェラだね――おかげで情報が揃った」
レオナは顔を上げ、その場にいる隊員たちの顔を見渡した。
「じゃあ、作戦会議といこうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます